そんな注目のスタートアップSquareのCEO、Dorsey氏は
自身のTumblrの中で、とても興味深い内容を書いていました。そのテーマは、
自分たちのプロダクトやサービスを好んで使ってくれる人々のことを、「ユーザー(user)」と呼ぶか、「お客様(customer)」と呼ぶか、ということについてです。
「ユーザー」と「お客さん」という言葉、どう使い分ける?
なぜDorsey氏がこんな話題を出したかというと、彼がスターバックスのCEO、Howard Schultz氏とのミーティングの中で、次のような会話があったことがきっかけのようです。
「なぜ君たちはお客さんのことを“ユーザー”と呼ぶの?」とスターバックスCEO。
「わからない。今までずっとそう呼んでいたから。」とDorsey氏。
Dorsey氏自身、改めて聞かれるまで「ユーザー」という言葉を使う理由を考える機会はなかったようです。彼は「ユーザー」という用語について、複数の人々がひとつのコンピュータリソースを共有するようになったことで登場したものだと言及しています。それが起点となり、インターネット企業においては自社サービスを使う人々のことを「ユーザー」という用語に集約するようになったと考えられます。
インターネット企業と“ユーザー”
Dorcey氏いわく、インターネット企業のビジネスモデルの大きなくくりとして、サービス利用料を支払ってもらうものと、無料でサービスを使えるものと、大きくわけて二つに分けられるといいます。
インターネット関連の業界では、企業とその製品を使う人との関係は面と向かって直接お金のやりとりをすることは少なく、また無料で自由に使えるような製品である場合は、企業とその製品を使う人との間により距離感が生じてきます。そのため、自社製品を使ってくれている人のことを「お客さん」というよりも、「ユーザー」という抽象的な言葉でまとめてしまう傾向があるのかもしれません。
”ユーザー視点のデザイン、ユーザー利益、ユーザー体験、アクティブユーザー…”
といった指標があるように、インターネットとは本来それを使う「人」をいちばんに考えるべきものです。しかしその一方で、面と向かって言葉を交わすことが少ないということもあり、「サービス提供者である企業・ブランドとそれを気に入って使う顧客との明確な関わり合い」が見えにくくなってしまうことも。それゆえ、人々が日常に感じる問題から、ついつい意識が離れてしまいがちだったりするのかもしれません。
カフェと”お客さん”
一方、スターバックスのような飲食店の場合、「売り手であるお客さんと買い手であるお客さん」との関わり合いが比較的見えやすいです。スターバックスのコーヒーを飲みたい人はお店に足を運び、店員に注文を伝え手でお金を払います。店員とお客さんは互いに顔を合わせて、時には会話をはさみながら、おいしいコーヒーを直接手渡し受け取り、「ありがとう」と言う。そんなやりとりが一日中行われます。
Dorsey氏が言うには、「お客様」という言葉は、提供するサービスのレベルのハードルが上ることで、場合によってはお客様からの関心やビジネスの機会を失うリスクも伴うとしています。たとえば、お客さんと直接対面するスターバックスのような飲食店では、単純にコーヒーだけ提供できればいいというわけではなく、常に目の前のお客さんという「人」のことを考え、接客の仕方にも気を配らなければなりません。
自社の製品やサービスを使う人と真剣に向き合おうとした場合、自社の取り組みの本気度は常に問われますし、それが期待に適わなかった場合は大きく信頼関係を壊しかねない・・・というのは当然と言ってしまえば簡単ですが、決して生半可な気持ちではできないことです。それでも、相手を曖昧に「ユーザー」として考えるのではなく、「ひとりのお客さん」と考え本気で向き合うことで、提供できる製品・サービスの質は断然変わってくるのではないかと思います。
Dorsey氏は、ここで改めてテクノロジー企業 は、この「ユーザー」という言葉を再考する必要があるのでは、と考え、Squareチームとしてこの問題に対して改めて向き合うことにしました。
Square社の「ユーザー」再考の取り組み
Dorsey氏は、Squareチームメンバーに対して、「自分の作ったもの、立ち上げたものを愛してくれる人々のことを、なんと呼ぶべきか考えてみてほしい。」という旨の文書を送りました。
その中で彼は「ユーザー」と「お客様」という言葉について、次のような指摘をしています。
●ユーザーという言葉は便利。しかしとても受動的で抽象的。
●ユーザーは本来の「個」の存在を曖昧にしてしまう。
●たかが日常口語ではあるが、言葉というものは強力かつ繊細。
●「お客様」という言葉は、よりアクティブで大胆、率直かつ直接的。
「ユーザー」という言葉を使うことで、自分たち自身の認識が抽象的で曖昧なものになり、自社製品を愛してくれている人々、つまり本来のお客様から気持ちが離れてしまっていたのではないか?ということをDorsey氏はチームメンバーに向けて投げかけています。
そこで、Squareチームがやるべきこととして提案したことが二つあります。ひとつは、サポートチームと働く中で、毎日お客様の問題を直接感じること。二つ目は、まず自分の努力のみにフォーカスするのではなく、あらゆる会話やミーティング、レビュー等の中でお客様について言及をすること。
さらに、これを機にSquareでは「ユーザー(user)」という言葉を使ったら、罰金として$140を払うようにしたそうです。なかなかユニークな取り組みですが、なるほどなあ、と思いました。
他社ではなく、自分たちの製品・サービスをわざわざ選んでくれた人たちから自ら遠ざかるべきではない。自分たちには「ユーザー」がいるのではない、「お客様」がいるのだ、という思いを持つことが、Squareチームメンバーとしてどれほど大切にしていきたいことなのかが、この取り組みから伝わります。
大切にすべき「人」を常に認識することの大切さ
言葉というのは何でもないようで、強力なものです。曖昧な言葉を使うことによって、本来大切にするべきものを抽象化して距離を置いてしまうのは、気楽ではあっても、なんだかさみしくちょっと残念なことなのかもしれません。
自分たちの仕事や提供するサービスの先にいるのは、なんとなくビジネスを回してくれる抽象的な「ユーザー」ではなく、「人」という存在である、ということは、わかっているつもりでも、何だかんだ忘れてしまいがちですぐに見失ってしまうものです。
結局、自分たちのつくる製品やサービスがあるのは、他でもない、自分たちを選んでくれた人たちのおかげです。「ユーザー」「お客様」という言葉に単に縛られておけばよい、というわけではありませんが、常に「大切にすべき人々」への意識を持ち続け、向き合っていかなければな、と感じました。
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