⌘                    2015年08月06日発行 第0858号
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 ■■■    日本国の研究           
 ■■■    不安との訣別/再生のカルテ
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「戦後日本は“ディズニーランド”だった」(『戦争・天皇・国家』から抄録)

 橘(たちばな)孝三郎という皇国思想家が昭和初期に耳にしたという一般庶
民の会話がおもしろい。

 「どうせなついでに早く日米戦争でもおっぱじまればいいのに」
 「ほんとうにそうだ。そうすりゃ一景気来るかも知らんからな、所でどうだ
 いこんな有様で勝てると思うかよ。何しろアメリカは大きいぞ」
 「いやそりゃ世界一に決まってる。しかし、兵隊は世界一強いにしても、第
 一軍資金がつづくまい」
 「どうせまけたって構ったものじゃねえ、一戦争のるかそるかやっつけるこ
 とだ。勝てばもちろんこっちのものだ、思う存分金をひったくる、まけたっ
 てアメリカならそんなにひどいこともやるまい、かえってアメリカの属国に
 なりゃ楽になるかも知れんぞ」(橘孝三郎著『日本愛国革新本義』昭和7年
 刊行後発禁、表記原文ママ)

 この庶民の思惑は半分は当たっていたのである。太平洋戦争で日本は完膚な
きまでに叩きのめされたが、戦争に負けてアメリカの属国になったことで、確
かに国民の生活は楽になった。戦後の冷戦構造によって軍事・安全保障に膨大
な予算を投入しなくてすみ、朝鮮戦争特需も取り込んで、奇跡的な高度経済成
長を遂げた。

 マッカーサーは新憲法をつくるとともに日本の軍隊を解体し、民法も改正し
て家父長制も解体した。軍国主義の原因となった制度をことごとく破壊したの
である。

 ところが、1949年に中国共産党が国民党軍を破って社会主義政権を樹立し、
大陸情勢大きく変化した。ソ連や中国の脅威が強まるとととに、国内でも社会
党や共産党が躍進した。このため、朝鮮戦争の勃発を機に、アメリカの求めに
応じて吉田茂内閣は7万5千人規模の警察予備隊をつくった。

 その後、警察予備隊は保安隊に改組され自衛隊になるが、この当時の30万人
規模に増やせというアメリカの要求に吉田は応じなかった。応じたら朝鮮に派
兵させられ、戦前の陸軍と同じ悪夢の再現になりそうだったからだ。京都大学
教授だった高坂正堯の言う「軽武装」である。

 いっぽうで吉田茂はアメリカのCIAのような情報機関を準備するつもりで
内閣総理大臣官房調査室(内調、現在の内閣情報調査室)を設置した。本格的
な諜報機関は別に構想されたが、世論の猛反発を受けた。内調でも外務省と旧
内務省が対立して諜報機能を持たないまま現在にいたっている。

 戦後の日本を一言で表すならば「ディズニーランド」である。弱肉強食のリ
アリティから隔絶された、仮想現実に近いファンタジーの世界といってもよい。
なかにいる僕らは戦争を想定外にしているので、生き残るかどうかの発想をも
たなくてよい。門番はアメリカ兵である。世界では朝鮮戦争、ベトナム戦争、
ボスニア・ヘルツェゴビナの紛争、アフガン戦争、湾岸戦争、イラク戦争など
で数多くの死者を出したにもかかわらず、戦後70年の間、日本はひとりの戦死
者も出さなかった。これは、世界史上でも稀有な出来事である。

 すでに述べたように黒船が来航してから広島・長崎に原爆を落とされるまで、
日本は弱肉強食の国際社会のなかで生存を脅かされ、恐怖にさらされながら国
家を運営してきた。戦後、アメリカの属国になって生存を脅かされる恐怖は消
えたが、同時に国家のビジョンも国民のプライドも雲散霧消し、日本は一国平
和主義という閉じた意識のなかにあった。日米安保条約に基づいてアメリカに
守ってもらう代わりに基地を提供する。国土の0・6パーセントの面積である
沖縄の地に7割の米軍基地が集中し、米兵によるレイプや犯罪が後を絶たない
現実は、アメリカによる「占領下」で生きる一国平和主義の代償だったのであ
る。

 作家の三島由紀夫は割腹自殺する少し前に新聞紙上で「戦後民主主義とそこ
から生ずる偽善」を説いたうえで、こう予言している。

 無機質な、からっぽな、ニュートラルな、中間色の、富裕な、抜け目がない、
或る経済大国が極東の一角に残るのであろう。(サンケイ新聞1970年7日7日)

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