⌘ 2014年12月25日発行 第0828号 特別
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■■■ 日本国の研究
■■■ 不安との訣別/再生のカルテ
■■■ 編集長 猪瀬直樹
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『さようならと言ってなかった わが愛 わが罪』(マガジンハウス刊)につい
て、12月10日号のクロワッサン誌の「著者に会いたい」で取り上げられました。
新刊本はこちら→http://goo.gl/Rjm9TB
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「ありがとうと、どうしても書いておきたかった」
「この本を書いて、自分なりに思い出を整理しなければ、前へは進めないと思
ったんです」
猪瀬直樹氏は、妻、ゆり子さんの遺影が飾られた部屋で、静かな口調で言っ
た。2013年12月末、東京都知事を辞任後、メディアに姿を見せることはなく沈
黙の中にいた氏が初めて上梓した本には、これまで語られることのなかった、
ふたりが歩んだ47年の歳月が綴られている。
「13年の5月半ば、妻の言葉のもつれが気になって受診したんです。余命数か
月だと宣告を受けて動顛しました。悪性の、進行の早い脳腫瘍だったんです。
ずっと元気だったもので、突然のできごとを受けとめられなかった」
「二人三脚で来た人生」。青天の霹靂だった。折しも日本は2020年の五輪招致
に沸き、船頭役として東奔西走しているさなかだった。
「妻もいろいろなレセプションに出席し、4月にニューヨークで市長に協力を
依頼したときも、役割を果たしてくれました。5月のサンクトペテルブルクの
プレゼンにも同行する予定でした」
招致運動の裏側で、家族しか知らぬ緊張の事態が進行していた。途方もない
孤独と不安な時間が流れていた。2か月後。65歳のゆり子さんは永眠する。
「僕のほうが絶対に先に逝くと思っていましたからね。なかなか立ち直れず…
…まいっています。城山三郎さんが奥さんを亡くされ書いた本に、『妻依存症
だな』なんて言ってたけど、なんのことはない、僕自身も同じでした。再入院
のあと、冷蔵庫に残っていたロールキャベツなんかを思い出すと切ない、です。
いるのがあたりまえすぎて……もっとやさしくすればよかった」
信州。18歳と19歳だったふたりは出会い、物語のように駆け落ちした。
「安定したサラリーマンじゃなく、なんで僕のような何も持たない男について
来てくれたのかな。あのころヒットしていた『花嫁』という歌そのものでした。
東京の小さいアパートに住んで、貧乏だったけど夢だけはありましたね」
その後の、苦労を共にした歩みは、昭和という時代を生きた共働きの夫婦の
歴史であり、昭和史そのものに重なる。今回の執筆のために、教師だった夫人
が残していた大量のメモを読み、「初めて知った姿」もあった。言語に障害の
ある子らの指導にも関わり、温かく粘り強く対峙していた記録。
「プロフェッショナルとして、懸命な仕事ぶりでした。こういう形で書き残す
ことができてよかったと思います」
文中には、石原慎太郎氏に請われて政治家の道を決意した料亭でのやりとり
や、辞任につながった5000万円借用の経緯なども、率直に記される。
「アマチュアの政治家としての部分が出てしまいました。知識、経験が欠如し
ていて大きくまちがってしまった。反省してもしきれずにいます」
政界を離れ、もの書きに戻った今、再びペンを使って社会問題に切り込んで
いく日々が始まっている。
「そうですね。ひたすら書いていくことしか僕にはできないので。ただ、それ
にしてもしんどいです。ありがとうもさようならも、言えないままだった」
(『クロワッサン』12月10日特大号「著者に会いたい」より)
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