結城浩の「コミュニケーションの心がけ」

Vol.163 結城浩/『老いに備える知的生活』 - 結城浩ミニ文庫/世の中を渡っていけないという若い人へ/

2015/05/12 07:00 投稿

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Vol.163 結城浩/『老いに備える知的生活』 - 結城浩ミニ文庫/世の中を渡っていけないという若い人へ/

結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2015年5月12日 Vol.163

はじめに

おはようございます。 いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。

 * * *

Web連載の話。

Web連載「数学ガールの秘密ノート」は、 「行列が描くもの」という仮題を掲げて、 「行列」をテーマに書いています。

行列は高校で扱わなくなってしまいましたが、 非常に大切な分野になります。 Web連載では、行列の基本的な内容をみんなでおしゃべりしています。

「数学ガール」の語り部である主人公の「僕」は、 まわりの女の子たちと数学にまつわるおしゃべり(数学トーク)をします。 そのうちに、次第に何かが動き出し、おもしろいことが起こり出す。

行列にはややこしい計算がたくさん出てくるんですが、 計算しているだけではつまらない。計算をしているうちに、 テトラちゃんがおもしろいことを「発見」して騒ぎ出す。 「僕」はそれをきちんと受け止める。 ミルカさんはそれをおもしろい方向に発展させてくれる。 結城は、そんな彼女たちの「数学トーク」を、 いったいどうなるんだろうと思いながら、 かたずをのんで見守っています。

毎週、Web連載を書くときに結城のまわりで起きているのは、 そういう数学イベントです。ああ楽しい。 私が制御している部分、私が支配している部分というのは少なくて、 登場人物と役割分担をしています。

素朴で素直なテトラちゃん。 空気読まずに竜巻を起こすユーリ。 いつもクールにゴールを示すミルカさん。 全部を受け止める「僕」。 ……そして、すべてを記録する結城。 そういう役割分担です。

単に数学の知識を伝える物語ではなく、 読んだ後に、思わず自分で計算してみたくなる物語。 自分で調べ、自分で「研究」したくなる物語。 楽しみが待っている。わくわくする数学。 自分から学びたくなるきっかけ。 そんな感じのWeb連載ですね!

 ◆Web連載「数学ガールの秘密ノート」
 https:/bit.ly/girlnote0

 * * *

本の紹介。

日本評論社から刊行された『ガードナーの数学娯楽』のオビに、 推薦文を書きました。

マーティン・ガードナーというのは、 レクリエーショナルな数学読み物を非常に多数書いた数学者です。 結城は子供のときに、 ガードナーが書いたブルーバックスの『数学ゲーム』が愛読書でした。 私のあこがれの一人ですね。

以下の本は、「完全版マーティン・ガードナー数学ゲーム全集」の1巻目と2巻目です。 機会がありましたら、ぜひお読みください。 監訳は岩沢宏和先生と上原隆平先生です。

 ◆『ガードナーの数学パズル・ゲーム』
 http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4535604215/hyam-22/

 ◆『ガードナーの数学娯楽』
 http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4535604223/hyam-22/


2015-05-12_gardner.jpg

 * * *

結城は「当たり前の毎日の中に、新しい意味を見いだす」のが好き。

「一秒でも長く生きたい」と言ってもいつか死ぬ。

だから、 「この世に生きることには意味がある。どんな意味がある?」 という問いの答えを探すのは、大きくて楽しい謎解き。

そんなふうに思うのです。

 * * *

学ぶときの話。

数学を学ぶとき「学校で習ったかどうか」ってそんなに気にすることだろうか。

おもしろい小説があったとき、 そこに出てくる語句が学校で習ったかどうかは重要じゃない。

数学もそれと同じ。 雰囲気しか伝わらなくてもいいから、 飛び込むのもいいんじゃないだろうか。 学校で習ったかどうかとは関係なく。

「学校でもう習ったから…」も「学校でまだ習ってない…」も、 使い方をまちがえるともったいない結果を生みそうだ。

 ・「学校」で「習う」こと
 ・「自分」が「理解する」こと

この二つの間には非常に大きな差がある。

結城のところにはときどき、 けっこうな年配の方からこんなメールが来る。

 学校時代は数学は不得意で嫌いだった。
 でも数学ガールを読んでから不得意だけど好きになった。

「不得意だけど好きになった」って、すばらしい。すごく嬉しい!

学生時代に点数が悪くても、数学の問題がそんなに解けなくても、 数学の問題を解くことを一生楽しめるなら、 数学的な読み物で頭をリフレッシュできるなら、すばらしいことだと思う。 学校がどうとか、教育現場がどうとかというのとは独立した話。 数学を自分なりに楽しめるって素敵なことだ。

数学は奥が深いから、どんな天才がいくらがんばっても、 すべてを知るわけにはいかない。 ということは、みんなレベルは違えども、小さな数学徒といえる。 自分のレベルで楽しむ。 もちろん、自分のわかるところ、わからないところは正直に認めつつ楽しむ。 それは素敵なことだと思う。

こういう文章は、結城が書いている「数学ガール」の宣伝ともいえる。 でも、それに留まらないはず。 本屋さんや図書館に行けば、うなるほどたくさんの数学読み物があふれてる。 いろんな難易度の、いろんな方向性を持った本が。 楽しまなきゃもったいないよね。

学ぶ、ってそういうことじゃないだろうか。 それ自体が楽しみ。それ自体が喜び。 役に立つならそれに越したことはない。でも、知らないことを知るだけでも、 人類が達した知の深みにちょっとでも触れるだけでも大きなことだ。 少し歩けば書店がある。図書館がある。 そこには読まれるべく本が待っている。 そんな環境を生かさなきゃもったいない。

学ぶことって楽しい。本を読むって喜び。 「学校で習う」こととは独立した楽しみであり喜びなんですよね!

* * *

さて、それでは今週の結城メルマガを始めます。

今回は、「結城浩ミニ文庫」のコーナーで『老いに備える知的生活』 という文章をPDFでお送りします。 結城が最近感じている「老い」と、それに対する思いをエッセイ風に書きました (特別なハウツーが書かれているわけではありません)。

その他「学ぶときの心がけ」「文章を書く心がけ」などをお届けします。

では、結城メルマガをゆっくりお楽しみください!

目次

  • はじめに
  • 『老いに備える知的生活』 - 結城浩ミニ文庫
  • 「数学」と「ガール」の意味 - 学ぶときの心がけ
  • メルマガを書きながら思うこと - 文章を書く心がけ
  • 「私は世の中を渡っていけない」と思っている若い人へ
  • おわりに
 

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