Vol.109 結城浩/たくさん読まれたノートを振り返る/対話形式で書く難しさ/素直に実行する態度/

結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2014年4月29日 Vol.109

はじめに

おはようございます。 いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。 いかがお過ごしですか?

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新刊の話。

先週は『数学ガールの秘密ノート/丸い三角関数』が刊行された週でした。 何回経験しても、新しい本が読者さんに届くというのはうれしいものです。 つい、にこにこしてしまいますね。

 ◆『数学ガールの秘密ノート/丸い三角関数』
 http://www.hyuki.com/girl/note3.html

サイン本が各地で先行販売され、その後も書店に並び、 それとは別にレビューアさんへの献本や、読者プレゼントの送付などがあり、 全国各地に自分の本が届く様子を想像して楽しくなります。

これから読者さんが拙著を通じて、数学の楽しさに触れてくださったらいいなあ、 と思っています。今回は特に三角関数(サイン・コサイン)がテーマで、 これから三角関数を学ぶ/学んだ中高生にも楽しんでもらいたいですね。

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英語版の話。

「数学ガールの秘密ノート」シリーズの第三弾は先週刊行になりましたが、 少し遅れて英語版も出始めます。まずは第一弾「式とグラフ」が5月に刊行になります。 現在、BentoBooksのWebサイトでは、サンプルチャプターのPDFが無料でダウンロードできます。 ぜひ、ダウンロードしてお読みくださいね!

 ◆「数学ガールの秘密ノート」英語版(Math Girls Talk About... Series)
 http://bentobooks.com/math-girls-talk-about/

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ネット環境の話。

結城は普段、家から離れてあちこちのカフェなどで仕事をしています。 そのときに重要になるのがネット環境の確保です。

いわゆるモバイルルータを使って自分の周りに小さな無線LANを作り、 インターネット接続環境を確保します。

カフェなどで提供されている無料の無線LANはほとんど使うことはありません。 お仕事で使うという意味もあり、 セキュリティ上どうなっているかわからないと思っているからです。

結城が使っているのはEMOBILEなのですが、 最近GL10Pにバージョンアップしてから「速度制限」に 引っかかるようになってしまいました。

「当月ご利用のデータ通信量が7GBを超えた場合、 当月末まで通信速度を送受信時最大128kbpsに低速化します」 というものですね。 http://emobile.jp/charge/emobile4g.html

また、それ以外でも、 「前日までの3日間のご利用通信量が839万パケット(約1GB)以上」 http://emobile.jp/charge/info/tsushin.html というところにも通信量のチェックポイントがあるようです。

EMOBILEはこれにひっかからない限り、 たいへん快適なのですが……

UQ WiMAXはデータ通信量で速度制限にならないので、 そちらに乗り換えた方がいいのかなと検討中です。

WiMAXはTry WiMAXというお試しサービスを やっているので、それを使い、 「自分の普段使っている場所でどれだけのパフォーマンスが出るか」 を実際に試すことができます。これはなかなかすばらしいサービスですね。

実際にやってみたところ、 ほとんどの場所でEMOBILEとWiMAXは同程度のパフォーマンスが 出るのですが、結城がよく使う場所でWiMAXがつながらないという たいへん悲しい状況になってしまいました。 帯に短し襷に長しとはこのことです。

さて、どうしようかなあ……

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問題を出す話。

CodeIQで《スペーストーキー問題》が〆切となりました。 この問題は結城がITエンジニア向けに出しているものの第16問目です。

 ◆CodeIQの問題に挑戦しよう!
 http://www.hyuki.com/codeiq/

前回が難しすぎたので、今回はたいへん易しく、 とっつきやすい問題にしてみました。

実際、前回は92人しか挑戦者がありませんでしたが、 今回は急増して452人もの方に参加していただくことができました。 数がすべてではありませんけれど、 たくさんの人に楽しんでもらえるのは、やっぱりうれしいものです。

結城はアルゴリズムの問題を出しているのですが、 出題のときも、解答&解説のときも、 そこにはある種の物語というかドラマ性を出そうと思っています。

ドラマ性というのは大げさですが、単に「問題を解いて終わり」ではなく、 「一連の流れ」があるという意味です。 背後には「アルゴリズムをプログラムで実装する」という意図があるけれど、 そればかりが全面に出てもつまらない。

ドラマ性といっても、 アルゴリズムと無関係なお話を問題にくっつけるという意味ではありません。 あちこちに、

 ・アルゴリズムを学ぶ上で大事なポイント
 ・プログラムを書く上で大事なポイント

を忍ばせてあるという意味です。 それがあることで、問題にチャレンジした人が、 大事なポイントを「印象深く」学ぶことができるようになると思うからです。

と、そこまで書いてきて、私はいま、

 「これって『数学ガール』と同じだな」

と気がつきました。

何かを学ぶときに、単純にその素材だけをごろんと渡すのではなく、 学ぶ人がしっかり受け止められるようにきちんと味付けをする。 しかも、その味付け(物語性)は、学ぶ内容に密着している。

結城はそういう作品の作り方が気に入っているようですね。

そのような作品の作り方は非常に制約が大きい。 単純にどん、と素材を出した方がずっと楽。 でも、それじゃおもしろくないと私は感じる。 制約は大きいけれど「やってみよう!」と腕まくりして構成を考える。 そういう作り方が好きなのでしょう。

そのような態度が、本を作る上でも、エンジニアへの問題を作る上でも、 一貫しているところがおもしろいなあと思います。 それは「自分自身の発見」へとつながっていくからでしょうか。

自分が作り出すもの、自分の作り方を振り返って、 自分自身を発見するということです。

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Webで学びが広がる話。

結城は筑摩書房(ちくま学芸文庫)から、 『数学文章作法』という本を出版しています。

 ◆『数学文章作法』
 http://www.hyuki.com/mw/

その前身として、Web上で「文章教室」というページを運営していました。 これは、結城が出した作文の問題を読者さんに解いてもらい、 それを添削するという活動です。料金は無料。

 ◆文章教室(結城浩)
 http://www.hyuki.com/wl/

とはいっても、実はこの活動を行っていたのは2002年のこと。 いまから12年以上も前の話です。 しかも、全12回の予定でしたが、第10回でストップしています。

問題編と解答編のページはこの12年、ずっと公開していました。

最近、彩郎さん(@irodraw)という方が「文章教室」の存在に気付き、 このページを、

 「数学文章作法」の練習問題として使おう!

と思われたようです。 問題編を読み、自分で解答し、解答編を読んで自己採点するという具合です。 以下からそれをたどることができます。

 ◆『文章教室』を『数学文章作法 練習問題編』として使う。
 http://www.tjsg-kokoro.com/2014/04/20/bunshokyoshitsu-2/

さらに続いて、倉下忠憲さん(@rashita2)や、るうさん(@ruu_embo)も同じように、 結城の「文章教室」を題材にして自分の解答を書き、ブログで公開しています。

 ◆『文章教室』第1回にチャレンジ(倉下忠憲)
 https://note.mu/rashita/n/n17df5873ff57

 ◆『文章教室』第1回にチャレンジ(るう)
 https://note.mu/ruumania/n/nc066e896a836

このような動きを、結城は非常にうれしく、また楽しく思っています。 そして、Webで公開するというのはおもしろい繋がりを生み出すものだなあ、 としみじみ感じています。

約12年前に書いたWebページを使って新しいことが起きるなんて、 素敵なことだと思いませんか。

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ニュースの話。

先週のことですが、こんなニュースを見かけて「へえ」と思いました。

 ◆国会図書館の蔵書データを製本 アマゾンが注文販売
  http://www.asahi.com/articles/ASG4L6JMNG4LUCVL029.html

このニュースの最初の方には、 「アマゾンは21日、国立国会図書館の蔵書の電子化された画像データを印刷し、 紙の本として販売する取り組みを始めた」と書かれていました。 脊髄反射的に「なるほど。アマゾンか。日本のものを使って外資が動いて……」 と思ったのですが、あちこち見てみると、ちょっと状況が違っていました。

 ◆『NDL所蔵古書POD』 国立国会図書館のパブリックドメイン古書が Amazon.co.jpで販売開始に
  -- インプレスR&DとAmazon.co.jpの協業で実現 --
 http://www.impressrd.jp/news/140421/NDL

上記には「インプレスR&Dが近代デジタルライブラリーから提供されている スキャニングデータ(画像)を印刷・製本可能なページデータに整形し、 Amazon.co.jpと三省堂書店がプリント・オンデマンドで印刷・製本いたします」 とあるので、中心はインプレスR&Dにあるようです。

 ◆国立国会図書館のパブリックドメイン古書発売を記念して
  三省堂書店で全点展示イベントを4月26日より開催
 http://www.sankeibiz.jp/business/news/140425/prl1404251418057-n1.htm

この記事によると、オンデマンドで販売をするのはアマゾンと三省堂書店のようです。

最初のasahi.comの報道だけ見たのと、他のサイトも合わせて見たのとでは、 ずいぶん印象が変わりました。

一つのニュースをぱっとみて脊髄反射的に記憶するのは危険ですね。

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noteの話。

noteを使っていて気付いたことがあります。 それは、自分で積極的にノートの存在を宣伝しなければ、 すぐにノートが「過去のものとして流れてしまう」ということです。

どういうことか。 noteには自分のトップページがあります。 たとえば結城の場合にはユーザIDが hyuki なので、

 https://note.mu/hyuki/

というページがトップページになります。 結城が新しいノートを作ると、このトップページの一番上にそのノートが登場します。 そして、過去に書いた10個程度のノートが並びます。 言い換えると、それ以前に書いたノートは、 ページ最後にある「もっとみる」ボタンを押さないと表示されません。

現在のところ、note.muのプラットホーム側では、 hyukiというユーザが作ったノートの「一覧ページ」を用意していないのです。 ということは、初めて結城のnoteを訪れた読者さんの、

 「この人は、だいたいどんなノートを書いてるのかな?」

という疑問には答えられないことになります。

結城はそういう状態を居心地悪く感じるほうなので、 自分の「一覧ページ」を自サイトの方に作ってしまいました。 これです。

 ◆結城浩のnote(ノート)
 http://www.hyuki.com/note/

単に時系列で並べてもよかったのですが、 結城は意図的にたくさんのコーナーを分けて書いているので、 この「一覧ページ」の方もコーナーごとにまとめることにしました。

現在は、noteのプロフィールからこの「一覧ページ」にリンクを張って、 読者さんが(望めば)結城が作ったノートの全体像を把握できるようにしています。

どうしてnoteの運営さんが「一覧ページ」を作らないのか、 その意図は正確にはわかりませんが、おそらくは意図的なものだと思います。 つまり、ある機能を付けることも大事ですが、ある機能が「ない」ことも大事だと 思ってのことなのでしょう。

いつの時点でどんな機能が付くのかも含めてプラットホーム設計だと思うので、 これからも注目してみたいと思っています。

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さて、そろそろ結城メルマガを始めましょう。

今回は「文章を書く心がけ」として、 先週非常にたくさん読まれたノートを振り返ってみます。 「本を書く心がけ」のコーナーでは、 「対話形式」で文章を書くのは意外に難しいということ、 そして「教えるときの心がけ」のコーナーでは、 「素直に実行する態度」が大切であるという話をしましょう。

それではどうぞ!

目次

  • はじめに
  • たくさん読まれたノートを振り返る - 文章を書く心がけ
  • 対話形式で書く難しさ - 本を書く心がけ
  • 素直に実行する態度 - 教えるときの心がけ
  • おわりに