結城浩の「コミュニケーションの心がけ」

Vol.333 結城浩/探し物を減らす/「好き」という感覚/プログラミング学習/手を動かすことが苦手/高校二年生の進学/

2018/08/14 07:00 投稿

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Vol.333 結城浩/探し物を減らす/「好き」という感覚/プログラミング学習/手を動かすことが苦手/高校二年生の進学/

結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2018年8月14日 Vol.333


はじめに

結城浩です。

いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。

結城はカレンダー通りに仕事をしていますが、世の中はお盆休みでしょうか。

今回の結城メルマガも、どうぞごゆっくりお読みください。


目次

  • 「好き」という感覚
  • 高校二年生、数学科への進学に不安を感じる - 学ぶときの心がけ
  • 探し物を減らすための情報整理 - 仕事の心がけ
  • プログラミング学習と「自分が作りたいもの」 - 学ぶときの心がけ
  • 「勉強すること」が先か「手を動かすこと」が先か - 学ぶときの心がけ
  • 木構造 - 再発見の発想法

「好き」という感覚

質問

結城先生にとって「好き」ってどういう感覚ですか。

回答

すばらしい質問をありがとうございます。

私にとって「好き」という感覚は「長い時間を費やしたい」という感覚にとても近いです。

  • あることが「好き」ならば、そのことについて長い時間を費やしたいと思う。
  • ある人が「好き」ならば、その人と長い時間を一緒に過ごしたいと思う。

「好き」という感覚が「長い時間を費やしたい」という感覚に近いというのは、そういう意味です。

あなたの質問を読んで、奥華子さんの「ガーネット」という曲を思い出しました。結城はこの曲を聴くたびに涙がこぼれそうになるのですが、この中に、こんな一節があります。

 好きという気持ちが分からなくて
 二度とは戻らないこの時間が
 その意味をあたしに教えてくれた

◆奥 華子/ガーネット(弾き語り)
https://youtu.be/X_Irpw_LL2o

この曲は2006年の映画「時をかける少女」の主題歌です。「時をかける少女」はタイムリープの物語で、まさに「時間」が物語の重要な要素になっていました。

私たちは、この世で何かを体験するためには必ず「時間」が必要になります。あの物語の中で主人公は途中「ちょっとしたこと」にタイムリープを繰り返し、私はそこで胸が苦しくなります。

自分は限られている「時間」を何に使うか。自分に与えられている「時間」を何に費やすか。たくさんあると思っている「時間」は、ほんとうにたくさんあるのだろうか。そんな思いが心の中に浮かぶからです。

そういえば先月、テレビで「時をかける少女」を放映していましたね。実は結城が『数学ガール』を執筆しているとき奥華子さんの「ガーネット」をよく聞いていたんですよ。なので、2007年に「書籍無料プレゼント企画」をしたときにそのCDも付けたんですよね。もういまから11年前のことです。

◆(すでに終了)結城浩『数学ガール』無料プレゼント(「時をかける少女」のCDも合わせてプレゼント)
http://d.hatena.ne.jp/hyuki/20070601/girl

あれから11年という「時間」が過ぎたんですね。私はきちんと「好き」なことに「時間」を注いできたかなあ……

ご質問ありがとうございました。


高校二年生、数学科への進学に不安を感じる - 学ぶときの心がけ

質問

高校二年生です。

僕は、ある先生に高校で出会い、数学がとても好きになりました。その先生を見ていると数学が好きなことがひしひしと伝わってきます。その先生に憧れて数学科への進学を考えています。

しかし、その先生はもちろんのこと、同級生には自分より数学のセンスや才能がある人がたくさんいるように思え、数学科への進学に不安を感じています。

どうすれば数学ができるようになりますか。

回答

ご質問ありがとうございます。

まず基本原則として「自分が何かを学びたい」ということと「自分の能力が他人と比べてどうであるか」ということは、直接は関係がありません。ですから、あなたよりも数学ができる人が同級生にいたとしても、あなたが数学を学ぶことをためらう理由はありません。

あなたはまだ高校二年生であり、あなたがこれまで出会った数学は、本当に小さな一部分にすぎません。また、あなたがこれまで出会った人々も本当に少数です。そもそも、誰かを見てその人の数学の能力がどうであるかを判定するというのは非常に難しいことです。自分の能力の判定ですら難しいことであり、さらにいうなら高校であなたが体験する「数学の能力」ということ自体も、数学という学問で求められることからすればほんの一部に過ぎません。

要するに、あなたが考える「同級生には自分より数学のセンスや才能がある人がたくさんいるように思える」という状況判断は、まったくあてにならないといえるでしょう。

とはいえ、高校二年生で自分の能力に不安を感じるのは無理もありません。また、その不安を学ぶ力に変換できるなら悪いことばかりでもありません。必要以上に不安にならず、力一杯やってみることです。

自分の状況判断はあてになりませんから、軽々に自分の能力を過小評価したり、何かの学びを断念するのは危険であると思います。

「どうすれば数学ができるようになるか」に私は直接答えることはできません。そもそもそんな方法は知らないからです。ただし、数学の本をきちんと読み、自分でよく考えることが必要でしょうね。数学の分野はそれはそれは広大なので、「数学ができるようになる」という問いは気が遠くなるくらい広大な問いといえます。「どうすれば数学ができるようになるか」は「どうすれば文章が書けるようになるか」と同じくらい広大な問いに見えます。

実のところ、あなたの悩みは数学という分野に限った話ではありません。高校時代、大学時代、そしてそれを過ぎても「自分は○○でやっていけるだろうか。自分のまわりには自分よりもはるかに優秀そうな人がひしめいているのに」という不安が完全に消えることはありません。誰しも、ときにその不安に直面したり、不安を回避したり、不安を飼い馴らしたりしつつ、何とか前進しようとしているのです。

不用意に自分の進路をせばめたりしないように注意しつつ、がんばってください。

 

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