結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2018年7月3日 Vol.327
はじめに
結城浩です。暑いですねえ!
いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
結城は現在『数学ガールの秘密ノート/行列が描くもの』という本を執筆しています。タイトル通り「行列」の話題。ようやくレビューアさんに第3章まで送ったところです。今週から第4章です!
今回の「行列が描くもの」は「数学ガールの秘密ノート」シリーズの第十冊目になります。じゅっさつめ!自分で書いていて変な話ですが、十冊も書いた気がしません。あっという間ですね。ありがたいことに、毎回たくさんの読者さんに喜んでもらっています。
◆『数学ガールの秘密ノート/行列が描くもの』(アマゾン)
https://bit.ly/hyuki-matrix
「数学ガールの秘密ノート」シリーズはcakes(ケイクス)での同名の連載を書籍化したものになります。十週分の連載をまとめると一冊の単行本になるくらいの分量ですね。Web連載の方はちょうど先週で第230回を迎えたところ。つまり連載原稿の方は二十三冊分がたまっているということになります。にじゅうさんさつぶん!書籍化の題材は尽きないですね……
◆Web連載「数学ガールの秘密ノート」
https://bit.ly/girlnote
いつもの仕事をいつものように続けているだけなのですが、出版されている本が少しずつ増えていくのはほんとうにうれしいものです。うまずたゆまず(夏の暑さに負けず)進みます!
目次
- ひと月で、本を何冊読むか
- 古典文学がなぜ好きか
- 「本の紹介」で心がけていること - 仕事の心がけ
- 自分の仕事に対して自信を持つために - 仕事の心がけ
- 語彙を増やすための方法 - 学ぶときの心がけ
- 専門書や読み物をノートにまとめたい - 学ぶときの心がけ
- 数学で新しい問題を解けるようにしたい - 学ぶときの心がけ
ひと月で、本を何冊読むか
質問
結城さんは、ひと月で、本を何冊くらい読みますか。
三十冊くらいは読みますか。
回答
そうですねえ……
「開く本」は、ひと月で三十冊くらいありますね。
でも、「新たに読み始める本」は、ひと月で一冊くらいです。
そして、「読み終える本」になると、ふた月で一冊くらいですね。
開く本と、新たに読み始める本と、読み終える本。
あなたは、ひと月にそれぞれ何冊ずつでしょうか。
古典文学がなぜ好きか
質問
以前、古典文学を読んでいらっしゃるという結城先生のツイートを拝見しました。
私も詩歌(特に明治〜昭和のもの)の類を読むことが好きです。しかし、どうして詩歌を読むことが好きなのか、私はまったく分かりません。理由は分からないのに好きという、とてもモヤモヤした状況であります。
詩歌のような、言葉による芸術作品を好む理由を伺うのは野暮という意見もあると思います。しかし、結城先生が古典文学にどのような魅力を感じられていらっしゃるのか、ということについてご意見を伺いたく、質問いたしました。
回答
ご質問ありがとうございます。
結城が古典文学が好きな理由の一つは、幼いときに祖母が百人一首に親しんでいたという影響があるかもしれません。私はおばあちゃんっ子で、祖母が有職故実の話をするのを楽しく聞いていました(もうだいぶ忘れてしまいましたが)。また、私の母は短歌が好きでよく詠んでいたので、その影響も少しあるかも。
ここ数年、結城は趣味で「古今和歌集を読む」というnote(ノート)をよく書いています。特に「古今和歌集」が好きだったわけではないですが、あるときふと「そうだ、古今和歌集を読もう」と思ったのです。
結城が古典文学(というか和歌)が好きな理由はいくつかありますが、その一つは「中二病」的な理由かもしれません。だって、短歌ってどこか「呪文詠唱」のように聞こえることがありますから。謎の呪文を唱えると、何か不思議なことが起こる。そんな魅力があります。
たとえば、これはどうでしょう。
◆君といへば見まれ見ずまれ富士の嶺の珍しげなく燃ゆるわが恋
https://mm.hyuki.net/n/nf089f320518d
これは恋の歌、ずっと続く恋心を歌ったものですが、その内容よりもまず「見まれ見ずまれ」という部分、そのリズムが心に残ります。「みまれみずまれ」という繰り返しの音ですね。「見まれ見ずまれ」というのは「見ても見なくても」や「(恋するあの人に)逢っても逢わなくても」という意味です。
あるいは、こんな歌はどうでしょう。
◆偽りのなき世なりせばいかばかり人の言の葉うれしからまし
https://mm.hyuki.net/n/nba98d4e208f8
これも恋の歌、やや皮肉めいた斜に構えた気持ちですが、これも内容よりも前にまず「人の言の葉うれしからまし」というリズムに惹かれました。「ひとのことのはうれしからまし」と声に出したくなる、不思議なリズムです。「との」の繰り返しと「し」の繰り返しが特に重要な役目を果たしているように感じます。そして「これはいったいどんな意味なのだろう」と知りたくなります。「うれしからまし」というのは「うれしかっただろうになあ(でも実際は違う)」という気持ちを表しています。
「言の葉」といえば、新海誠監督「言の葉の庭」という素敵な作品がありましたね。あそこにも古典が出てきました。
和歌に対して「呪文詠唱」のような魅力、意味よりも前に意味ありげな音のリズムに魅力を感じる部分はありますね。
ご質問ありがとうございました!
◆古今和歌集を読む
https://mm.hyuki.net/m/mfa4fe40c022b
「本の紹介」で心がけていること - 仕事の心がけ
結城は本を書くことが仕事です。本に関わる仕事をしているためか、さまざまな出版社さんから「弊社でこのような本が出ましたのでぜひご紹介ください」という依頼をいただく場合があります。
「本の紹介」に関して結城が日頃から心がけていることを少し書きたいと思います。これはあくまで私個人の考えであって、他の人に強制するつもりはありません。
「よい本」を紹介
結城は、他の人に本を紹介するときには「よい本」を紹介したいと思っています。自分が読んでおもしろかったり、ためになったり、役立ったり、ともかく何らかの意味で「よい本」を紹介したいということです。これは当然ですよね。
「よい本」を紹介するためには、自分でその本を読む必要があります。多くの場合は、自分で読まなければその本がよい本かどうか判断できないからです。
未読ならそれを明記
しかしながら、自分が未読の本を紹介する場合もあります。それは、おもしろそうだから、ためになりそうだから、役立ちそうだから、という理由があるからです。つまり「よい本」のように思えるという予測があるから紹介するのですね。
結城がネットなどで自分が未読の本を紹介するときには、たいてい「結城は未読である」ことを書き添えるように心がけています。
結城が紹介しないように心がけている本は、次のようなものです。自分で読んだけど「いい本」と思えなかったもの。自分が読んでおらず「いい本」とも思えないもの。
言い換えるなら、誰かから「宣伝してほしい」と言われても、自分が「いい本」と思えなかったら紹介はしないということです。お金をもらって本を紹介することもしないし、宣伝もしない。そのように心がけています。
お仕事の場合には
「この本はおもしろいから、ぜひ結城さんに紹介文や推薦文を書いていただきたい」というお仕事の依頼が来ることもあります。そのような依頼が来たときには必ず「読んでみて、おもしろくなかったら書かなくてもいいですか」と尋ねるようにしています。
そして実際、読んでみたけれどおもしろくなかったのでお断りしたこともあります。その場合には、お金はいただきません(依頼者との事前約束によります)。
「本の紹介」は信用の問題
結城は「本の紹介」は、あまり安易にするものではないと考えています。「本の紹介」というのは自分の表現のひとつであって、きちんと自分でコントロールする必要があると思っているからです。
やや大げさに言うなら「本の紹介には、自分の信用がかかっている」ともいえます。もちろん、自分が書いた本ほど大きな信用がかかっているわけではありませんけれど。
結城は、他の人が書いた「本の紹介」を読むときにも同じことを考えています。Aさんが本を紹介していて、それが結城にもほんとうにいい本と思えたなら、「ああ、Aさんはいい本を紹介してくれたな」と思います。Aさんの「本の紹介」に関するポイントアップ、「よくない本」を紹介したときにはポイントダウン、そんな感じを持ちます。
ですから結城は、
- 自分で読んだ「いい本」を紹介する
- 「いい本」のように思える未読本を紹介するときには、未読であることを明記する
- 「いい本」と思えないものは紹介しない(たとえ仕事でも)
のように心がけているのです。
以上「本の紹介」にまつわる結城の個人的な考えの話でした。繰り返しになりますが、これはあくまで私の考えであって、他の人に強制するつもりはありませんし、誰かを批判しているわけでもありません。
なお、結城のところにはしばしば「弊社で本を出したので献本したいです」というご連絡が来ますが、基本的に結城はお断りしています。結城に本をご紹介していただくのはうれしいですけれど、物理的に本をご恵投いただくのは部屋のスペース的に問題があるためです。
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