結城浩の「コミュニケーションの心がけ」

Vol.278 結城浩/反実仮想と恋の歌/片思いを忘れる方法/歳を重ねていくごとに/

2017/07/25 07:00 投稿

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Vol.278 結城浩/反実仮想と恋の歌/片思いを忘れる方法/歳を重ねていくごとに/

結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2017年7月25日 Vol.278

はじめに

おはようございます。結城浩です。

いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。

あいかわらず暑い毎日が続いています。

幸いにして結城は夏バテにもならず、 毎日規則正しい生活を送ることができています。

水分を多めに摂ることと、 夜はできるだけさっさと寝ることと、 あまり物事をくよくよ考えないことを心がけています。

今年の前半はとてもヘビーだったので、 そのバランスを取る意味でも、 無理せずがんばる方針で行きたいです。

 * * *

『数学ガール6』の話。

現在の最重要課題は、 秘密ノートシリーズではない「数学ガール」シリーズ最新刊です。

ここしばらく、第4章をずっと書いています。 章を構成する素材としてはもう以前から準備が出来ているのですが、 どうしても章としてまとまりません。

先週は、カギとなる数学的内容について検討していました。 でも、どうも収まりが悪い。

結城が文章を書こうとしていてよく陥るのは、 以下のようなパターンです。

 ・とてもおもしろい題材がある。
  うまく料理できればベストである。
  しかし、難しすぎて料理できない。

 ・ちゃんと料理することは不可能ではない。
  でも、そのための準備が大掛かりすぎて、
  全体のバランスが大きく崩れてしまう。

短くいえば、 「手が届きそうだけど、なかなか届かない状況」 ということですね。木の上のリンゴに手を伸ばしていて、 指先は触れているのだけれど、つかめない。 そんなもどかしさがあります。

これはとても悩ましい状況です。 というのは、がんばって背伸びすれば、 バランスを崩さずに提示できる道が見つかるかも? と思ってしまうからです。

結城はそのために一生懸命勉強します。 参考書を読んだり自分で考えたりして、 一つの解法だけではなく、複数の解法を検討します。

正確さをできるだけ犠牲にせず、 わかりやすさもできるだけ犠牲にせず、 「なるほどね」に至るための細いルートを探索する。 そのような活動をしているつもりです。

そのような探索は悪いことではありません。 でも、危険性がないわけではありません。

一つは時間が掛かりすぎること。つまり、 「もうちょっと勉強しよう……」とか、 「もうちょっと調べよう……」を続けているうちに、 自分自身が深い森で迷い、疲弊してしまう危険性です。

もう一つはサンクコストの誤謬にはまること。 「こんなに時間を掛けてしまったのだから、 この題材はぜったいに使わなくては」 と考える危険性です。

どちらの危険性にも注意が必要です。 そしてそこから逃れるためには、 いつもの原則《読者のことを考える》 に立ち返る必要があります。

この章で読者は何を期待するだろうか?

この章で読者に伝えたいことは何だろうか?

ひとことでいうなら、何が大事なの?

それをしつこいほど自分に問わなくてはいけません。 学ぶことは大事だけど、 それが自己目的になってしまってはまずいですし、 自分が掛けた時間が惜しいからといって、 読者に生煮えのものを読ませてはまずいでしょう。

ということを頭に置きつつ、 今週も第4章に取り組む予定です。

 * * *

マリアム・ミルザハニさんの話。

先日、ショッキングなニュースを知りました。

数学者のマリアム・ミルザハニさんの訃報です。

マリアム・ミルザハニさんは、 2014年にフィールズ賞を受賞した史上初の女性。 そして、フィールズ賞を受賞した初のイラン人です。 そのミルザハニさんがガンで亡くなったとのこと。

 ◆Iranian Math Genius Mirzakhani Dies of Cancer
 http://ifpnews.com/exclusive/iran-math-genius-die-cancer/

2014年のフィールズ賞受賞の時点では、 既にガンであると診断されていたとのことです。

 ◆Fields Medals 2014 - IMU
 http://www.mathunion.org/general/prizes/2014/

このようなニュースは、何ともいえず悲しくなります……

 * * *

ペーシングの話。

実際に人に会った場合であっても、 ネットでのやりとりの場合であっても、 結城は相手に合わせる習慣があるようです。

コミュニケーションの用語でいえば「ペーシング」でしょうか。 相手の話すスピードや、テンションや、喜怒哀楽。 それに自分のペースを会わせて話す傾向があるのです。

フェース・トゥ・フェースの場合には「ペースを合わせる」 ことの意味はわかりやすいでしょう。でも、 文章でやりとりする場合に「ペースを合わせる」 とはどういう意味でしょうか。

簡単な例でいうと「文末を合わせる」というやり方です。 「!」で終わる文章には、「!」で終わる文章を返す。 「。」で終わる文章には、「。」で終わる文章を返す。 そして、「……」で終わる文章には、「……」で終わる文章を返す。 そのようにすると、 自然と相手のペースに合わせた文章になることが多いようです。

といっても、 それをマニュアル化してやりとりしているわけではありません。 まず、相手の文章を注意して読みます。 そして、そこに書かれた文章上の意味だけではなく、 文章のスピードや、テンションや、 喜怒哀楽をできるだけ感じ取ろうとします。 そして、その上で、自分の言いたいことをいい、 書きたいことを書くようにしています。

トランシーバーで交信をするときに、 まず相手と自分の通信する周波数を合わせます。 周波数が合わなければ通信は成り立ちません。 ちょうどそういう比喩が成り立つかもしれませんね。

 * * *

クラウドファンディングの話。

不特定多数の人からネット経由で資金を集める 「クラウドファンディング」 という方法があります。Kickstarterが有名ですが、 日本にも多数のクラウドファンディングサイトがあります。

ところで「クラウドファンディング」という単語、 結城はつい先日まで、綴りを誤って覚えていました。

 (誤)Cloud Funding
 (正)Crowd Funding

Webサービスでよく使われる「クラウド(Cloud)」と、 多くの人々(群衆)を意味する「クラウド(Crowd)」とが、 ごちゃまぜになっていたのですね。 「Crowd Funding」が正しい綴りです。

確かに「不特定多数の人からネットで資金を集める」 という意味を考えればCrowdになるのも理解できます。

ちょっと気になったので、 Twitterの投票機能を使って 「クラウンドファンディングの綴りを知っていますか」 と尋ねてみました。すると、 1012人のうち77%の人が「Cloudだと思っていた」とのこと。

自分だけじゃなかった……と謎の安堵感を得た次第です。

 * * *

バズの話。

iPhoneでアプリのアップデートを行おうとしたら、 Tumblrアプリのリリースノートにおもしろいことが書かれていました。

 --------
 バグを退治しました。
 バグは他のアプリに移動したようです。
 --------

プログラムミスのことを「バグ(虫)」と呼びますから、 バグを退治するというのはまあわかります。 でも「他のアプリに移動」とは!

おもしろかったので、スクリーンショットを撮り、 「ちょっと待ってTumblrくん」という一言を添えてツイートしました。 まあ、いつも結城が行っている、軽口ツイートですね。

 ◆ちょっと待ってTumblrくん

2017-07-18_buzz.png

 https://twitter.com/hyuki/status/887266466591981568

ところが、思いも掛けないことが起こりました。

この何気ないツイートが、 結城のツイート史上最大数のRTといいねをもらうことになったのです。 RT数が10000を越えたのはこれが初めてのことでした。 軽くバズった感じですね。

RTがどんどん増えていくのを見ながら結城が最初に思ったのは、 「スペルミスしなくてよかった……」ということでした。 ツイートをする直前に、 「Tumblr(タンブラー)の綴りはこれであってるよな」 と確認をしたのを覚えています。 大量にRTされたツイートにミスがあったら恥ずかしい!

Twitterには「アナリティクス」という機能があり、 自分のツイートがどれだけのインプレッションになったか、 あるいはそのツイート経由で何人がプロフィールを見たか、 ……といった統計情報がわかるようになっています。

今回のツイートの場合、 驚くことに190万インプレッションにも達しました。

 ◆アナリティクス

2017-07-24_ana.png

自分ではまったく予想もしていなかったツイートが、 こんなに広まるとは。驚きです。

 * * *

スーパーのレジの話。

ぼーっと考えごとしつつスーパーに行ったとき。

 店員「お支払いは…?」
 結城「ポイントを使ってください」
 店員「はい、クレジットでよろしいですね」
 結城「いえ、現金で」
 店員「…」
 結城「…」

そのあとレジのお姉さんと、 私たちは何をやっているのか!……と爆笑。 しかも、実際の支払いはSuicaになったのです(!)

ちなみに、こんな会話になったのは、 今回の支払いの末尾が3円になったため。 やりとりの途中で「あっ、財布に3円あったぞ!」 と気づいたので、現金に切り換えたためです。 でも、実際は2円しかなかったのですが……

また、別の日に、こんな出来事も経験しました。

 結城「ポイントは全額を使ってください」
 店員「わかりました。ポイントは?」
 結城「全額を使って…」
 店員「わかりました。113ポイントございますが、全額を使っても…」
 結城「全額を…」
 店員「わかりました。全額を使っても?」
 結城「全額を…」
 店員「使っても…」
 二人「「よろしいですー」」

これじゃ、まるでミュージカルコメディです!

このあと、レジのお姉さんと大笑いしました。

 * * *

それではそろそろ、 今回の結城メルマガを始めましょう。

どうぞ、ごゆっくりお読みください!

目次

  • はじめに
  • 反実仮想と恋の歌
  • ニュートラルで検証可能なマスメディアを求む
  • 片思いを忘れる方法 - Q&A
  • 歳を重ねていくごとに
  • おわりに
 

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