結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2017年7月18日 Vol.277
はじめに
おはようございます。結城浩です。
いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
暑いですね……
とても、暑いですね……
毎日、とても、暑いですね……
暑いせいなのか、結城は最近、 夜中に目を覚ましてしまうことがよくあります。
ある日は午前二時十七分に。
ある日は午前三時十四分に。
ふと、目が覚めます。
そんな時間に目が覚めたとき、 結城はクーラーの温度調節をしたり、 水を飲んだりします。そして、それ以外に、
「眠れないでいる人のために祈る」
ことを習慣にしています。
夜中にふと目が覚めたときには、 眠れないでいる人のために祈る。
幸いにして結城は(少なくとも最近は) 悩みごとのために眠れないという夜はほとんどありません。 眠くなってコトンと眠り、朝になったら自然に目が覚めます。 目覚ましを掛けることもありません。
でも、世の中には「眠れない」という方はたくさんいらっしゃいます。 理由はさまざまです。悩みごとや心配ごとが心を満たすとき、 考えてもしょうがないとわかっていることでも気になってしかたがない。 そんなときはどうしても眠れないものです (結城もそういう時代を何回か過ごしたことがあります)。
眠れないというのはつらいものです。ほんとうにつらいものです。 ですから、夜中にふと目が覚めたときには、 眠れないでいる人のために祈るようにしているのです。
* * *
多様性の話。
結城は、朝起きると最初に聖書を読むようにしています。
先日はこんな箇所でした。
すべてあなたがたのうち、心に知恵ある者はきて、
主の命じられたものをみな造りなさい。
出エジプト記 35:10
この箇所の前後は、神さまに命じられて建物を建て、 インテリアを整える場面になっています。特にこの箇所の後には、 モーセが神さまから指示された「これを作りなさい」 という物品リストが列挙されています。 幕屋とか、柱とか、机とか、パンとか。 素材も大きさも種類も目的も、 多種多様なものがリストアップされています。
この聖書箇所を読むといつも、
全体として一つのものを作り上げるときでも、
多様なものが多数必要になるのだな
ということを思います。 あたりまえといえばあたりまえのことです。
ある程度以上の規模のものを作り上げるとき、 そこには構造があります。複数のもの…… 素材も大きさも種類も目的も異なるものが、 一つの意思の下で組み上げられて初めて、 大きな一つのものとなるのですね。
ばらばらのままでは、一つのものじゃない。
一つに組み上げられて初めて、一つになる。
それは、モノに限らない話でしょう。
プロジェクトを進めるとき、組織作りをするとき、 会社運営をするとき、旅行計画を立てて実行するとき、 勉強を進めるとき……どんな場合でも、 多様な要素をうまく組み合わせないとまとまりがなくなり、 収拾がつかなくなります。何か一つの旗印のもと、 多様な要素を組み合わせる必要があるのです。
自分という一人の人間を考えても、わかります。 自分の活動や意思や感情は単純ではありません。 複雑に絡み合った多様性を持っています。 その中の一つだけを伸ばして残りを殺すことはできない。 かといって、ばらばらのままではまずい。
自分の中の多様な側面を、うまく調和させ、 いい具合に組み上げたい。 そこにはきっと、 一つの意思が必要になるのじゃないかしら。
そんなことを思いました。
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インタビューを受けた本の話。
昨年、結城は岡部晋典氏(同志社大学学習支援・教育開発センター助教) にインタビューを受けました。 今月末にそのインタビューを含む書籍が刊行されますのでご紹介。
書名は、
『トップランナーの図書館活用術 才能を引き出した情報空間』
というものです。タイトル通り、 この本のテーマは「図書館」。 さまざまな分野で活躍している人が、 図書館をどのように関わってきたのかが語られています。
インタビューイー一覧は次の通りです(掲載順)。
落合陽一/清水亮/前野ウルド浩太郎/
三上延/竹内洋/谷口忠大/
結城浩/荻上チキ/大久保ゆう/
大場利康/花井裕一郎/原田隆史/
この本の中で、結城のインタビューは、 「小さな数学者たちの対話の場」というタイトルになり、 縦書きで24ページほどの記事になっています。
結城が子供の頃から図書館で体験したこと、 『数学ガール』と図書館との関わり、 登場人物同士の対話、図書館に自著が入ることの意味、 結城がこれからの図書館に求めるもの……そんな話題を楽しく話しています。
もしも機会がありましたら、ぜひお読みください。
◆『トップランナーの図書館活用術
才能を引き出した情報空間』(岡部晋典編)
http://amzn.to/2upuO4z
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note(ノート)の売上の話。
結城はnote(ノート)で読み物を公開しています。
多くは「投げ銭」スタイルになっています (全文無料で、おもしろかったらお金を払ってねというスタイル)。 前半は無料で後半が有料になっているものもあります。 また、PDFとして用意し、そのURLを売っているものもあります。
だいたいは、結城メルマガの過去記事として配信したものですね。
読み物は不定期更新で、 宣伝はほとんどTwitterでのツイートくらいです。
先日ふと「2014年4月から2017年6月までの売上」 のヒストグラムを作ってみようと思いつきました。 こんなふうになりました。
これは、月単位でおおよそいくらになっているか、 その分布を表したものです。
毎月の売上は平均すると「2418円」になります。 平均2418, 標準偏差2027ですから、 ばらつきがすごく大きいことがわかります。
ともあれ、読み物をご購入&サポートしてくださっている 読者さんに感謝いたします。
◆結城浩のnote(ノート)
https://note.mu/hyuki
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ビデオコンテの話。
新海誠監督が『言の葉の庭』テレビ放映の後に、 こんなツイートをしていました。
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『言の葉の庭』テレビ放送、
遅い時間にもかかわらずご覧いただいた方、
ありがとうございました!お礼代わり(?)に、
制作に先立って作ったビデオコンテの一部です。
スマホ直録りですが……ちゃんとしたものは、
BD特典に入っていたかと思います。
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https://twitter.com/shinkaimakoto/status/883718188789145600
リンク先には『言の葉の庭』のシーンの動画が公開されています。 監督が「ビデオコンテ」と表現しているように、 絵は線画で、色も二色しかついていません。 長さも1分半ほどの短いものです。 でも、非常におもしろい動画なのです。
何がおもしろいかというと、コンテの形になっているがゆえに、 監督がイメージしている骨組みが見えるような気がするからです (結城は動画に関する知識がないので「気がする」だけですが)。
たとえば、主人公がグッと表情を変えるシーン。 また、主人公が料理をしながらふと振り返るシーン。 あるいはまた、ガラス窓を流れる水滴の方向を指示しているところ。
色も着けておらず、線もラフなのに、 上に書いたほんのちょっとしたところには細かい指示が入っている。 そこがおもしろいと思いました。
このシーンで表情を変えるところ、このシーンで振り返るところ、 そして水滴がこの方向に流れていくところ……それは、 きっと監督にとっては何かしら重要な意味を持っているのでしょう。 だって、かなりの部分が省略されているのに、 わざわざ、ビデオコンテでそこの部分を詳しく描いているのですから。
あたりまえですけれど、 監督にはいろんなことが見えているのだなあと思った次第です。
そして、このビデオコンテの状態から、 完成版としてのアニメーションに持って行くために、 どれほど多くの手間と時間が掛かっているかを考えると、 気が遠くなってきます。
アニメーション作品を見るときには、 その美しさや物語を楽しめばいいはずです。 でも、このビデオコンテのような制作途中の過程をチラ見すると、 あらためて、
どんな作品でも、
誰かが手を動かして作らなければ、
この世に生まれなかったのだ。
という事実を強く感じざるを得ません。
しかも、その作品は、 他の誰も気がつかないような微妙な箇所を骨組みとして持ち、 とんでもない時間を費やして肉付けされることで、 初めてこの世に生まれたのです。
そして、勝手ながら結城は、 「よし……私も、自分の書く本のためにがんばろう!」 と静かな闘志を燃やすのです。
* * *
索引の話。
先日購入して、楽しみにしていた本がようやく届きました。 書籍執筆の参考にしようと思っていた本です。 でも、ぱらぱらとめくって、がっかりしました。
その本には「索引」がなかったからです。
本のはじめに書いてあるのは「目次」(もくじ)。 本の最後にあるのが「索引」(さくいん)。
目次では、書かれている順番に従って内容が示されています。 索引では用語や人名がどこに出てくるかが五十音順などで示されています。 目次と索引は、本全体の姿を違った観点で見せてくれるのです。
個別の書籍をディスることが目的ではないので、 索引がなかったその参考書名は挙げません。 とても厚くて調べ物にも使える本なのに、 索引がないのはとても困りますね。
もちろん、きちんと構成してある本ならば、 本の初めに書いてある目次を読んで、 「このあたりに書いてあるかな」と予想はつけられます。
でも、ある用語が予想もつかない場所に出てくる場合には、 その用語を見逃してしまう恐れがありますね。 一つの用語が、目次からは予想もつかない場所に出てくるとき。 それは、しばしば大きな喜びにつながります。 というのは、一見無関係に思われる分野が《つながっている》 ことを示唆するからです。
言い換えるなら、索引をうまく使うことで、 目次からは読み取れない分野のつながりや、 概念のつながりを短時間で発見できるということです。
索引が用意されていなければ、 その発見の道は失われてしまいます。
結城の書籍『数学文章作法』では、 索引をつけることを以下のように強くお勧めしました。
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索引を作る場合でも,
私たちの原則《読者のことを考える》は変わりません.
まず何より,読者が調べるときに使う長い説明文なら,
索引は必須であると心得てください.
(『数学文章作法 基礎編』第7章)
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索引を用意するというのは、 読者の役に立つとはっきりわかっていて、 しかも著者にできることの一つです。
結城はLaTeXで目次と索引を作ります。 索引項目のピックアップは私がやります。 ただ、最終工程では編集部の方で総確認を行います。 そしてしばしば 「こちらのページの方が適切ではないですか?」 という指摘を編集部からいただきます。 一つ一つの索引項目を、結城は編集部と共に真剣に取り扱います。
いい索引を作るというのは、目立たず手間のかかる作業です。 しかし索引は、読者にとって非常に大事なものなのです。
近くにある本を手にとって、目次と索引を眺めてみてください。 意外な発見がありますよ!
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それではそろそろ、 今回の結城メルマガを始めましょう。
どうぞ、ごゆっくりお読みください!
目次
- はじめに
- 再発見の発想法 - Promise(プロミス)
- ギャンブルコミックが好きな理由
- 繰り返しに耐えるということ - 本を書く心がけ
- 大学の数学を理解するにはどう学べばいいですか - Q&A
- おわりに
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