結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2017年1月31日 Vol.253
はじめに
おはようございます。結城浩です。
いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
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『数学ガール6』の話。
第3章でまだまだ苦戦中です。
そんな中、編集長と今年の出版計画について作戦会議(という名の新年会) がありました。編集長と現状を相談した結果、 『数学ガール6』の執筆は継続しつつも、 「数学ガールの秘密ノート」シリーズ第9弾となる 『数学ガールの秘密ノート/積分を見つめて』 の刊行を先行させた方がいいかもという結論になりました。
スタック(stuck)した状態があまり続いてしまうと、 他の仕事がスタック(stack)してしまうので、 その方がよいと判断しました。
ということで秘密ノートの積分の書籍化に力をシフトすることに。 気分一新、よい本を作るため、うまく仕事を回していきましょう!
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Web連載の話。
毎週金曜日にはWeb連載「数学ガールの秘密ノート」を公開しています。 先週から「バビロニアの数学」が始まりました。今週は後編になります。
当然のことですが、歴史は膨大な情報にあふれていて、 参考書もたくさんあります。 それらを調べながら題材選びをしていると、 次第に深みに入っていくのを自覚します。 要するに「めちゃめちゃ面白い」のです。
しかしながら、時間は有限です。うまいところを切り出して、 ていねいに味付けをする必要があります。その案配はとても難しいですね。
一般的なことなのか、私に固有のことなのかわかりませんけれど、 調べ物をして書くときの注意事項が一つあります。 それは、
「自分が調べて知ったことをすべて書こうとするな」
というもの。調べ物をしていると、
「うわ、おもしろい」
「これもいい題材」
「あっちも盛り込みたい」
という気持ちでいっぱいになります。でもそれを「すべて」 一つの文章に書こうとするとどうなるでしょうか。 一般には、
生焼けのカオス料理
ができあがります。おもしろい題材でも、ぜんぶ入れてしまうと、 一つ一つの取り扱いは雑になります。また、相互関係をよく理解しないと、 単に混ぜただけの結果になるでしょう。つまり「生焼けのカオス料理」です。
結城が書くような文章で大事なのは、よく調べた上で題材を厳選し、 そのおもしろさが十分に読者に伝わるようにきちんと調理することでしょう。
ここでもう一つ注意。きちんと調理するというのは、 必ずしも「詳しく書く」という意味ではありません。 題材の軽重をよく理解して、詳しく書くべきポイントは詳しく書き、 さらっと流すポイントはさらっと流す。そのようなバランスの良さが大事。 お刺身をじっくり焼いてはいけないし、 唐揚げをべとべとにしてはいけないということです。
結局のところ、調べて書く文章でも、 自分の頭だけで書く文章でも話は同じです。いつもの、
《読者のことを考える》
という原則に立ち返ることが大事です。 調べ物は時間が掛かりますから、 自分が注いだ時間をつい文章に変換してしまいがち。 「せっかく調べたんだから、これも書こう」と考えるのは、 《読者》のことを考えているのではなく、 《著者》のことを考えているのですね。 「せっかく調べたから書く」ではなく、 「これを書いたらわかりやすくなるから書く」という態度が正しいのです。
そんなことを考えながら、毎週のWeb連載を書いています。
今週もおもしろいですよ!
◆Web連載「数学ガールの秘密ノート」
https://bit.ly/girlnote
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亜人(デミ)ちゃんの話。
毎週日曜日の夜、 アマゾンプライムビデオで「亜人(デミ)ちゃんは語りたい」を観ています。
先週の第3話「サキュバスさんはいい大人」も、 今週の第4話「高橋鉄男は守りたい」もたいへん楽しめました。 次回も楽しみです。
このアニメは学園コメディで、 かわいい女の子がたくさん出てきます。 いまのところ、主なキャラとして出てくる男性は、 生物の教師(高橋鉄男)一人だけです。
男性教師と女子生徒ということで、 ややハラハラするシーンもあるのですが、 絶妙なラインで魅力的なドラマとなっていますね。
亜人は人間と違う性質を持つ存在。 人間関係に少数派の亜人が絡むことで、 きっと話はこう進むんだろうな……ところが、 いい意味で期待を裏切るストーリー展開。 そこがとても心地よいです。
前回は「各個人の個性」と「亜人であるがゆえの悩み」 というテーマが現れ、たいへん興味深く観ました。
この物語では、 亜人がいるファンタジーの世界を描きながら、 同時に私たちがいる世界の状況も描いています。 そこがおもしろい。
私たちは、互いに共通点を持っているからこそ、 他人に共感や反感を抱きます。 でも、それと同時に各個人は各個人として扱われたい。 その難しい関係を「亜人(デミ)ちゃんは語りたい」 ではうまく描いていると思うのです。
これからの展開も楽しみです。
◆『亜人ちゃんは語りたい』(Kindle版)
https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00U23WV3E/hyam-22/
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図形の観察の話。
筑波大学の三谷純先生(@jmitani)が、 宿泊先の壁面に現れた双曲線の写真をツイートしていました。
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双曲線の観察。
(軸に平行な面での円錐の切断)
照明の光が届く範囲 → 円錐
壁面 → 切断面
壁面上の光の届く範囲の境界 → 双曲線
宿泊先で綺麗に撮れたので。
https://twitter.com/jmitani/status/823123118877122560/
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照明の光が壁に作る図形というのは、 誰しもいろんなところで見かけるものです。 でも、三谷先生がツイートしたように、その図形を
「円錐を面で切断して現れた双曲線」
として見る人はどれだけいるでしょう。
自分の目に写った形を当たり前のものとして見過ごさず、 わざわざ撮影してツイートする価値があると考える心も素敵です。
結城はこういうツイートが好きです。
円錐の光を切り取って双曲線にしたのは壁ですが、 この映像を切り取ってツイートしたのはあなたの心です。 ……なんてお伝えしたくなるほど。
自分の見ているものをきちんと切り取って、 言葉として射影する。 これこそ、知的いとなみではないでしょうか。
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GoogleとHTTPSの話。
Google先生から、こんなメールが来ました。
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2017 年 1 月より、Chrome(バージョン 56 以降)では、
パスワードやクレジットカード番号を収集するページで、
HTTPS で配信されないものについては、
「安全でない」と明示することになりました。
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このようなメールが来たのは恐らく、 結城が自分のWebサイトの一部で、 「Google Search Console」を使っているからだと思います。
Google先生がクロールしている途中で、 HTTPSじゃないのにパスワード入力を求めているページがあるので、 アドバイスとして知らせてくれたというわけです。
確かに、結城のサイトではパスワード入力を求めているページがあるのですが、 それは本当のパスワードを入力させるというより、 フィードバックフォームで、 botではなく人間であることの判定用に使っていたのでした。
それはそれとして、 Googleは以前からWebサイト全体をHTTPSに移行させたがっています。 結城も少しずつ、自分のWebサイトをHTTPS化させようとしています。 新しいサービスはできるだけ hyuki.net ドメインで HTTPSを使うようにしています。 昔から使っている hyuki.com はどうしようか。 どこかのタイミングで hyuki.com 全体を移す必要があるかなあ……
激しくめんどくさいのですが……
* * *
ツイートの書き方の話。
結城はTwitterが大好きで、毎日あれこれつぶやいています。 まじめな話も書きますし、冗談や軽口もよく書きます。
ところで、世の中には誤読する人が多いので、 誤読されそうなツイートには明示的に「冗談」や「軽口」 などと書くように心がけています。
明らかに「冗談」だとわかるときには、 「冗談」などと書かない方が楽しいツイートになるのですが、 誤解される可能性を考慮して、無用なトラブルを防ぎたいと思っています。
たとえば(と例を挙げるのも変な話ですが)、 「冗談」と書いたツイートにはこんなものがあります。
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「足らぬ足らぬは工夫(くふう)が足らぬ」
(運用現場への要望)
「足らぬ足らぬは工夫(こうふ)が足らぬ」
(人材不足という主張)
#冗談
https://twitter.com/hyuki/status/681037271223513088
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これは「工夫」という熟語の二通りの読みを利用したツイートですが、 人によってはたいへんな現場を揶揄・非難していると解釈するかも、 と思って #冗談 とハッシュタグを付けました(もちろん、 冗談や軽口と書いたからといって免責されるわけではないですけれど)。
「軽口」という説明書きを付けたツイートにはこんなものがあります。
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国際基督教大でも単位が出やすい先生は仏と言うのだろうか #軽口
https://twitter.com/hyuki/status/823743151407919106
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これは、単位が出やすい/出にくい先生を「仏」/「鬼」 と表現することと、 国際基督教大というキリスト教系の大学とを混ぜた軽口です。
これも、まあ、軽口だとわかると思うのですが、 宗教に絡む話なので、あまり真面目にとられても困るなと思い、 「#軽口」というハッシュタグを付けました。
ちなみに、このツイートにはリプライがあって、 「自分の在学当時はそう呼ばれる先生がいた」という方と、 「マジレスしてしまうといわないですね」という方がいて、 楽しかったです(もちろん、観測範囲が違うでしょうから、 お二人が矛盾しているわけではありません)。
「冗談」や「軽口」の他にも、 「皮肉」という説明書きも皮肉を言うときにはつけると思います。 ただ、皮肉になるような文章は、もともと避けるように心がけています。
◆皮肉について
http://www.hyuki.com/dig/irony.html
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それでは、今回の結城メルマガを始めましょう。
どうぞ、ごゆっくりお読みください!
目次
- はじめに
- 数学の問題に挑戦しよう!(問題編)
- 公開しても、しなくても - 文章を書く心がけ
- 作ったもので語る
- 足ることを知る
- 権威について
- 数学の問題に挑戦しよう!(解答編)
- おわりに
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