結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2016年11月8日 Vol.241
はじめに
おはようございます。
いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
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新刊の話。
ありがたいことに、結城の新刊『数学ガールの秘密ノート/やさしい統計』 は多くの読者さんに喜ばれているようです。感謝です。
ある方からは本のレベル設定がちょうどいいというご意見をいただきました。 また何名かの大学の先生が、学生さんに推薦してくださっていました。 私はたいへんうれしいです!
世の中にはすでに無数の統計本が出版されています。 そこに新たな一冊を投入するのはたいへん恐いものです。 読者さんのコメントや書評を見ていると、 何かしらの価値を提供できるようなので、 私としてはたいへん心強いですね。 幸いにもまだアマゾンの数学ランキングで第1位をキープしているようです (11月7日9:00現在)。
先日、本書のレビューアもしてくださった西原史暁さんが、 たいへん詳細な書評を書いてくださいました。 おそらく現時点では最も内容に踏み込んだ記事になっています。
◆数学好きから統計好きに――『数学ガールの秘密ノート/やさしい統計』
http://id.fnshr.info/2016/11/05/secret-notebook-statistics/
この記事の中でおもしろいと思ったのは、数式の扱いについてです。 以下、引用。
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ありふれた統計の入門書では、
世の中に数学が苦手な人が多いことを踏まえて、
数式のことをあまり扱わないようにしていることも少なくない。
こうした配慮は、数学が苦手である人にとっては有効なのかもしれないが、
数学が好きな人にとっては逆に興味を失うことにつながるかもしれない。
数学の言葉に親しみを覚えている人ならば、
数式で書いてくれた方が分かりやすいのだ。
http://id.fnshr.info/2016/11/05/secret-notebook-statistics/
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これは、結城自身はそれほど意識していませんでした。 でも、言われてみればなるほどその通りになっています。 それほど難しい数式は出て来ないのですが、 明確な説明のために数式を使っていることが功を奏しているのでしょう。
編集部からの情報によれば、 今週の後半頃から本書の電子書籍も配信が開始されます。 Kindle版が最速で、楽天KOBOやGooglePlayなどからも続いて配信になります。 これからも『数学ガールの秘密ノート/やさしい統計』の応援を、 どうぞよろしくお願いいたします。
◆『数学ガールの秘密ノート/やさしい統計』
https://note8.hyuki.net/
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グラフの話。
あるとき、
「結城メルマガってだいたい何文字くらいあるんだろう」
という疑問が浮かびました。毎回の執筆ではだいたい25キロバイト (約1万2千文字)を目安にしているのですが、 毎回きっかりそのサイズではありません。長い回もありますし、 短い回もあります。
「まあ、平均したらおそらく1万2千文字だろうけれど……」
まで考えたところで、
「平均だけじゃなくて標準偏差も考えよう」
と思い返しました。 新刊『数学ガールの秘密ノート/やさしい統計』の中でも登場人物達が 平均だけを考えてよしとしない態度について語っていましたし。
平均や標準偏差に留まりません。結城の手元には過去記事のすべてがあるので、 文字数の《分布》を考えることもできます。ということで、 Pythonでプログラムを書き、 文字数の分布をヒストグラムにしてみました。 こんな感じになりました。
count 241.000000
mean 11203.381743(平均)
std 3089.392742(標準偏差)
min 1490.000000(最小値)
25% 8839.000000(第1四分位数)
50% 11216.000000(中央値)
75% 13565.000000(第3四分位数)
max 18827.000000(最大値)
これはメール本文の文字数だけなので、 別ファイルとしてPDFが付く場合でもその文字数は含まれていません。 一万文字よりも小さいところに山があるのは、 きっとPDFが付いた回のものではないかと思います (PDFが付いた回の文字数は少なくなる傾向があるため)。
また極端に文字数が少ないのは、 結城が体調を崩してしまったときの《ごめんなさい回》ですね。
この分布を描いたときに使ったPythonのプログラムは約10行。
◆PythonでCSVファイルをもとにヒストグラムを描くプログラム(画像)
コンマで区切られたデータファイル(CSVファイル) を読み込んでヒストグラムを表示させています。 ヒストグラムを描くプログラムとデータは以下のブログで公開。
◆PythonでCSVファイルをもとにヒストグラムを描く例
https://snap.textfile.org/20161101230500/
Pythonを使わなくても、 Excelなどを使えば、分布を表すヒストグラムは簡単に描けるでしょう。
この結城メルマガの文字数データは《自分のデータ》なので、 その分布を見ると心動かされるものがあります。 先ほどちらっと書いた「小さいところの山は何だろうか」とか、 「極端に文字数が少ない回は何か」とか。 分布から観察できる特徴が何を表しているかを考えたくなるのです。
参考書やどこかの誰かのデータじゃなくて、 《自分のデータ》なのがポイントですね。 ここから何かおもしろいことがわからないだろうか? という気持ちになりますから。
この分布を見ているうちに、時間的な推移も見たくなりました。 それで、同じデータを使って折れ線グラフも描いてみましょう。 こんな感じになりました。
◆結城メルマガ文字数の変化(Vol.000〜Vol.240)
この折れ線グラフを見ると、 極端に文字数が少ない回は最近ないことがわかりますね。 また何となくではありますが、 最近の回は文字数の散らばりが小さく、 また少しずつですが文字数が上昇トレンドにあるようにも思います。 だから何だというわけではありませんが、 自分に関係したデータを見るのは楽しいことですね。
折れ線を描くプログラムとデータは以下のブログで公開。
◆PythonでCSVファイルをもとに折れ線グラフを描く例
https://snap.textfile.org/20161101235123/
◆PythonでCSVファイルをもとに折れ線グラフを描くプログラム(画像)
こういうちょっとしたプログラムは公開しておくと便利です。 何ヶ月か何年かたった後で、「ヒストグラム描きたいな」とか 「折れ線グラフ描きたいな」と思ったときのベースとして使えるからです。
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言葉では説明しにくい動き。
以下の@johnbrown1325さんのツイートは、 円からつながっている線分の先が回転運動っぽい動きをしていて、 その結果なぜか回転する正方形が浮かび上がるアニメーションです。
◆不思議な正方形のアニメーション(ツイート)
https://twitter.com/johnbrown1325/status/791226007080542208
なぜ内側に正方形が現れるかは、 数学的にちゃんと証明できそうですね!
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AMP対応の話。
以前からWebサイトをAMP(Accelerated Mobile Pages) 対応したいと思っています。 AMPとはGoogleやTwitterが推進しているプロジェクトで、 スマートフォンなどのモバイル端末でWebページを高速表示するための技術です。 公式ページは以下。
◆Accelerated Mobile Pages
https://www.ampproject.org
スマートフォンやタブレットを使ってGoogle検索すると、 AMP対応しているページが特別扱いで表示されます。
要するに、AMPの仕様に従ったWebページを作っておくと、 Googleが高速に表示してくれるよというお話です。
WordPressなどのブログプラットホームではAMP用のプラグインもありますが、 結城のWebサイトは自力で作っているので、 AMP対応するためには自分で何か仕組みを作る必要があります。
とりあえずはAMPを検索して技術的な概要をつかみ、 試しに『数学ガールの秘密ノート/やさしい統計』 のランディングページをAMP対応してみることにしました。
上の公式ページにHTMLのサンプルがありますので、 それを見ながら作っていきます。 できたなら、正しく作られたかどうかをAMP Validatorでチェックします。
◆AMP Validator.
https://validator.ampproject.org
◆AMP Validatorでチェックしているようす(PASS)
AMP対応したページはモバイル端末で見ることを想定しているので、 Google Search Console AMPテストのプレビューで、 どんなふうに見えるかを確認します。
◆Google Search Console AMPテスト
https://search.google.com/search-console/amp
◆Google Search Console AMPテストの実行(テスト)
◆Google Search Console AMPテストの実行(プレビュー)
さらに付加的情報をテストするため、 Google 構造化テストツールも使ってテストします。
◆Google 構造化テストツール
https://search.google.com/structured-data/testing-tool/u/0/
これで『数学ガールの秘密ノート/やさしい統計』 のAMP対応ページが一応作成できました。 ロゴ画像の調整やCSSの対応などをやっていない状態です。
できたことはできたのですが、 ちゃんとした知識はまだありません。 でも、まあ、第一歩としてはこんなものでしょう。
今回は手動でAMP対応を行いましたが、 将来はランディングページから自動的にAMP対応ページを作れるように、 変換ツールを整備したいと思っています。 少しずつ、楽しみながらね。
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子育てと可処分時間の話。
てぃーびーさん(@tbpgr)のすてきな子育て話。
てぃーびーさんが「今日あったこと報告ノート」 という話をブログに書いていました。 パパと娘二人との交換日記的なシステムとのこと。
◆子どもたちとの間で「今日あったこと報告ノート」を導入した話
Tbpgr Blog
http://tbpgr.hatenablog.com/entry/2016/11/04/001050
このブログによると、
・たのしかったことを一つ以上書く
・おぼえたこと(できるようになったこと)を一つ以上書く
・ききたいことがあれば書く
・困ったこと、相談したいことがあれば書く
という報告ノートのようです。
娘さんにこんなこと書いてもらうっていいですねえ。 こういうことを思いつくのもすごいですし、 実行に移せるのもいいですね。
この記事を読んでいて、最後に書かれていた一言に特に注目しました。
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こういったやりとりができるのも
今の仕事が定時勤務で残業がないからこそ、
という思いがあります。
ありがたや。
http://tbpgr.hatenablog.com/entry/2016/11/04/001050
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確かにそうだと思います。 時間的な余裕がなければなかなかこういう取り組みに気付かないし、 気付いても実行できないし、実行しても続かないものでしょう。
可処分時間とでもいうのでしょうか。 自分の裁量で新しい取り組みができる時間の余地は、 子育てに限らず、いろんなところで効いてきそうだと思いました。
あなたの可処分時間はいかがでしょう。
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確率の話。
先日「成功する確率が小さくてもあきらめない」という文脈で、 「成功する確率が1%でも100回トライすれば100%になる」 なんて表現を見かけました(正確な引用ではありません)。
「成功する確率が小さくてもあきらめない」という主張の是非はさておき、 「成功する確率が1%でも100回トライすれば100%になる」という表現は、 確率的にはまったくおかしいです。 「サイコロを6回振ったら1の目が出せる」というくらいおかしいです。 この場合の確率は単純な足し算で求めるものではないからです。 もっとも、こういうのにツッコミを入れるのは野暮といえば野暮でけれどね。
少し考えればわかる通り、成功する確率が1%の試行を たとえ100回トライしても100%成功するわけではありません。 細かい前提を省略していうなら、 失敗する確率99%を100回トライして《すべて失敗》する確率は、 「99%の100乗」で「約36.6%」になります。 ですから、100回トライして《1回以上成功》する確率は「約63.4%」ですね。
「成功の確率がたった1%でも100回トライすれば、 約63.4%は成功するんだよ」というのは、 確率的にもそれほど嘘じゃないし、 人を鼓舞する話としてもなかなかいいんじゃないでしょうか。
ちなみに、確率を期待値に変えると正しい表現に近くなります。 「1回の試行での期待値が1の場合、100回の試行での期待値は100だ」 というのはおかしな主張ではありませんし、 期待値の線型性の表明とみなすこともできます。
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「自明」の話。
こんな主張を考えてみましょう。便宜上「主張A」と呼びます。
主張A
「〇〇であるかもしれないが、〇〇ではないかもしれない」
どんなものごとも「○○かもしれないし、○○じゃないかもしれない」 んだから、上の主張Aはあたりまえのように聞こえます。
自明に真である主張Aは、 何も意味のあることを言ってない無駄な言葉のように感じます。 しかしながら、世の中にいる「必ず○○であるに違いない」 と強く主張する人に対して主張Aを伝える場合はありえますね。 そしてまた、主張Aを伝えることが無駄とは限りません。
「○○かもしれない」といって、相手の主張を一部受け止めつつ、 「○○ではないかもしれない」という可能性を示唆していることになります。
……なんて、えらそうに書いていますが、 こんなこと考えてそもそも何か意味があるのかしらん。 とはいえ、結城はこういうことをあれこれ考えるのが とても好きなんですけれど。
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リアルな対話について。
先日、編集者と会って長期的な企画に関するブレーンストーミングをしました。 そのときにふと思うことがあって「録音」をしてみました (もちろん許可を取って)。 二人でのブレーンストーミングなので記録する人もいないから、 録音しておいた方がいいかなと思ったのです。
いい感じで打ち合わせが終わり、次の日になって録音を聞き返します。 二時間近くの対話を飛ばし飛ばし聞いてみて「これはいい!」と思いました。
録音も記録もせずにおしゃべりして、 後から思い返すと細かい情報は抜け落ちてしまいます。 議事メモにも書かれないようなちょっとした脇道の話や、 そこから引きずられて出てくる「思い出したこと」の話。 それがちゃんと録音には残っています。これはいい。
また、議事メモを文字として読み返すのと、 現場の音を聞き返すのもまた違う効果があります。 結城は「時間を掛けて音を聞き返すよりも、 要領良くまとめた文章を読んだ方が早くて効率的」と思っていたのですが、 多少認識が変わりました。
「人と話す」というプリミティブな形式での情報交換は、 「文字の読み書き」とは別の刺激となるのですね。 特に、新しい発想やアイディアを出そうとするときにはその 「別の刺激」がいい効果をもたらすように思います。 アイディア出しでは効率はあまり意味を持たないのです。
結城は『数学ガールの秘密ノート』などで、 対話に絡んだ文章をよく書きます。 でもそれは本当の意味の対話ではありません。 彼女たちの対話を生のまま書いているわけではなく、 読者に伝わりやすいように調整しているからです。
それに対して録音された音声という実際の対話は、 文章よりもはるかに断片的で「間」も大きいものです。 記憶に頼ってしゃべっているので書名や数字などもかなりいいかげん。 情報としてはまちがいだらけの情報を交換しています。 しかしながら、近似的な情報を交換するなかで「何か」が前に進みます。 よくわからないけれど「ものごと」や「考え」が、 どんどん前に進んでいく感じがするのです。
むりやりにたとえるなら、山にトンネルを掘ってるみたいです。 どんどん掘り進んで、とにかく向こう側まで出ようとしている感じ。 しゃべっているうちに、向こう側にぼこん!と出られた! トンネルは整備されていないし、通り道も岩肌がむきだし。 でも、とにかく入口と出口はつながった! そんな感覚があります。
録音した対話を聞き返しながら、 そんなことを考えていました。
この対話はいつの日か、何かの本に結実するのかな。
するといいな。
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さてそれでは、今週の結城メルマガを始めましょう。
どうぞ、ごゆっくりお読みください!
目次
- はじめに
- ロゴマークのデザイン - 仕事の心がけ
- メタサイトについて考える
- 冷凍保存された言葉
- テキストを介した信頼 - 本を書く心がけ
- 自分をきちんと甘やかす
- おわりに
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