ぼくはこれまでも度々、『ダメおやじ』への愛を表明してきました(「ダメおやじ」、「ダメおやじ(その2)」)。今こそ再評価されるべき作品であると。
しかし最近、ふと大昔の記憶が甦ってきました。
もういつ頃のことになるかも判然としないのですが、テレビで「ダメおやじの人生相談コーナー」というのがあったのです。想像するに、ワイドショーか何かの一コーナーだったのでしょう。いや、お前はそもそも他人の人生相談を聞いてる場合じゃなく聞いてもらうべき側だろう、と思ったりもするのですが。
ぼくが覚えているのはおばさんタレントが(「ダメおやじの人生相談」なのに何故おばさんタレントが出てくるのかはよくわかりませんが)子供からの「先生がえこヒイキする」との訴えに、「知らない、校長先生に言いつけちゃえ」と実にやる気のない答えをしているシーンです。
おい、他人の必死の訴えにその態度、お前は梅宮辰夫か!!
そのくせコーナーのラストではダメおやじのイラストが表示され、にこやかに「ダメおやじは待ってます!」と相談募集をしていたのが思い出されます。
そんなことでいいのか!? オヤジにはがっかりだよ!!
しかしみなさん、ここで「人生相談」というと何か思い出さないでしょうか?
そうです、『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』です。
以前書いたことがあるかどうかは忘れましたが、『俺妹』は現代に復活した『ダメおやじ』です。
逆に『ダメおやじ』を今風に改題するならば、『私のオヤジがこんなにダメなはずがない』なのです。
『ダメおやじ』がダメなおやじをいびることで、逆説的にオヤジの権威の復権を希求している物語であることは言うまでもありませんが、同様に『俺妹』もムカつくクソビッチが兄貴に「人生相談」を持ちかけることで兄妹関係の、家族関係の、男女関係の復権を希求している物語であることは言うまでもないことだったのです。
そうした「家族をめぐる物語」には当然、フェミニズムへの批判が盛り込まれることもまた、言うまでもないでしょう。
というわけで本日はダメおやじからの「人生相談」に耳を傾けることにしましょう。
* * *
ダメおやじの人生相談
オヤジ「あのう……人生相談があるの」
???「どうぞ、ここはそのための事務所です」
オヤジ「わし、離婚したいんですけど」
???「離婚? 随分と唐突ですわね」
オヤジ「そんなこと言ったってアンタ……ここは離婚専門の弁護士さんの事務所なんじゃないんですか?」
???「はい、当弁護士事務所は離婚専門。私が所長の留捨久売夫子(どめすてくばいおこ)です」
オヤジ「なら頼む! 何とか私たちを別れさせてくれ!!」
売夫子「はいはい、わかりましたわかりました。じゃあお聞きしましょう。あなたは奥さんに何をなさったんですか?」
オヤジ「何をって……何もしてませんよ!!」
売夫子「ふんふん、妻に何もせず放置……ネグレクトと」
オヤジ「放置なんかしとりません! わしゃ会社ではみんなにバカにされるうだつの上がらないダメ平で、家に帰ればオニババに毎晩毎晩折檻される毎日なんです!!」
売夫子「ふんふん、妻を『オニババ』と罵倒する……DVが疑われますね」
オヤジ「何を言っとんだアンタは!? DVの被害に遭ってるのは私、私なんです!!」
売夫子「ふぅ~~~ん。しかし今のお話ですと、失礼ながら収入もそんなに潤沢ではないご様子」
オヤジ「まあ……月給は二万八千ですから……」*1
売夫子「ふぅ~ん、『ダメおやじ』放映当時、昭和四十年代後半のそれが今の貨幣価値に換算してどのくらいになるのかはわかりませんが……相当なダメ社員ですね」
オヤジ「放っておいてもらおう!」
売夫子「家に充分な生活費を入れないことも、立派なDVですからねえ……」
オヤジ「ちょっとアンタ! さっきから聞いてたら何だ!? 台風の中を裸で放り出され、風邪で熱のある中、ピラニアの入った水槽にぶち込まれ、額に釘を打ち込まれ、死ぬような目に遭ってるのはワシの方なんだ!」
売夫子「DVとはこの社会の男性支配の構造が生み出した男性から女性への暴力に他ならないのです。だから旦那さんが奥さんから何をされようと、DVには当たりません」
オヤジ「あん!? ワシはオニババから日夜暴力を受け続けているんですぞ!!」
売夫子「それは認められません。確かに近年、妻から夫への暴力もDVとして認められるよう、DV法が改定されました。しかしそれは間違っているのです」
オヤジ「間違ってるってアンタ、法律で決まったことを……」
売夫子「事実、『インパクション』という論壇誌の131号では、フェミニストの笹沼朋子が憤死せんばかりの勢いで怒っていました」
これでは、DVは男女双方に対する暴力であるように解釈されてしまうからだ。ジェンダーも、性による権力支配も、まったく何も関係なくなってしまう。
売夫子「DV法で男性を助けるなど、あってはならないのです」
オヤジ「そ……それじゃあ、アンタは私を助けてはくれんのか?」
売夫子「そんなことはありません。フェミニズムは男性をも解放するのですから」
オヤジ「い……言っとることが支離滅裂だが……」
売夫子「こんなこともわからないとは、仕方がありませんね……本日は千田有紀の著書を参考に、あなたに日本型近代家族についてレクチャーして差し上げましょう」
オヤジ「ワシとしてはワシの家庭の悲惨さをアンタにレクチャーして差し上げたくてしょうがないんだがね……」
売夫子「なるほど、奥様は悲惨な目に遭っていると……」
オヤジ「悲惨な目に遭っとるのはワシだ!!」
売夫子「はあ? でも、奥様は専業主婦なのでしょう?」
オヤジ「はあ……まあ、そうなりますねえ」
売夫子「千田の『日本型近代家族』では上野千鶴子の研究を引用して、主婦の労働が不払いであることが指摘されています」
上野はこれらの不払い労働が、家族、とくに男性によって搾取されていると考える。
オヤジ「そんなバカな! 不払いも何も、ワシの家庭はワシの稼ぎで暮らしてるんだ。なのに家事まで、ワシがやらされている。そんなオニババのどこが、搾取されていると言うんだ!?」*2
売夫子「『ジェンダー論をつかむ』でも、千田はこう言っていますよ」
近代において女性がさまざまな権利を失うのは,女性が結婚して夫の庇護下に入ることによってです。夫が一家の主であることから,妻はもっていた財産を夫に取りあげられ経済的に従属し、また法的な権利を結ぶ主体となることができなくなりました。
オヤジ「財産を取り上げられるも何も、毎月月給を取り上げられているのはワシの方だ! ワシだけじゃない、日本の亭主族は一般的にみなそうだ!!」
売夫子「そうした、『誰に食わせてもらってるんだ』などといった類の暴言を吐くのも立派なDVですね」
オヤジ「アンタが無茶言うからワシも言い返したんだ! そもそもオニババに口答えなんて、怖くてできんよ」
売夫子「そんなことよりあなた、離婚したいんじゃないんですか?」
オヤジ「そう! 離婚したいなんてもんじゃないね! このままじゃあたしゃオニババに殺される!! お願いだ、ワシを助けて!!」
売夫子「はいはい。先ほどからのお話を聞く限り、あなたから奥様に対するDVは充分に立証できましょう」
オヤジ「いや……立証すべきは妻からの私へのDVなんですが……」
売夫子「しつこいですわね、離婚したいの、したくないの?」
オヤジ「したいです」
売夫子「ならウソも方便です」
オヤジ「弁護士の先生がそんなことを言うようじゃ世も末って感じですが……」
売夫子「お黙りなさい。オニババ――雨野冬子さんは、夫、雨野ダメ助さんからのDVに常時苦しんでいた……よって一時的な避難先として我が留捨久弁護士事務所と協力体制にあるシェルターへと、娘・ユキ子、息子・タコ坊と共に一時避難――」
オヤジ「オニババたちがワシから避難するわけですか?」
売夫子「方便ですよ、方便」
オヤジ「確かに、オニババから離れられるならそんなに嬉しいことはありません。しかし、タコ坊ユキ子も?」
売夫子「えぇ、息子さん、娘さんもあなたから常時DVを受けていた……オニババさんに言い含めてもらい、法廷でそう証言してもらうことになるでしょう」
オヤジ「しかし……ワシはタコ坊たちにまで暴力を振るったりは……」
売夫子「男のクセに煮え切らない人ですね……ご家族と別れたいんでしょう!?」
オヤジ「それはそうですが……タコ坊……」
売夫子「あはは、いざ息子さんと別れるとなるとガラにもなく感傷に浸ると。そうした女を蔑ろにした男同士の連帯をホモソーシャルというんですよ」
オヤジ「オヤジが息子のことを想うことのどこがおかしいんです!?」
売夫子「おかしいですね、息子さんからも軽蔑されていたでしょうに」
オヤジ「そりゃそうですが……」
売夫子「いいですか? あなたは子どものことを大事に思っていらっしゃるようですが、それは『作られたイデオロギー』に過ぎないんです」
オヤジ「あぁん!?」
売夫子「千田は著書で繰り返し、かつての社会では子どもが可愛いなどとは考えられていなかったことを指摘しています」
オヤジ「いや、そんなバカな! いつの時代にも子供は愛され大切にされていたんじゃなかったのかね!?」
売夫子「それは通念に過ぎず、社会学的には否定された子ども観なんですよ」
???「いや……それはダメおやじが正しいと思うよ」
オヤジ「おぉ、ロクベエ! どうしてここに……?」
ロクベエ「アリエスの『<子ども>の誕生』を根拠とする『昔の子供は子供扱いされていなかった』論はポロクの『忘れられた子どもたち』などによって否定されているからな」
オヤジ「そ……そうだったのか」
ロクベエ「オヤジさん、仮にオニババとの離縁を考えていても、頼るのはやめた方がいい。だって彼女に任せたらお前さんはDV夫として有罪判決を受け、莫大な慰謝料が発生するんだぞ」
オヤジ「そ……そう言えば……」
ロクベエ「フェミニズムは男性憎悪と家族解体の思想だ。決してオヤジさんに益はもたらさないよ」
売夫子「そ……そんな! フェミニズムは決して家庭を否定はしないわ! 千田の『上野千鶴子に挑む』を見てもこうあります!」
この三〇年間にわたって上野は、繰り返し自分は家族解体論者でないことを強調してきた。
ロクベエ「そりゃ、本人たちは盛んにそう言うけど、とても信じることはできないよ」
売夫子「何てことを……本人が言ってるんだから間違いはありません!!」
ロクベエ「フェミニストたちの男性憎悪については他に当たってもらうとして、ここでは家族に対する憎悪を見ていこう。例えば『ジェンダー論をつかむ』での同性愛についての記述だ」
さてここまでの話から、生殖を目的とする一夫一婦制の夫婦のみが「正常」であるという考え方と「同性愛者」への差別が,密接に結びついているということがわかると思います。(中略)女性差別と同性愛者に対する差別は,表裏一体のものとして結びつき,システムをなしているのです。
オヤジ「よ……よくわからんのだが……」
ロクベエ「つまり、前半で書かれていることは男女の恋愛、結婚だけを正常と考える価値観が同性愛者への差別を生んでいるのだ、というリクツさ」
オヤジ「ふむ……」
ロクベエ「健常者を正常と考えることが障害者への差別に直接につながるものではないのと同様、この考えだって正しいかどうか、疑問だ。だがそこを百歩譲るとしても、そのリクツの後にいきなり、同性愛者差別と女性差別が同列で語られているのはどうだろう」
オヤジ「どうにもわけがわからんのだが……」
ロクベエ「俺も読んだ時、さっぱりわからなかったよ。同性愛について語ってきたのにここでいきなり、文脈を無視して女性差別を持ち出してくるんだから。それはつまり、千田が『一夫一婦制』をこそ女性差別の根源であり、またそれは改めて詳述するまでもない常識であると考えているのだと解釈する他はない」
売夫子「あ……当たり前じゃない! ロマンティック・ラブ・イデオロギーこそが女性差別の根源なんだから!!」
オヤジ「ろ……ロマンチック……何ですか?」
ロクベエ「フェミニストの決まり文句だよ。ここも千田の言い分を見てみよう」
恋愛→結婚→出産の順に、三つセットなのが常識だと思っていないだろうか。その思い込みには、実は専門的に名前がついている。「ロマンティック・ラブ・イデオロギー」というものだ。
よくよく考えると、ロマンティック・ラブ・イデオロギーは、変である。はっきり言えば、変態と言ってもよい。
そもそも愛があってセックスしたい、と思うのは理解可能である。しかしセックスするときに、必ず愛がないとダメなのか?(「そうじゃない」と頷いた人も多いのではないか)。
エロスと子ども、エロスと子育て、つまり生活って、最も遠いところにあるような気がする。むしろセックスと妊娠を結びつけるほうが、ちょっとヘンなエロマンガっぽいような……。
(千田有紀「恋愛と結婚はつながっているのか? ~ロマンティック・ラブ・イデオロギーを見直す」『女子会2.0』)
オヤジ「え……エロマンガがどうだとかよくわからんが……昭和のオヤジであるワシからすると、フェミニストというのは随分と慎みがないものだな……」
ロクベエ「エロマンガ云々の意味は俺にもよくわからん。セックスと妊娠を結びつけないのは未開人だけだろうしな。が、とにかくフェミニストにとっては、結婚や出産が自分を縛るものとして疎ましくてならない。だからその根幹である恋愛そのものをこうして、男性が女性を支配するカラクリだったのだと強弁することで否定しようとしているのさ」
売夫子「だって本当のことじゃない! 同書に千田も書いているように、男たちは私有財産を子供に継がせるために、『恋愛』というものを誕生させたのよ! まさに家父長制の支配のシステムね!」
オヤジ「いや……繰り返すようにワシの稼ぎはオニババが自由にしとるし、そもそも今時(それは昭和の頃の基準からしても)財産を子供に残せる男なんて、少数派じゃないかね。ましてそのために男が『恋愛』を作ったというのも……」
売夫子「知らないの? 本来、日本にはLoveに相当する言葉はなかったの。明治以降、西洋から輸入されたLoveという概念の訳語として、『恋愛』という言葉が作られたのよ!!」
オヤジ「あん? わ……わしゃあ学はないが……だとすると『源氏物語』などは後世に作られたニセモノだったのかな?」
ロクベエ「フェミニストは『前近代の性はキリスト教の影響がなくおおらかなものだった』と言うことが多いが、小谷野敦博士は『日本文化論のインチキ』の中でそれを批判し、性道徳は国によってと言うより階層によって違うと考えるべきだと言っているよ。いずれにせよ恋愛が近年にいきなり出現した概念というのは信じにくいな」
オヤジ「男性が女性を支配するために恋愛を考え出したのなら、女性が恋愛に夢中になるはずも、ワシが恋愛結婚の挙げ句にこんな目に遭うはずもないものな」
ロクベエ「千田は『日本型近代家族』で近年――と言ってもこれは『ダメおやじ』放映当時から四十年近く経った、2010年代のことだが――性の規範が揺らいできたことをもって、こう書いているんだ」
愛と性と結婚が結びつかなくなる九〇年代の性革命もなし崩し的なものでありながら、急激な変化だった。結婚と生殖の結びつきの将来も、その可能性がないとはいえない。少子化と未婚化が進行していくなかで、「結婚しなくてもいいから、子どもだけは産みたい」と考える女性が増えてきてもおかしくはない。女性に経済力がつけば、そう遠くない未来に婚外子出生率が急激に増加するかもしれない。そのときになってはじめて、ロマンティックラブ・イデオロギーが完全に崩壊したといえるだろう。
ロクベエ「文意を取りにくいかも知れないが、とにかく彼女がロマンティックラブ・イデオロギーを悪と考え、結婚と生殖とを分けることが望ましいと考えていることを念頭に読んでくれ」
オヤジ「わからん……フェミニストの先生の考えからは、タコ坊がワシと別れ、オニババ一人に育てられる方がいいということなのか……」
ロクベエ「まさにそれこそがフェミニストの狙いさ……しかしそうなった後の子供の立場について、彼女らが真摯に考えているのは、見たことがない。千田は『日本型近代家族』でこう書いている」
いわゆる「適齢期」をすぎると「どうして結婚しないの」とたずねられたり、結婚しない言い訳を必要とするようになったりする社会というのは、歴史を振り返ってみれば珍しい社会だということができる。
ロクベエ「しかし(まさに本人が指摘しているように)かつては二男、三男が一生独身だったり、また女性の意志がそれほど尊重されなかったことが想像できる。フェミニストは現状を呪うあまり、『今の常識は実は近年に作られた伝統のないモノだ』といったロジックを多用する。しかし本当に昔はよかったのかについて考えている様子は、潔いほどにないんだ」
オヤジ「恐ろしい話だよ……ウチのユキ子もちょっとウーマンリブのケはあるが、ここの先生に比べれば可愛いモンだよ。恋愛には憧れて『ベルサイユのばら』なんて少女漫画を読んどるもんな」
ロクベエ「そこだよ、オヤジさん」
オヤジ「ん? そこってどこ?」
ロクベエ「フェミニストはガクモンというツールを使って恋愛を否定する。そして、一般の人たちに対しては『そんなことはない』というポーズを取る。しかし更に、その本音の部分では、恋愛に憧れているように思えるんだ」
オヤジ「そんなややこしいことを言われても……」
ロクベエ「先にも挙げた『女子会2.0』を読むと、千田は『ベルばら』を絶賛しているんだ」
オヤジ「あん? ど、どういうことだ……? あ、あれだ、その何だ、オスカルとかが男装の麗人だから?」
ロクベエ「それもあるかも知れない。が、彼女はコラムで『ベルばら』を素敵素敵と繰り返しているし、対談ではこうも言っている」
みんな『ベルばら』とか読んでくださいよ(笑)。ロマンティック・ラブの素敵さを知るために!(笑)
オヤジ「どういうことかね……ひょっとして売夫子先生も、そういうのがお好きで?」
売夫子「…………(やっとこっちに振ったと思ったら何てこと聞くんだ、このオヤジ!)」
ロクベエ「フェミニズム専門誌でポルノがテーマになった時、フェミニストたちがレイプ物のポルノが好きだ好きだと邪気なく吐露していて驚いたことがある。理解に苦しむが、フェミニストたちにとってはガクモン的に責を男性に押しつけることは完了したのだから、後は何も考えずに楽しんでいればいい、と考えているのかも知れない」
オヤジ「む……ムチャクチャじゃないかね? そりゃオニババがワシに泥棒でも何でもして金を稼げと言っているのと何も変わらん!」
ロクベエ「いずれにせよ、フェミニストたちはロマンティック・ラブ・イデオロギーをただ呪っているわけではなく、愛憎の入り交じった感情を抱いているのだと俺には思える。フェミニストに一番足りないのは、そうした自分たちのメンタリティについての内省かも知れないな……にもかかわらず彼女らの軽はずみなガクモンは行政にまで影響を与え、少子化を進行させるまでになった……」
売夫子「ま……待ちなさい! それはウソよ!!」
ロクベエ「ウソなもんか。ダメおやじが結婚できた昭和と異なり、2010年代は非婚化、少子化が手遅れと言われるところまで進んでいる」
売夫子「いいえ。千田は『ジェンダー論をつかむ』でこう言っているわ」
ちなみによく,「働く女性が増えたから少子化が進行した」といわれますがそれは間違いです。
売夫子「彼女は内閣府『少子化と男女共同参画に関する社会環境の国際比較報告書』からグラフを作成し、その上で働く女性が多い国は、むしろ出生率が高いことを指摘しているのよ」
ロクベエ「いや、それについては赤川学氏が反論している。フェミニストはやたらとそうしたデータを持ち出してくるが、それには大きなウソがある。グラフからは結論を出すのに不都合な諸国のデータが削除されており、それらの国を加えると女性労働率と出生率には相関なし、或いは負の相関があるという結論が出るんだ」
オヤジ「都合の悪いデータは消したのか。ワシが買い物の釣り銭を誤魔化す時によくやる手だな」
ロクベエ「このデータの改竄は、フェミニストが繰り返し行ってきたことだ。ちなみにこれについて赤川氏が指摘したのは2005年。『ジェンダー論をつかむ』は2013年。平然と嘘をつき続けるフェミニストが、今更『フェミニズムは男性憎悪の思想でも家族解体の思想でもない』と言ったところで、果たして信じられるか……」*3
オヤジ「わし、間違っていたのかも知れん」
売夫子「ま……間違っていたというと……?」
オヤジ「確かにワシの妻も娘も息子も非道い。毎日毎日ワシをいびる。しかし給料日だけはワシに優しくしてくれるんだ」*4
売夫子「それはあなたがカネを運ぶから……」
オヤジ「そう、それはわかっとるよ。でもアンタたちみたいに、家庭というモノを丸ごと否定する人間よりは、それでも遙かにマシだ」
売夫子「いや、だからフェミニズムは家庭を否定したりは――!」
オヤジ「何を言おうと、アンタらが家族というモノを憎んどるのははっきりとしとるじゃないかね――察するにアンタらもきっと、家庭環境に恵まれんかったんだろう。でもワシは、ワシの家庭がどんなに悲惨でも、世の中の家庭全体が悪いものだなんて思いやせんよ。家庭にはいい面も悪い面もある。ウチは、その悪い面が他よりも多いってことなんだよ」
ロクベエ「やはり千田の著作である『女性学/男性学』を見てみよう。ここで彼女は『資料日本ウーマン・リブ史』のこんな文章を引用している――」
リブは、「母」を公然と批判しました。
私は子供を生む。もう家では育てない。そして子供には、私をおかあさんと教えないんだ。一人の規定された母さんなり、父さんなりの私有財産的愛情を持って子供を育てるのではない。
ロクベエ「何という寒々とした宣言だろうと思うよ。これが『家庭解体など目論んではいない』と言い訳に奔走する人々の正体だ――そして2010年の世界では俺みたいな独り身が大量に増えることになった――。
俺もひとりぼっち、ダメおやじもひとりぼっち。
少しくらい辛くてもいい、暖かい家庭が欲しいなあ。
頑張ろうや、ダメおやじ」
■脚注
*1「通知表大公開」
*2作中ではダメおやじ、オニババと両者が家事をやる場面があり、分担がどうなっているかは判然としません。
*3類似の指摘は、『子どもが減って何が悪いか!』からなされていますが、内閣府の行った捏造について指摘したのは「神頼みの政策をやめ、制度の再設計を」『中央公論』2005年6月号が最初かと思われます。
千田師匠の挙げた資料も赤川氏の挙げた資料も、共に内閣府のものであり、OECD加盟国二十数ヶ国のデータについて調べたものです。が、赤川氏の挙げたものが2004年のものであるのに対し、千田師匠のものは2006年のものと想像できるなど、厳密には全く同じデータではない可能性があります。しかし見る限り千田師匠のデータが正しいものとは考えにくいのです(何しろ千田師匠の本に挙げられたグラフには国名すら記入されていない簡略版なのですが、恐らく現時点でも内閣府のサイト「少子化と男女共同参画に関する社会環境の国際比較報告書」の中にあるグラフと同一のものと想像でき、またそのグラフには赤川氏の指摘通り、トルコやメキシコ、東欧諸国などのデータが欠落しています。
*4「悲しいくやしい月給日」
■付記1■
夏休み千田有紀祭り(第一幕:メンリブ博士のメンズリブ教室)において、ぼくは千田師匠が『女性学/男性学』の中で渡辺恒夫教授を差し置いて、伊藤公雄師匠をフィーチャーしていることを批判しました。しかしこの中では一応、渡辺教授の名前も挙がってはいました。
ですが今回、『ジェンダー論をつかむ』を見ると、
日本で男性学を提唱したのは,伊藤公雄です。
と明確な嘘が書かれていました。
非道いと思います。
■付記2■
夏休み千田有紀祭り(第三幕:スーパーゲンロンデンパ2 希望の学説と絶望の方向性)において、ぼくは藤本由香里師匠が著書、『私の居場所はどこにあるの?』の中でマネーを全面的に支持している旨を指摘しました。この本は1998年の出版ですが、文庫版は2008年に出ています。気になって当該箇所を見てみたのですが、マネーについての記述はこっそりと差し替えられていました。誠意に欠ける態度だと思います。
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