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――ここをご覧いただいている方の中で、上の書について、ご記憶の方はいらっしゃるでしょうか。
(再)と書いたように、OCNブログ時代の、もう九年前の記事の再掲となります。
当時は東日本大震災の直後。この時期、フェミニストが「阪神大震災でもレイプが多発した、今度もそうなる」とウソを元にした風評を垂れ流していたのです。
この記事自体は目下もgooブログとして閲覧可能ではあるのですが、何しろOCN時代のリンクなども機能しなくなっていますし、これからよいと思ったものはこうしてサルベージしようかと考えております。
さて、その第一号に本エントリを選んだのは、本書で言及されているデマを、NHK『クローズアップ現代』が事実として放映したからです。
「明日へつなげよう 証言記録『埋もれた声 25年の真実〜災害時の性暴力〜』」というもので、ぼくはこれそのものは観ていないのですが、正井礼子師匠の主張をそのまま鵜呑みにして報道してしまったようです。
ぼくもクロ現のツイッターアカウント、また本放送を肯定的に紹介していた水島宏明師匠のアカウントにリプし、またNHKにもメールを送りましたが、もちろん返答はありませんでした。番組サイトへもコメントしましたが、もちろん掲載はされませんでした。
もうNHKの放送権を剥奪してもいいくらいの大スキャンダルだと思うのですが、もちろん誰も話題にする者はいません。
再掲に当たり、理解しにくい時事ネタなどリライトを行っておりますが、基本は元の記事と同じです。
お読みいただければ、上の人たちがいかに卑劣で不誠実かがおわかりになれましょう。
デマの本質は「自分の主観と客観的事実の取り違え」です。
ついつい(殊にネットなどでは)やってしまいがちなことですが、これをやってしまっては発言の信頼性を著しく損ねてしまいます。注意しなくてはいけませんね、お互い。
が、この症状をこじらせると、更にまずい領域にイってしまいます。
つまり、「イデオロギーと事実の取り違え」「自分の考え、信念と客観的事実の混同」というレベルに達してしまうのですね。
「あいつは悪者だ」
→「悪者である理由は○○をしたからだ」
→ここでデマ発覚
→「でもやつが悪者であることは間違いがないんだ」
→「悪者である理由は○○をしたからだ」
→それはデマとバレ済み
→「でもやつが悪者であることは間違いがないんだ」
このループに入ってしまい、もはや「根拠となる事実の提示は不要」という域にまで達してしまうわけです。
さて、今回はそんな領域にまで到達してしまった「達人」たちについてのお話です。
四月七日付の『東京新聞』夕刊に、「避難所の女性守れ 10日からホットライン」という記事が載りました。取材に応じたフェミニストたちは「阪神大震災などの際も性犯罪が起きているが、ほとんど明るみに出ない」「内容は明かせないが、今回の震災でも避難所でレイプ被害などが起きている」として「単身女性などが安心して眠れる女性専用室を設けるなどの配慮を求め」たと言います。
読んでいていい気持ちはしませんでしたが、とは言え一般論として、非常事態に治安が悪化することは充分に考え得ることです。女性専用室云々といった提案の正当性は疑問ではあるものの、確かに被災地でそうしたことが起こり得ることは否定できないな、と思っておりました。
が、ネットを眺めている内、この「阪神大震災でレイプ多発」という話自体が根拠のないデマだという書き込みが散見されるようになったのです。そのデマについて迫ったルポが本書所収の「作られた伝説〈神戸レイプ多発報道の背景〉」です。
このルポについては既にいくつかのサイトで採り上げられているのですが、敢えてここでも要旨をまとめてみることにします。
阪神大震災直後、多くのメディアでこの「被災地でレイプ多発」とのニュースが報道されました。しかし、兵庫県警が九五年に認知した強姦事件の件数は、前年とほとんど同じだったというのです。むろん、「震災後のごたごたで強姦事件が放置されてしまったのでは」といった推理も成り立ちますが、警察の言い分は「強姦事件の話が多く聞かれたため調べてみたが、結局は噂だけだった」というものであり、殊更に警察が怠けていた(他の事件で強姦事件にまで手が回らなかった)とも言えなさそうです。
――いや、女性はレイプされても、なかなか警察には届けないものだ。
なるほど、確かにフェミニストはよくそう主張します。では市民団体の電話相談ではどうだ、と調べてみると、関西でよく知られた女性団体においても公的機関においても、レイプに関する相談は軒並みゼロ。「兵庫県立女性センターでは、震災後後半で一万五五三件の相談を受けた」が「レイプにかかわる相談は一件あったが、それも相談者が途中で切ってしまったので内容はわからない」とのことです。
フェミニズム団体「ウィメンズネットこうべ」代表の正井礼子さんは取材に応じ、「四件のレイプの話を聞いていた」とおっしゃいます。しかし、丹念に聞き取ってみると、うち三件が「又聞き」の類であり、最後の一件は、無線を趣味にする正井さんの弟さんが「○○避難所のボランティアはかわいい女の子がいるよ」というカー無線マニア同士のやりとりを偶然傍受した、というものでした(p170)。
みなさん、大事なことなのでメモのご用意を。
可愛い女の子の噂をすることは、レイプ未遂に該当します!!
では、レイプ多発の噂話は、どこから出てきたのでしょうか。
調べていくとレイプ事件の具体的事実の情報源は、Hと呼ばれるたった一人の人物であったというのです。よくありますよね、ネットでも一つの文章がコピペで無限に「拡散」されていくことが。
ここまでレイプ事件の報告はなかったにもかかわらず、ところが、どういうわけか、このHさんが個人でやっていた電話相談の元へは、三七件ものレイプ(未遂含む)被害の相談があった、というのです。
前述の「ウィメンズネットこうべ」はHさんを呼び、関西のフェミニズム団体を集めた集会で講演をしてもらいました。それは新聞記事になり、「神戸でレイプ多発」との話は全国へと「拡散」していったのです。
しかし、それではこのHさんの話は、確かなものだったのでしょうか?
ルポの後半では、いよいよラスボスたるHさんが姿を現します。
が、彼女の応答は虚言癖があるのでは、と思わせるほど辻褄のあわないいい加減なものでした。電話相談を始めた時期についても、電話相談の宣伝のために撒いたチラシについても、震災時の話にしても、周囲の証言と矛盾する。彼女が電話相談を受けていたというマンションの一室には、電話機は一本きり。(レイプ事件以外の相談も含め)「四ヶ月間で一六三五件もの相談を受けた」とのことですが、しかし回線が一つだけではそれは物理的に不可能だろう、と質問すると、「細かい数字は忘れた」と適当な返答をするのみ。
全ては、Hさんの脳内で先行する「他人を癒すワタシ」というストーリーのためにでっちあげられた、「非実在レイプ」だった。そしてそれに、「レイプ被害」の話を求めるフェミニストたちが群がり、虚から実が生まれてしまったというオチです。
つまり、正井たちは神戸に流れる強姦の噂を確証するものがほしかった。
(中略)
そこに「干天の慈雨」のごとくHが飛び込んできたのだった。
(p172)
と、作者の与那原恵さんはまとめていらっしゃいます――って恵姉さん、ぶっちゃけすぎですって!!
前述の正井礼子さんの名前でググってみました。
ググった、一番最初の十件ばかりを見てみただけで、彼女はいまだHさんの話を「事実」として、あちこちで吹聴して回っていることがわかります。
正井さんたちが地震後に開いた相談にもさまざまな被害や相談が寄せられていたものの、公的機関や警察は一切そのことを認めようとはしませんでした。
http://shigeta.seikatsusha.net/back/item/all/1257297135.html(現在ではリンク切れ)「レイプ事件は起きたのに、一件もなかったことにされた」
http://plaza.rakuten.co.jp/ykoyo/diary/200611140003/しかしその後、女性ライターによって「被災地レイプ伝説の作られ方」という記事が書かれ、レイプはなかったことにされ、相談を受けたHさんや私個人も実名入りでひどいバッシングを受けた。
http://www.npo.co.jp/hanshin/10book/10-036.html(現在ではリンク切れ)
繰り返しますが、ぼくが見てみたのは最初の十件だけです。丹念に見ていけば、一体どれだけのイベントやサイトで、彼女は男性に対するデマゴギーの流布を(それも税金をじゃぶじゃぶ使って)行っていることが明らかになるのでしょうか。
彼女らの主張とは裏腹に、恵姉さんは(そしてぼくや、他の人々も)「レイプなど一件もなかったのだ」などとは全く言っていません。ただ、調べ得る限り、件数は例年と変わらなかった、と冷静に指摘しているだけです。
フェミニストの中には「この年の被災地では中絶が大変増えた」との主張をなさる方もいます。ぼくも気になってちょっと調べてみたのですが、厚労省のデータは以下の通りでした(表そのものはぼくの自作です)。
参考に全国と大阪のデータを並べてみましたが、1995年に急増したというデータはなく、基本的に最近になればなるほど中絶数が減っていることがわかります。
ここまでくれば誰がどう見ても、不確実な情報を振り回し、風評被害を垂れ流すことの危険性は明らかです。しかしそこが、彼女らにはわからない。
仮にこれが「朝鮮人どもがレイプしに来ているぞ」といった噂であればただちに「それはサベツだ」との声が巻き起こるでしょう。しかし、噂の主体が国籍を問わない「男性一般」となった瞬間、それは「サベツ」にはあたらなくなる。男性一般は「慮られるべき、弱者」ではないからです。
この種の「新たなレイシズム」は今の社会を浸食するばかりですが、誰もこれに対して異を唱えられない。「弱者の敵」というレッテルは、何者にも勝る「攻撃呪文」なのですから。
●付記●
冒頭に挙げた記事に対して『東京新聞』と、正井さん、近藤さんにメールを差し上げました。「与那原さんの本を見るに、レイプ多発はデマではないか」と。答えは近藤さんからのみ、それも残念ながら言葉を左右にするようなものしかいただけませんでした。
ただし、性教育活動で有名な北沢杏子さんも同じ主張をなさっていたので問いあわせたところ、「震災当時、レイプ被害者から直接話を聞いている」とおっしゃっていたことは付け加えておきます。ただ、その人数については「答えられない」とおっしゃっていました。北沢さんは大変気のいい方であり、このようなことを申し上げるのは心苦しいのですが、人数すら答えられないのはちょっと……と思います。
――以上です。
NHKがいかに信頼できないデマ放送局か、おわかりになったかと存じます。