80年代に日本社会は人知れず「ブラック」になっていった。理由はバブル経済だ。バブル経済というのは不思議なもので、最初はそれが起こっていると気づかれなかった。というか、その最盛期でさえ、それがバブル経済だとは誰にも分からなかった。それがバブル経済だったと気づいたのは、完全に弾けきった後だった。

そもそも当時の日本人は、本格的なバブル経済を経験したことがないから(その前は大正の第一次世界大戦特需)、それがどういうものか全く分かっていなかった。それよりも、不況(貧乏)の経験なら豊富だった。高度経済成長は体験したが、それは単に貧乏からようやく抜け出せたというだけで、必ずしも豊かさにはつながらなかった。

むしろ、豊かになりかけたときにオイルショックが起こり、浮かれ気分を打ち砕かれた。そうして、いっそ戦中戦後の貧乏な頃よりも暗い気分になった。その気分は、80年代に入ってからもしばらくは引きずっていた。