『音楽』という映画を見ていただけたら(2,079字)
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『音楽』というタイトルの映画を見た。アニメ映画だ。とてもいいので二度見てしまった。みなさんにも見ることをおすすめしたい。
ぼくは、この作品に感動した。そこで今日は、なぜ感動したのか、思いつくままに書いてみたい。
まず、アニメとしての面白さがあった。このアニメは「ロトスコープ」という作り方で作っている。最初に実写の動画を撮って、それをベースに絵を書き起こす。
ただその絵は、リアリティよりも戯画化や省略を重視したマンガ的な絵だ。もっというと、ヘタウマ感のある絵だ。その差異が、面白さを醸し出している。
どういうことかというと、絵全体のパースはしっかりしているのに、人物の線がガタガタだったりする。そこのところに、絶妙な異化効果が生まれているのだ。
実は、ぼくも以前にこれをしたことがある。大学時代に建築を学んでいたのだが、そこで作成する設計のレタリングをするときに、あえてワープロで文字を打ち出してから、それをフリーハンドでトレースしていたのだ。
すると、活字の精巧さと手書きの温かさがミックスされて、なんともいえないオリジナルな味わいが出たのである。ぼくはこれを気に入って、大学にいるときの図面作成はずっとこれで通していた。だから、そんな技法をアニメでする人が現れたのを見て、まずびっくりさせられたのだった。
その絵は、パースだけ正確な落書きのようである。だから、没入感が逆に凄い。落書きに奥行きとリアリティが感じられるので、よりアニメの世界に入り込める。マンガでしかないその世界を、現実と強く錯覚しまうのだ。
また、ここが重要なのだが、そもそもこの監督は実写を撮るセンスが高い。ベースとなる実写映像がしっかりしているから、それがアニメのヘタウマな絵に落とし込まれても映像としてしっかりしている。これは、ネットを散見しても触れている人がいなかったので、なかなか気づかれないところなのかもしれない。
例えば、主人公が住んでいる街を遠景で見るシーンがあるのだが、そこでは木立をフレームにして覗き込むように見ている。これは、実写映画ではよく使われる手法であるが、アニメで使われることは希だ。
なぜかといえば、実写の遠景は都合のいい構図が見つかりにくいため、前景に別のものを置くといった工夫が必要なのだが、アニメの遠景は好きに描けるため、そういう工夫がほとんど必要ないからだ。
そんなふうに、実写にはアニメにはない独特の「撮り方のリテラシー」があるのだが、それがそのままアニメに移植されているところがやっぱり異化効果を生んでいて、すごく面白いと思った。
また、これはパンフレットに書いてあったことなのだが、この映画の原作となったマンガは「間」がすごい。ぼくも実際に原作を読んでみて、確かにそう思わされた。作品世界に流れる時間の変化を感じさせてくれ、その心地良さに酔いしれる。その間を味わうのが、とても楽しいのだ。
そしてアニメは、その原作の間の良さを生かした上に、さらにブーストをかけている。心地良さに迫力が加味されているのだ。それが本当に面白い。
その面白さは、文字通り「音楽」の面白さといえる。音楽も間の芸術だが、その根底に流れるスピリットみたいなものが、この『音楽』という映画に上手い具合に換骨奪胎されている。作品のベース部分に音楽のような間やリズムが流れているということをひしひしと感じさせてくれるのだ。
間の中でも、やはり緩急が圧巻である。この映画は、話がなかなか進まないところと一気に進むところの緩急の差がとても激しい。だから、全編にわたって目が離せない緊張感がある。いつ流れが急になるか分からないからだ。まるで川下りのようだ。
そして、これは二回目に見たときに気づいたのだが、ゆっくりした間が退屈かというとそういうことは全然ない。むしろその気だるさの中にいつまでも浸っていたいというような、不思議な魅力がある。初夏の午後の穏やかな日差しの中でボサノバの音楽を聴くかのような、安心に満ちた時間というものが流れているのだ。
そうしてもう一つ、この映画には「行き先が分からない」という魅力がある。それは、展開に一定のリズムと裏切りとが混在するからだ。指し示されている方向性に、近づいたり離れたりしながら物語が進んでいく。だから、どこに着地するか分からない。そのことも、観客に心地良い緊張を強いるので、自然と画面に目が釘づけとなってしまう。
そういう映画的な土台が担保された上で、魅力的なキャラクターが活躍する。だから、そこには無条件の愛が芽生えやすい。ぼくは実際、森田というキャラクターに深く感情移入してしまった。率直に言って好きになった。友だちになりたいと思った。
この森田は、原作マンガではそれほどフィーチャーされていなかったので、おそらく監督が感情移入して、出番を増やしたのだろう。この森田に出会えるだけでも、『音楽』には大きな価値がある。彼はすでに、もうぼくの心の友だちだ。そんな森田を、みなさんにもぜひ見ていただけたらと思う。
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