ラガーマンとして人生最大のチャンスを迎えたぼくは、走った。もう目の前には、たった一人の相手選手しかいない。彼を抜けば、独走してのトライが決まる。

ぼくは今でも、ときどきこのときのことを思い出す。もしあそこで、相手選手を抜いていたらぼくの人生はどうなっていただろうか?

おそらく、何も変わらなかったはずだ。それでも、そのトライは見事なものにはなって、ぼくの活躍は称えられただろう。A組の優勝は、もしかしたらYの功績ではなく、ぼくの手柄だと褒めそやされたかも知れない。
そしてそうなると、高校時代からイジられキャラだったぼくのこと、クラスのみんなや知らない人からも、こう言われたに違いない。

「岩崎、すげえな! ラグビー上手いじゃん」
「おまえ、ラグビー部入っちゃえよ。おまえなら、レギュラーなれるよ」

前年、野球同好会からはBがラグビー部に入ったが、彼はそこで精神を病み、学校にも来なくなっていた。だから、そのこと