インターネットの時代になって、「デマ」というものが再び活発になった。
デマというと、ぼくが子供の頃(1970年代)は、「過去の出来事」と思われていた。大正時代、関東大震災で広まったデマが最も有名だが、それはあくまでも過去の出来事であり、科学やコミュニケーション手段が発達した現代では、もう二度と起こらないだろうと軽く見られているところがあった。
ところが、21世紀になってTwitterが登場し、誰もが気軽にインターネットにアクセスできるようになると、デマが鮮やかに復活したのである。それに伴って、嘘つきや詐欺師といった「騙す人たち」も元気になった。
現代のデマで思い出されるのは、熊本地震のときにツイートされた、「動物園からライオンが逃げ出した」という言説だ。これは瞬く間に拡散され、多くの人が信じてしまった。現場では、少なからずパニックも起きたという。
しかし、ライオンは実際には逃げ出しておらず、これは悪質なイタズラだった。デマを流した張本人は、ほんの軽い気持ちから始めたらしいが、その後、逮捕されるに至った。
このように、インターネットの発達によって、人々がデマや詐欺の被害に遭う可能性は以前より高まったといえよう。気軽にたくさんの人々とアクセスできるようになった分、嘘つきや詐欺師がまた元気になったのだ。
ただ、嘘つきや詐欺師が元気になったといっても、昔と変わらないものがある。それは、彼らの「手口」だ。嘘や詐欺のやり方である。
なぜかというと、嘘や詐欺というのは、基本的に「思考のトリック」や「視覚のトリック」を用いているからだ。人間が陥りやすい「錯覚」を武器としている。
そのため、そういうトリックのテクニックを知ることによって、大幅に防ぐことができる。嘘や詐欺の「やり方」を知っておくだけで、それらに出くわしたととき、感づいたり疑えたりできる可能性がグッと高まるのだ。
2010年代に入ると、大人だけではなく子供もインターネットに触れる機会が増えた。そうした中で、子供は大人以上に嘘や詐欺に対する免疫が少ないため、学校を中心に「騙されないための教育」の必要性が叫ばれるようになった。
そうした声を受けて、岩崎書店では嘘や詐欺のトリックを種明かしした「解説本」を作った。それが、『よく考えて! 説明のトリック 〈縮刷版〉 情報・ニセ科学 (ウソ? ホント? トリックを見やぶれ)』だ。
よく考えて! 説明のトリック 〈縮刷版〉 情報・ニセ科学 (ウソ? ホント? トリックを見やぶれ) – Amazon
この本は、もともとは小学校の図書室向けに作ったものだ。そのため、大型の頑丈な作りになっているのだが、その分値段も高くなってしまった。
ところがこの本を、あるとき読者の方がツイートで紹介してくださった。そうしたところ、瞬く間に広まり、あっという間に売り切れる事態となったのである。
そこで、慌てて増刷しようとしたのだが、このとき、読者の方の何人かから「買うには高すぎる」とのお声をいただいた。
そこで我々は、急遽判型の小さなソフトカバーの廉価版を作り、発売することとしたのである。それが、12月8日に発売されることになった。
この本は、嘘や詐欺の現場で役立つように、かなり具体的な手口にも踏み込んでいる。
例えば、現代でも多くの人を悩ませている「ニセ科学」について、多くのページを割き、解説している。あるいは、マスコミなどもナチュラルに使ってしまう「グラフ」や「アンケート」の嘘についても言及している。
さらに、今も多くの人が取り込まれている「陰謀論」についても詳しい解説が為されている。
例えば、今でも「アメリカは本当は月に行っていない」という話を信じてしまっている人はいるのだが、彼らはそれを「アメリカの陰謀だ」と決めつけている。
そういうふうに、何か複雑な出来事を「陰謀」の一言で片付ける行為のことを「陰謀論」という。この陰謀論に、今も多くの人がハマってしまっているのだ。
なぜかというと、陰謀論にハマってしまう人は、たいてい世界の複雑さに大きなストレスを感じている。この世があまりにも複雑で、説明が難しいものになってしまったがために、それにパニックにも似た拒否反応を覚えている。だから、アメリカが月へ行ったのも、道理として納得できていない。意味合いや理由がよく分からないのだ。
そうしたときに、それが誰かの「陰謀」だと説明されると、複雑さが全て取り払われ、謎が解けたような気になるため、心が晴れ晴れとするのである。そういうふうに、陰謀論は難しい話もシンプルに説明することのできる、魔法のレトリックなのだ。
おかげで、難しい話や複雑な事柄を受け入れられない人たちが、つい飛びついてしまう。そして、そうした人達を利用して、嘘をついたり詐欺を働いたりする輩が後を絶たないのだ。
「陰謀論」と似た構造の詐欺に、「ニセ医療」がある。例えば、難病の治療に取り組まれている患者さんは、その複雑さにやがて辟易してくる。治すことの難しさそのものに嫌気がさしてくるのだ。
そうしたときに、「この水だけ飲んでおけば治ります」といったシンプルな治療法を提案されると、思わず信じてしまう。長い闘病生活で心が弱っているため、その隙を狙われるのだ。
そうした卑怯なやり口に対応する最も効果的な手段は、彼らのテクニックを知ることである。そうすれば、それらを避けられる可能性はグッと高まる。
この本は、元々は子供たちに読んでほしいと思って作った。しかしいざ刊行してみると、むしろ大人の方々に大きな関心をお寄せいただいた。それは、今も世の中にたくさんの嘘や詐欺がはびこっており、それに悩まされている方々が大勢いることの、何よりの証拠でもあった。
嘘や詐欺というのは、たいてい弱者がターゲットにされる。そのため、彼らはそこで二重の苦しみを味わうことになる。
私たちは、この本をできうる限り多くの方々にお届けすることによって、そうした理不尽な出来事を少しでも減らしていきたいと考えている。
デマというと、ぼくが子供の頃(1970年代)は、「過去の出来事」と思われていた。大正時代、関東大震災で広まったデマが最も有名だが、それはあくまでも過去の出来事であり、科学やコミュニケーション手段が発達した現代では、もう二度と起こらないだろうと軽く見られているところがあった。
ところが、21世紀になってTwitterが登場し、誰もが気軽にインターネットにアクセスできるようになると、デマが鮮やかに復活したのである。それに伴って、嘘つきや詐欺師といった「騙す人たち」も元気になった。
現代のデマで思い出されるのは、熊本地震のときにツイートされた、「動物園からライオンが逃げ出した」という言説だ。これは瞬く間に拡散され、多くの人が信じてしまった。現場では、少なからずパニックも起きたという。
しかし、ライオンは実際には逃げ出しておらず、これは悪質なイタズラだった。デマを流した張本人は、ほんの軽い気持ちから始めたらしいが、その後、逮捕されるに至った。
このように、インターネットの発達によって、人々がデマや詐欺の被害に遭う可能性は以前より高まったといえよう。気軽にたくさんの人々とアクセスできるようになった分、嘘つきや詐欺師がまた元気になったのだ。
ただ、嘘つきや詐欺師が元気になったといっても、昔と変わらないものがある。それは、彼らの「手口」だ。嘘や詐欺のやり方である。
なぜかというと、嘘や詐欺というのは、基本的に「思考のトリック」や「視覚のトリック」を用いているからだ。人間が陥りやすい「錯覚」を武器としている。
そのため、そういうトリックのテクニックを知ることによって、大幅に防ぐことができる。嘘や詐欺の「やり方」を知っておくだけで、それらに出くわしたととき、感づいたり疑えたりできる可能性がグッと高まるのだ。
2010年代に入ると、大人だけではなく子供もインターネットに触れる機会が増えた。そうした中で、子供は大人以上に嘘や詐欺に対する免疫が少ないため、学校を中心に「騙されないための教育」の必要性が叫ばれるようになった。
そうした声を受けて、岩崎書店では嘘や詐欺のトリックを種明かしした「解説本」を作った。それが、『よく考えて! 説明のトリック 〈縮刷版〉 情報・ニセ科学 (ウソ? ホント? トリックを見やぶれ)』だ。
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この本は、もともとは小学校の図書室向けに作ったものだ。そのため、大型の頑丈な作りになっているのだが、その分値段も高くなってしまった。
ところがこの本を、あるとき読者の方がツイートで紹介してくださった。そうしたところ、瞬く間に広まり、あっという間に売り切れる事態となったのである。
そこで、慌てて増刷しようとしたのだが、このとき、読者の方の何人かから「買うには高すぎる」とのお声をいただいた。
そこで我々は、急遽判型の小さなソフトカバーの廉価版を作り、発売することとしたのである。それが、12月8日に発売されることになった。
この本は、嘘や詐欺の現場で役立つように、かなり具体的な手口にも踏み込んでいる。
例えば、現代でも多くの人を悩ませている「ニセ科学」について、多くのページを割き、解説している。あるいは、マスコミなどもナチュラルに使ってしまう「グラフ」や「アンケート」の嘘についても言及している。
さらに、今も多くの人が取り込まれている「陰謀論」についても詳しい解説が為されている。
例えば、今でも「アメリカは本当は月に行っていない」という話を信じてしまっている人はいるのだが、彼らはそれを「アメリカの陰謀だ」と決めつけている。
そういうふうに、何か複雑な出来事を「陰謀」の一言で片付ける行為のことを「陰謀論」という。この陰謀論に、今も多くの人がハマってしまっているのだ。
なぜかというと、陰謀論にハマってしまう人は、たいてい世界の複雑さに大きなストレスを感じている。この世があまりにも複雑で、説明が難しいものになってしまったがために、それにパニックにも似た拒否反応を覚えている。だから、アメリカが月へ行ったのも、道理として納得できていない。意味合いや理由がよく分からないのだ。
そうしたときに、それが誰かの「陰謀」だと説明されると、複雑さが全て取り払われ、謎が解けたような気になるため、心が晴れ晴れとするのである。そういうふうに、陰謀論は難しい話もシンプルに説明することのできる、魔法のレトリックなのだ。
おかげで、難しい話や複雑な事柄を受け入れられない人たちが、つい飛びついてしまう。そして、そうした人達を利用して、嘘をついたり詐欺を働いたりする輩が後を絶たないのだ。
「陰謀論」と似た構造の詐欺に、「ニセ医療」がある。例えば、難病の治療に取り組まれている患者さんは、その複雑さにやがて辟易してくる。治すことの難しさそのものに嫌気がさしてくるのだ。
そうしたときに、「この水だけ飲んでおけば治ります」といったシンプルな治療法を提案されると、思わず信じてしまう。長い闘病生活で心が弱っているため、その隙を狙われるのだ。
そうした卑怯なやり口に対応する最も効果的な手段は、彼らのテクニックを知ることである。そうすれば、それらを避けられる可能性はグッと高まる。
この本は、元々は子供たちに読んでほしいと思って作った。しかしいざ刊行してみると、むしろ大人の方々に大きな関心をお寄せいただいた。それは、今も世の中にたくさんの嘘や詐欺がはびこっており、それに悩まされている方々が大勢いることの、何よりの証拠でもあった。
嘘や詐欺というのは、たいてい弱者がターゲットにされる。そのため、彼らはそこで二重の苦しみを味わうことになる。
私たちは、この本をできうる限り多くの方々にお届けすることによって、そうした理不尽な出来事を少しでも減らしていきたいと考えている。
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