令和時代に求められるクールジャパンの姿
~日本のクリエイティブな力を解放せよ~

「素朴」な疑問
昨年10月、クールジャパン戦略担当大臣に就任した際、「クールジャパン」という名称について、自分のことを「クール」と言う人はいないのではないか、と、違和感を持った。

クールジャパン(CJ)の取り組みが始まって10年近くが経過しこの名称も浸透していることから、変更することまでは考えていないが、自分には同じCJでも「Creative Japan」か「Create Japan」の方がしっくりくる。また、「クールジャパンは、何を目的にやっているのか?」という点も必ずしも明確でない。

いろいろな人に話を聞くと、「何を売った」「何が売れた」「どこを訪れている外国人旅行者が増えている」ということが多く、国の政策として本質的に何を得ようとしているのかがイメージできなかったのだ。驚いたのは、世界の人々の目線が入っておらず、日本人目線で日本人が思う日本の「クール」を押し付ける姿勢だったことだ。CJは世界の人々にアピールするものであり、世界の人々の知見や視点が重要なのは論をまたないが、これまでは世界の人々は単なる「顧客」という位置づけで、協働する「パートナー」とは認識されてこなかった。さらに、CJ政策には、経済産業省、農林水産省、観光庁、文化庁、外務省など多くの省庁が関係するが、司令塔である内閣府知的財産戦略推進事務局のグリップが弱く、関係省庁間において十分な連携が図れていないのではないかと感じた。

デジタル時代への対応
デジタル技術の進展により、情報発信の手段が多様化し、巨大なプラットフォーム型メディアやサービスが急成長するなど環境が変化している。また、膨大な情報に容易にアクセスできるようになり、世界の人々の関心や嗜好(しこう)の変化が加速し、世界のトレンドをつかむことが難しくなっている。このように社会が急速に変化している中で、CJの取り組みについても、日本国内でのみ通用する理屈やしがらみに固執することなく、柔軟かつcreativeにやっていく必要がある。

クールジャパンの本質とは
私は、CJの本質は、CJを通じて世界の人たちの「共感」を獲得し、日本のことが好きな外国人(日本ファン)を増やすことだと考えている。海外のセレブの中には、我々が頼んでもいないのに、日本への好感を発信している人々がいる。

アリアナ・グランデは「ポケモン」のタトゥーをしているし、イーロン・マスクは「君の名は(Your Name)」をつぶやき、レディ・ガガは「ハロー・キティ」のファンである。イニエスタを始めとする多くの有名サッカー選手は、「キャプテン翼」が好きでサッカーを始めたと公言している。こうした海外の有名人が日本の魅力にほれ込んだように、日本に「共感」しファンになる外国人を増やし、日本のソフトパワーを強化することが、CJが目指すべき本質だと考える。

「生の声」を聞く
CJ戦略担当大臣に就任して、まず私が重視したのは、外国人を含む関係者・有識者と自ら意見交換を行い、CJに実際に携わっている人たちの「生の声」を聞くことだ。そのため、さまざまな場所を訪問し多くの方々と意見交換をしてきた。彼らの真摯(しんし)な姿勢に心打たれるとともに、多様な意見と知見を得られたことは、CJ政策を推進していく上での大きな財産となっている。

例えば、編集工学研究所の松岡正剛先生には、ストーリー活用の重要性や日本の本質を学ぶことの重要性、文化・経済・情報政策の重要性など、多くの貴重なご示唆をいただいた。また、「平井ピッチ」においても、CJに関係する人々と議論を行い、ナイトタイムエコノミーを始めとする多くの問題について知見を深めることができた。
内閣府の取り組みにおいても、いろいろと参考になることがあった。
異業種間の連携事例を表彰する「CJマッチングアワード」では、「京都」という歴史ある場所の観光案内を「ロボホン」という先端技術で実施する「京のロボ旅タクシー」や、かつて緩衝材としても使われていた「浮世絵」と現代の緩衝材をコラボした「浮世絵ぷちぷち(R)」などの素晴らしいアイデアを見て、連携の重要性を認識した。また、「CJ高校生ストーリーコンテスト」においては、CJの将来を担う高校生たちが、ユニークな視点でストーリーを作成し、デジタル技術を駆使した素晴らしいプレゼンテーションを行う姿を見て、若者の可能性を心強く感じた。

「クールジャパン・マッチングフォーラム」の様子
また、マレーシアを訪問し、女優・コメディアンとして有名なジハン・ミューズ氏とのトークセッションを行った。現地においては、ジハン氏のようなインフルエンサーや、WebTV Asiaをはじめとするプラットフォーム型メディアの活用など、デジタル時代に対応した発信についても多くを学ぶことができた。

「OTAKU」のポテンシャル
「オタク」と聞いて、皆さんはどういう印象を抱くだろうか。従来の印象は必ずしも良いものばかりではないかもしれないが、人に優しく感受性豊かな側面が評価されているのか、今や「オタク」は「OTAKU」として世界に羽ばたき、日本が誇る文化になっている。
実際、日本のITや宇宙関連のスタートアップを視察すると、そこで働く外国人からは「日本のアニメやゲームを通じて日本に興味を持ち、日本で働きたくなった」という話を毎回聞く。国際オタクイベント協会(IOEA :International Otaku Expo Association)という団体がある。平井ピッチに来てもらったが、世界47カ国合計128の「OTAKU」イベントを取りまとめており、IOEA加盟イベントには年間合計延べ350万人が参加している(IOEA非加盟イベントを含めると、「OTAKU」人口は2000万人以上とのこと)。
世界の「OTAKU」は、日本を愛する「日本ファン」。彼らに日本の魅力をアピールし、日本への愛情を発信し、日本ファンを増やしてもらうための試みとして、IOEA加盟イベントに私自ら出演する、趣向を凝らしたビデオメッセージを送っている。「OTAKU」の持つ可能性や世界への訴求力を、CJとして生かさない手はない。

政策へ直ちに反映
CJ戦略について検討を進める過程においても、政策に移せるものはスピード感をもって直ちに政策に反映してきた。例えば、CJの重要コンテンツのひとつである「音楽」。日本には多様なジャンルの音楽があり、世界に対してアピールできる大きな可能性があるにもかかわらず、日本の音楽コンテンツの海外展開は遅れている。その原因のひとつが「英語メタデータ整備の遅れ」だ。メタデータとは、歌手名や著作権者名など、楽曲そのもののデータに付帯する情報のこと。グローバルでの楽曲配信を行うにはメタデータが英語化されていることが必要なのだが、その整備が日本では進んでいない。これが、日本の音楽コンテンツの海外展開が遅れている主な要因のひとつである。
こうした指摘が、政府の知的財産戦略本部におけるコンテンツ分野の有識者会議でなされた。この会議の場で、私は直ちに課題を整理したうえで解決策を検討するよう事務方に指示し、経済産業省と内閣府が連携してメタデータ英語化を国が支援する制度改正がなされた。これにより日本の音楽の海外展開が一歩進むことを期待している。
また、内閣府知的財産戦略推進事務局についても、これまでは、イベントの実施等によるムーブメント作りが主眼であり、CJ関係者の司令塔・ハブとしての役割を十分果たせていなかった。新戦略策定に当たり、私と何回も議論をして問題意識を共有し、関係者の発掘やネットワーク化に重心をシフトしたところ、関係者のハブとしての求心力を高めつつある。このように、CJ戦略担当大臣と事務方、関係省庁を含む関係者が、目的意識を共有して取り組むことで物事を動かすことができる。

外国人が持つユニークな視点と深み
さまざまな方々から知見を得ていくことで、CJが向かうべき方向性が見えてきた。本年3月には、新たなCJ戦略の策定に向けて世界の視点を取り入れるため、「EUREKA! 懇談会」を立ち上げ、合計11カ国19人の外国人有識者と意見交換を行った。当懇談会は、モデレーターであるA.T.カーニー日本法人の梅澤高明会長以外は全員外国人で、議論は英語。場所も毎回変えて軽食をつまみながらにするなど、従来の「霞が関」の常識にとらわれない雰囲気でcreativeな議論が行われるよう工夫した。外国人有識者の方々からは、日本人では思いつかないユニークな意見や視点を示していただき、大いに参考になった。

特に、懇談会に参加した外国人が「深い」日本を求め、日本人以上に日本を勉強し、日本の将来を心配していることが印象に残っている。外国人が日本の魅力の本質を見つめ、「深み」を求めている中で、日本人はその本質を見失い、「何を売るか」や「何が売れるか」といった表面的で「浅い」視点で対応してはだめだ。日本ファンの知見と協働しつつ、日本人も「深い」日本を学ぶことが重要だと改めて発見した。

Create Japan WGでの議論
新たな戦略を策定するための枠組みとして知的財産戦略本部の下に「Create Japan WG」を立ち上げ、「EUREKA! 懇談会」での意見などを踏まえつつ検討を進めてきた。世界の視点を入れるため、WGのメンバーの半分は外国人とし、6月に5回の会合を集中的に開催し議論を行った。新たな戦略で強化するべき具体的な分野として、例えば以下の2点が見えてきた。

1.横方向の連携を強化するためのネットワークの構築
日本人と外国人を含む多くの関係者が連携し、世界の目線を起点にマーケットインの考え方で、日本の魅力を磨き、発信していく基盤(ネットワーク)を構築できれば、CJは持続的に進んでいくと考えている。ネットワークを機能させるためには、その中核となる組織が民間に必要だ。中核組織の大きな役割は、CJに必要な基礎的なデータの収集・分析・共有、全体の作戦や方向性の提案、取り組み全体のムーブメント作りだろう。内閣府と中核組織が緊密に協力しながら、国全体の整合性を確保していく。

2.日本ファンを増やすための取り組み
日本に対して世界の人々が持つ知識や関心などを分析し、目的意識を持って情報提供することで、日本への関心を深めて愛情を深め、日本ファンになってもらうことを目指したい。そのためには、SNSのコミュニティや民間のサービスなど既存のプラットフォームを活用しつつ、相手方の関心に沿ったアプローチをすることが重要だ。また、日本への関心を深めてもらうため、特に地方に関する情報提供、割引特典など既存のサービスの紹介、空港におけるサービスなどのメリット措置を効果的に使っていきたい。

さらには、これら民間で提供できるサービスに加え、入国やビザ取得における手続きの是正など、国でしか提供できないメリット措置についても検討し、将来的に日本にとって有為な外国人の定住を促すことにつなげるべきとの意見もあった。人口が減少していく我が国において、優秀な外国人が就労しやすい環境を整備することは、私が担当している他の政策領域(イノベーションやスタートアップ)においても重要な課題である。

一方で、外国人の受け入れに関して慎重な国民世論も根強くある。CJ戦略が目指す「日本ファン」は、日本の伝統や文化を理解し、尊重し、愛する人々だ。つまり、日本で長期滞在や定住をする中で文化面を始めとした摩擦を起こす可能性が低い人々とも言える。その意味で中長期的には、今後の新たなCJの取り組みによって「日本ファン」を増やすことは、外国人の受け入れに対する国民の理解を深めることにもつながる可能性を秘めていると考えている。

「Beautiful Harmony」にふさわしい社会を創る
日本には多くの魅力が存在している。先日訪問した新潟県小千谷市には「錦鯉」が、地元の高松には「盆栽」や「瀬戸内国際芸術祭」がある。「錦鯉」や「盆栽」の美しさの裏には気の遠くなるような手間がかけられており、そこに込められた思いが世界の共感を得ているのだろう。これらについて、個別の地域や個別のコンテンツとしてではなく、横の連携を図りつつ、さらに魅力を磨き、発信できれば、日本の魅力はますます大きくなっていくだろう。

日本は令和の時代に入った。令和は英語で「Beautiful Harmony」と訳されるが、高齢化などの課題を抱える日本が、令和の時代にふさわしい社会をどのように創っていくか、諸外国が注目している。新たなクールジャパン戦略の下、日本を魅力的と思う外国人を含めた多くの人々のコラボレーション、いわば美しい調和(beautiful harmony)によって、多様性(diversity)を包摂しつつ、新たなアイデアが芽吹き、花開き、クリエイティブな活動やイノベーションが日本各地で生まれてくる。こうした日本のクリエイティブな力の解放、そして、日本のソフトパワーの強化につなげていくことが、令和の時代のCJの姿だと考える。