先月、「デジタル手続法」をご紹介した際に、府省の縦割りを排し、政府横断的にシステム整備をするために、政府情報システムの予算・調達を内閣官房に一元化していく、と述べた。
「デジタル行政」次世代の社会の基盤を作る
この一元化について、6月4日に政府方針、「政府情報システムの予算要求から執行の各段階における一元的なプロジェクト管理の強化について」を決定したので、今回、詳しく紹介したい。なお、政府決定の詳細についてはこちらから見ていただきたい。
デジタル手続法の回で述べたように、今後、若い方々がデジタル社会の中で、新しいイノベーションを起こしつつ、高齢者の方々も含め全ての国民がデジタル技術の恩恵を受けることができる、新しく活力のある社会を作っていかなければならない。
その中で、行政は、紙からデジタルへとマインドセットを転換し、ユーザーの利便性を追求したデジタル行政を実現する必要がある。
では、その基盤となる政府情報システムはどうあるべきか。徹底的なユーザー目線に立った上で、データの標準化や情報システム間での情報連携が図られ、法律や制度の改正といった変化に柔軟かつ迅速に対応できるものでなければならない。
現状、政府情報システムがこうした要求に応えられているか、と問われれば、難しいと言わざるを得ない。その抱えている課題をいくつか挙げてみる。
抱える4つの課題
まず、重複投資の発生。投資判断は各省・各部署が独自に行うので、おのおのが自前で機器、サーバー、アプリケーションまで、一体的に、かつ独自の構造で作り込んでしまう。共有も連携もなされないため、政府全体でみると、二重、三重の無駄が生じかねない。また、新技術の導入やセキュリティの確保に柔軟に対応できていない。
次に、個別最適での投資。安定稼働に重きを置くのは当然であるが、トラブル発生時の責任追及を懸念するあまり、ピーク時や予期せぬトラブル対応を想定したリソースを自前で確保してしまい、オーバースペックになりやすい。
さらに、調達価格のスケールメリット。情報システム単位での細分化した調達となっているため、ベンダーと価格交渉を行う余地が乏しい。令和元年度予算で7000億円以上に及ぶ政府の情報システム関係予算のスケールメリットを発揮できていない。
最後に、人材不足。今やデジタルを前提にしてビジネスも政策も考える時代である。霞が関はどうか。情報システムがツールという意識が長く続いたため、情報システム部門の経験者の数が限られ、ベンダーと伍していくだけの知識・経験を有する人材となるとさらに絞られ、圧倒的に不足している。そして、数少ない有為な人材の知見やノウハウを政府として共有する仕組みもない。
課題解決のために
課題ばかり先に述べたが、これまで政府が情報システム改革に取り組んでこなかったわけではない。
行政のデジタル化の司令塔として政府CIO、各省の司令塔としてCIO、副CIOをそれぞれ設置し、内閣官房IT総合戦略室が関与して、個別の情報システムの状況は厳しくチェックしてきた。システムの共通化・統一化・廃止、サーバー稼働率の適正化など、私自身もIT担当大臣になる前は、党の立場で後押ししてきた。この結果、運用コストを3割削減できる見込みである。
つまり、一定の成果が上がる一方で、手つかずの課題が残っている、というのが現状である。
では、課題解決のために何に着手すべきか。課題を並べてみると、各省縦割りで、政府横断的な調整が十分に機能していない、という構造的要因が浮かび上がる。これを解消するには、政府の司令塔機能を強化し、各省最適化ではなく、政府全体の最適化を可能とする仕組みを構築しなければならない。
こうした問題意識の下、昨年12月のIT総合戦略本部において、各府省縦割りで行っている政府情報システム予算・調達について、一元化を早急に進めるべき、と提案したところ、安倍総理の賛意を得ることができた。
加えて、本年2月のデジタル・ガバメント閣僚会議では、菅官房長官から具体化に向けて検討を進めるようにとのご指示があった。こうして、政府全体で早急に取り組むべきとの機運が醸成され、ハイペースで検討が進み、冒頭で述べたように、6月4日に方針の策定に至った。
政府情報システムの刷新
今後、政府の情報システムはどう変わっていくのか。最も大きな変化は、内閣官房IT総合戦略室の関与が強化されることである。これまで各省任せだった情報システムのプロジェクト管理が、内閣官房IT総合戦略室が中心となった管理に移行する。
その対象は、一般会計、特別会計を問わず、全ての情報システムであり、情報システムごとに、プロジェクトの計画段階(予算要求前)、具体化段階(予算要求時)、詳細仕様の確定段階(予算執行前)といった3段階で年間を通して検証を行うこととなる。検証には、情報システムの運用・管理を担っている各省の担当者も参画し、経験を積んでもらうので、政府全体の人材のレベルアップと層の拡大にもつながるはずだ。
このように、今後のプロジェクト管理は、予算と密接に結びついて行われることになるため、予算の在り方も大きく変わる。各省縦割りだった情報システム予算について、政府全体で共通的に利用するシステムを中心に、内閣官房IT総合戦略室の下に一括して集めることになる。IT総合戦略室が、先に述べたプロジェクト管理の検証の中で、必要性を精査し、適正額を各省に配分することとなる。
配分に当たっては、政府全体を見渡した上で、担当省と必要額を決めるため、個別省の都合を優先した投資や重複投資は回避され、情報システムの共用・集約も進展する。また、セキュリティ水準の確保、データの標準化など、政府統一的な対応が不可欠な分野にも迅速に投資することができる。
調達の在り方も変わる。今後、政府情報システムにおいても、クラウドサービスの利用が主流となっていくが、これまでの縦割りでの調達ではなく、内閣官房IT総合戦略室が政府全体を代表して事業者と交渉すれば、巨大な調達主体としてのバイイング・パワーを発揮してスケールメリットを確保できるようになる。
加えて、契約締結前に複数の事業者と、どういった技術を採用するか等の技術的対話を行うことができる新たな調達・契約方法を令和2年度から試行的に開始する。
さらに、IT総合戦略室が、随時のニーズに応じて機動的に資金配分できるようになれば、設計、実装、テストのサイクルを短期間で反復して、完成度を漸次的に上げていくアジャイル型開発手法を採用することも可能となる。
利用者目線のサービス提供を目指す
これらの取り組みを一体的かつ着実に実施し、令和2年度時点の政府情報システムの運用経費及び整備経費のうちのシステム改修に係る経費について、令和7年度までに3割削減を目指すこととしている。
削減数値を示すと、削減自体が目標という誤解を招きやすいが、今回の取り組みは、削減一辺倒というわけではない。単なる維持管理コストの削減には引き続き厳しく取り組んでいく。
一方で、その効率化分は、予算の削減ありきではなく、新技術の活用、情報システムの高度化や経済成長につながる分野など、前向きな投資に振り向けていく。このようなメリハリの利いた対応を進め、デジタル社会にふさわしい政府情報システムを再構築していきたいと考えている。
今回の改革は、私が十数年前に行った、「データ通信サービス役務契約」の解除(*)、システムのオープン化、ベンダーロックインの解消といった改革をしのぐ、政府情報システムの大改革となる。
ただ、どんな優れた改革も、目的を取り違えてしまえば、効果が得られないどころかマイナスにさえなる。このため、最後に改めて申し上げたい。内閣官房IT総合戦略室の関与を強化すること、情報システムの共用・集約を進めることが目的ではない。これらはあくまで手段に過ぎない。IT総合戦略室のリーダーシップの下、各省の協力を得て、デジタル社会にふさわしい情報システムを構築し、国民の皆様に、利用者目線に立った行政サービスを提供することこそが目的である。
この目的を常に意識しながら、私自身が先頭に立って、今回定めた政府方針に基づく取り組みを着実に進めていきたい。
*データ通信サービスに伴って必要となる役務(ソフトやハード、ネットワーク、建物の所有・管理等)をベンダーが行う契約。当該役務に関して、複数年にわたって利用料等を請求するため、システム構築費用を平準化できる一方で、ベンダーロックインに陥り、競争性が失われることが問題視された。また、ソフトウェア等の著作権がベンダー側にあり、システム更改の際に、著作権の使用料が必要となることも問題となった。
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