前回のあらすじ
 またばかな事を始めた!


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「平野(ひらの)」駅に到着した!

変態怪人「ケンドーコバヤシ」君が
前駅「駒川中野」付近の出身だったため
数年前に出演していたテレビ番組
『メイド・イン・カンサイ』では
何度かこの「平野」を訪れた事がある!
駅の地上は「文の里」同様
阪神高速下の大きな交差点だった!
コンビニエンスストアや
靴の量販店などが建ち並び
なかなか暮らしやすそうな場所である!

「平野」駅の地上をぷらりぷらりと歩いていると
メールの着信があった!
見れば自称「内弟子」からの
相変わらずの岡山弁だった!

「平野のどこにおるんじゃ?」

底辺芸人の「ゲイブ」こと
「ガブリエルみき」だった!

どこでもいいだろ!
と答えると
返信はこうだった!

「あたしらは駅長室の前におる!」

その日私が目指していたのは
「八尾南」だった!
そこに住む「やま~ん」
鍋パーティに招待してくれたのだ!
どうやら「ゲイブ」もまた
その招待客だった!
”私ら”という表現が気になったが
「平野」も充分歩いたので
私は地下に潜り駅長室に行ってみた!

そこにいたのは
「ゲイブ」と「サラリー」だった!
「サラリー」と言えば
『ひろぐ』史上最大の問題作と言われる記事
『俺たち冒険野郎~地獄の登山編』
で掲載された写真があまりにも有名だ!
猛牛のごとく暴れる私を
マタドール(闘牛士)のように
華麗な座布団さばきで防御する
あの青年が「サラリー」だ!
葛城山(かつらぎさん)山頂での
あの事件の際に私は
「君らも40歳を越えた時にこうあるべきだ!」
と全裸のままで説教をたれたらしい!
いい奴にも程がある「サラリー」は
その私の記憶にない説教を
真に受けてしまったらしく
最近の飲み会では
”無着衣”でいる事が多い!
”無着衣”という言葉はあまりなじみがないが
”無作為”を子供が言っているようで
なんだか微笑ましい!
そんな「サラリー」に見守られながら
「平野」駅のスタンプを押した!


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こんなスタンプだった!


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「これはここらで有名なお寺ですか?」
と駅長に尋ねると
「んー!
 どうですかねー!」
と言われた!
「ここらはこんなんいっぱいありますねん!」
と言われた!

これまでスタンプノート一冊分の駅スタンプを
収集してきたわけだが
ほぼ全ての駅長が
自分の駅のスタンプに興味を持っていない!
例外は「オペレーション今里」の際に下車した
”最優秀駅長駅”「ずいよん」こと
「瑞光四丁目」だけだ!
それ以外の駅長は皆
自分の駅のスタンプを私から見せられて
「へー!」とか「えー?」とか言う!
そんな無関心駅長の究極とも言えるのが
続く駅「喜連瓜破」だ!
この駅は”読めない駅名”ランキングの中で
全国レベルの攻撃力を持っているので
あえて読み仮名を書かずに放置しよう!

てっきりそこからは
「ゲイブ」と「サラリー」も
同行してくれるのかと思いきや!

「カニ鍋がもう始まるんじゃ!」

と試合後の「大仁田厚」選手のように言い放ち
そのまま「喜連瓜破」駅を通過して
二人で「八尾南」へと向かって行った!

「早く来んとカニがなくなるが!」

なんだ?
「が!」の後はなんだ?
何か逆説が続くんじゃないのか?
「なくなるが!
 あなたの分は取っておく!」
とかじゃないのか!
なぜ岡山県人はいい所で話を終えるのだ!
「試合に負けたが!」
だとすれば普通は
「得たものは大きかった!」
みたいにいい事が続くだろうに!
そういうのはないのか!
「が!」で終わるのか!
岡山では恐らく
「試合に負けたが!」
まで聞いたらすぐに
「残念じゃったなぁ!」
と慰めの言葉を返すようである!

かくして私だけが下車した「喜連瓜破」駅!
地上に出てみると
あまりのにぎわいに驚いた!
想像ではもっとさびれた場所だったのだが
そこは飲食店や娯楽場が建ち並ぶ
なんとも楽しい小都会だった!
昼間は「駒川中野」の商店街!
夜は「喜連瓜破」で遊べば
かなり楽しかろう!
では!
問題のスタンプをご覧いただこう!


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押した後で
ぎゃっ!
と言った!
ここまでスタンプに興味のない駅長がいるとは
思ってもいなかった!
大阪市営地下鉄の駅スタンプは
路線ごとに
その路線図カラーのインクが用意されている!
初心の頃には
そこにスタンプ収集の奥深さを感じたものだ!
ではどうだこれは!
断言しよう!
これは「谷町線」ではなく
「中央線」用のインクだ!
こんな事があってはならない!
恐らくはこんな会話が成されたのだろう!

「駅長!
 うちのスタンプのインク切れてるらしいですわぁ!」

「そうかぁ!
 ほんなら買うてきてんかぁ!」

「はいなー!
 色はどないしましょー?」

「なんでもええよー!
 田中君の好きなんでええわぁ!」

「僕みどり好きですねーん!」

「ほなみどりでええんちゃーう?」

「行ってきますー!」

「缶コーヒーも買うてきてー!」

勝手に田中君を登場させたが
もしもこんな会話の流れで
「喜連瓜破」駅のスタンプが緑色になったのならば
我々「ステーション・スタンパーズ」達による
この駅の採点はとんでもなく低い!
これはサッカー日本代表のユニフォームを
「先日見たアルゼンチンが強かったら!」
という理由で
突然水色と白の縦縞模様に変えて
「え?
 だめなん?」
と言っているようなものだ!
「後藤おすひと」
「喜連瓜破」駅のスタンプを
”大阪市営地下鉄最低スタンプ”
に認定する!
早期改善を願いたい!

はてさて!
悶々と「谷町線」に乗車し
次なる駅「出戸」に到着した!


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私はずっと
「と」にアクセントがあるのかと思っていたが
車内アナウンスの
おそらく奇麗なお姉さんが言うには
「で」にアクセントがあるようだ!

地上に出ると
スーパーマーケットがメインとなる交差点だった!
コンビニエンスストアの前で
お昼休憩中のOLと並んで
葉巻を一本吸い
地下に潜ってスタンプを押す事にした!
地上を眺めた限りは
特に名所のある場所とも思えなかった!
では一体何がデザインされたスタンプなのだろうか?
私はまずインクの色を確かめ
「谷町線」カラーである事に
ほんの少し微笑んだ!
そして力を分散させ
廻すように版を押し
手ぶれのないよう垂直に素早くスタンプを上げた!

その瞬間!

「ややーっ!」

となった!
おかしい!
確かに版の全てに力がこもるように
しっかりとていねいに押したはずだ!
どこも絵柄が欠けないように
細心の注意を払って押したはずだ!
なのに!
なーのに!
押せたのはこれだった!


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私はちょいと声を荒げながら
駅長に尋ねた!

「ちょっと!
 なんですか!
 ちょっとちょっと!
 これは一体何ですか!」

私が突きつけるスタンプを見て
駅長が

「うわ!
 なんや!」

と言った!
なんやじゃない!
あなたの駅のスタンプだ!

「これなんなんですか!
 これは何が描かれてるんですか!」

「こーれは!
 んー!
 こーれはねぇ・・・んー!」

どうしたのだろう?
名物なき駅のスタンプ作りを強要された
デザイナーによる反乱だろうか?
何にも例えようのない物が!
何にも似ていないような物が!
繊細なタッチで描かれている!

「また勉強しときますんで!」

勤勉な駅長のようだが
私がまた「出戸」に来ると思うかね?
いや!
来るかもしれない!
もしもこの絵柄の実物が
この「出戸」にあるのならば
私はきっと来るような気がする!

私は「出戸」のスタンプを睨みながら
次なる駅「長原(ながはら)」にやって来た!
ここには
古いおもちゃが
当時の定価で売られているという
伝説のおもちゃ屋さん
「ナガドー」
があると聞いていた!
ちょいと歩いてみると
すぐに見つかった!


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店内は真っ暗だった!
「ひやかしお断り」
と強い口調の貼り紙があったが
私は店主に頼んでみた!

「別に何かを探してるわけじゃないんですけどね!
 でもこのおもちゃ屋さんの噂を聞いて
 一度来てみたいと思ってたんですよ!
 ちょっと覗かせてはもらえませんかねぇ?」

私のまっとうな申し入れに
店主はたいそう機嫌よく

「ほな電気つけますわ!」

と言ってくれた!
すごいお店だった!
壁の隅から隅まで!
棚の床から天井まで!
所狭しとおもちゃが置かれていた!
最近であればそういう陳列の店舗は多いが
「ナガドー」では何十年も前から
この売り方なのだそうだ!

「私50年おもちゃ売ってますねん!
 もう仕入れはやめました!
 あるもんだけ売ってやってます!」

上の階から子供達の賑やかな声が聞こえたので
何をしているのか尋ねてみたところ
「カードゲーム場」として
開放しているのだそうだ!
学校帰りに子供が集まるおもちゃ屋さん!
素敵ではないか!

「最近の子供はプラモデルなんて作りますか?」

と尋ねてみると

「売れへんねぇプラモは・・・。」

と寂しそうに答えてくれた!

「自分で作って色塗ったりとか
 今の子はおもろいと思わへんのでしょうねぇ・・・
 出来上がったもんしか買いませんわ・・・
 テレビに出るのんとは
 全然ちゃう色で塗ったら
 おもろいはずなんやけどねぇ・・・」

なんだか悲しい話だ!
私が子供の頃には
「プラモデル屋さん」に行けば
誰か友達がいたものだ!
なんならそこで友達が増えたりしたものだ!
丁寧にプラモデルを作り上げて
最終的に爆竹で破壊するという遊びは
今の子供にしてみれば
何が面白いのかまったくわからないのだろう!

私は「加藤茶」の「ピンバッジ」を購入し
「店中全部見せてもらったのに
 買うこれだけでごめんなさいね!」
と詫びた!
「いやいや!
 また必ず来て下さい!」
と言ってくれた!
”お待ちしてます”という
マニュアルに従った言葉ではなく
心からの言葉である事がすぐにわかった!
はい!
また必ず来ますよ!

ではスタンプを押そう!

おもちゃ屋「ナガドー」をひろいだために
私は「出戸」でのショックを
すっかり忘れてしまっていた!
心はまだ「ナガドー」の店内にありながら
「長原」駅のスタンプを押していた!
だから!
このデザインには
致命的な不意打ちをくらった気がした!

「ひゃっ!」

またすごいのが出た!


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「なんすかー!
 これはなんすかー!
 駅長!
 ちょっと!
 これはなんすかー!」

私の動揺が激し過ぎたのかもしれない!
駅長は怖じ気づいたかのように
無言でスタンプを眺めた!
果てはスタンプを横にしたりした!
横って事はないだろう!
字が書かれているんだから!
やがて駅長は言った!

「これは・・・なんですか?」

いや聞かれても!
あなたは「安尾信乃助」先生演じる駅長か!

「掘ったら・・・
 出てきたんとちゃいますかねぇ?」

いいのか!
あなたの駅の象徴なのですよ!
そういう
犬とそれ以外の動物を分ける程度の
そんなざっくりな説明でいいんですか!

「多分そうやわぁ!
 掘って出て来たんやと思います!」

駅長の口調は”多分”なのに自信を帯びてきた!
「出戸」といい
「長原」といい
あまりにも不可解なその図柄と
あまりにも不安定な駅長の説明に
長い長い半笑いが私を襲った!

後になって調べてみると
確かに両駅のスタンプとも
「掘ったら出てきたもの」
だった!
”長原遺跡”と呼ばれる
かなり保存状態のいい遺跡だそうだ!
しかもそれらは
「谷町線」工事のために掘られた際
一斉に出土されたものらしい!
「谷町線」の駅である「出戸」と「長原」が
それらをスタンプにするのも
もっともな話だったのだ!
「古生物学」ではなく
「考古学」に興味が沸き始めた時には
じっくりとこれら2駅を散策してみたい!

かくしてその日12回目の「八尾南」行きに乗車し
「ハーフ・オペレーション谷町」は
遂に感動のフィナーレを迎えた!
私は自宅を出てから約5時間かけて
「八尾南(やおみなみ)」駅へと到着した!
同じくパーティに招待されていた
「グッチ」もほぼ同時刻に「八尾南」駅に現れた!
飲み屋の大将よろしく
前掛けをかけた「やま~ん」が迎えてくれた!
地下鉄「谷町線」に地上駅があるとは
今の今まで知らなかった!


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「八尾南」駅のスタンプはこれだった!
すぐ近くに「八尾空港」がある!
小さな空港だが
交差する滑走路を有する
日本国内でも稀な空港なのだそうだ!


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ふと見上げれば
スタンプのデザインと同じような物が
ちゃんと飛んでいた!
スタンプにいつわり無しだ!


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ものすごく飲んで
ものすごく騒いだ!
ちゃんと電車のある時間に
「やま~ん」の家を出て
その日13回目の乗車となる「谷町線」に乗った!

25分で家まで着いた!

とんでもなく長い一日だった!
努力するのは嫌いだが
私は長い一日を生きるための努力だけは
決して惜しまない!

ちかいうちに
「谷町線」のもう半分を
ひろぐつもりである!