どうにも沖縄が恋しくなった私は
以前沖縄で購入した「三線(さんしん)」を
いつでも弾けるようにリビングルームに立てている!
当然たいした腕前ではないのだが
「三線」は通常の楽器よりも
使用する音階が少ないため
それらを適当に弾いてみるだけで
なにやらオリジナルの琉球民謡に聴こえてしまう!
それに合わせて
沖縄で覚えたいくつかの琉球語
いわゆる「うちーなーぐち」を並べて
歌など歌ってみると愉快だ!
知っている「うちなーぐち」など
ほんのわずかなのだが
♪まやー(ねこ)
ちゅらかーぎー(かわいい)
まやー
ゆたしくー(よろしく)
と歌っていると
ねこの「FUTURO君」が
ちょいとだけ合いの手を入れて鳴いたりする!
私の琉球オリジナルソングがやかましいと
苦情を申し立てているのかもしれないが
それでも大事な観客なので
「にふぇーでーびる(ありがとう)」
とお礼を述べてコンサートを終える!
そんなある日!
我が家に
吉本新喜劇の「やわらかいロボコン」こと
「山本奈臣実(やまもと・なおみ)」ちゃんが
遊びに来てくれた!
正確に言うと遊びに来たのではない!
「カミさん」が舞台『ごんべい』出演で
長期不在であるため
独り暮らしを営む私に
あれこれとおかずを作って持って来てくれたのだ!
つまりは慰問と言える!
ありがたい話だ!
そこで奈臣実ちゃんとちょいと飲み交わし
三線で遊んでみた!
楽器など一切弾いた事のない彼女は
驚くほどだめだめな三線奏者だった!
私は初めて「フラットマンドリン」を手にした頃の
自分を思い出した!
「毎日触って遊んでいれば
楽しくてどんどん上手になるんだけどね!」
すると奈臣実ちゃんはこう言った!
「あたしも三線持ってるんですー!」
聞けば何年も前に知り合いから三線を譲り受けたらしい!
しかし!
一度も弾かずに押入れに入れていたある日!
無理矢理に押入れの扉を閉めた際
バキッ!!
と音がしたそうだ!
明らかに何かが壊れた音だったようだが
中を見るのが怖くなり
それ以来
存在を忘れるほど放置してしまったと言う!
さっそく彼女を家に返して症状を聞いてみると
三本の弦をゆるめたりしめたりするための三つの棒
「からくい」
が折れているとの事だった!
写真は私の三線の正常な「からくい」!
「からくい」が折れたというだけならば
幸いにして軽症だ!
三線で最も大事な部分は
ギターで言うネックで
「さお」と呼ばれている!
かつて沖縄では
一家に代々受け継がれた「さお」を
嫁入り道具として持参したとも聞く!
ギターならばボディも重要だが
「ちーが」と呼ばれる三線のボディは
面白い事に付け替え式となっている!
「ちーが」による音の良し悪しも重要だが
最も大切なのはあくまでも「さお」なのだ!
奈臣実ちゃんの三線は
「さお」にささる三本の棒「からくい」が折れた
との事だったが
調べたところ「さお」には一切影響が無かった!
だとすれば付属品である「からくい」を
三本買えば彼女の三線は息を吹き返す!
沖縄を歩いて楽器屋で見る「からくい」は
安い物で一本300円!
高い物でも1000円ほどだ!
では奈臣実ちゃん!
三線を修理しよう!
かくして私と彼女は
大阪市は「大正区」へと旅に出た!
旅に出たと言っても
私の家から「大正」駅までは地下鉄で10分ほどだ!
しかし!
大正というのはとてもユニークな街で
住民の25%
つまり四人に一人が
沖縄に由来を持つ人々だと報告されている!
これはかつて造船業が盛んだった大正に
沖縄の人々が職を求めて移り住んだ事由来するらしい!
大阪と沖縄では言葉や文化の違いがあまりにも多い!
そのため親戚を頼り友人を頼りして
沖縄からの移住者が大正に集中したようだ!
かつて『ひろぐ』でもご紹介した
「松屋食堂のきみちゃん」も
生粋の沖縄人ながら
大正には親戚がおり
何度か大正を訪れた事もあるらしい!
奈臣実ちゃんの三線を元通りにするには
とにかく大正に行ってみよう!
これ以上彼女の三線に損傷があってはいけないと
私はかつて「コザ」の古道具屋にて
わずか2,500円で購入した
「三線用のハードケース」を彼女に貸した!
(このケースが後に私の”しりこ玉”を
おおいに飛ばす事となる!)
さっそく大正に到着した私は
「後藤おすひと」としての使命も忘れない!
デザインされているのは「大正橋」にある
”安政の大地震”犠牲者のための供養塔だった!
大正の人達の手によって
とても大切にされている石碑である!
さて!
大正駅に到着したはいいが
どこにも楽器屋などは無かった!
それどころか
沖縄らしい雰囲気も無かった!
スタンプついでに
駅員さんに聞いてみたところ!
「まぁ駅周辺やったら
沖縄料理屋が点在しているぐらいですわねぇ!
楽器屋?
そんなん見た事ないですねぇ!」
というネガティブな答えだ!
しかし!
そこで途方に暮れたりはしない!
なにしろそもそも
「大正に行けばどうにかなる!」
という程度の気持ちだけで
三線を抱えて電車に乗ったのだ!
そう簡単に目的にたどり着いたら
ひろぐものもひろげまい!
私は古い記憶を探った!
それはずいぶん前に
「ケンドーコバヤシ」君と
「小泉エリ」ちゃんとで
『メイド・イン・カンサイ』
という深夜番組をやっていた頃の記憶だった!
確かMAXのLinaちゃんという子をゲストに迎え
彼女の故郷である沖縄の雰囲気を楽しむべく
みんなでわいわいと大正の商店街を歩いたはずだ!
さて?
あの商店街はどこだったのだろう?
すぐさま携帯電話で検索してみた!
そこは「サンクス平尾商店街」という場所で
大正駅からはずいぶんと離れた場所だったようだ!
私と奈臣実ちゃんは壊れた三線を抱えて
「平尾一丁目」に向かうバスに乗ってみた!
平日の昼間ともあって
バス車内はお年寄りが多かった!
品のある御婦人が奈臣実ちゃんに話しかけた!
「あなた三線弾くの?」
「えーっと・・・昨日から・・・ちょっとだけ。」
ケースを見ただけで中身が三線とわかったという事は
彼女もきっと
沖縄となんらかの関わりを持つ人なのだろう!
到着した「サンクス平尾商店街」は
がらーんとしており
開店している店舗は少なかった!
それでもそこは間違いなくかつて私が訪れた場所で
数軒に一軒は沖縄の物を扱うお店だった!
中でもお気に入りは
番組でも訪れた「沢志商店」だ!
売られているのは全て沖縄の食材で
「A1ソース」や
「ポルトギューソーセージ」や
「コンビーフハッシュ」などなど
沖縄だけでしか見かけない物が売られている!
どれもおみやげ屋では見かけないが
沖縄の庶民の生活には必ず登場する物ばかりだ!
私は壊れた三線の事を忘れて
あれやこれやと食材を買い込んだ!
「三線を修理に来たんですが
楽器屋さんなんてありますかねぇ?」
「・・・いやぁ。
見た事ないねぇ。」
店主に尋ねてみたところ
返って来たのはやはり残念な答えだった!
どうやらサンクス平尾商店街付近に
沖縄楽器の店など存在しないようだ!
我々はとぼとぼと商店街を散策した!
ラーメンかチャーハンか迷う女子は不幸だ!
奈臣実ちゃんならどちらも注文する!
私も当然そういう内蔵に生んでもらった!
そんな二人なものだから
おおいに商店街での買い食いをひろいだ!
ふと!
たこ焼き屋さんを発見した!
これだけ沖縄のお店が多い中で
大阪名物のたこ焼き屋さんとは
なんだか珍しい!
恐らく
ちょいとした変わり者が経営しているのだろう!
お店の名前は「しらまつ」だった!
・・・ん?
ひょっとして?
すぐに写真を撮影して確認したところ!
なんとそこは
『ひろぐ』にしばしば登場する
「昆虫王チョロ君」の両親が経営するお店だった!
そうそう!
以前彼から
「実家は大正のたこ焼き屋なんです!」
と聞いた事があったし
彼の苗字は「しらまつ」だった!
三線修理はほぼあきらめながら
私と奈臣実ちゃんは
たまたま見かけた沖縄そばのお店で
昼食をとる事にした!
そこはなんとも沖縄な雰囲気をもつ
ふるびた食堂だった!
店の「おばあ」は完全な「うちーなーぐち」で
時々何と言っているのかわからなかった!
しかし!
「三線弾くの?」
「えーっと・・・昨日から・・・。」
おなじみとなった会話の後に
我々は大正を訪れた目的を告げた!
するとだ!
「おばあ」はちょいと面白い場所の話をしてくれた!
「”関西沖縄文庫”に行ったらいいさぁ!」
どうやらそのお店の近くに
「関西沖縄文庫」という場所があるらしく
そこに行けば
三線の部品も売られているのではないかと言う!
”文庫”と言うからには
楽器屋でないのは明らかなのだが
「おばあ」はとにかくそこに行けと言う!
我々はもらった「サーターアンダギー」を食べながら
「関西沖縄文庫」なる場所に向かった!
日差しの強い日で
少し歩くだけで体力を奪われたが
色んな人に話しかけながら情報をたどるという
あまりにも”ゆるい計画の冒険”はたいそう楽しく
気がつけば「関西沖縄文庫」に到着していた!
それほど広くない店舗に
沖縄に関する様々な商品が置かれていた!
”文庫”と名乗りながら
泡盛や食品まで扱っている!
迎えてくれたひげの店主は
たいそう沖縄顔だったので
手加減なく相談してみる事にした!
「”からくい”を探して歩きまわってるんですけど
ここならあると聞きましてね!」
「あぁ・・・”からくい”ね。」
その答え方は
「もちろんあるよ!」
な雰囲気に満ちていた!
店主が案内してくれた棚を見れば
三線の付属品が
たくさん売られているではないか!
ところが!
店主は空の箱に手を入れてこう言った!
「なんでもあるのにねぇ!
ちょうど”からくい”だけ全部売り切れててねぇ!」
なんと!
どうなっているのだ?
大阪で三線を持っている人は
みんな押入れの扉に”からくい”をはさんで折るのか?
軽く落ち込む我々に店主はこう言った!
「”沖縄会館”に行ってみたらあると思うよ!」
ややっ!
またまた新たなスポットの登場だ!
いや!
いやいや!
私は以前そこに行った事がある!
そこは確か
『メイド・イン・カンサイ』撮影時に
控室として迎えてもらった場所だ!
我々は「関西沖縄文庫」を後にして
次なるポイント「大阪沖縄会館」へと歩いた!
日も暮れ始めていた!
そこに無ければ
またいずれしっかり調べてから出直そう!
「大阪沖縄会館」一階の奥に
「琉舞(りゅうぶ)」という沖縄民芸品店があった!
店内を覗くとそこは
琉球舞踊の衣装や装飾品!
琉球空手の武具もあれば
楽器類もたくさん並んでいた!
そして!
その中に!
我々が求める「からくい」が見えた!
やったーい!
と大喜びして入店しようとした!
が!
・・・開かない・・・。
扉は開かなかった!
鍵がかかっていた!
我々は途方にくれた!
あるのに!
欲しい物がそこに見えてるのに!
わかりやすく困っていると
お店の向かいにある管理室から
親切そうな親父さんが登場した!
「どないしたん?」
我々はあれこれと説明した!
これだけ何度も説明すると
その言葉は端的になり
実に簡潔に理解してもらう事ができた!
親父さんは言った!
「さっきまでおったんやで!
電話番号教えるからかけてみ!」
この個人情報漏洩にうるさい時代に
なんとありがたい話か!
我々はさっそく電話をかけてみた!
「食事に来てます。
もうすぐ帰ります。」
待つこと10分!
温厚そうな老紳士がお店の中にのっそりと現れ
鍵を開けて中へ招いてくれた!
我々はその日最も簡潔な文章で
道中を彼に話した!
彼は軽く微笑んで聞いてくれた!
「大変やったねぇ。
”からくい”なら何種類かあるよ。」
人なつっこい奈臣実ちゃんは
からくいの交換と調弦もやって欲しい
と彼に頼んだ!
静かな老紳士は
しょうがないなぁという笑みを見せながら
「んん。
やったげるよ。」
と言って奈臣実ちゃんの三線を受け取ってくれた!
奈臣実ちゃんはさっそく彼を「先生」と呼び
「先生」はあれこれと三線について講義しながら
奈臣実ちゃんの三線に弦を張り始めた!
「先生」はじっくりと30分ほどかけて
奈臣実ちゃんの三線を修復した!
「はい。
できたよー。」
思った以上に音が良く驚いた!
友人から譲り受けたという三線だったが
いわゆる”おみやげ用”の安物でない事は
音色を聴いただけで明らかだった!
お店には三線ケースも売られており
奈臣実ちゃんは気に入った物を見つけて購入した!
そうそう!
楽器を初めて手にした時には
そのケースを持って街を歩くだけで
とんでもなくわくわくするものだ!
奈臣実ちゃんもこのケースを持って
いっぱいわくわくしながら歩くのだろう!
なんだか私までもが嬉しくなった!
さて!
そうなると持参した私のケースは用済みだ!
空のケースを持ち帰ろうとした時
「先生」がおかしな事を言い出した!
「あなたはかなり弾くんやろ?
民謡とかやってんの?」
いやいやとんでもない!
遊びでてぃんてぃん弦をはじく程度で
とても他人に聴かせるようなものではない!
なぜそんな事を断定的に聞かれたのだろう?
「だってそのケース。」
「先生」は私の三線ケースを指差した!
「2丁入るやつやんね。」
何を言っているのかわからなかった!
”2丁入る”?
私は自分の三線ケースが
コザの古道具屋でたまたま買った物である事を
説明した!
「”2丁入る”ってどういう意味ですか?」
私が尋ねると
「先生」は言った!
「僕も同じようなん持ってるで。」
そして私の物とほぼ同じサイズのケースを取り出し
我々の目の前で開けた!
その中を見た瞬間!
私の”琉球しりこ玉”が大玉で飛び出した!
「先生」のケースの中には
三線が二つ収まっていたのだ!
「あなたのも2丁用のケースやで。」
「先生」はそう言って
私のケースの中に2つの三線を収めて見せた!
たいそう驚いた私は
そもそも”三線を二つ持ち歩く理由”が何なのか?
を尋ねた!
「沖縄民謡には
基本調弦の”本調子”以外にも
いくつか調子があるんよ。
そやから人前で色んな曲を弾くプロは
たいがい二つの調子に調弦した三線を
どっちも持ち歩かなあかんねん。」
と言う事は?
「あんたが買うたそのケースは
素人が持つもんとちゃう。
誰が持ってたもんかは知らんけど
2丁持ち歩かなあかんぐらい
かなりの腕前の人が持ってたもんや。
大事にしぃや。」
なんとも驚きだ!
ただただ雰囲気で選び
たったの2500円で購入したケースが
そんなたいそうな物だったとは!
恐らく「先生」は我々が入店した時点で
ケースを見て
「ややっ?」
と思ったに違いない!
私はこれまで
言うところのプロ仕様のケースに三線を入れて
そこらを歩きまわっていたようだ!
そうか!
それ以前に!
平尾一丁目までのバスの中や!
沖縄そば屋さんで・・・!
我々は猛烈に照れたのであった!
かくして帰宅し
二人で三線を弾いて遊んだ!
どちらもたいした腕前ではないが
「音を楽しむと書いて”音楽”」だ!
うまいへたなどどうでもいい!
取り敢えず「ハンチング」などかぶって三線を構えれば
誰でも自分がちょいとうまくなったように思える!
うん!
それでいい!
例え観客がねこでもそれでいいのだ!
たった三つの小さな楽器部品を買うために
大正という街をいっぱい歩き回った日だった!
そこでいっぱいの人と出会い
いっぱいおしゃべりした日だった!
家から電車で10分の場所で
美しい景色も
豪華な食べ物も何もないが
心はいっぱいになった!
さーて!
サンクス平尾商店街で買った沖縄食材で
今日も自炊をひろごうか!
というわけで本日
2016年5月16日(月)の『語るひろぐ』は
21:00より!!
「カバと爆ノ介」をゲストにお送りします!
みんなでいっぱいひやかして下さいな!