「秋元康」という人物は、僕にとって長い間、謎の人物だった。
テレビの構成作家出身であり、作詞家として手がけた作品はなんと4千曲以上あるそうだ。
チャート1位80曲以上という記録は、歴代の作詞家で1位を誇る。
売り上げ総数は4500万枚で、これは歴代3位だという。
これだけでも「おばけ」だが、さらに脚本も書き、映画も撮り、小説も漫画原作もある。
そして何よりAKB48グループの総合プロデューサーだ。
秋元さんが「大作家」であることは間違いないが、僕が知っている「作家」と彼の活動は
まったく違う。
作家というのは、個人の表現活動に徹する存在だ。
だが、秋元さんはAKB48という女の子の集団を世に送り出し、社会現象まで
生み出しているのだ。
「秋元康」とは、いったいどんな男なのか?
謎を見つけたら近づいてみたくなるのが僕の習性である。
たまたま同じ整骨院に通っているという縁もあり、早速、僕は秋元さんの取材を
始めたのだ。
インタビューを重ねるたびに、秋元さんがたいへんな「知識の塊」であることが
よくわかった。企画力もある。
だが、なぜ次々にヒットを出すことができるのか?
どこまで取材しても、謎は深まっていくばかりだった。
やはり、その謎を解くためにはAKB48を見なければと思い、僕は秋葉原の
AKB48劇場を訪れた。
ナマのAKB48を見て、僕は見事にハマった。
客席を埋めたファンたちが女の子たちの一挙一動を見逃すまいと一心不乱に見つめ、
歌を口ずさみ、踊りに合わせて体を揺らしている。
劇場全体が熱気で燃え上がっていた。
そういう熱い場に身を置いていることに興奮を覚えながらも、僕は、なるほどと
うなずいていた。
秋元さんはAKB48を「高校野球」と表現していた。
プロのようなテクニックはないが、平凡なゴロでも全力疾走し、ヘッドスライディングする。
ファンは、そんなメンバーたちを温かく見守り、熱い声援を送るスタンドの観客なのだ。
AKBメンバーとAKBファン、こんな不思議な集団を僕は見たことがなかった。
熱かった。
秋元さんは、この熱さこそを実感させたかったに違いない。
AKB48劇場オープンの日の観客はわずか7人だった、と秋元さんは言う。
けれど秋元さんは「このままでいい」と、特に手を打つことをしなかった。
そこには「根拠のない自信」があったという。
だから慌てて何か変えなくても、いつか「その時」が来ると泰然としていられたのだろう。
そして、2005年12月のスタート時に7人だった観客は、7年目の2012年8月には、
東京ドームで3夜連続の公演を行うまでになった。
「自分がおもしろいと思うのが正解で、根拠なんか要らない」
この秋元さんの言葉を、僕はとてもよく理解できる。
なぜならば、僕にも通じるものがあるからだ。
僕が78歳になったいまも現役でいられるのは、才能はないが、好奇心が
人一倍強いからだと思っている。
好奇心とはすなわち、「おもしろがる精神」だ。
好奇心を失ったとき、仕事は終わりだと僕は思っている。
彼へのインタビューは、とても刺激的で、回を重ねるごとに、
「もっとこの人物の奥へと入っていきたい」
と思わせるものだった。
秋元さんは、僕がどれほどぶしつけなことを聞いても、どんな意地の悪い問をぶつけても、
逃げもはぐらかしもせずに、つねに正面から、なるほどそうか、と感心せざるをえない
答えを返してきた。
AKB48を題材としながらも、「ヒットメーカー・秋元康」の頭の中身、仕事のノウハウを
すべて聞き出せたのではないかと思う。
その刺激に満ちた内容を『AKB48の戦略! 秋元康の仕事術』という一冊の本にまとめた。
秋元康という稀代の大作家・プロデューサーの発想は、AKB48ファンばかりでなく、
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いや電通のチカラでしょ