長谷川幸洋コラム第37回 都知事選・細川惨敗で見えた民主党の政策なき「漂流状態」
舛添要一知事を誕生させた東京都知事選は、やはり単なる地方選挙にとどまらなかった。選挙結果は、いまの永田町の姿を象徴しているようだ。
まず、都知事選は民主党の漂流状態をくっきりと浮かび上がらせた。それから、日本共産党の躍進もあらためて印象づけた。永田町では野党再編論議がくすぶり続けているが、今回の都知事選の教訓をしっかり整理して、次に備える必要がある。
民主党は当初、舛添支持に傾きながら、細川護煕候補の出馬が固まると、一夜にして細川に乗り換えた。「そんな簡単に支援候補を切り替えられるのか」という思いは民主党支持者でなくても感じたに違いない。
舛添と細川では何が違ったか。両者とも脱原発を唱えたが、舛添は「エネルギー政策は基本的に政府の仕事」と認識して段階的な脱原発を主張した一方、都知事にできる部分として、再生エネルギーの活用や省エネ推進を訴えた。これに対して、細川は即原発ゼロだった。
私がもっとも重要な違いとみたのは、細川が出馬の第一声で「経済成長至上主義からの脱却」を唱えた点だ。舛添は、そんなことは言っていない。脱原発に加えて脱成長となると、たとえ即原発ゼロに賛成でも、首をかしげる有権者もいたのではないか。
この路線は、民主党左派をさらに過激にした路線でもある。民主党は2030年代までの段階的な脱原発を志向しつつ、経済成長については成長志向派と格差是正(=公正な所得再分配)派の間で内部対立がある。
民主党が当初、舛添に傾いていたのも、成長志向派からみれば、政策的にそう違和感がなかったからでもある。だが、結果的に細川が即原発ゼロと過激になり、かつ脱成長まで唱えたものだから、せいぜい民主党左派を支持する勢力がうなずける程度になってしまった。
そうなると、実は宇都宮健児候補が有利になる。宇都宮を支援した日本共産党と社民党は、即原発ゼロと脱成長・格差是正路線の元祖であるからだ。同じように即原発ゼロと脱成長を唱えるなら、突然、湯河原の里から降りてきた細川よりも筋金入りの共産党・社民党のほうが信頼できる。そう考えた有権者も多かったはずだ。
皮肉を込めて言えば、15年間も釜を焼いたり絵を描いたり、畑をいじって優雅な隠遁生活を送ってこられた殿様に、選挙カーの上から「脱成長を」なんて言われるより、戦前から一貫して労働者の側にいた共産党のほうが、はるかに「格差是正」に真剣に取り組むだろう。そんな思いが細川の上に宇都宮を押し上げた理由である。
有権者の一番の関心は何だったか。それは昨年の参院選、一昨年の総選挙から一貫している。それは景気回復と安定成長の実現である。各種世論調査をみても、今回の都知事選で有権者の関心は「景気・雇用」と「医療・福祉の充実」に集中していた。
有権者はまず長く続いた低迷を脱して「安心して暮らせるように生活をしっかり立て直したい」と考えているのだ。そういう目線からみると、脱原発は重要課題ではあっても、有権者の関心からは少しズレていた。
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