[Photo] Bloomberg via Getty Images
長谷川幸洋 コラム第15回「福島第一の賠償---政府は市場経済の原則を厳守し対処せよ」
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東京電力・福島第一原発から1日当たり推定300トンもの汚染水が海に流出している、という政府の試算があきらかになった。政府は数百億円といわれる国費を投入して、原発の周囲に凍土壁を埋め込む計画だ。
このニュースを聞いて「やっぱり、こういう事態になったか」と暗澹たる気分になった。「汚染水が止まらず結局、海に放出されるだろう」というのは、原発事故の早い段階から十分に予想されていた話である。私は事故から2カ月半後のコラムで、次のように書いている。
〈汚染水も毎日、上から大量の水を注ぎ込んでいるのだから、汚染除去に成功して循環システムが構築できない限り、タンクに収容するといっても、いずれ満杯になるのは、だれにも分かる話だった。それなのに「タンクへの収容話」は連日報じられても「一杯になったらどうするのか」はほとんど報じられなかった。
私は専門家ではないが、常識的に考えて抜本的な解決策が見つからない限り、いずれ高濃度の汚染水が再び、海に垂れ流されてしまうのは時間の問題だと思う〉
原発を冷やすには上から大量の水を流し続けねばならない。このコラムを書いた当時は、まだ循環システムは完成していなかった。だから、冷やした後の汚染水はタンクに収容する以外になかった。それでタンク作りを懸命に始めたが、そんなイタチごっこが何十年も続けられるわけがない。
だから循環システム作りが鍵を握ったのだが、そのシステムはいまだに完成していない。放射性物質を完全に除去できないのだ。
加えて、山側から原発敷地内へ「地下水の流入」という新たな難問が出てきて、汚染水問題は一層、深刻になった。
コラムを書いた11年5月時点でも、汚染水漏れを防ぐために原発の地下にぐるりと壁を作る案は出ていた。当時の細野豪志原発担当相は同年7月の会見で「できるだけ早い時期に着工できないか、検討を始めた」と語っている。
ところが、その後、計画は立ち消えになってしまう。費用が巨額に上り、東京電力が「負担しきれない」と渋ったからだ。東電の試算では当時、1000億円レベルに上る可能性があるとされ、そんな費用を新たに計上すると、いよいよ債務超過で経営破綻が現実になる懸念があった。
ようするに「カネがないから、遮水壁は作れない」という話である。
汚染水の海洋流出がごまかせなくなって、いよいよ遮水壁の建設は待ったなしの課題になってしまった。汚染水流出を放置すれば、海洋汚染が国際問題になるのは不可避である。東電にカネがない以上、政府がカネを出す以外にない。だが、そうなると次は、必然的に東電の法的整理が課題になる。
そもそも事故を起こしたのは東電であり、壁を作る場所も原発の敷地内である。究極的には自分のビジネス=カネ儲けで東電の株を買った株主や融資した銀行の責任を問わずに、税金を投入して負担を国民に肩代わりさせるわけにはいかないからだ。
これまで被災者への賠償や除染については、原子力損害賠償支援機構法と放射性物質汚染対処特別措置法の枠組みで、政府が一時的に資金を肩代わりしても、最終的には東電(および一部は他の電力会社)が負担する仕組みができ上がっている。
賠償と除染に加えて廃炉もある。
先の2本の法律では、廃炉費用の一時肩代わりまではできない。だが、政府は実質的に廃炉費用の負担にまで踏み込んでいる。12年度補正予算では独立行政法人の日本原子力研究開発機構に対して「放射性物質研究拠点施設等整備事業」として850億円の拠出を盛り込んだ。
この施設は放射性物質を扱うロボットの開発研究などが目的である。つまり、廃炉に備えて技術開発をしようという計画だ。これだけでも事実上、東電への支援になるが、今回はもっと露骨に汚染水対策にまで政府がカネを出そうというのだ。
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