2016年アカデミー作品賞にノミネートされている作品
1990年代の初期に起きたインディーズ映画革命以降、アカデミー作品賞には、その守備範囲や作風において幅広い作品がノミネートされるようになった。
しかし、2000年以降の作品賞を振り返る限り、鍵となる二つのカテゴリー、監督賞と脚本賞へのノミネーションが、作品賞の受賞と密接に結びついていることが分かる。最優秀作品賞を獲得した15作品のうち、14作品までが、監督賞と脚本賞でも争っていた(『アルゴ』だけが例外で、ベン・アフレックが監督賞候補から漏れている)。さらに、そのうち8作品までが3部門を制覇している。
この指標によると、監督賞のノミネートを逃した『オデッセイ』、あるいは脚本賞のノミネートを逃した『レヴェナント:蘇えりし者』のような作品は、不利な立場にあると考えられるだろう。しかし、勢いもまた勝因となり得る。『レヴェナント:蘇えりし者』はまさに勢いを増しているところだ。
『マネー・ショート 華麗なる大逆転』(米パラマウント・ピクチャーズ)
本作品における最大の挑戦は、2000年代の終わりに米国で起きた住宅バブルの崩壊と、それに続く経済の破綻、そして、それを予見した数少ない投資家たちが利益を上げた事実を、一般的な観客にも分かりやすい娯楽作として描くことだった。
批評家たちは本作の味方につき、レビューサイト『メタクリティック(Metacritic)』では100点中81点を獲得。また、強力なアンサンブルに全米映画俳優組合(SAG)が反応し、全米映画俳優組合賞のキャスト賞にもノミネートされた。アカデミー賞では俳優たちが最大の投票枠を持つことからも、重要な位置付けにある作品である。
『ブリッジ・オブ・スパイ』(米ウォルト・ディズニー・ピクチャーズ)
冷戦の真っただ中、保険専門のほぼ無名の弁護士でありながら、スパイ同士の交換を交渉する事実上の外交官を務めたジェームズ・ドノヴァン(トム・ハンクス)を中心に描く。ソ連のスパイ(マーク・ライランス)が描いたロックウェル似の肖像画のように、基本的人権の下に生きるアメリカ人の姿を浮き彫りにする。
本作は、映画が全力を出したときに我々に見せてくれる「映画マジック」の教科書とも言える作品だ。指揮を執るのは、かつてハリウッドの代名詞とまで言われたスティーヴン・スピルバーグ監督である。
しかし、今回は監督賞にノミネートされていない。受賞への可能性を考えると、良くない前触れだ。
『ブルックリン』(FOXサーチライト・ピクチャーズ)
この気分が高揚する年代記ドラマは、空のように青い目を持つ20代の主人公エイリシュ(シアーシャ・ローナン)を通じて、1950年代のアイルランド移民の体験を描く。彼女は、家族への忠誠心と米国での新たな生活の始まりとの間で揺れ動く。二つの祖国の間で、名誉にふさわしい結婚はどちらなのかを思い悩む。
登場人物全員が親切であり、すべてが爽やかで健全である。大統領選が行われているいま、人種のるつぼこそがアメリカという国家の魂を支えているということを、思い出させてくれる。
『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(米ワーナー・ブラザース・ピクチャーズ)
ジョージ・ミラー監督のこのうえなく度を超えたディストピア映画は、クリストファー・ノーラン監督の『バットマン ビギンズ』以降、おそらく最も有名なリブート作品となっただろう。
本作はさらに、映画は視覚的に効果を発揮するもの、つまり、言うなれば純粋なアドレナリンであることを思い出させてくれた。テストステロン(男性ホルモンの一種)に突き動かされたであろう何かが、むしろシャーリーズ・セロン演じるフュリオサによって活気づくのだ。彼女は、ただ悪夢に取りつかれた主人公マックス(トム・ハーディ)のようにタフなだけではない。
全体主義の体制が大衆への慰めとなる不毛の荒れ地で、化石燃料や水が最も貴重な必需品となることから、本作の政治的メッセージについては様々な議論を呼んでいる。間違いなく、本作は最高レベルの大ヒット作である。
『オデッセイ』(米20世紀フォックス)
リドリー・スコット監督といえば、華麗な表現、視覚的な豊かさ、急展開の語り口で知られるが、本作はこれまでで最も事実をありのままに述べるような作品かもしれない。本作がSF小説を基にしていることを考えると、皮肉である。スコット監督は『オデッセイ』を「科学の真実(science fact)」と呼び、それは確かに、厳しい環境におけるサバイバルの手順書のようであり、大きな困難に対して、成せばなるという精神の、折れない心を描いている。
一見したところ、受賞の見込みが薄いかもしれないが、マット・デイモンが演じる勇敢な主人公を中心とする大物キャスト陣と、一流のプロダクション・バリューを携えた本作は、手ごわい存在となるだろう。
『レヴェナント:蘇えりし者』(米20世紀FOX)
仮に、監督の仕事が現場指揮と撮影監督に二分されるような議論になっても、『レヴェナント:蘇えりし者』は、他のどの作品にも劣らないほど、揺るぎない立場を主張できるに違いない。
作品賞の主導権を握るプロデューサーであり監督のアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥと、2度のオスカー受賞を誇る撮影監督エマニュエル・ルベツキ(『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』)は、凍てつくような寒さと厳しい撮影条件に勇敢に立ち向かい、サバイバルと復讐の物語を記録した。彼らは自然光のみに頼り、撮影環境に妥協を許さなかった。
昨年のアカデミーが称賛していたような「美的な厳しさ」を持っている半面、その薄氷を踏むような論拠については、レオナルド・ディカプリオが持つ環境政治学の知識と、侵入者によって暮らしを破壊された先住民の鬨の声が支えている。
『ルーム』(A24)
今回のノミネート作品の中でも、群を抜いて控えめな規模で製作された本作は、現実の出来事に基づくサバイバル物語を、極めて情緒的に描いている。
顕著な仕事ぶりで主演を務めたブリー・ラーソンは、この作品で一気に大物女優の仲間入りを果たした。7年間にわたって監禁され、誘拐犯との間にできた息子を出産した若い女性を演じている。自由な世界と言われるものに遭遇した時、2人は思いもしなかった困難に直面する。
5歳の少年役を演じたジェイコブ・トレンブレイも、ラーソンと同様、難易度が高く熟練した演技を見せつけた。
レニー・アブラハムソン監督と原作・脚本のエマ・ドナヒューは、安易なセンセーショナリズムを避け、精神の複雑さを支持する見事な仕事を成し遂げた。
しかしながら、アカデミー会員が、本作の気詰まりする題材と序盤の窮屈な舞台設定を受け入れるかどうかは、分からない。
『スポットライト 世紀のスクープ』(オープン・ロード・フィルムズ)
本作が描くのは、保守的で歴史ある新聞社ボストン・グローブ紙が急激に落ち込んだ当時、カトリック教会に蔓延した小児性愛のスキャンダルと、それに続く隠ぺいを暴き、ピューリッツァー賞を獲得した同紙のジャーナリズムへの賛歌である。
内容重視の語り口がトム・マッカーシー監督の現実的な撮影手法を損なうことはなく、飾り気のない照明による新聞社のオフィスと、カーキ色の衣服やオックスフォード・シャツにVネックのセーターを着た平凡な社員たちが登場する。
マッカーシーとジョシュ・シンガーが手掛けた脚本は、事実が少しずつ明らかになり、ドラマが高揚していく過程に時間を割いている。本作は、映画産業に名を残す、ある種の啓発的な作品である。
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