安倍政権の経済政策「アベノミクス」。長引くデフレ経済からの脱出を目指し、「機動的な財政政策」「大胆な金融政策」「民間投資を喚起する成長戦略」という3本の矢が2012年5年に放たれてから、5年の月日が経ちました。
アベノミクスが日本経済に与えた影響について、エコノミストや経済評論家のみならず、一般人に至るまで、多くの人たちからさまざまな意見が出されています。
不動産投資の視点から、特に注目されているのがマイナス金利政策です。アベノミクスの目標の1つとして掲げられた2%インフレを実現するために、日本銀行が2016年2月から実施しました。銀行が日銀に預ける当座預金の一部に対し、初めて-0.1%のマイナス金利を適用したのです。
このマイナス金利は、不動産市場にどのような影響を与えたのでしょうか。今回は、マイナス金利が市場に与えた影響について考えてみましょう。
マイナス金利と仕組み
マイナス金利政策の目的は、景気の悪化と物価の下落が同時進行しているデフレから日本を脱却させるため、物価の上昇と消費の拡大を目指すものです。
日本銀行は「銀行の銀行」と呼ばれ、都市銀行、地方銀行、信用金庫などの金融機関は、顧客から預けたお金の一部を日銀に預金しています。私たちが銀行に預金すると金利がつきますが、通常はこれと同様に金融機関が日銀に預金すると金利がつきます。
ところが、マイナス金利政策が実施されたことで、金融機関は日銀に預けたお金に対して、金利を支払わなければならなくなりました。その一方で、金融機関は預金している顧客から、日銀と同じようにマイナス金利を支払わせるわけにはいきません。
日銀への預金で費用が発生してしまうぐらいなら、預金者から集めたお金は民間融資に回し、利益を得た方がいいと考えるのは当然でしょう。
金融機関が民間融資を増やすということは、金利が下がるということになります。中でも担保が取れる不動産は、金融機関にとって融資がしやすい案件となりました。このような背景から住宅ローンの金利は下がり、多くの人がローンを組みやすくなりました。
不動産価格にも影響
マイナス金利は、不動産市場に大きな影響を与えました。
国土交通省の「建築着工統計調査報告」では、2016年の新設住宅の戸数は96万7,237戸と、2015年比6.4%アップになりました。注目すべき点は、貸家が同10.5%も増えたということです。そしてこの原因は2つあると考えられます。
1つは、相続対策を目的とした賃貸アパートの新築が相次いだことです。もう1つは、マイナス金利の影響から、ローン金利が下がったことで資金調達コストが下がり、運用益(家賃収入)とのギャップを狙って、収益物件の建築に資金が流れたことです。
不動産価格にも影響が出ました。2017年の地価公示を見ても、全用途の土地が2年連続で上昇しており、不動産価格全体を押し上げています。
不動産価格の高騰で、一般消費者は新築物件に手が出しにくくなりました。不動産投資家にとっても、購入価格が高騰して、思ったほどの利回りが出ない状況が発生しています。結果的に中古物件の人気が高まる素地を作りました。
日銀のマイナス金利政策は、資金調達しやすい状況を生み出し、住宅を買いたい個人や賃貸経営を行う投資家に活動しやすい環境をもたらしました。他方、市中にあふれた資金が不動産市場に向かい、物件価格の高騰と賃貸住宅の供給が需要を上回るという、「入居者」に有利な市場が現出しています。
今、不動産投資家にとって、将来にわたって競争力のある物件をいかにコストをかけずに手に入れるかということが重要なポイントとなるでしょう。
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