腹痛は治まり身体はスッキリしたが、心と頭にはモヤモヤが溜まっていく。

 

「おっ 来た来た」武志が気づいて手を上げた。

 

ベンチに女子2人を座らせて、自分は立っている。

詰めれば座れそうだけど、女子を気遣ってるんだな。

ま、俺もそうするけど(密着したら緊張で変な汗出そうだから…)

 

「お待たせ〜」

「ねぇ、ちょっと休憩しよ」のぼりが提案する。

 

「そこでアイス売ってるよ」

藤島が指差した先には、おばちゃんとおばあちゃんの間くらいの歳の女性が、小さなフードワゴンで販売員をしていた。

 

ワールド内には同じようにポップコーンやクレープなどのワゴンがちらほら出ている。

 

「じゃ、じゃあ、俺たちが買ってくるよ」

「おー、ありがとー」のぼりが答える。

 

これまでの失態を巻き返すためにも、小さな気遣いを重ねていくしかない。

 

「2人は何味にすんの?」

武志が訊くとすかさずのぼりが、

「プリティキュートヴィヴィッドピンクストロベリー!」

 

ーー呪文を唱えた。

 

「え?なんだって??」俺は即座に聞き返した。

 

「これ!」

のぼりがスマホの"ディスティニーワールド完全攻略アプリ"の画面を見せてきた。

 

「今日はこれ食べるって決めてたんだ〜。あかりは?」

藤島は少し悩んで、

「エメラルドシャイニースウィートメロンジェラート」

 

ーーやはり呪文を唱えた。

 

「なんだよその必殺技みたいなネーミングは!」

「知ってる単語詰め込みましたって感じだな」武志も苦笑した。

 

「このキラキラした感じが、購買意欲をそそるんだよ!とにかく買ってきて!」

「…イチゴとメロンの方がいいじゃん、分かりやすくて」

俺には理解できない。モテるためにはこの感覚も理解しなきゃいけないのか?!

 

「他のもスゴイ名前だな。面倒だし俺たちもこれにしちゃおう」

「そうする」

アイスワゴンには5、6組の人が並んでいるので、早く買うことを優先した武志に賛同する。

 

ちょっと並んで、俺たちの番が来た。

 

「あの、プリティキュート、、えーと、ヴィヴィッドピンクストロベリーと、エメラルド〜シャ、シャイニー、スウィート、メロンジェラートを2つずつ下さい!」

 

言うのも恥ずかしい…と思っているとおばちゃんが

 

「はい、イチゴとメロンね」

 

 

それでいいんじゃん!!!

 

 

俺たちは声こそ出さなかったが、確実に同じ感想を抱いていた。