終電もなくなり、オフィスで孤独に作業するときのお供といえばラジオだ!午前0時なんてまだまだ宵の口。真夜中のディスクジョッキーが繰り出す特集がクレージーキャッツだったりすると、それはもう楽しい夜更かしの始まりである。と、まあどこかで聞いたことのあるような文句はさておき、初回は日本を代表するミュージシャンでありコメディアン、植木等について書きたい。
植木等といえば、60年代に人気を博したバンド・ハナ肇とクレージーキャッツのギタリストにしてシンガー。大ヒット曲「スーダラ節」や、テレビ番組『シャボン玉ホリデー』でのギャグ「お呼びでない、お呼びでないね。こりゃまた失礼致しました!!」は、その時代に生まれていなかった人だって知っている。
大瀧詠一、桑田圭祐と、彼に影響を受けた人をあげたらきりが無い......偉人が憧れる偉人なわけだ。しかし、「スーダラ節」をリアルタイムで聴き、毎週日曜の夜は画面にかじりついて『シャボン玉ホリデー』を観ていた世代が、植木等に持つイメージは「無責任」。世に送り出した楽曲の歌詞や、映画『ニッポン無責任時代』に始まるクレージーの「無責任シリーズ」が起因しているのだろうだけど、おそらく高田純次の比じゃないミスター・テキトーの称号だったと思う。
楽曲「無責任男」でも「コツコツやる奴あ、ご苦労さん」なんて歌い上げ、テキトーっぷりを世に振りまいていた植木等だが、実際はとことん真面目に仕事に打ち込む人だったというのは有名な話。書籍『植木等伝「わかっちゃいるけど、やめられない!」』のなかにある晩年の言葉は、万年猫背の僕も背筋がピンとなる......。
「今でもね、たまーに仕事があるわけです。今度も、『舞妓Haaaan!!!』とか言う映画に呼ばれてね。(中略)ワンシーンだけのチョイ役なんだけど、衣装合わせに行ったら足袋が白だっていうのね。だけど、白足袋じゃ特別な人だからね。お寺の坊主とか、踊りのお師匠さんとかね。で、"この人は何やってるひとですか?"って訊いたら、監督が"え?"って顔してね。若いから気が回らないんだろうけど、僕はそこまで考える。そこまで考えるのが植木等なんです」
そしてこのあと、次のように続けている。
「ちっちゃな仕事でもキチッとやる。一生懸命やるっちゅうか、真面目にやるっちゅうか、個性を出すっちゅうかね、そういう気持ちがなくならないの。だから、これからもね、年に一度でもいいから仕事をしてね、そういう気持ちで生きていたいと思うわけ」
世に素晴らしい作品を残している人たちに共通するのは、どんな小さなことにも拘り続けるということだ。もちろん、拘りすぎて手離すタイミングを逸してしまうのは御法度だけど、自分が携わるものにはいつだって真摯に向き合っていかなくてはならないと、改めて思い知らされる。
そんなことを考えながら原稿を書いている今は、午前3時で宵の喉。もうすぐ朝刊太郎が来そうなので、前編はこのへんで。「12番街のラグ」を聴いて、明日(今日)も頑張らなくちゃ!
文/花井優太
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