春からのクールが終わり、今年も実に様々な話題の新作が目白押しの夏ドラマ。そのなかでも、人気漫画を原作に、一風変わったファンタジー作品として期待されているのが、キスマイ玉森裕太主演の『信長のシェフ』だ。
2013年1月から第一弾が放送され、その続編となった今作では、信長にとって永遠のライバルとして立ちはだかった甲斐の名将・武田信玄との攻防を中心 として描かれているというが、玉森演じる主人公・ケンの役割は、信長の料理頭。となれば、当然気になるのは料理の話だ。
現存する史料に基づいて言うと、ケンの仕える信長の好物は、しゃもじに味噌を塗って炙った『焼き味噌』。豪華絢爛な安土城を拠点とし、権勢を奮った"覇王"としては、いささか質素で地味な料理に思われるかもしれないが、その実、野菜や油を練りこみ、地味ながらも滋味あふれる料理となっている。終生、戦場に立ち、陣頭指揮をとり続けた信長らしいといえば信長らしい、実に合理的な「戦う男の食事」といったところであろう。
なお、この『焼き味噌』、現代も尾張 地方の郷土料理として受け継がれており、当地の民宿などでは振舞われることも多いため、気になるという人は旅行などで訪れた際に探してみるとよいだろう。
一方、そんな信長のライバルとして今回登場する甲斐の虎・武田信玄の好物はと言えば、「煮貝」。これまた戦国屈指の名大名として知られる信玄のイメージからすれば地味に感じられるかもしれないが、信玄が拠点としていた甲信地方は現在の山梨県から長野県にかけての地域。海に面していないこの地の人々にとって「煮貝」は、冷蔵技術の発達していなかった当時、かなりの高級品であったのだ。しかも信玄が「煮貝」に目をつけたのは、味そのものもさることながら、そ の栄養価の高さからだと言われている。「煮貝」にすることで保存が利くため、信玄は戦闘糧食、すなわち、今でいうところの「ミリメシ」として活用したというわけだ。戦国史上最強と謳われた武田の騎馬軍団は、「煮貝」によって支えられていたと言っても過言ではないだろう。
戦国の覇者として君臨し続けた信長と、その行く手を阻み続けた老将・信玄。彼らは世代の異なる名将ながらも、「戦う男の食」へのこだわりという意味では、はからずも同じような考えを持っていたようである。
文・興津庄蔵
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