日本にとって、2013年はアダム・ウィンガード監督イヤーと言っても過言ではない。なぜならば、すでに本年公開済のオムニバス映画『V/H/S シンドローム』、『ABC・オブ・デス』、11月14日公開の『サプライズ』、11月30日公開の『ビューティフル・ダイ』と4本もの監督作品が日本初お披露目となっているからだ。
絶叫スリラー『サプライズ』より
しかもアダム監督が凄いのは、4本ともホラーというジャンルを選択していながらも、1つとして同じ毛色の作品がないというところ。特に新進気鋭の若手監督によるPOVオムニバス・ホラーの繋ぎエピソードを手掛けた『V.H.S』では、PV出身の若手監督かと思うような荒々しくもちょっとシャレオツな映像を提供しており、演出家・エディターとしての多面性をうかがい知ることができる。
今回取り上げたいのは、日本公開前から高評価の『サプライズ』と言いたいところだが、その前々作に当たる2010年製作の『ビューティフル・ダイ』。『サプライズ』を観てアダム監督のファンになり、その勢いで次に日本公開される今作を観てしまうと椅子からズリ落ちる事必至のため、ここで事前予習といきたい。『サプライズ』のアイディアは『ビューティフル・ダイ』編集中に生まれたものであり、脚本家のサイモン・バレット、役者のAJ・ボーウェン、ジョー・スワンバーグなど、アダム組とも呼べる面々が顔を揃えているという点でも重要作。そして『サプライズ』で炸裂した手垢のついた古典を現代的なスパイスで新作に衣替えするという手法の息吹もここにある。
『ビューティフル・ダイ』は、カリスマ連続殺人鬼・ギャリックがある理由から刑務所を脱獄し、殺人を犯しながら元恋人のサラに再会しようとする様を、アメリカ・ミズリー州にある田舎町の寒々しい景色をバックに描いていくスリラーだ。凶暴な殺人鬼が脱獄して誰かに会いに行くというプロットはさして目新しくない。メジャーどころで言えば、マーティン・スコセッシ監督が古典をリメイクした映画『ケープ・フィアー』などがそうだろう。これら恐怖の再会モノは大抵の場合、怯える一般的価値観の持ち主である訪問される側が最終的に強くなって反撃して相手を倒すか、もしくは頼もしい人物(ヒーロー)が現れて助けてくれるという流れがあるが、アダム監督はすべてを規格外にする。
『ビューティフル・ダイ』より
元彼女サラこそギャリックの犯行を白日のもとにさらし、刑務所送りにした張本人であり、愛する人を裏切った負い目からアルコール依存症になっているという設定で、ヒーロー的立場のケビンも、アルコール依存症のグループセラピーで出会ったインポテンツという描かれ方をしている。一般的価値観どころか、登場人物が一癖も二癖もありすぎるのだ。さらに、その非道な殺しの手口からカリスマと崇められシャバにファンの多い凶悪殺人鬼ギャリックも、単なる快楽殺人者ではなく、人を殺さずにはいられない病的気質の持ち主であり、自らが犯す殺人という行為に後悔と苦悩を抱いている存在として映し出される。
寒々しい田舎町の風景は作品に重苦しさを与え、手持ちを意識したカメラワークは彼らの暗い苦悩まみれの日々を覗き見しているような感覚と閉塞感を生み出す。欲望を制御できずにギャリックが殺人に手を染める場面以上に、サラとケビンが傷をなめ合いながら心を通わせようとするドラマ部分に比重が置かれ、なおかつ殺人場面よりも居心地が悪いという逆転現象もインパクト大。また首を斬られた女性や、両手足をバラバラにされた女性のビジュアルを仰々しくみせることなく、静かに物体として提示する冷めた演出も逆に悪趣味度倍増。アッパー系の『サプライズ』と同じ監督が作ったとは思えぬダウナーぶりに、まずは"驚いて"ほしい。
映画『サプライズ』は11月14日(木)より全国ロードショー
映画『ビューティフル・ダイ』は11月30日(土)よりヒューマントラストシネマ渋谷、ほか全国順次レイトショー
【参照リンク】
・『サプライズ』公式サイト
http://surprise.asmik-ace.co.jp/
・『サプライズ』特集
http://news.aol.jp/special/surprise/
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