2015年のカンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞したミシェル・フランコ監督の『或る終焉』が5月28日より公開された。

主演に加え、製作総指揮まで務めるのは、一癖も二癖もある個性派俳優ティム・ロスだ。終末期医療をテーマに、ティム・ロス演じる看護師と患者たちとの"親密な関係"をリアルに描いた本作で、患者に寄り添い、まるで自らも死の間にいるような、悟りを開いたような繊細な演技を披露したティム・ロス。そんな彼の新境地を開花した、メキシコ出身のミシェル・フランコ監督に話を訊いた。


――病気になられたご自身の祖母と、祖母の世話をしていた看護師との経験が、本作のもとになっているようですが、時に家族の絆をも超える<祖母と看護師との親密な関係>を目の当たりにして、当時どのような感想を頂きましたか?

祖母の看護師に対しては、嫉妬もなくただ感謝の気持ちしかありません。彼女の仕事の難しさはよく理解していましたし、彼女が祖母に対して良くしてくれたことをとても感謝しています。でも僕の叔母たち(祖母の娘たち)は、祖母に対して、あまり褒められない態度をとっていたように思います。看護師はそんな家族関係に対しても、うまく対応してました。おかげで祖母は、良い最期を迎えることができました。


――主演のティム・ロスは看護師として、実に繊細な演技を披露してましたね。彼はどのような役作りをしていましたか?

ティムは看護師のトレーニングを4ヶ月やりました。実際の患者にも接していましたね。その中で亡くなった患者もいました。彼は現場の看護の経験も積んでいましたね。


――ティム・ロス演じる看護師は寡黙ですが、患者に対しての丁寧な接し方がすごく印象的でした。監督は彼の演技をカメラ越しに見て、実際に自分が実体験で見た<祖母の看護師>に通じるものを感じましたか?

祖母の看護師はまるで「鬱」のような悲しい目をしていましたが、ティムも同じような目をしていました。その目を見て、僕は彼に出会った時、彼がこの役を演じられると確信したのです。看護師たちはいつも<人の生死>に対峙しているので、何が重要かをよく理解しています。ティムはその点も今回の役作りに生かせたと思います。


――ティム・ロスの演技は、半分死者のような生気のない演技にも見えましたが、そこすらも患者と気持ちが寄り添っているように感じました。タランティーノ作品のティム・ロスの演技を想像すると、「こんな繊細な演技ができるのか!」と驚いた人も多かったと思います。彼の新しい一面を引き出したように思えますが、監督はどのように思いますか?

映画を観た多くの人たち、そして批評家たちが、「この役はティムが演じた役の中で一番素晴らしい!」と言ってくれました。とても光栄に思いましたね。彼には、このような役を演じる必要があったんだと思います。ハリウッドの俳優たちの多くは、このような役を演じられることを欲していますが、中々そんなチャンスを得られません。

もしこの映画が70年代に撮影されていたら、ジャック・ニコルソンがこの役を演じていたのでは、と思います。『ファイブ・イージー・ピーセス』とか『カッコーの巣の上で』みたいなタイプの映画に近いと思います。また、ジーン・ハックマンの出演している映画や、ジョン・カサヴェテスの映画も近いと思います。自分の作品を、それらの偉大な作品と比べるわけではないですが、僕の作品は、それらの映画が伝えようとしていることに近いと思います。

でも今はそのような映画はアメリカでは作られていません。だから役者たちは、このような役に飢えていると思うんです。だからティムはこのチャンスを掴み、ベストを尽くしたんだと思っています。


――今回、人間の終末期を描いていますが、監督自身「死の孤独」を感じたことはありますか?あるとしたら、どのような時に感じましたか?

ちょっと変な答え方をするようですが、、「死」を考えたことはありますが、なるべく考えないようにしています。何故変な答えかと言うと、「死」のことを考えることを避けているのなら、「なぜこんな映画を作るのか?」ということです。

「死」についての映画を作るということは、建設的に「死」を考えることだと思います。自分や映画を観ている人たちが、映画を通して答えを見つけていくこと、なのかもしれません。「死」について考えることは辛いことですが。
人としての最後を尊厳を持ち、苦痛をあまり感じないようにして「死」を迎えられることがベストだと思います。それがこの映画のテーマです。




『或る終焉』Bunkamuraル・シネマほか全国順次公開中

■参照リンク
『或る終焉』公式サイト
http://chronic.espace-sarou.com/


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