ここまで語ってきたのは、ホームレス小谷という無名の人間が、いわゆるカリスマビジネスで成功していく過程だといえます。
彼は第2章で私が語ったカリスマの要素を知らず識らずのうちに身につけ始めており、うまい形で応用しています。
元々、小谷くんは家入さんにアドバイスされた通りに動いただけでしたが、動いたことではっきり体感したはずです。
「1円で僕を雇ってください」というのは、お金を媒介にした取引というより、出会いのチャンスを作り続けているということなんですね。
50円くらい誰でも払えるでしょう。
つまり、誰もが気軽に、小谷くんとつながることができるようにした、開放的な人間関係を構築しています。
「50円じゃなくてもいいのではないか?」
そう考えがちですが、何もなしにツイッターで「会いに来てください」とか、「会いに行きます」と不特定多数に呼びかけたところで、なかなかきっかけなど生まれません。
呼ぶ側には、何か言い訳が必要なのです。
50円払って仕事をしてもらうというのは、手頃な言い訳ということですね。
だいたい50円で過酷な用事を頼む人はあまりいません。
本当に困っている人なら、プロに依頼するでしょう。
小谷くんが依頼されるのは、「すごく忙しいからコンビニで ○○を買ってきてよ」とか、割とどうでもいい仕事です。
依頼者は本当に困っているわけではなく、ちょっとした理由をみつけて小谷くんを呼んでみたいんですよ。
「呼んでみたら、本当に、小谷くん、来たよ!」
それだけで、話のネタになります。
普通の人にとっては、ちょっとしたイベントです。
小谷くんは知る人ぞ知る人気者になっていて、この前、彼を呼び出そうとしたら、「先約があるので、すみません」と断られてしまいました。
小谷くんにお昼ご飯を奢れば、それだけで嬉しそうにしてくれるので、呼んだ方は何だかいい気持ちになれます。
彼は呼ばれれば、どんな遠くにも出かけて行き、交通費すらもらえないときがあるそうです。
韓国から呼ばれたから自腹で行って、 円もらって帰ってきたこともあると言っていました。
フィリピンへ100万円を寄付しに行ったのも、よい判断です。
呼ぶ側からしてみれば、十分な貯金がある人を50円で呼んでまで支援する必然性が薄くなってしまうんですね。
それに、小谷くんが困っている人に寄付することで、彼に飯を奢ったり祝儀をあげたりしたことのある人は、「徳を積んだ」ような気持ちになれるわけです。
そういうやり方で、お客さんというか、ファンというか、サポーターというか、そういう人たちを増やしていく。
これがカリスマビジネスのある種の基本形です。
ジョブズとホリエモンとか、上の方にいる「大カリスマ」は何だかすごい迫力があって、ものすごく大勢の人に影響を与えています。
だけど、なかなか彼らのようになれるような気はしません。
でも、小谷くんは1件50円でどこにでも駆けつけてくれる。
カリスマと聞いてイメージする圧倒的な存在とはずいぶん違いますけど、多くの人から支持されていて、応援する人がたくさんいる。
クラウドファンディングで呼びかければ、大勢の人が彼の考え方に賛同して動いてくれる。
私が講演やニコ生(ニコニコ生放送)などでホームレス小谷くんを紹介すると、「小谷さんのように生きたいです」という若い人が必ずけっこうな数います。
いろいろな場所に行けて、いろいろな人に出会えて、好かれて、応援される。
そういう存在になりたいのでしょう。
「カリスマビジネス」をテーマにすると、一番気になるのは「どうやってマネタイズするのか?」という方法論でしょう。
でも、小谷くんを見ていると、マネタイズは必ずしも重要ではない気がしてきます。
私たちがついマネタイズを考えるのは、お金がないと暮らしていけないと思い込んでいるから。
だけど、普通に会社に就職をして真面目に働いているつもりなのに、小谷くんより貯金が少ないし、毎日がつらいと思っている人は珍しくありません。
結婚したくてできない人もたくさんいます。
小谷くんは、「小さなカリスマ」になることで、お金を介さずに最短距離で幸せに近づいているのだといえるのかもしれません。
カリスマ論
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