岡田斗司夫の毎日ブロマガ 2019/12/16
今日は、2019/12/01配信の岡田斗司夫ゼミ「明治娯楽物語」からハイライトをお届けします。
今日は、ここに出しているんですけど。
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【画像】『僕!!男塾』表紙 ©宮下あきら・宮川サトシ・近藤和寿/日本文芸社
『僕!!男塾』(やつがれおとこじゅく)というマンガがあって、これ、最近の僕のお気に入りなんですよね。
「僕」って漢字1文字で「やつがれ」と読むんですけどね。「魁」で「さきがけ」と読むのと同じで、漢字1文字をどう読むかというやつなんですけど。
一番最初の『魁!!男塾』というマンガは、ご存知の方もいると思うんですけど、今やすでに『男塾』というのは、マンガの1ジャンルになっちゃってるんですね。
例えば、塾長の江田島平八を主人公にしたマンガとか、あとは伊達臣人が主人公……伊達臣人というところが渋いですよね。他にも、明石剛次が主人公のスピンオフもありますし、大豪院邪鬼が主役というのも、この間、出ました。
あとは『紅!!女塾』という、「ウィルスか何かの作用で、人類の男が全員、軟弱になったので、男塾の伝統を受け継ぐのは女しかいない!」というのもあるそうです。なんかね、この『女塾』はやたらと巻数を伸ばしているんですよ。別にあんまり面白いと思わないんですけど。まあ、そういう女子校モノもあります。
ただ、この『僕!!男塾』というのは、そういう男塾ジャンルのマンガとは違うんですね。
まず、主人公として、売れないマンガ家の宮川というのがいるんですけど。その宮川の部屋に、いきなりドカーンと壁を破って男塾のヤツらが入ってくるわけですね。
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【画像】壁を破る ©宮下あきら・宮川サトシ・近藤和寿/日本文芸社
いわゆる男塾名物の「直進行軍」でガーンと入って来て、壁に穴が開いてしまった。
で、その穴の中にげんこつという愛犬が入ってしまう。すると、この犬が壁を超えた瞬間に、リアルな劇画タッチになってしまうんですね。
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【画像】劇画になるげんこつ ©宮下あきら・宮川サトシ・近藤和寿/日本文芸社
「こうなったらもうヤケクソだ!」と言って、主人公の宮川も、犬を助けるために、この壁の穴を抜けるんですけど、その瞬間に、やっぱりリアルな絵になってしまうんですね。
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【画像】追いかける宮川 ©宮下あきら・宮川サトシ・近藤和寿/日本文芸社
これでわかった通り、「ここは!?」ということで穴を抜けたら、もちろん、そこは男塾なわけですよ。
「まさか、あの壁の穴で男塾と繋がってしまったのか!?」ということで、普通のヘロヘロの絵のマンガ家が男塾に行ってしまうという話です。
これがどんな話なのかと言うと。これが典型的な1話ですね。
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【画像】落ちる田沢と松尾 ©宮下あきら・宮川サトシ・近藤和寿/日本文芸社
まず、「うわーっ」と言って2人が崖から落ちてしまいます。宮川は「田沢君とその友達ー!」と叫ぶんですけど、もう彼は松尾の名前を覚えてないわけですね(笑)。
他の男塾塾生のみんなは「な、なぜこんなことに……!?」って言うんですけど。そこで宮川は1人「いや、こんなことしてるからでしょ」って思ってるわけですよね。
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【画像】歌うみんな ©宮下あきら・宮川サトシ・近藤和寿/日本文芸社
すると、見守っていた塾生達が歌い出します。「日本男児の生き様は 色無し恋無し情け有り 男の道をひたすらに 歩みて明日を魁る」と。まあ、有名な男塾の塾歌なんですけども、それをいきなり歌い始めるわけですよ。
でも、新入りの主人公はこの歌が歌えないわけですね。「嗚呼男塾 男意気 己の道を魁よ」とみんなが歌っている時に「うわっ! みんな歌い始めた! 俺も歌いたいけど、歌詞がわからねえんだよな」と。
そうしていると、「あれ? 変だな。さっきから背中に視線を感じるぞ」と宮川は思います。
振り返ると、空中に例の田沢と松尾の顔が浮かんでいるんですよ。男塾ではよくあるパターン。青空に死んだ2人の顔が浮かんでるわけですね(笑)。
で、この顔が、ずーっと見えているんですよ。「わりと長い間見えるんだな、幻影って…」というふうなことで、これが長いこと見えている。
その後、宮川は寮に帰って、「ああ、変なところだった」と部屋で寝転んでいます。夜中、外へ出て、ふと気配を感じたので空を見ると、夜空にまだ浮かんでいるわけ、この幻影が。
「うわあ、もう10時間以上も経ってるよ! 流石に怖いな。家に帰って嫁に見せよう」ということで、スマホで写真を撮ります。
すると、スマホには映ってないんですよ。「写真には映らないんだ!?」と。
こういう外し方が、男塾マンガとしてはすごく新しいなと思うんですけど。
・・・
なぜ、僕が今日、これを見せたのかと言うと。
こういうキャラをバンカラと呼ぶのはご存知でしょうか?
もうね、知ってる人も段々少なくなって来て。まあまあ、50代くらいの人はわかるだろうけど、もう40代の人はそろそろわからないかもしれない。こういうキャラのことを「バンカラ」と言うんです。
バンカラというのはどういうものかと言うと。
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【画像】『昭和バンカラ派』
これは司敬の『昭和バンカラ派』という、昭和時代のマンガなんですね。この主人公みたいなのがバンカラなんですよ。
帽子がボロボロ、服もボロボロで、ズボンがハイウエストのところでベルトで止めていて、足はなぜか下駄を履いている。
これ、実は全てルールとして決まっていて、ある種の様式なんですね。破れた帽子のことを「破帽」と呼びます。このボロボロの服のことは「弊衣」と言います。で、「高下駄」「ハイウエスト」なんですけど。
このバンカラをテーマにしたのが今日のテキストです。
長いタイトルですね。山下泰平『「舞姫」の主人公をバンカラとアフリカ人がボコボコにする最高の小説の世界が明治に存在したので20万字くらいかけて紹介する本』(柏書房、2019年)。これが今日のテキストです。
(本を見せる)
【画像】『舞ボコ』表紙
このバンカラというのは何か? これは服のことだけではないんですよ。
バンカラというのは、ウィキペディアの定義によるとこのようになっています。
バンカラ(蛮殻、蛮カラ)とは、ハイカラ(西洋風の身なりや生活様式)をもじった語である。
明治期に、粗野や野蛮をハイカラに対するアンチテーゼとして創出されたもの。
つまり、バンカラの前には「ハイカラ」という言葉があって、その後に「ハイカラなのは、けしからん!」ということで出てきたのがバンカラという用語なんですよ。
では、ハイカラとはそもそも何か? 『はいからさんが通る』とかで聞いたことがあるかもわからないんですけど。
ハイカラとは何かというと、明治30年代くらいから流行った言葉で、元は「ハイカラー」、つまり、シャツの襟が高いことなんですよ。
和服の襟ってペタンと寝てるじゃないですか。それに対して、当時の洋服の襟、男性のシャツというのは、今のシャツのように折った襟ではなく、すごい立てた襟だったんですね。
そのもっと前の『ベルサイユのばら』とかの時代には、男性がブラウスを着ていたんですけど。僕らが着ているシャツの袖カラーというのは、そのベルサイユ時代のドレスが様式化され簡略化したものなんですね。
昔は袖も襟もレースでワサワサになってたんですよ。でも、全てのブラウスにそんな物がついていたら洗濯が大変なので、襟と袖の部分だけを取り外せるようになっていったんですね。ワサワサの部分だけを取り替えて、アイロンを掛けたりして、昔は白くてピカピカのシャツを着てたわけです。
日本に洋服が入って来た頃は、このブラウスみたいな「服とカラーが別になっている時代」から、徐々に「シャツに直接、襟とか袖が付いている時代」になってきていて、この襟を上にピンと上げて、顎の辺まで立てたようなな、高いカラー、ハイカラーの服になっていたんですね。
なので、そういう服を着て西洋風を気取っている人のことを「ハイカラ」と言ったわけです。
まあ、当時、そんな最新流行のハイカラーなんかを着る人は……だって、明治時代ですよ? 明治時代って、まだみんな和服を着ているわけですよ? そんな時代に洋服を着るような人は、間違いなく西洋かぶれなわけです。
だから、昭和から平成までは「ハイカラ」と言うと「オシャレな人」的な意味合いで使われることが多かったんですけど、明治時代の当時は「嫌なヤツ」とか「イヤミな人」というような意味もあったそうです。これについては、もっと後で解説します。
そんな「ちょっと嫌なヤツ」であるハイカラの逆が、バンカラなんですよ。
野蛮の「バン」に「カラ」は、もうすでに意味がないんですよ。なぜ「カラ」なのかって、カラには意味がないんです。
フジテレビのアナウンサーに、昔、千野さんという人がいて「チノパン」と呼ばれて人気でしたけど。その後に出てきた女子アナも、みんな「ますパン」とか「あやパン」とか、全部にパンがついてましたよね? そうなってくると、「パン」には何の意味もないですよね?
それと同じで、なんとなくついているのが「カラ」です。
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