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岡田斗司夫の毎日ブロマガ「母親はなぜ千尋に冷たいの?『千と千尋の神隠し』ウラ読み解説」

2019/11/29 07:00 投稿

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岡田斗司夫の毎日ブロマガ 2019/11/29

 今日は、2019/11/10配信の岡田斗司夫ゼミ「『千と千尋の神隠し』を読み解く13の謎[後編]」からハイライトをお届けします。


 『千と千尋の神隠し』13の謎、7番目の謎は「両親の謎」です。
(パネルを見せる)

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【画像】千尋と母親 © 2001 Studio Ghibli・NDDTM

 これを見てください。千尋が「後ろの建物、唸ってる」と訴えても、お母さんは「風で鳴っているだけでしょ」と言って、千尋の顔を見ずに振り返るだけなんですね。
 千尋は手を引っ張ったり話しかけたりしてるのに、お母さんは「気持ちがいいところね。車のサンドイッチ持ってくればよかった」って、お父さんに向かって喋ってるんですよ。

 この辺りのシーン、千尋はずっと母親の注意を引こうとしているんですけど、お母さんは、千尋とは顔を合わせずに会話をしています。
 でも、お父さんとは、ちゃんと目を見て会話をしてるんですね。お父さんとの態度に差がありすぎます。
 もうね、こんなふうに「千尋のお母さんは変だ」というのは、この映画を見た人はみんな気が付いているんです。
(パネルを見せる)

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【画像】千尋の父と母 © 2001 Studio Ghibli・NDDTMnico_191110_05115.jpg
【画像】千尋の母 © 2001 Studio Ghibli・NDDTM

 これは、お母さんが川の岩場を歩いているところ。自分で歩いててもわかるくらい危ないところなんですよ。それで、お父さんに「きゃっ!」と抱きついたりしてるんですけど。
 ところが、千尋に対しては「千尋、気をつけなさい」と、振り返って冷たく言うだけなんですね。

 これ、なぜかと言うと、やっぱり、無意識のうちに「長男を死なせた自分の娘につらく当たってしまうから」なんですね。
 もちろん、意識はしてないんですよ。お母さんも、意識の上では、ちゃんと娘を大事にしているし、息子が死んだのは娘のせいではないとわかっているんです。
 わかってるんだけど、無意識に「千尋の顔を見ない」とか「声の色が冷たい」という、実際の態度に出ちゃうわけですね。

 ハクというのは、千尋の死んだお兄さんで、両親は長男を失ったことを千尋に隠しているわけです。
 だから、このお母さんは千尋に冷たいんです。

・・・

 というわけで、これでようやっと、この映画全体の辻褄が合うんですね。
 なぜ、「このお母さんは娘に冷たい」ということを、画面上でハッキリ見せながら、その理由を語らないのか?
 なぜ、ハクは「昔から千尋を知っている」と言いながら、その理由を言わないのか?

 もし、ハクが、本人が言ったように川の神様だったら、初登場のシーンから、彼の姿が千尋に見えているはずがないんですよ。
 この世界での神様というのは、人間の目には見えない存在であって、夜になって暗くなって、盛り場みたいなところに来てから実体化するんです。
 つまり、ハクは神様ではないんですね。「コハク川の主だ」というのも、今はまだ、それになりかけている状態なんです。
 後半の限定放送の方で、この「『千と千尋』の中における神様というのは何なのか?」というのは、ちゃんと定義していきますけども。

 ところが、ハクは千尋のために死んだんですけど、千尋はハクのために帰り道のない電車に乗って謝りに行ったんです。
 そして「帰り道のない電車に乗る」というのは「ハクのために帰れない死の世界に行った」ということなんですよ。
 ここでようやっと「私は誰かのおかげで生きている。私も誰かのために生きよう」というテーマが完結するわけですね。
 千尋がハクのために自分の死を覚悟して「帰り道がないんだぞ?」と言われている電車に乗って、三途の川みたいなものを延々と走って行くシーンは、もう、これは誰が見てもわかるとおり、死の世界に行ってるわけですね。
 つまり、ようやっとここで「かつて自分は誰かに命を救われて生きている。そのことを、自分は気づきもしていなかった。ならば今、私も誰かのために命を懸けよう」ということで、テーマが一巡するんです。
 だけど、この一巡するテーマという肝心なところを、セリフで言わずに、久石譲の感動的な音楽で持って行くもんだから、それがわりとわからない構造になっているんですね。

・・・

 『銀河鉄道の夜』の中で、主人公のジョバンニは、最初、幽霊のように生きているんですよ。学校の授業もぼんやり聞いてる。
 それはなぜかと言うと、どうも、お父さんの乗っている船が……ラッコの密猟船なんですけど。お父さんは漁師なんですけど、そのラッコの密猟船がどうも事故に遭ったらしいんです。
 「お父さんは死んでるかもしれない」ということで、ジョバンニは心配で心配で、ずーっと学校でぼんやりしている。生きてるか死んでいるかわからないような状態になっていた、と。
 しかし、カンパネルラ達と銀河鉄道に乗って、そこで他人のために死ぬカンパネルラ、他人のため他の子供達のために、あえて人を掻き分けてまで生きようとしなかったタイタニック号の乗員の話とかを聞いて、ようやっとジョバンニは生きる意思を取り戻すわけですね。
 物語のラストで、ジョバンニは、カンパネルラのお父さんから「カンパネルラは、たぶん、もう助からない」と冷静に告げられるんですけど。それと同時に「君のお父さんに会ったよ。もうすぐ帰ってくる」と言ってくれるんですね。
 たぶん、「ジョバンニのお父さんが、船の事故に遭ったのに生きて帰ってこられた」ということは「誰かのおかげで生きる事が出来た」ということなんですね。
 その結果、ジョバンニは「誰かのために生きる」ということがわかって、生き生きとした少年、明るい少年として復活する。
 これが『銀河鉄道の夜』の全体のお話になっているんですけど。

 これ、『千と千尋』も同じなんですよ。
 『千と千尋』でも、冒頭のシーンでの千尋は、ぼーっと生きていて、生きているのか死んでいるのかわからない、食欲もないような欲望がない状態。カオナシのような状態なんですよ。
 そのカオナシのような、欲望のない、何をしたいのかもわからない状態から、人間になる話なんですね。

 そもそも、千尋たちの一家3人が不思議な世界に引き込まれていったのは「3人とも生きているとはいえない状態だったから」なんですね。
 お母さんは、死んだ長男のために娘と向かい合えない。たぶん、お父さんが引っ越しを始めた理由というのも、そんなお母さんのための気分転換みたいなものなんですね。
 だって、仕事の都合とか、全く言わないんですよ。劇中で彼らが引っ越す理由が全く語られない。少なくとも、千尋が理由ではないんです。じゃあ、お父さんが引っ越す理由というのは、たぶん、「お母さんがずっと塞いだ状態だから」ということで、気分転換しようとしている、と。
 だけど、それによって千尋は、なかよしの友達と引き裂かれて、まあ、絶望している。
 果たして、この3人は、この映画が終わった後、どう生きるのかと言うと。これは、後半の最後で語ろうと思っているんですけど。実は宮崎駿は、この家族に大ハッピーエンドを用意しているんですよ。
 でも、この大ハッピーエンドというのが、やっぱり、わりとわからない構造なんです。

 『千と千尋の神隠し』というのは、宮崎駿が宮崎駿のために作った映画であり、宮崎駿は登場人物を心から愛しているので、全員がちゃんと幸せになるような大ハッピーエンドを用意しているんですけども。
 それについては、ちょっと後半で語ります。

参考文献

  • スタジオジブリ責任編集『The art of spirited away―千と千尋の神隠し』ジブリ・ジ・アート・シリーズ、スタジオジブリ、2001年
  • 『ロマンアルバム 千と千尋の神隠し』徳間書店、2001年
  • 『「千と千尋の神隠し」千尋の大冒険』別冊COMIC BOX vol.6、ふゅーじょんぷろだくと、2001年
  • 宮崎駿『スタジオジブリ絵コンテ全集13 千と千尋の神隠し』スタジオジブリ、2001年
  • 宮崎駿『風の帰る場所 ナウシカから千尋までの軌跡』ロッキング・オン、2002年
  • 宮崎駿『続・風の帰る場所 映画監督・宮崎駿はいかに始まり、いかに幕を引いたのか』ロッキング・オン、2013年
  • 宮崎駿『出発点 1979~1996』スタジオジブリ、1996年
  • 宮崎駿『折り返し点 1997~2008』岩波書店、2008年
  • 鈴木敏夫『風に吹かれて』中央公論新社、2013年
  • 押井守『誰も語らなかったジブリを語ろう』東京ニュース通信社、2017年
  • 叶精二『宮崎駿全書』フィルムアート社、2006年
  • 宮沢賢治『新編 銀河鉄道の夜』(新潮文庫)新潮社、平成24年
  • 柏葉幸子『霧のむこうのふしぎな町(新装版)』講談社、2004年
  • 『ジブリの教科書11 ホーホケキョとなりの山田くん』(文春ジブリ文庫)文藝春秋、2015年
  • 『ジブリの教科書12 千と千尋の神隠し』(文春ジブリ文庫)文藝春秋、2016年
  • 『ジブリの教科書19 かぐや姫の物語』(文春ジブリ文庫)文藝春秋、2018年
  • 『宮崎駿「千と千尋の神隠し」の世界 ファンタジーの力』ユリイカ8月臨時増刊号、青土社、2001年
  • ニュータイプ編『千尋と不思議の町 千と千尋の神隠し徹底攻略ガイド』角川書店、2001年
  • 『『千と千尋の神隠し』を読む40の目』キネ旬ムック、キネマ旬報社、2001年

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