岡田斗司夫の毎日ブロマガ 2019/11/18

 今日は、2019/11/03配信の岡田斗司夫ゼミ「『千と千尋の神隠し』を読み解く13の謎[前編]」からハイライトをお届けします。


 『千と千尋』を読み解く14の謎、最初は「不思議な世界の謎」です。
 今回の解説は、基本的にジブリの公式のBlu-rayを参考にしています。

 DVDの再生を始めたら、一番最初、0分0秒にトトロのイラストが入ったジブリのテロップが出ます。
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 これが10秒映ってから、その後、真っ黒な画面になって、この3秒間の黒みの後で、花とカードが移ります。
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 「千尋、元気でね。また会おうね。理砂」と書いてあるカードと花束ですね。
 そして、これを、まあ、やる気のない顔をした少女が、だらしない姿勢で見ている。
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【画像】やる気のない千尋 © 2001 Studio Ghibli・NDDTM

 これで「この女の子が主人公の千尋だ」というのがわかるわけですね。
 舞台は現代の日本。「10歳の少女・荻野千尋とその両親は、新しい街に車で引っ越してくる」というのが冒頭ですね。

・・・

 さて、「千尋たちが、この時、走っている場所はどこか?」ということなんですけども。
 映画の中で、こんな標識が映るんですね。
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【画像】国道の標識 © 2001 Studio Ghibli・NDDTM

 「国道21号線」と「中岡」と書いてあります。
 中岡という地名が実在しているかどうかはわからないんですけど。「これは甲府なんじゃないか?」と言われています。
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 国道20号線を左に曲がると甲府方面に行くので。
 こういった研究は、ブログ「SUDAREの部屋」で、かなり綿密な調査がされています。

 例えば、「最初に出てくるこの場所は、国道20号線近くの、この表札あたりじゃないか?」と。この辺には、劇中に映る「グリーンヒル」という看板によく似た施設の看板もあります。

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【画像】グリーンヒルの看板

 この作品辺りから「どこがモデルなのか?」みたいな、いわゆる聖地巡礼みたいなものが始まってきたんですよね。なので、ジブリも、わざと特定できないように、色々と工夫しているんですよ。
 だけど、SUDAREさんは、そんな中でも、かなりの場所を特定してくれています。
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【画像】サイクルファーム © 2001 Studio Ghibli・NDDTM

 例えば、アニメの画面で、車のミラー越しに見えた「サイクルファーム」というお店と同じ店があるとか。

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【画像】とんかつみのや © 2001 Studio Ghibli・NDDTM

 あとは、一瞬だけ映る「とんかつみのや」という店と、全く同じ場所を見付けてきたりとか。
 アニメに出てきたクリーニング店と、全く同じクリーニング店とか。こんなふうに、かなり特定されています。

 おそらく、八王子周辺の色々な場所の風景を再構成して作り上げているんですけど。ここら辺からわかる通り、『千と千尋』では、かなり、現実の風景をそのまま描くようにしています。
 これが後に『ポニョ』の時に、宮崎駿が「こういうのが嫌になった」と言ってたことですね。
 まあ、勝手ですよね。『千と千尋』の時は、現実の風景を丸々映すように言っておいて、後に『ポニョ』を作る時には「ああいうのはもう嫌だ!」とか「あんなことをやっても意味がない、ダメだ!」と言い出して。美術スタッフは本当に振り回されたそうなんですけど(笑)。

 千尋のお父さんの運転するアウディは、こんな場所を通りながら、「トチノキ」というニュータウンに向かって、分岐点を右に曲がっていきます。
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【画像】ニュータウンとタイトル © 2001 Studio Ghibli・NDDTM

 ここで、タイトルになります。『千と千尋の神隠し』と。
 これ、カメラが上に上がっていくと、住宅街の屋根が見えるわけなんですけど。この坂を登って、本当はこっちのニュータウンの方に行きたかったわけですね。

 ここまでが1分40秒。
 いろんな絵を見せながら、1分40秒でここまで来てるから、実は『千と千尋』って、すごくテンポの良い作品なんですよ。
 テンポがいいわりに、最初40分間は、なかなか事件が起こらないんですけども。

・・・

 1分53秒。途中で、お父さんの車は、杉の老木と倒れた鳥居を抜けて、参道に入ります。
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【画像】老木と鳥居 © 2001 Studio Ghibli・NDDTM

 上から下に、カメラがずーっとパンで降りて行くんですけど。この杉の木、途中で幹が折れているのがわかりますか? 上の方は枝が折れていて、かろうじて葉っぱだけが生えている状態です。
 カメラがずーっと下に行くと、舗装した道路がここで切れていて、もう普通の山道になっているんですね。

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【画像】壊れた鳥居 © 2001 Studio Ghibli・NDDTM

 そして、老木の脇に傾いた鳥居が立てかけられています。
 この鳥居は、絵コンテにも「壊れた鳥居」と書いてあるんですね。たぶん、昔は、この先に行く道にかけてあったんでしょうね。それをもう、外してしまって、道端の木に立て掛けているという、なかなか罰当たりなことがされています。
 おそらく、昔は、このアスファルトの道がなくなって山道になるこの場所から神域いわゆる神様の領域だったんですね。
 これは、そのシンボルであった杉の巨木。メチャクチャ樹齢が多そうな木なんですけど。今や、これも枯れかけて朽ちつつあります。
 しかし、何も知らない3人の乗ったアウディは、この神聖な土地に4輪駆動モードで入って行きます。

 ここで「こっちで合ってるのかな?」と、お父さんがエンジンを一旦ニュートラルにして、周りを見ます。
 すると、千尋が、こんな不思議なものに気がつきます。
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【画像】杉の木の根本 © 2001 Studio Ghibli・NDDTM

 これ、杉の木の根本ですね。立てかけられている鳥居の下の方に、石で作った小さい家がいっぱいあります。
 この小さな家は神様の家ですね。石の祠です。それが、いっぱい捨てられているんですよ。この乱雑な置き方に、ちょっと注目して欲しいんですけど。

 ちょっとアップにした写真があります。
(パネルを見せる)

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【画像】石の祠 © 2001 Studio Ghibli・NDDTM

 アップにすると、この石の祠、明らかに捨てられて集められているのがわかるんですね。
 おそらく、この石の祠は、昔はこの参道に沿って並べられて、ずっと祀られてたものなんです。それを取り払ってしまって、杉の根元に鳥居と一緒に放置してあるんです。
 たぶん、ここを工事した大工さんの誰かが「鳥居と一緒に置いておくことで、せめて祟りがないように」というふうに、かつての神木だった杉の根元にまとめて置いたわけですね。
 よく見ると、この石の祠、屋根とかが外れてしまっているのもあるんですけど、中に小さい食器が入っているのが見えます。
 おそらく、これがお酒とかをお供えする器だったんでしょうけど。この中に1つだけ赤い色の器があるのがわかりますか? まあ、これが、なんかちょっと怖い感じがするんですね。この赤い色が、映画の画面でも目を引くように、ちょっとドキッとするような赤になっています。

 ここまでの話を聞いておわかりのように、この映画『千と千尋の神隠し』って、実はホラーなんですよ。
 基本的にはホラーで、
 後半のファンタジー要素はすごい楽しく作ってるし、ホラーな現場に入っていった後、千尋が千という名前になって働いたりするので、よくわからないんですけど、湯婆婆に出会うまでの最初の30分は、全体的にホラー映画として作られているんですね。
 この辺りの描写、「本当は神聖な領域なんだけど、鳥居とかが取り外されてしまって、神様の家が捨てられている。そんな中に、何も考えずに4輪駆動の車でガタガタと入って行く」というのは、ハリウッドのホラー映画によくある「インディアンの呪われた土地に、何も知らずに一家が引っ越していく」というのと、似たノリで撮られているんですよね。

 千尋というのは、学校を転校して、この時は編入前の宙ぶらりんの状態なんですよ。石の祠が取り壊されて、家がなくなっている、宙ぶらりんの神様と同じ状態だから、この神域の不思議な世界に入ってこれたんですね。
 こういうホラーの定番として、何か縁がないと入れないんですね。そういう意味では、神様たちもこの家族も「家がない」という宙ぶらりんの状態なんですよ。
 ここら辺は、来週に解説しますけど、この両親も、引っ越しの途中なんですけど、実は家庭の危機、家族の危機という状態にあるんですね。この3人共、なんとなくバラバラの状態になっているので、この世界にスッと入れるようになっているんです。
 この両親の家庭の危機というのは、すごくわかりにくいので、来週、丁寧に説明します。3人共、宙ぶらりんの状態なので、神様の土地に間違えて入ってしまったわけですね。


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