岡田斗司夫の毎日ブロマガ 2019/11/06

 今日は、2019/10/20配信の岡田斗司夫ゼミ「驚異の2時間トーク!朝日新聞「悩みのるつぼ」卒業記念講演」からハイライトをお届けします。


 では、実例です。皆さんに配ったプリントの一番最初のやつです。


「父親の借金を背負い続ける彼」

50代のバツイチ女性です。
離婚して10年。一人暮らしも辛くなってきて婚活を始めました。たまたま大学時代の友人と連絡がとれ、婚活の話をすると、ありがたいことに立候補すると申し出があり、お付き合いを始めることになりました。
彼は1つ年上で結婚歴はありません。亡くなったお父さんが多大な借金を残したことは、うわさ話で聞いていました。
わたしは、別居婚には興味がなかったので、何度も確認してから交際を始めたのですが、次第に同居出来ない事情があるらしいことがわかってきました。
現在、一緒に暮らしている叔父さん夫婦に、亡くなったお父さんは多額の借金があり、本人は返済を続けながら、二人が亡くなるまで同居する約束だというのです。また、実はお父さんは自殺で、その第一発見者が彼だったことも聞き出しました。
最初に確認したとき、借金や叔父叔母さんとの同居の本当の理由を話してくれなかったことに不信感を覚えています。また本人の性格と事情から考えると、このままお付き合いしていても、時間が経つばかりで、叔父叔母が長生きすれば、いつまでも結婚も同居も出来ないかも知れません。
一方で、今私が見捨てたように去れば、彼はどんなに辛いだろうかと考えると、もう少し待ってみようと思ったりもします。どうすれば良いかアドバイスをお願いします。


 こういう相談です。

 僕、相談を聞いたら、だいたい「要するにどういうことか?」っていうのを考えるようにするんですけど。
 はい、皆さんが来る前に書いておきました。頭いいでしょ? あらかじめ板書しておいて、その時間分、長く喋ってやろうと思ったわけですね(笑)。
(ホワイトボードを指差して)

nico_191020_01554.jpg
【画像】相談1

 まず「1. 50代で10年前に離婚」。
 で、この人は「2. 同居するために婚活してて、大学時代の知り合いと付き合うことになった」と。
 しかし、「3. 彼には同居できない事情があった」と。これは後出しだったんですけど。
 その結果、「4. 別れるべきだと思うけど、気の毒だし、別れるのは無理」と。

 これが、この相談の概要なんですけど。
 もともと、この人は「独り暮らしが嫌なので婚活している」はずなんですよ。同居人を探すために婚活しているんだから、同居できない事情があるんだったら、さっさと別れるのが、まあ筋なんですね。人情ではなく筋なんですけど。
 でも、この人は嫌みたいです。嫌な理由は、最後に書いているように「今、私が見捨てたように去れば、彼はどんなに辛いだろうか」とカッコいいことを書いているんですけども。
 ……今、俺、こう言って、ちょっとビビってるんですけど。実際にこの相談を送ってくれた人が、この場にいるかもわからないんですもんね。もし、いたら、すみません(笑)。
 まあ、カッコいいことを書いてるけど、本音はね、別れたくないんですよ。人間にはね、「好きだから」とか「もったいないから」とか、いろんな理由があるんだと思います。
 とにかく、自分では「別れたくない」と思っているから、別れたくない理由というのを探して、一応、最後にカッコつけて書いているんだと思うんですね。

 なぜ、僕がそんな読み方をするのかというと、相談文って、だいたい「自分にもこういう悪いことがある」というネガティブなことを入れるタイプの人と、絶対に入れないタイプの人に分かれるんですよ。
 この人は入れないタイプです。弱みを見せないタイプですね。
 ということは、別れたくない理由が「彼が可哀想だから」という部分は、ちょっと割り引いて聞くことにするんです。
 これが、まあ「相談者を疑う」ということなんですけど。

 つまり、理性では「こいつと付き合っても無駄だ」ということが、そろそろわかって来ているんですけど……すみませんね、こんなエゲツない言い方になって。
 感情では「でも、好きなの!」とか「でも、もったいないの!」とか「でも、いい男なんだもん!」「でも、大学の時、彼、モテてたもん!」とか、どんな理由があるのかはわからないんですけど、感情的には別れたくない。
 この人は、理性より感情が勝っているタイプだと思うんですよね。
 なので、「今、私が見捨てるように去れば~」という建前を、つい考えてしまって、その結果、人間というのは面白いことに、自分自身が考えた建前に縛りつけられちゃうんですね。
 本当言えば「彼と別れたくない!」というのが、たぶん本音なのに、その建前として「今、彼を見捨てたらちょっと可哀想じゃないか」という理屈を考えついた。すると、その建前に、自分がいつの間にか縛られてしまって「別れちゃいけない」という気がしてしまう。
 ところが、時間はどんどん経って行くし、自分は誰かと同居するために婚活しているわけで、焦りが生じてきて、同時に「早く別れなきゃ!」という気もしてきている。
 この2つの自分の心が、ぶつかっていると。自分自身が創り出した建前と、リアルな状況という、この2つがコンフリクト(衝突)を起こしちゃってるわけ。
 そこで、この人は「さあ、どうしようか」と悩んでいる。たぶん、普段からあんまり、こういう新聞とかに相談をしないタイプの人だと思うんですけど、相談文を寄せて来ました。

・・・

 じゃあ、どうすればいいのか?
 こうなると、回答者である僕の役割は「彼女に、自分自身の建前に気づいてもらうこと」なんですけど。
 ここでズバッと「あんた、本当はこうでしょう?」って書いても、たぶん何も解決しない。
 では、どうすればいいのか。

 まず、「そいつはダメ男だ」と言わなきゃいけないんですね。
 ところが、彼女はまだ相手の男が好きだから、「ダメ男」って書いたら反発されるんですよ。
 そこで僕が編み出したのが「そんなダメ男を見捨てなかったあなたは偉い!」って最初に書いたんですね。「あなたは偉い!」って書いたら、「彼はダメ男」と書いても、たぶん許してくれるだろうという計算で書き出したんです。
 「ダメ男を見捨てなかったあなたは偉い! ……でも、落ち着いて考えてみようよ」という2段にしようと思って、第1段階では、これまでの行為を褒める。「見捨てなかったのは本当に偉かったですよ! ナイス判断ですよ!」と。で、2段目で「でも、彼の行動をもう一度振り返って、ちょっと考えてみませんか?」と続ける。
 一度、褒めてから「彼のことをちょっと疑ってみませんか?」と言うことで共犯者関係になるわけですね。
 まず、相談者と敵対関係になって、彼女が味方をしている相手に対して、僕が文句を言ってたら、彼女の親とか兄弟が「そんな男と別れろ!」と言っているのと、全く同じ状況になるわけですね。
 そうじゃなくて、まずは彼女と共犯関係になって「ダメ男と別れなかったあなたは偉いですね!」と言ってから、2人掛かりで彼の行動を検証するという流れに持っていかないと、なかなか振り向いてくれないんです。
 そして、第3段階。ここが大事なんですけど、「彼と別れることを勧めない」ということです。
 ここに書かれている状況から見たら僕は絶対に別れた方がいいと思うんですけど、でも、それは僕の勝手な判断なんですね。
 なので、「もし、このまま付き合うとしたら、こういうことを覚悟して、考えた方がいいよ」という提案をしようと思いました。

 この3段構えで書いたのが、こういう答えです。


あなたは素晴らしい女性です。多大な借金を知りながら、結婚前提の交際を始めました。


 もう、ここから始まるんですけど。
 確かに、この人はすごいんですよ。「この彼氏には借金がある」と、友達の噂で知っていながら、結婚しようと思ったんですから。相手のリスクを全部引き受けようと思ったんですよ。
 その意味では、彼女は、僕は色々いいましたけども、度胸がある良い女だと思います。


でも私から見ると、彼はそんなあなたにふさわしくないように感じます。
そもそも、そんな事情がある人がなぜ、あなたの結婚相手に「立候補」してきたのでしょう?
何度も確認したのに、付き合い始めた後でタイミングよく出てくる「なぜ同居できないか」という不幸話の数々。
ついでに言えば、それらはすべて「彼がそう言っているだけ」であって、あなたが自分で確認したことではありませんよね?
「彼の話は全部ウソに違いない」と断言するつもりはありません。でも最悪の予感がしませんか? 「父親の不幸を理由に、50を過ぎて一人暮らしも結婚もせずに叔父夫婦の家に居候するダメ男なのかも?」って。
こういうタイプの男性は結婚が話題にでるたびに、同情させるような話題で「できない理由」を教えてくれます。
居心地の良い居候生活から抜け出したくないので、まるで叔父夫婦の老後に責任があるかのように語ります。
とまぁ、こういう私の一方的な邪推を繰り返しても意味がありません。大事なのは「彼の現状の確認」と「その上でどうするかの判断」です。


 こんなふうに、僕の持っている疑いを全部言ってしまってから、「でも、これは邪推ですから、あなたが確認するのが一番いいですよ?」と言うわけですね。


彼の家に行って、おじさん夫婦と話しましょう。
「結婚前提で付き合っています。あなたたちに借金があるため独立できないと言われました。結婚したら私も借金を引き受けますので、再交渉させてください」って。
もし彼が叔父夫婦に会わせてくれたら、私の言ったことは間違いです。謝ります。
その場合は「優しすぎて何でも引き受けてしまう彼」に代わって、叔父夫婦との口約束を交渉で再契約してください。二人の将来については、彼じゃなくあなたが主導権を持つべきだからです。
でも、もし彼がまたもや「新しい理由」で会わせることを拒否してきたら……わかりますよね? 彼は「そういう男」です。
あなたの動機がいまも「婚活のみ」なら別れるべきでしょう。彼と別れられない理由が「恋愛」になっちゃってるなら、ダメ男との恋愛を楽しむことだけ考えましょう。
50を過ぎて「借金をいっしょに背負ってもかまわない」と思える恋愛に出会えたことだけでも、実はラッキー! そう割り切れるなら、ダメな彼と知りつつもう少し様子見をしても大丈夫だと思います。


 こんなふうに書きました。

・・・

 これを送った時、編集部はかなり驚いたんですね。
 「悩みのるつぼ」って、相談してきた人とコンタクトを取る場合が多いんですよ。「こういう回答が岡田さんから返ってきたけども、大丈夫か?」というふうに聞くわけですね。さすが朝日新聞、コンプライアンスです。
 とはいえ、朝日新聞というのにも、出版社としての矜持というのがありますから、プライドがありますから、もし相談者から「ダメ」と言われても、掲載を下げたりしないんですね。そうじゃなくて、相談文の方のニュアンスを変えたりして、全般の当たりを柔らかくするんです。
 つまり、僕の権利は侵害しない。相談者の権利も侵害しない上で、ちょっと確認を取るわけですよ。
 そしたら、相談した人この50代の女性は、僕の答えに納得してくれなかったそうで、「彼はそういう人じゃない!」って言って来たんですよ。
 でも、僕の答えを掲載することは許可してくれた。まあまあ、やっぱり心の広い人です。
 その結果、新聞に掲載されました。
 その一週間後、編集部から、僕のところに、こんなお便りが転送されて来ました。相談者の彼女からの直メールです。


お世話になっております。
さて、あれから岡田さんのアドバイスをそのまま実行してみました。


 これには理由があるんですけど、後で。


彼に「叔父叔母さんに会わせて欲しい」と頼むと、今更ながら「段取りするから待って欲しい」と言われ、その後「叔父叔母は会いたくないと言っている」と言い出しました。
「それでは自宅に連れて行ってもらいたい。外で見てるから、あなただけ家に入る様子だけでも見せて欲しい」と頼むと「無理だ」と言われました。
「それなら、免許証で住所を確認させて欲しい」と言っても、決して見せてくれません。
とうとう「残りの借金は700万でなく7000万で、叔父はヤクザだった」と言い始めました。
あまりに話がコロコロと変わるので、私も信用できず、別れ話を伝えました。「預かっていた荷物を会社へ本人名で送ります」とLINEすると、慌てて荷物を取りに来ました。
岡田さんの明察通りの展開となり、まさかこんな不誠実な人柄とは思いもよらなかったので、呆れ果ててしまいました。


 僕はこれを読んだ時に、ちょっと呆れたんですよ。
 「まさか、こんな不誠実な人柄とは思いもよらなかったので呆れ果てる」前に、自分の判断力に呆れ果てろよ、と(笑)。
 たぶん、これ、新聞で相談文を読んだ人のほとんど全員が「この男はダメだ」とわかっていたと思うんですよ。でも、本人は気がつかない。面白いことに。
 この呪いみたいなものをちょっと外してあげると、急に動けるんですけど、なかなかこれが外れないんですよね。


ヤクザと言えばこちらが怖がって断ってくるだろうという魂胆なのでしょう。


 こういう書き方から、もう本当に、彼に対する恋愛感情がなくなっているんですよね。


思い出すと、最初から何事も自分からハッキリと言わず、私が推察して言った言葉を利用して嘘を重ねていた印象です。
いい歳をして、相手の本質を見抜けず、すっかり舞い上がっていた自分自身も不甲斐ないのですが、嫌なら断ればいいだけのことでさえ、自分から言わず相手から言わせるように仕向けるやり方にも情けなくなりました。
ちなみに、占い師によると「何度も同じようなことをしているヤツ」らしく、「男女を問わず借金をして踏み倒している、かなり悪いヤツ」らしいです。
この真偽の程も私は調べようもありません。また、そもそも彼が今誰と暮らしているのかも、とうとう判明しないままです。
以上のような結果となりましたが、人は歳月を経るとどのように変貌していくのかわからないといういい勉強をしたと思います。
でも、楽しかったこともあり、お金の被害はなかったので、占い師が言う程悪い人にも思えないのです。やっぱりちょっと甘いかもしれませんね(笑)。
岡田さんには、適切なアドバイスを頂き、よいきっかけを頂きました。お手数ですがお礼申し上げて頂けましたら、お伝えください。
今度は、ちゃんとした結婚相談所に登録しようと思います。


 というふうに書いてありました。
 つまり、この人、僕の回答を読んだ時は納得できなかったので、占い師のところに行ったんですよね。で、占い師に「その彼は信用ならんよ」と言われて、それで、僕が書いていることを確認してみたら、やっぱりそうだった、と。まあ、解決したから良かったんですけど。
 所詮、新聞の悩み相談というのは……さっきまで僕は、とうとうと理屈を語り、推理を語り、「それが当たっただろう?」みたいに、まるで自分の手柄みたいな話し方をしましたが、人生相談において、ロジック、理屈というのは占い師に負けるんですよ。その程度のものなんですね。
 あとは、まあまあ「反省してないなあ」とかですね(笑)。
 でも、この人は、別に結果として上手く行っているから、全然問題ないんですよね。反省する必要もない。
 さっき僕が話した「なんで、自分は騙されたんだろう?」というのも、僕はもう、ある種の呪いみたいなものだと思っているし、角を曲がる時に石に蹴つまずいたみたいなもんだと思うから。
 「原因を特定して、自己を反省して、行動を直そう」なんて、50過ぎてからは考えなくてもいいんですよ。今、上手く行っているんだったら、問題ない。

 このように、新聞の人生相談というのは、相手に納得してもらえるとは限らないんですね。
 でも、その人の役に立たないと意味がない。
 この辺りの加減が難しいんですね。
 必ずしも、相手に納得してもらう必要はないんだけども、でも、役に立たないと意味がないので、時には、その人があんまり聞きたくないことも言わなきゃいけないわけですね。


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