岡田斗司夫ゼミからのお知らせ

岡田斗司夫の毎日ブロマガ「マンガ版『攻殻機動隊』解説第3弾:エロとアクションの第3話「JUNK JUNGLE」」

2019/10/18 07:00 投稿

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岡田斗司夫の毎日ブロマガ 2019/10/18

 今日は、2019/09/29配信の岡田斗司夫ゼミ「【番組終了記念】『なつぞら』総決算+マンガ版『攻殻機動隊』解説 第3弾」からハイライトをお届けします。


『攻殻機動隊』第3話冒頭の解説

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【画像】スタジオから

 じゃあ、『攻殻機動隊』の話に入ります。
 最初に話した通り、今回のエピソードでは、女の人の素っ裸が出てくるので、YouTubeライブでは見せられません。
 まあ、一応、ここまで話したということでご勘弁ください。
 後に、YouTubeでこの『攻殻機動隊』の解説は、公開もしません。見たい人は、嫌でしょうが、皆さんがそういうことが嫌なのはよくわかっていますが、ドワンゴのニコニコ動画に登録して、無料登録で見れるそうですから、そっちでお楽しみください。
 じゃあ、ここでYouTubeライブ終わってください。
 ここからは、ニコ生で見ている人だけです。無料の人も限定の人も、もちろんプレミアムの人も見れます。まだ無料放送はしばらく続くから、安心してください。

 久しぶりの『攻殻機動隊』の解説になります。
 『攻殻機動隊』の第3話は、いよいよ本題に入るという話なんですね。
 というのも、第1話は前フリで、6ページか8ページくらいしかなくて、第2話は攻殻機動隊が設立されるという、いわゆるプリクエル(前日譚)みたいなものなので。この第3話から、いよいよ本題に入り、「人形使い」とかも出て来るわけです。
 それでは、さっそく『攻殻機動隊』の第3話に入ってください。よろしくお願いします。

(映像再生開始)
 士郎正宗『攻殻機動隊』(講談社)、今回は第3話「JUNK JUNGLE(ジャンク・ジャングル)」をやります。
 一応、『攻殻機動隊』らしい話ですか。前回の「SUPER SPARTAN」というエピソードが攻殻機動隊が創設されるまでの紹介話だったので、今回で初めてお話の中に入っていきます。
 『攻殻機動隊』という作品には、全体のテーマとして「意識とは何か? 人間とは何か?」というのがありまして、その他に「正義とは何か?」っていう裏テーマみたいなものがあるんですね。
 この「正義とは何か?」というのは、ちょうど『攻殻機動隊』とほぼ同時くらいに少年サンデーに連載されていた『機動警察パトレイバー』でも扱っているテーマなんですけど。『攻殻機動隊』とは、ちょっと扱い方のタッチが違うんですね。
 『機動警察パトレイバー』の方はのんきなお巡りさんの話なんです。ノンポリ(ノンポリティカル)っていうのかな? 「現代の若者の気質を残したままの公務員としてのお巡りさんが、正義というものについて、徐々に徐々に考えるようになってくる」っていうお話だった。
 それに対して、『攻殻機動隊』は、まず対テロ組織ということで、最初から、自分たちの行動原理に「正義とは何か?」というのが入ってくる。特に、マンガの後半において戦う相手は、反社会的勢力ではなく、日本国とか、もしくは国家政府の中での部署争いとかになってくるので、余計に「正義とは何か?」ということを考えざるを得ないということになっています。
 今回は、そういう部分に注目しておいてください。

・・・

 では、表紙です。
(パネルを見せる)

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【画像】『攻殻機動隊』表紙 ©士郎正宗

 この見せ方を見てわかる通り、士郎正宗さんは、表紙の扉絵から、「今回はアクションモノで行くぞ!」と宣言しているわけですね。
 フチコマというロボットが、前回のちょっと可愛らしい動きみたいなところから一転して、わりと口径が大きい銃の弾帯をズラーッと垂れていて、表情がわからないカメラレンズをこちらに向けている。
 そんな中、バトーという、このマンガの中では武闘派の人が、有線で繋がれている。いわゆる無線連結ではなく、有線でフチコマと電脳的に接続されている様子を見せて、ちょっとハードな一面というのを出しています。

・・・

 では、1ページ目。
(パネルを見せる)

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【画像】ジャングル ©士郎正宗

 いきなりベトナム戦みたいなジャングルが描き出されます。
 士郎正宗の絵というのは、色使いがすごく特徴的なんですね。今回も、南国風のかなり強い日差しというのを見せています。
 おそらく、この時代の日本というのは、今とはちょっと気象条件が変わっているんでしょうね。もともと、日本というのは、亜熱帯気候から温帯気候の境目なんですけども、それが、この2、30年くらいで気象変動によって亜熱帯モンスーン気候という帯域に変化しています。
 「一応、亜熱帯モンスーン気候ではあるものの、南国ではない」ということで、こういう葉っぱが長い植物や枝の高い植物を描くことによって、日本っぽい雑木林であることを示しています。いろんな種類の木が見えている、植生があるところから、雑木林的な所であることがわかります。
 そんな中、バトーが張り込み調査をしています。


バトー:くそったれ、エアコン使えねーのに、こん中にいられるか。もーやめやめ!!


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【画像】テントからバトー ©士郎正宗

 そう言って、テントからバトー君がズルズル出てくる、と。
 まあ、バトー君は、本当はこの中で待機しなきゃいけないんですけど、命令違反で、匍匐前進をしていると、近くで地雷を見つけます。


バトー:感圧式警報機にゴルゴン地雷? ダミーか……。バッカでェ~~、もったいねえ仕掛け方!! あとでもらって帰ろうっと!


 これは、iPadみたいな薄いやつが、そこら中に葉っぱの下に広げてあるわけですね。このどれかを踏んだら、こいつがボンと地面の上に跳ね上がって、四方八方に弾を出すという仕掛けなんでしょうか?
 戦争映画とかが好きだったら、「感圧式警報機」とか「ゴルゴン地雷」という言い方でわかるんですけど、ちょっとそういうのを知らない人にとっては不親切な作りになっています。
 まあ「不親切でも構わない。このマンガはアクションマンガなんだ」という意味で描いているんでしょう。
 亜熱帯のジャングルの中で、ずーっと見張り番をやっているバトー君のツラさというのを表してます。

・・・

(パネルを見せる)

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【画像】気配を感じるバトー ©士郎正宗

 で、次のページに行くと、バトー君が「あれ?」と思って振り返る。これは、後ろに気配を感じるんですね。
 こういう気配を感じる能力のことを、後に草薙素子は「ゴーストが囁く」と言うんですけど。ここら辺は、もう「職業的な勘が冴えている」という状態ですね。

 「何かな?」と思ったら……わかりにくいんですけど、当時の士郎正宗の絵の描き方です。噂によると、無地の透明のスクリーントーンに、いろんな模様をパソコンでプリントしたものを出力して、それを普通のスクリーントーンみたいに貼っているので、こういう液体みたいな表現が出来るそうなんですけど。
 何か透明なものが葉っぱを踏む描写があった後に「わしだ」と言って荒巻が出てくる。
 この2コマ目の後の3コマ目の荒巻の右肩には、同じように流れるようなものが乗ってます。ここから、これが光学迷彩の生地だということがわかります。このマンガの中での光学迷彩というのは、一番最初に出てきた時から、「あくまでもプロジェクターの膜みたいなものを人間が着ないとダメだ」という設定になってるんですね。
 最近の映画版とかでよくある「とりあえず、着ている服があっという間に透明になる」という都合のいいSF映画みたいな設定ではなくて、この頃の作者が描いている光学迷彩というのは「専用の布があって、その布が透明になる」という設定なんです。まあ「透明になる」というか、後ろ半分の背景を映しているんでしょう。
 これを肩に当てている。つまり、バトーの前で透明化を解いて「わしだ」と言ったわけですね。

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【画像】銃とバトー ©士郎正宗

 対するバトーは、一応、気配を察したので、銃をいつでも撃てるように、最小限の音だけさせて準備をした。だから、ここで「チキ」という僅かな作動音がしているんです。
 ここでのバトー君が偉いのは「わしだ」という声を聞いたからといって、目標から視線を外していないところですね。この辺りがプロの行動です。
 これ、ヌルい映画とかでやっちゃうと、プロであっても、監視対象から視線を外しちゃうんですね。「前の方を監視しろ」と言われて、後ろから近づくものがあったら、反撃用に銃を準備するのは構わないんですけど、それが味方だった場合、視線を外しちゃいけないんです。
 なので、バトー君は前を向いたまま、ずーっと、このまま喋ってます。まあ、ここからはゆるくなってくるので、視線は徐々に外しますけど。ここまでは警戒態勢です。

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【画像】バトーと荒巻 ©士郎正宗

荒巻:動きはあるか?
バトー:この32時間でくだらなーい電話が2回。それ以外はなーんにも。交代も差し入れも何も無し。
荒巻:まあ、一パイやれ。
バトー:ああ! こいつはどうも!
荒巻:韓国の情報筋の警告通り「人形使い」がネットの各端末に介入し始めた。
バトー:正体不明で超ハッカーの? それがこのはりこみと関係あるんで? あ、これ割りましたね?


 バトー君が愚痴ると、「まあ一パイやれ」ということで、お酒を貰います。
 そして「人形使い」という人物名が出てきます。これが、まあ、この単行本1冊丸々に出て来る悪役みたいなもんです。
 で、そいつは「正体不明で超ハッカーだ」と。こういうセリフ、本当はイヤなんでしょうけどね。説明ゼリフです。
 そして「お酒かと思ったら水割りだった」ということで、ちょっと文句を言っています。
 ここから次のページに行きますけども、色味だけ覚えておいてください。本当に濃い緑です。

・・・

(パネルを見せる)

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【画像】バトーたちと少佐たち

 最初は原色の緑だった場所から、次のページがいきなりこんな感じになるんですね。
 このヨットの帆をコマの枠線に見立てて、帆を堺に、バトーのいる側の世界と、少佐のいる世界との差というのを見せています。少佐は休暇中で、青い空の下、日光燦々と降る中、女友達と愛欲三昧の日々ということで、バトー君の今やっていることとのコントラストを出しています。
 ずーっとコマの外側で「みんみんみんみん」という蝉の声がしています。


荒巻:その傾向から、ガベル共和国との秘密会議に対する妨害の気配がしとる。
バトー:じゃあ秘密会議とは言えませんねェ。


 「秘密」の所に濁点が打ってあるんですけど。「こういう会話で普通に出て来るようだったら、もうそんなものは秘密じゃねえわな」ということです。
 バトーが見張っている先にあるのは、実は、ガベル共和国の秘密会議に近い状態。まあ、それの前交渉みたいなもんですけど。


バトー:俺がはってるのは、会議の情報を漏らした奴? 「人形使い」を雇って妨害しようとしている奴?
荒巻:「亡命希望中の軍政指導者」それだけだ。


 バトー君には、何を見張れと言われてるのか説明されてないんですね。
 「亡命希望中の軍政指導者」とは、バトーの視界にいるこの人のことです。ガベル共和国という国の軍人さんの偉い人なんでしょう。その人が日本国に対して亡命を希望しているけど、まだそれが許可されていないという状態。
 お話の中で、これが段々と大事な情報になっているんですけど。この一番最初の2ページ半くらいのところで、作者はそれをザーッと説明しています。ここから段々とアクションシーンになります。

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【画像】バトーと荒巻 ©士郎正宗

バトー:わざわざそれを言いに?
荒巻:違う。お前の回線で草薙を呼び出せ。第17フラットに来いと伝えろ。


 「フラット」というのはマンションの部屋みたいなもんですね。17番目のマンションの部屋だと思ってください。


バトー:え、少佐は夏休みで――
荒巻:休暇は取り消す。


 荒巻がそう言うと、バトー君はものすごく嬉しそうに「えへへっ」と笑います。
 では、たった今、休暇を取り消された少佐はどこかというと、もう、この下にちょっとエロい絵が見えていますね。
 ここは、『攻殻機動隊』の中で、士郎正宗がおそらく初めて意識的に描いたエロシーンで、これ以降はあんまり出てきてないので珍しいんですけど。
 ここでこれを入れたのには理由があって、『攻殻機動隊』というお話の中では、現実と擬似感覚というのがしょっちゅう出てくるんですね。
 特にこの「JUNKJUNGLE」というのは「人形使いによって普通のゴミ清掃員が、脳に疑似記憶を入れられて自分の過去を丸々すり替えられていた」という話なんです。だから「疑似体験というのは怖いよ?」というお話なんですけど。
 同時に「そんな中、少佐は、公安で正義のために働いておきながら、アルバイトでエロVRを作ることをやっていた」という。そういう両面性を表しています。

・・・

 次のページに行くと、もういきなり青空がドーンと、コマの外にまで割り出していますね。
 「あら、ファランクスは?」ということで、まだ来てない仲間について話しているのか、もしくは「何か薬を持ってきてくれるはずだった」ということを言っているのかもしれません。
 周りに色んな情報があるんですけど、基本的にはレズビアンAVを作っているわけですね。
 ここでアヘアヘ言っている少佐を、友達が2人がかりで責める。
 なんでこんなことしているのかっていうと、実は、少佐の身体というのがAVの録画機械として大変性能がいいからです。「光ファイバー系だから電磁ノイズも受けないし、皮膚組織に関して1平方センチメートルあたり、16の自乗の素子が入っているので、メチャクチャ感度がいい」とか「人間の触覚とかと比べて、もっともっと素子の触覚組織の性能がいい」という情報が、ここに入っています。
 そうやって、2人がかりで責めて責めて、この素子さんが感じている快感というのをダイレクトに録画しようとしているわけですね。
 これ、売り物なんですよ。買った人はどうするのかっていうと、これを頭の中にガチャンとはめる、と。まあ、お客さんはもちろん女の人なんでしょうけど。そうすると、この素子さんが今感じている快感を脳でダイレクトに受けることが出来るというような、まあ闇バイトをやっているわけですね。
 『攻殻機動隊』という作品について、アニメ版とか映画版と、この原作マンガ版の大きい差の1つに「草薙素子のプライベートが描かれている」というのがあると思うんですね。
 別の話でも、草薙素子は同棲している男性とキスして「今日のパーティーどうする?」っていう話してたり、結構この人はこの人で、真面目に世界のこととか正義のことを考えて生きているだけではなくて。
 「それはそれ」ということで、5時になったらさっさと仕事を切り上げて、自分の好きなことをやったり、恋人と同棲したり、パーティーに出たり、こういう闇バイトをやったりしているんですね。
 そういうプライベートな生活が出てくるというところが、このマンガ版の『攻殻機動隊』の特徴です。
 真ん中のコマで、腕に塗られている液体みたいに見えるものはプログラムだそうです。
 プログラムを目に見えるようにしている、と。こういう見せ方も、ちょっとねSFマンガとして新しいと思うんですけど。
 バーチャル空間内で、何か新しいプログラム、もしくはアプリみたいなものを入れると、どう見えるのかというと「いきなり世界がカチャッと変わる」とか、もしくは「物で表現する」とか色々あると思うんですけども、この中では、せっかくアダルトビデオっぽいものを撮っているんだから、液体みたいなものとして表現しているんですね。

・・・

 すみません、もう少しだけエロいシーンが続きます。もうあと1ページで終わりますけども。
 ということで、「連絡を取れ」と言われたバトー君は、なんかこう、責められて責められて気持ちよくされている真っ只中の少佐に繋がってしまうわけですね。
 バトー君は「あッ、ヤクか?? こりゃやべえ!!!」ということで、反応すると、素子さんの腕に仕込まれていた解毒剤というのか、覚醒剤というのか、現実に戻る装置みたいなものが強制的に起動します。
 おそらく、これも本当に、こんな機械が腕の中に入っているとは限らないんですよ。たぶん「身体の中に入っている小さいプラントが起動して、表面では見えないような液体が体をめぐる」とか、もしくは「脳の中のプログラムが起動した」というだけなんですけど。
 「これは、あくまで周りの人に今何が起こっているのかわかりやすくするために、こういう画像を見せているのだ」と、欄外にちょっと説明が載っています。
 バトー君は、いきなり素子の脳とシンクロしてしまったので、急にこの気持ちよさがバトー君の中にまで入って来てしまった。
 おまけに、それは薬で増幅されているので「あッ、ヤクか??? こりゃやべえ!!!」ということで、強制的に回復剤というのを注入したんです。
 本当に素子の中に回復剤が注入されているというよりは、プログラム的なものだと思ってください。それらを、さっき、プログラムを液体として見せたのと同じように、こういうデバイスとして見せているんですね。
 すみませんね、なんか説明がわかりにくくて。

・・・

 覚醒剤を打たれて、正気に戻る素子さん。「覚醒剤」というのは、この場合、「目が覚める薬」という意味での覚醒剤ですね。「はッ」と言う時に、後ろにバトー君が見えるのは、まだバトー君と繋がっているからですね。
 実は、素子は自分のマンションの部屋にいました。たぶん、背景に見えるのが読み取り機械ですね。友達2人がこれに繋がれている。

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【画像】自分を殴るバトー

 バトー君は「ぐえええええ、ハラの中に~~~気持ち悪りぃ~~!! 端末がない器官でよかったぁ~」と文句をいって、その後、自分で自分を殴ってますけど。これは、素子が強制的にバトーの運動神経に介入して殴らせたんですね。
 バトー君が「気持ち悪りぃ~!」と言っているのは、自分の中にない器官、女性器というものの感覚を、急に頭の中で再生されてしまったので……もともと女性用のVRですから。それを男性がやってしまったので「お腹の中にあるはずもない器官があるような気がして気持ちが悪い」と。そんなことを訴えたところ、殴られました。


バトー:非常招集、フラット17。
草薙:20分後に到着予定と伝えなさい!


 まあ「フラット17にすぐ来い」と、という事務会話があった後、素子は友達から文句を言われる、と。
 「もう、イコライザー返してッッ!!」と。たぶん、イコライザーというのは自分の感覚を録画する装置のことでしょうね。
 それに対して、素子は「帰る時、部屋のシール固めといて!」と謝りながら出て行く。「部屋のシール」とは何かと言うと、おそらく、素子は一度外出するごとに、いろんな場所を封印していって、誰かが勝手に入った時にわかるようにしているんでしょうね。親しい友達にそれを伝えて去ります。
 ここまで来て、ようやっと草薙素子がドラマの中に入ってくるんです。
 本当言えば、一番最初にバトー君が見張っているシーンが草薙素子でもよかったはずです。お話的には、そこに部長が来て「人形使いが~」って話をしてもいいはずなんですけど。
 やっぱり、士郎正宗というのは、裸の女の人を描くのが好きなもんですから、出来れば裸の女の人を出したい。なにせ、カラーページがこんなにもらえる機会というのは中々ないんです。雑誌においてカラーページというのは別格の扱いですから。
 そのカラーページを8ページくらい貰った時に「一番最初に緑の深いジャングルを描いて、その次にシーン変わったら、真っ青な海の上で、女の人の日に焼けた褐色の肉体が、くんずほぐれつしているというようなものを見せてから、ドラマに行きたい。ドラマに言っちゃったらもうあとは白黒でも構わねえや」という、ちょっと思い切ったページの使い方をしています。
 他にも、この裸のシーンというのは、今回のお話全体の「人間の本当の記憶と、疑似記憶というのは見分けがつくのか? その見分けというのは本当に大事なのか?」というテーマを語る上で、実はなくてはならないものなんですけど。
 あまりにもエロいために、あんまりそこらへんは評価されていないんですね。

・・・

(パネルを見せる)

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【画像】ヘリコプター ©士郎正宗

 ということでシーンは変わります。この奥のジャングルみたいな場所からバトー君が見張ってたわけですね。そこにいきなりヘリコプターみたいな、オスプレイみたいなものが着陸します。それを部長が迎える、と。
 これ、さっきのシーンの続きなんですよ。バトー君が潜んでいた森の中に部長が入って来て、バトーに「見張りはもう終わりだ」と告げてるんですね。「なぜかというと、俺がこの場に入って行くから」ということで、森の中からガーッと歩いて行ったら、このヘリみたいなものが降りてくるというわけです。


外務大臣:やあ、荒巻君。外務省に何か用かね?
荒巻:おはようございます、大臣。


 本来、内務省の荒巻部長というのは国内のテロ事件の担当だから、こういう国際的な外務省がいるような場には不釣り合いなんですよね。
 ヘリの中から睨んでいるこいつは、おそらく、外務省側のボディガードです。だから、「本当は公安なんかいらない」と。
 「外務省に何か用かね?」に対して「ガベル共和国ですが」と切り出すことで、この中で行われている秘密会議を知っていることをほのめかしながら、「そこに用があります」と荒巻は伝えます。


荒巻:ガベル共和国ですが、
外務大臣:要度6。難度1。ランクE。さほど重要ではないな。外交的にも経済的にも、どうという事のない小国だ。もとは軍政だったが、革命後はまあまあ民主的にやっとるよ。たしか、革命軍の戦術指導に君の部下があたってたな。
荒巻:そうですか。


 このセリフで、この情報を部長が知らなかったということがわかります。
 部長の元部下が、部下を辞めたあと、ガベル共和国の中に入って民主政権を建てた、と。


外務大臣:もと軍事政権の親玉であるマレス大佐が、病気療養と称して我が国に滞在しとる。


 これが、さっき話していた亡命希望者ですね。元・軍事政権の親玉であるマレス大佐というのが、部長の部下に革命を起こされてしまって、本国から逃げざるを得なくなった、と。
 その後も「こりずに本国の軍政派に支援を送っている。お陰で今も軍政派がプラチナの鉱脈を押さえている」という、ややこしい話がずーっと続いています。
 外務省としては、ガベル共和国は普通の民主国になって欲しいんだけども、実は日本国の部長の部下がガベル共和国でクーデターを起こしてしまった。その火消ししている最中なんですね。
 そういうことがわかって、部長としても、ちょっとバツが悪い感じですかね。

・・・

(パネルを見せる)

 ここまでがカラーで、ここからはモノクロになっていきます。


荒巻:では、秘密会議というのは?
外務大臣:空回りのODAだ。稼いだ金じゃないから身につかんし、搾取の返済だと思っているから誰も感謝せん。
荒巻:厳しいですな……マスコミはオフレコ発言でも流しますよ。


 「今やっている秘密会議の内容はなんですか?」と部長が聞くと、「ODA関係だ」と。
 ODAというのは何かというと、政府の支援のことなんだけど、「基本的にそれぞれの国が自分で稼いだ金じゃなく、金持ちの日本が融資している、貸している、もしくは支援しているだけなので、身につかないし、もともとは日本がそれらの貧乏な国を利用して稼いだ金だと思っているから、誰も感謝してくれない」と、大臣は本音を漏らします。

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【画像】荒巻と外務大臣 ©士郎正宗

荒巻:で、政府の意向は?
外務大臣:あの国は極めて不安定(デリケート)だ。様子を見ないと世論処理が難しくなる。マレス大佐を放り出し援助を進めるか、大佐の亡命を公式に認めて援助を断るか……。


 この辺りが外務省の悩みどころですね。
 どういう意味かというと、「ガベル共和国の民主化というのは、日本国にとっても都合がいい民主化だ」と認めて、援助をこのまま進めるという方法が1つ。
 もう1つは「こんな方法で民主化されても、例えばソ連なり、米帝なり、どこか日本に都合の悪い国と仲良くするための民主化かもしれない」ということで、大佐の亡命を認めて、もう一度、軍事政権に戻すために、共和国への資金源を断つ意味で援助を断る。
 かなりバックグラウンドがあることを考えています。


荒巻:プラチナ関係の金の流れを監視したら面白いでしょうな。
外務大臣:税金のムダ使いはいかんな。


 これに対して、荒巻はこう言ってます。
 なんでこういうことを悩んでいるのかというと、日本政府はODAとしてガベル共和国に援助をしているんですけど、ガベル国内の軍政派からの賄賂が、日本、特に外務省に向かって流れているということを、荒巻は察しているんですね。
 「それを私は知ってますよ。プラチナの鉱脈がガベル共和国にあるでしょう。そのプラチナ鉱脈の利権が外務省の方に流れているんですよね?」ということを言うと、「そんな監視のような税金のムダ使いなんて出来ない」つまり「その金は、俺が外務省の中で立場を維持するのに必要な金だから、そんなことはやりたくない」と。
 ということで「民衆の代表、つまり政治家っていうヤツは、なんでこうなんだろう」と荒巻は憤ります。
 一見、ここまで、ずーっと「日本政府はガベル共和国を支援するかどうか?」「あの国が軍事政権であるか民主主義であるか、どっちがいいのか?」っていう話しをしているんだけど。
 「それ以前に、日本の政治家に対して、プラチナ鉱脈の利権で金を流してるでしょう?」ということで、荒巻部長はそういうことが嫌いですから、「そこら辺も、バンと洗っちゃえばいいじゃないですか」と言うんですけど。「そんな調査に税金のムダ使いは出来ない」=「外務省はその件に関して触れるつもりはないよ」と言われて、まあ、こういう政治家に対して、やっぱり、イラッとしている、と。
 しかし、「それはそうと、軍政側に戦術指導した奴がおるな……」ということで「実は自分の部下が軍事クーデター側にかつて手助けをして、そのおかげでガベル共和国で軍事クーデターが起こった」と、外務省側からの好意で荒巻さんは教えられ、ピーンと来たということで、お話が進み始めます。
(映像中断)


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