岡田斗司夫の毎日ブロマガ 2019/08/16
今日は、2019/07/28配信の岡田斗司夫ゼミ「【月着陸50周年記念】アポロ宇宙船(後編)月着陸と月面歩行」からハイライトをお届けします。
こんなふうに、アポロ11号の月着陸船まで、重さとの戦いは続きました。
例えば、アポロ11号の1つ前のアポロ10号というのは、月まで行ってるんですよ。この月着陸船とアポロ宇宙船のセットで。
アポロ10号の時点で、ですよ? 月まで行って、おまけに、2人乗って、着陸船の脚もちゃんと広げて、月の15キロ上空まで行ってるんですよ。
そのままロケットちょっと噴かしたら、月面に降りられたんです。燃料も全部積んでいたんですよ。
じゃあ、なぜ、アポロ10号は月に着陸しなかったのか?
これについて、トーマス・スタッフォード船長は、地球に帰ってから、アメリカのマスコミに「なぜ、あの時、降りなかったんですか? いや、NASAは『まだテスト段階だからやめておけ、アポロ11号まで待て』と言っていたことは知っていますが、あなたは1人の男として、命令に逆らって降りたくならなかったんですか?」と、散々聞かれていました。
当時、僕が子供の頃、日本のニュース番組でも、「なんで、アポロ10号は、全部用意できていたのに、降りなかったんでしょうね?」と言われてたんですけども。理由はちゃんとあったんですよ。
その理由は簡単で、「アポロ10号時点での月着陸船は重すぎたから」なんですね。
アポロ10号というのは、アポロ11号の3,4ヶ月前に打ち上げられたんですけど、この段階では、まだ月着陸船が重すぎたんですよ。なんとかギリギリ月に着陸できるんですけど、これでは機体が重すぎて月から上がって来れなかったんですね。
なので、アポロ10号の月着陸船は、月に降りたくても降りれない。それは「ここで降りてしまったら、上がって来れなくなるから」という理由だったんです。
アポロ10号の時の月着陸船は4号機でした。アポロ11号用の5号機で、ようやっと月から上昇できる軽さになったんですね。
パワーじゃないんですよ。もう本当に、軽さの問題だったんです。それくらい、まさに「グラムとの戦い」でした。
最初に、この大きい窓が外されて小さなのぞき窓になって、着陸脚が5本から4本になりました。
さらには、さっきも言ったように、本当はハッチからウィンチで吊り下げられて降りるはずだったのが、「これでは重すぎてダメだ!」ということで、「脚に1つにハシゴを付けときゃいいよ!」ということになりました。
このハシゴ、あの実物もっと細いんですね。針金みたいな、6分の1重力でしか人間を支えられないハシゴがついてて、これを踏みしめて降りるというタイプになりました。
そのおかげで、実はアポロの月着陸船って、月面で怪我をしたら、もう生きて帰れないんですよ。
吊り下げてウィンチで吊り上げる方法を使えば、仮に月面に降りた後で1人が病気をしたり怪我をしても、そのウィンチで引っかけて持ち上げれば、2人とも生きて帰れるんですね。
ところが、このハシゴ方式にしたら、どんなに訓練しても……本当に訓練したんですよ。訓練した結果、「月面で1人が意識を失ったり、動けなくなったりしたら、もう絶対に月着陸船には乗れない」というのがわかったんです。
だから「その時は、もう怪我してない方だけで、さっさと帰って来い。1人を置いてこい」と言われてたんですけど。それくらいメチャクチャだったんですよ。
それくらい、軽量化との戦いだったんです。たぶん、あと何キロか増やせれば、この月着陸船にもウィンチが取り付けられて、2人とも生きて帰って来れたんですけど。
なので、宇宙飛行士というのは、「とにかく、絶対に月面で転んじゃいけない!」と言われていたんです。
転んだ拍子にフェイスグラスにちょっとでもヒビが入って空気が漏れたら、もう、その瞬間に、そいつは帰って来られなくなるんですね。
だから、アポロ11号のアームストロング船長は、月面では絶対にジャンプをしなかったんです。
だけど、2番目に降りたオルドリンは、ちょっと調子に乗ってピョーンピョーンとジャンプして、後でNASAから「転んだらどうするんだ!?」って、メチャクチャ怒られたんですけど(笑)。
アポロ12号では、さらに大きくジャンプしたり、あとは、ゴルフのボールとクラブをわざわざ自分で持って行って、月の上でゴルフをやったりして、またメチャクチャ怒られたりしたんですけど。
それくらい、ギリギリの世界でした。
次に、強度との戦いです。
ギリギリまで軽くするために強度を犠牲にしたんですけど、本当に壁を薄くしたんですね。
(模型を見せる)
これ、一見すると金属で出来てるように見えるんですけど。最小限のアルミでパイプを作って、その周りにサランラップを貼った、テントみたいな構造になっているんです。
まあ、サランラップというか、正確には「マイラーフィルム」という、フィルムの上に銀をコーティングした構造なんですけど。
床も、宇宙飛行士が踏む部分だけ金属を張った、お風呂場のスノコのような構造になっていて、残りはもう全部、ラップなんですよ。
ある時、組み立て中に、職人がドライバーを間違って落としちゃったことがあったんですけど。たったそれだけで、月着陸船は床までボコっと穴が開いて、下が見えてしまったと。
これには開発部長のトーマス・ケリーも「本当にこれで強度は大丈夫なのか?」と聞いたんですけど。技術者たちは「グラマンのこの組立工場は地球重力です。1Gなんですよ。月面ならドライバーを落としても6分の1重力だから、穴はギリギリ開きません」と答えたそうです。
まあ、それでも不安になったトーマス・ケリーは「このマイラーフィルムを24回、重ねて巻く」ということで、なんとか承認しました。
とにかく軽く、限界まで軽く。
この月着陸船って、とにかく1箇所でも軽くするために、本当に何千回も設計図を書き直したんですけど。その度に、NASAに申請して、承認を貰わなきゃいけなかったんですね。
承認用の申請書類とか、付帯の説明書、あとは予算の変更届けなど、とにかく書類が増える一方なんですよ。
「月へ行くのにロケットは必要ない。月着陸船の書類を積み上げていけば、もうすぐ月に届くから、宇宙飛行士は歩いて行けるよ」というジョークが、1967年当時、すごく流行ったそうなんですけど。
しかし、1968年になると、グラマンの技術者はこのジョークに誰も笑わなくなりました。なぜなら「提出した書類の総量が、積み上げたらマジで月に届きそうになってきたから」なんですけど(笑)。
それくらいの膨大な書類が、重量を減らすために必要になりました。
そんな中、ようやく完成した月着陸船の3号機が、アポロ9号で初めて人間を乗せて地球軌道でテストされました。
この時、最後の「月から上がってきた月着陸船と、司令船とが宇宙空間で再びドッキングする」というテストをやったんですけど。
このドッキングが本当にうまくいくか自信なかったので、「月着陸船から宇宙飛行士が船外に出て、司令船に乗り移る」というテストもやりました。
この時の、アポロ9号のテストでは、「A7L」という最新形の宇宙服を使った初めての船外活動でした。
(模型を見せる)
この宇宙服は、それまでのNASAの宇宙服とは桁違いの性能なんですね。どこがというと「宇宙船とホースで繋がっていない」というところ。
これまでのNASAの宇宙服、ジェミニ計画の時に船外活動で使われたものというのは、実はすべて宇宙船とホースで繋がってたんですよ。そこから空気貰ってたんです。
つまり、本番であるアポロ11号で使える宇宙服を、アポロ9号でテストしたんです。
この宇宙服も、少しでも軽くするための工夫が凝らされています。
それまでの宇宙服は、太ももの付け根、肩の付け根、手首の位置、首の位置と、いろんなところに金属のリングがついていたんですよ。
もちろん、このA7Lにも金属のリングはついてるんですけど、肩とか太ももの付け根の部分にはなくなっています。全体がほとんど布で出来てるんですね。
初期の宇宙服として、もっと潜水服みたいな硬い服のデザインというのを見たことがある人もいるかと思うんですけど、あれはなぜかというと、宇宙服のデザインって、実はこれ、巨大な風船なんですよ。
人間が呼吸できるように、中を0.4気圧くらいに与圧しないといけないから、宇宙空間ではパンパンに膨らんでしまう。「パンパンの風船の中に腕を入れているようなもの」と思ってください。これを曲げるには力がいるんですね、
グローブの部分もパンパンに張った風船なんですよ。それも、かなり硬い素材でできた風船です。これを曲げるためには、思い切り力をいれないといけないんです。
アポロの最新型の宇宙服は、「何かのスイッチを入れるために、手をぐっと握るのに、軟式のテニスボールを握りつぶすくらいの握力が必要だった」と言われます。何かを持ったり操作するためには、毎回、テニスボールを握りつぶすくらいの握力がないと握れないんですよ。
宇宙服というのは、それくらい面倒なものだったんですね。
だから、月面の宇宙飛行士は、動きが悪いんですよ。
何かする時に、すごく時間が掛かるのはなぜかというと、例えば、アームストロング船長がハシゴを降りる時に、1つ掴むごとにテニスボールを握りつぶすくらいの握力を使わないと握れないからなんですね。
その最新型の宇宙服のテストのために、アポロ9号は船外活動をしなきゃいけなかったんです。
ということで、アポロ9号で月着陸船の初飛行のテストをやったんですけども。その結果の動きは、すべて予想外でした。
月着陸船には、4箇所に小柄のロケットエンジンがついていて、これで動き変えるんですけど、これが本当に動かしにくい。
なぜかというと、この左右のタンクの中に燃料が入ってるんですけど、この燃料を使う度に、重さが変わるんですね。つまり、重心が変わる。
さらに、無重力空間の中で激しく動くと、その度に燃料が、タンクの中でチャプンチャプンと動く。このチャプンチャプンという動きが、重力がないから、延々と止まらないんですね。
なので、とにかく重心が安定せず、ものすごく操縦しにくい。エンジン噴かす度に変わっちゃうんですね。「まるで荒馬を乗りこなすようだ」と言われたんですけど。
操作性が悪いあまりに、「人間が操縦するのは無理だ」とまで言われます。その結果、「自動操縦することを強く薦める」というのが、アポロ9号のテストの結論でした。
タンク内の燃料を使う度に重心が変わるし、タンク内の燃料は無重力でずっと動きっぱなし。
おまけに、月から離陸する時には、この上半分だけで登って行くわけですね。この時に、また重心が下の段と繋がっている時と大きく変わっちゃうわけなんです。なので、また操作性が変わる。
上昇の時と下降の時で、同じ宇宙船で操作性がこんなに変わってしまっては、人間の腕での操縦は、ほぼ不可能。
なので、「月着陸船が司令船とドッキングする時には、宇宙服を着て外に出ないと無理なんじゃないか?」ということで、あえて、そういう訓練がアポロ9号の時に行われました。
こういうふうに、アポロ9号の時のデータが10号とか11号の月着陸船に送られて、その度にまた設計が変更になるわけですね。
ちょっとでも操作性を良くしようと設計が変更になるし、自動操縦のプログラムも、1回ごとに全部作り替えられるわけですよ。
その結果、書類は増えていく一方です。
さて、これだけ改良した結果、アポロ10号は月へ行ったんですけども。この時の月の上空飛行で、自動操縦は100%完璧になりました。
それを確認するために、アポロ10号は月の周りを回りながら、着陸地点を探させて、「ここに着陸できます」と言われた後も、あえて「別の場所を探して」とコンピューターに入力してチェックしました。
こんなふうに「はい、探しました。ここいけます」、「じゃあ、別の場所を探して」というやりとりを7回繰り返して、7回とも自動操縦のゴーサインが出た。
これにて、「もうこれで大丈夫だ! 仮に予定していた着陸地点に大きい岩があったとしても、現場でドタキャンに対応できる!」ということが、ハッキリしました。
さあ、いよいよ月着陸の本番です。
しかし、しかし次のアポロ11号でエラいことになります。
月の周りを回っていると、原因不明の加速が発生するんですよ。
(パネルを見せる)
これは、月の全体図なんですけど。この位置、真横のこのあたりに「スミス海」という月の海があります。
このスミス海付近で、宇宙船が異常に加速することがわかったんですね。となると、自動操縦のデータがまったく役に立たない。そんなことがわかるんです。
その原因は、このスミスの海の底にある、原因不明の巨大物質のせいだったんですけども……はい、ごめんなさい。無料放送はここまでです。
「スミス海に何があったのか? アポロ11号はどうしたのか?」という話の続きは、この後の限定放送でしたいと思います。
もう、日本では「アポロ月着陸の50周年というこの時に、特番を組むのはNHKと岡田斗司夫ゼミだけ」という、情けないことになっているんですけど。無料はここまで、続きは有料にしたいと思います。
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