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「『進撃の巨人season3』エピソード18『白夜』でのリヴァイの選択」
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岡田斗司夫の毎日ブロマガ 2019/06/24
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「『進撃の巨人season3』エピソード18『白夜』でのリヴァイの選択」
6月2日の日曜日にNHKで放送された『進撃の巨人』ですね。
シーズン3のエピソード18『白夜』という回を語ってみたいと思います。
『白夜』の見せ場は、やっぱりこのリヴァイ兵長が屋根の上で迷うシーンですね。
結局、エルヴィン団長とアルミンのどっちを生かすのか、どっちを巨人にするのかという事で、エレンとかミカサとかが大騒ぎをしている所で、リヴァイ兵長は「お前らうるさい、あっちへ行け!」と。
「俺は今からここでエルヴィンを生き返らせるので忙しいんだ!」と言って、みんなを立ち去らせた後で、改めてもう一回迷うというシーンなんですね。
手前に死に掛けているエルヴィン団長がいて、ちょっと座って見ているのがリヴァイです。
それで向こうの方に倒れている死体みたいな黒焦げになっているやつが瀕死のアルミンですね。
超巨大巨人との戦いで黒焦げになっています。
それで、この画面の中には映って無いんですけども、この画面の外側に手足を切り落とされたベルトルトが倒れているというような事になっています。
あのですね、NHKのアニメなのに、ものすごく残酷な表現とかも恐れずに前に出してやっている所が、ちょっと今回の『進撃の巨人』の凄い所だと思うんですけども。
結局ですね、リヴァイは最初は「人類が勝つには、これしかないんだ!」とエルヴィン団長を生き返らせると言っていたんですけども、最終的にはアルミンを選んでしまいます。
それで何でアルミンを選んだのかというと。
やっぱりこの辺の原作の細かい細かい人間ドラマっていうのを拾って表現してるのが、今回のアニメの凄い所だと思うんですけども。
やっぱりリヴァイ兵長自身がエルヴィンに「みんなの為に死んでくれ」って頼んだわけですね。
それで「みんなの為に死んでくれ」って言われたときに「何が何でも生きたい。 生きて、この世界が何でこうなったのかの理由を知りたい。 その為に俺は部下達に “死ね” と命令したんだ。 そこまでして生きて見たいんだ!」と言ったエルヴィンに、リヴァイは「でももう、お前は今は、みんなの為に死んでくれ」と頼みます。
だけど、そう頼まれた時にエルヴィンは、拒否をするんではなくて、すごくホッとしたような顔をするんですね。
そのホッとしたような顔を思い出したと。
みんなは「エルヴィン団長をこそ生かしてください」と「そうでなければ、我々は勝てません! 生き残れません!」と言うんですけども、それから解放してあげたかった。
許してやりたかった。
それはどういう事かっていうと、てっきり「父親かな?」と思っていた、自分自身の叔父であるケニー・アッカーマンという悪役がしばらく前に出てきてたんですけども、リヴァイはケニーが死ぬ間際になって彼を状況的に許したと。
もう死にそうになってるから、自分の手で止めを刺すんじゃなくて、死ぬに任せたというね。
この時のように、いわゆる “状況に任せて許した” のと違って、積極的にエルヴィンを自分自身の意思で、リヴァイ自身の意思で、判断で、「もうこいつは死なせてやろう」というふうにしたかったと。
じゃあ、逆になんでミカサとエレン以外のメンバーは、アルミンではなくてエルヴィンを望んだのか?
それはもう当たり前ですよね。
エルヴィンの方が勝てそうだから。
“勝てそう” というのはどういう事かっていうと、この今の巨人達に襲われている状況が怖くて逃れようとしてるんですね。
それで、怖くて逃れようとしているから、それに解答を与えてれくれる人を選ぼうとしちゃう。
これはマンガの方でも、ここら辺はたっぷりと描いてるんですけども、基本的にわりと社会的なメッセージがすごい強いマンガなんですよ。
たとえば現実の世界で「引きこもりの人が事件を起こした」と報道されるとですね、その報道されたニュースを見た人達は、普通は「じゃあ、引きこもりに対する規制法とか対処法は無いか?」と、そっちの方ばっかり語ってしまいます。
「お年寄りが車の運転ミスをして、どこかに突っ込んだ」というニュースを見たら、「運転免許はどうするのか? 取り上げるのか?」とか、そういう対処法の方にばっかりに目が行くんですね。
それは何でか?
こういう社会的事件に関して報道されると、「それに対する対処法を出せ!」と大衆が騒ぎ出すのは何でかっていうと、“怒り” とか “恐れ” っていうのを前提で物事を見てるからなんです。
これが原作に入っている社会的なメッセージの複雑さなんですね。
それに対して、エレンが語っている「なぜアルミンを選ぶべきか? 生かすべきか?」という理由は違うんですよ。
「“対処” ではなくて、無責任なまでの “夢” や “希望” というものを我々は選ぶべきだ」と言っているんですね。
アルミンは「海を見たくないか?」と言ってくれたと。
それはアルミンにとって無責任な夢なんです。
だから、たとえばさっきの引きこもりとか、お年寄りの暴走運転とかでも全部同じなんですよ。
それに対して「いや、そういう人間も肯定すべきだ」とか、「お年寄りから免許を取り上げるべきではない」っていうのって、すごい無責任な肯定的な楽観的な意見なんですね。
それに対して、対処法として「いや、そんな事を言ってるんじゃないよ!」「甘い事を言ってるんじゃないよ!」っていうのは現実的にそうなんですけども。
いつもいつも作者が考えている “選ぶべき方向” っていうのは、いかに夢の方を選び、希望の方を選んで、「夢や希望を選んだ方が規制論に比べて100倍手間が掛かってしんどいんだけども、そっちの方が将来性があるよ」って言ってるところが、このマンガのすごく面白いバランスだと思うんですね。
これ、いつも “社会的なメッセージ” というのは入れてるんですけども、それを上手くドラマの中に入れている面白さっていうのが、凄くバランスがいいなぁと思います。
おまけに、そんな無責任なまでの希望を語った者には責任を取らせるんですよ。
これが、このマンガが面白い所ですね。
つまり、「そんな事をやったら、犯罪が減らないじゃないか!」「事故が減らないじゃないか!」というような批判に対して どうするのかっていうと、その楽観的な夢を語った者に、これから世界を変える責任を取らせる。
それがアルミンを巨人化させるって事なんですね。
「そこまで みんなに無責任な夢を語って希望を与えたんだから、彼に責任を取らせて、アルミンを巨人にする」という事をエレンは提案して、そして、それをリヴァイは呑んだわけですね。
これね、エレンが言ってるのは友情じゃないんですよ。
友情じゃなくて、信頼なんですね。
もし友情だとしたら、「自分が言った事に責任を取らせる」っていう、エレン自身が感じている「俺は別に巨人になったからといって嬉しいものでもない。 それどころか前よりも生き地獄に叩き込まれた。 じゃあ俺の友達のアルミンは、俺達に夢を見せたからこそ、やはり同じ生き地獄に叩き込んで責任を取ってもらう」という、復讐じゃなくてかなりレベルの高い友情なんですね。
このレベルの友情論が入っているという所が、この『進撃の巨人』のドラマとしての深さなんですけども。
これを、このクライマックスシーンでパッとやっちゃうところが、面倒くさい論争にしないで、クライマックスのドラマで、追い込まれたリヴァイの選択肢としてやっちゃう所が、上手い所なんですよ。
もう『進撃の巨人』は、本当に深いですよ(笑)。
おまけに、僕が見ている限り、この深さを、そのまんま一切混ぜ物をせずに、薄めずに、手心を加えずに、アニメの演出に持ち込んでいる。
このNHKのアニメ、凄いです。
これが高畑勲の、高畑イズムの客観主義なんですね。
主観的に、「どんな気持ちだからアルミンを助けたいのか」っていうのは、マンガでもアニメでも常に言ってないんですよ。
そうではなくて、客観的に「これって、俺達が言ってる事は本当は正しいのかどうか」という。
だから、マンガの中にあんなにしょっちゅうギャグシーンがあるのは、いわゆる高畑イズムが持っている「深刻なドラマであるほど、外側から見たら滑稽な部分がある」っていうのをやっているから。
だからマンガの中で、真剣なシーンにギャグが入ってくる。
あれは高畑イズムなんですよね。
だから高畑イズムの真の後継者は、正統後継者っていうのは、今のアニメとマンガの『進撃の巨人』だと思います。
応援していますので、このまま最後まで突っ走ってください。
よろしくお願いします(笑)。
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