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岡田斗司夫の毎日ブロマガ「【『紅の豚』冒頭シーン徹底解説 1 】 よく考えると不自然なことが多いポルコの秘密基地」

2018/11/13 06:00 投稿

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岡田斗司夫の毎日ブロマガ 2018/11/13
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今回は、ニコ生ゼミ11月04日(#255)から、ハイライトをお届けいたします。

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 【『紅の豚』冒頭シーン徹底解説  1 】 よく考えると不自然なことが多いポルコの秘密基地


 では、これから『紅の豚』冒頭の10分を、90分以上かけて徹底解説します。

 さっきも話した通り、この作品は、もともとJALの国際線の中で上映される短編映画として作られる予定だったので、「疲れて脳みそが豆腐になったオジサンを楽しませる」といったものでした。

 なので「そういったオジサンの好きそうな “ちょっとエッチなコント” を見るんだ」という目線で、この冒頭10分を見ると、かなりわかりやすくなると思います。


 宮崎駿が狙った “オジサンギャグ” というのが、実はこの中にはかなり入っているんですけど、普通に見ているだけではよくわからないんですよね。

 この話を聞けば、そういった部分を楽しめるようになると思います。

・・・

 まず一番最初。まあ、ここは別にオジサンギャグでもなんでもないですけど。

 有名な「タイプライターの音と共に、緑色の豚みたいな日本テレビのマスコットキャラクター “なんだろう” が動いて、10ヶ国語のテロップが表示される」という画面です。

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 上から日本語、イタリア語、韓国語、英語、中国語、スペイン語……となっています。


 このスペイン語は、最初はなかったそうなんですけど、後で入れることになったそうです。

 なぜかというと、この10ヶ国というのは、当時のJALの国際線の代表的な航路でもあったんですね。

 スペインもそうだったということで、ここに入れられたそうです。


 これは「国際線の機内で掛かっている映画の字幕言語の数に対応している」とも言われてます。

・・・

 字幕がカチャカチャっと出てきた、次のシーンでは、いきなりポルコの秘密基地が映ります。

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 これは、「地元の漁師が “海がシケた時”に、つまり、海が荒れた時に避難する隠れ家だった」という設定があるそうです。

 それをポルコが譲り受けた、と。


 もともとは、アドリア海で魚を獲っていた漁師さんが……あんな綺麗な海で魚が獲れるかどうかはわからないんですけど。

 まあ、一応、市で熱帯魚っぽい魚を売ってたから、獲れるんでしょうね。

 そんな漁師さんが使っていた、海が荒れた時用の隠れ家を買い取ったか、貰ったかしたそうです。


 注目すべきポイントは、ポルコの赤い船ですね。

 “船” と言うのはなぜかというと、これは “飛行艇” であって “飛行機” じゃないからです。 


 この船が、やや左に翼が降りていて、左のフロートだけが水面についてるんです。

 宮崎駿は、こういう芸の細かいことをやってくれているんですよね。


 普通、こういう場面を描こうとすると、ついつい、機体を水平に描いちゃうんですよ。

 だけど、流石に宮崎駿はわかっていて、ちょっとだけ傾けて描いているんです。

 そして、赤い船の右にある小さいボートにも注目です。

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 この小さいボートについて、僕も最初は「飛行艇が飛ばせない時や、エンジンの調子が悪い時に、街まで出かける用のボートなんだな」と思ってました。

 だけど、これは、ちょっと違う感じなんです。


 これについては、後で詳しく説明します。

・・・

 さて、次は音楽が掛かり始めて、浜辺で寝ているポルコが映されます。

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 ここでは、砂浜に敷いているバスタオルと、ポルコが寝そべっている椅子の配色が同じなところに注目してもらいたいと思います。


 『紅の豚』の色彩設計をやったのは、昔からジブリ作品の色彩関係の全てをこなしている保田道世さんではなく、その弟子の立山照代さんです。

 これは、当時、ジブリの女性スタッフの座談会をやっていた時代の立山さんの写真です。

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 わりとちょっとアンニュイな感じのする美人ですね。


 彼女の師匠である、この間、死んじゃった保田道世さんというのは『紅の豚』に出てきたジーナのモデルだったと言われています。

 とは言っても「ジーナそっくりの美人だった」とか、そういう意味でなくて。

 どちらかというと「ものすごく仕事が出来て、宮崎駿ですら保田さんにだけは頭が上がらなかったから」なんですね。


 前回、特集した『もののけ姫』で言えば、たとえば宮崎さんが「アシタカが持ってた砂金の粒は、この色に塗ってくれ」と言ったら、保田さんは「そんなのダメよ。あなた本当にセンスがないわね。こっちがいいわ」と言うんですよ。

 宮崎駿が「いや、俺はこっちがいいと思う」と言っても、「何言ってるの、こっちにしなさい」と言う。

 しかし、最終的に仕上がった絵を見ると、宮崎駿自身も「なるほどな」としか言えなくなる。

 すると「ほら、私の言った通りでしょ? 私が正しいのよ」なんて言って、宮崎駿をやり込めて帰ってしまう。


 実際に保田さんの言う通りの色で塗って見せられると、駿としてもぐうの音も出ない。そんなタイプの人だったらしいです。


 そんな名人にしごかれているので、その弟子の立山さんが『紅の豚』で見せた色指定は、ものすごく精密で複雑です。

 たとえば、ラストにポルコとカーチスが殴り合うシーンありますよね。

 殴り合ってる途中で水中に倒れるカットがあって、口の中からあぶくが出るんですけども。

 このあぶくの色をどう決めたのかと言うと。「本当は、あぶくの色としては、この色が抜群なんだけど、こっちの色にしちゃうと水中に沈んだカーチスの顔の色の方が映えて見えてしまう。でも、この場面では、みんなにポルコの顔を見せたいから、ポルコの色が映えるあぶくの色にしなきゃいけない。じゃあ、ちょっと残念だけど、あぶくの色はこっちにします」みたいに、繊細な計算のもとに決めていたそうです。

 そんなことを、座談会の中で語ってるんですけど。


 そんな人だから、この「砂浜に敷かれたタオルと椅子の柄が同じ」というのも、単なる偶然とか手抜きであるはずがないんですよね。

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 この2つの配色が同じということは、これはおそらく「揃いのデッキチェアとバスタオルだ」ということなんでしょう。

 たぶん、高級ホテルか豪華客船の払い下げ品だと思います。

 そういうものだったら、同じ色で統一されているということもあり得ますから。


 さらには、椅子の脇に、さりげなくバケツが置かれ、シャンパンが突っ込んであります。

 ほんの少しだけ見えるボトルの首の先が大きくなってるので、これはシャンパンであることがわかるんですけど。

 ポルコは、シャンパンをバケツの中で冷やしているんです。

 まあ、もう氷も溶けちゃってるんでしょうけど。


 このシャンパンについても、最初は意味がわからなかったんですよ。

 「空賊を倒した時の乾杯用のワインかな?」とも思ったんだけど、ワインを冷やすバカがイタリアにいるはずもない。


 ちなみに、この時、ラジオから流れているのは『さくらんぼの実る頃』という曲ですね。

 この曲は、このアニメのテーマの1つとも繋がっているんですけど、こっちの方は複雑な話になるので、来週に回します。

・・・

 ポルコは、ここで「CINEMA(シネマ)」という雑誌を顔に載せて寝ています。

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 その表紙に「1929」と年号がわかるように書いてあるので、Wikiとか本とかを見ると「このお話の舞台は1929年だ」と言われているんですけども。

 後に、ポルコがガソリンを補給する時に、店のオッサンらと「世界恐慌ってやつか」なんて話をしているシーンがあるんですよね。


 世界恐慌は1929年の10月から始まりますから、だとすると、物語の舞台が1929年の夏だとすると話が合わない。

 なので、この1929年説の他にも、いろんな説があります。

 代表的なのは1930年説や33年説です。


 この1930年や33年という数字がどこから出てきたのかというと、ポルコが機関銃を買いに行った時に「愛国国債はいかがですか?」と郵便局だか銀行だかのオッサンに聞かれるからなんです。

 そして、この愛国国債という債権がイタリアで発行されたのは、1930年と33年だけ。

 なので「物語の舞台はその時期じゃないのか?」と言う人もいます。


 一応、岡田ゼミの見解としては「1930年の夏じゃないかな?」と思います。

 というのも、ジブリの公式本にも「1920年代の “末” 」と書いてあるからです。

 西暦2000年が20世紀なのと同じように、10進法では1930年は一応「1920年代末」と言えないこともないので、まあ、それくらいなんじゃないかなと思います。


 あとは、世界恐慌というのは、1929年の10月に起こったんですけども、その波が本格的にやってきて、もともと不景気だったイタリアを更に不景気にさせたのは、発生から1年くらい後だったという話なので。

 そう考えれば、設定的に合うんじゃないかなと思います。


 ただ、このシーンで皆さんに注目してもらいたいのは、ポルコの首の “ネクタイ” なんですね。

 ポルコはちゃんとネクタイをしてるんですよ。

 「これ、なんで?」という話なんですけども。

 まあ、この話はまた後で詳しく解説します。

 
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