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岡田斗司夫の毎日ブロマガ「『ハウルの動く城』に隠された二重構造 “女性向けのロマンスと男性向けの家庭論” 」

2018/08/20 06:00 投稿

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岡田斗司夫の毎日ブロマガ 2018/08/20
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今回は、ニコ生ゼミ8月12日(#243)から、ハイライトをお届けいたします。

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 『ハウルの動く城』に隠された二重構造 “女性向けのロマンスと男性向けの家庭論” 


 まず一番最初に話しておかなきゃいけないのは「『ハウルの動く城』というのは、ジブリ初と言ってもいいくらい “賛否両論の映画” だった」ということなんです。

 つまり、これを見て感動する人はメチャクチャ感動するんだけど、文句を言う人はいっぱい文句を言うんですよ。


 ちなみに、宮崎さん自身は、この『ハウル』を作った頃からこんな事を言っていました。

 「子供には楽しくて未来に希望の持てるようなアニメを見せなきゃいけない。そこだけは譲れない。アニメは子供のものだ。でも、それを一緒に見に来る大人にとっては、ほろ苦いんだけど、でも、人生ってこういうものだよなと思えるような、ちょっとした癒しになる作品を作りたい」って。


 こういった、1つの映画の中に、子供にとっては「ハッピーエンドのすごく楽しい物語だった」と思えるような要素と、大人にとって「ああ、ちょっと切ないな」って思える要素の2つを取り入れる二重構造というのは、宮崎作品としては後期に入って初めて使われるようになったものなんです。

・・・

 『ナウシカ』から『もののけ姫』までは、二重構造ではなく “対立構造” なんですよ。

 それまでは、宮崎駿も「2つのそれぞれ相反する立場の人間が、お互いの信念をぶつけ合う」という、高畑勲が大好きな共産革命の思想のような、「テーゼ → アンチテーゼ → ジンテーゼ」という構造で作っていたんです。


 たとえば、『もののけ姫』では、「 “もののけ” たちの自然の世界と、鉄を作って自然を破壊する人間たちの世界の共存というのは、本来はありえないんだ」という対立構造があります。

 しかし、『千と千尋』や、『ハウル』、『ポニョ』の辺りから二重構造に変わったんですよ。


 なぜかというと、やっぱり対立構造で物語を作ろうとすると、どうやっても “楽しくて明るいハッピーエンド” をラストに持って来にくくなってしまうから。

 なので、宮崎さんは、テクニックとしてはなかなか難しい二重構造で作品を作るようになりました。

 たとえば、『千と千尋』では「最後、お父さんとお母さんが帰ってきてよかったね」というハッピーエンドを見せながら、「でも、なぜ千尋は “死の世界” に行き、そこから帰って来たのか?」という含みも持たせて、二重構造としての物語を描いています。


 ちなみに、今のところ最後の作品である『風立ちぬ』では、宮崎駿は対立も二重構造もかなぐり捨てて、言いたいことをどんどん繋げて物語を描くという、“狂乱期” に入っていて、僕はそれをすごく面白く思ったんですけども(笑)。

 まあ、『ハウル』はそういった二重構造期の作品です。

・・・

 二重構造になっていますから、表面の層としては、徹底して女性向けのロマンス映画として作っています。

 いわゆる恋愛、それも、女の人向けの恋愛モノの “お約束” の全てを満たした上で、ラストは「ソフィーは夢のマイホームを手に入れる」という、ものすごいハッピーエンドになっているわけですね。


 まあ、このハッピーエンドへの持って行き方というのが、見る人にとっては「なんでそんな都合のいい展開になるの?」って、引っかかっちゃうこともあるんですけど。

 でも、これは表面層。

 一見するとお約束満載の乙女チックなロマンス話に見えるんですけど、もう一段深い層には「中年から老境に差し掛かる男の現実」という話を描いているんです。

 男の夢とか男のロマンというのを全て否定しながら語る、宮崎駿なりの “家庭論” というのが入っていて、やっぱりこれも面白いんですよ。


 ロマンスという層について「表面」という言い方は悪かったかもしれませんね。

 「右と左」と言った方が正しいのかもわからない。


 このロマンスの部分も、実は、割と分かりにくいんですよ。

 だから、それが伝わる人、ロマンチックな恋愛モノをよく見ている人にとっては「あるある! すごい黄金パターン! 鉄板だ!」って喜べるんですけど。

 見慣れない人にとっては「え? ハウルやソフィーの行動原理、さっぱり分かんない」となってしまって、恋愛映画としても楽しめない。

 だからといって、もう1つのほろ苦い感じはもっとわかりにくい。

 なので、これらを読みきれないと「『ハウルの動く城』って、つまらないよな」って思っちゃうんですよね。


 だけど、この両方が見えると、すごく面白い作品なんですよ。

 一方にあるほろ苦い部分はもちろん、宮崎駿が、なぜか彼の中にものすごく沢山ある “乙女心” を全開にして作ったロマンチックな話だけでも、十分面白いんです。

 なので、今回は、この両方を出来るだけわかりやすく解説してみようと思います。

 でないと、俺ら男には、宮崎さんほどの乙女心がないから、よくわからないんです(笑)。

・・・

 男性の中には「やっぱりストーリーがイマイチ」とか、「ラストの展開、特にカカシの正体が隣国の王子だったという辺りの展開が、ご都合主義っぽく見えて、乗り切れない」と言う人も多いんです。

 だけど、実はこの『ハウルの動く城』という作品は、構造自体はレゴのようにものすごく綿密に作ってあるんです。


 ちょっと信じられないと思いますけど、ご都合主義とか無茶な展開は、この物語の中に1つもないんですよね。それくらい計算されて構築してあるんです。

 では、なぜそれが分かりにくいのか?

 それは「この作品では、ほぼ全編に渡ってソフィーという主役の女の子の視点のみで語っているから」なんです。


 1人の登場人物の視点だけで物語を語るのがどれくらい難しいのかということを説明するために、ここでは「もし『カリオストロの城』をクラリスのみの視点だけで語るとどうなるのか?」というのを、ちょっとまとめてみました。


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――――――

 1. 修道院から本国に戻る
 2. エロいオヤジとの結婚がイヤで車で逃げる
 3. 事故を起こして連れ帰られ、塔に閉じ込められる
 4. 泥棒さんが助けに来てくれるけど、落とし穴へ
 5. 泣いてたら家庭教師の不二子が窓をぶちこわす
 6. 泥棒さんが殺されかけたので降服する
 7. 薬を飲まされてよく覚えていない
 8. 気がついたら教会でドレス。泥棒さんが殺された!
 9. と思ったらウソで、泥棒さんと時計台に逃げたら捕まる
 10. また泥棒さん殺されかけたので、ダイブして助ける
 11. 夜が明けたらインターポールが来て,泥棒さん逃げる
 12. 連れてって、と行ったけどダメ。あー私は恋をしたんだわ。

――――――

 わかりやすいストーリー展開だった『カリオストロの城』が、視点を固定するだけでどう変わってしまうのか?


 あの映画の主役がクラリスで、彼女の視点だけで語るとするならば、まず最初は「修道院から本国に戻る」というシーンから始まります。

 そしたら、エロいオヤジとの結婚を仕組まれていて、それが嫌で車で逃げだす。

 だけど、途中で事故を起こして連れ去られ、塔に閉じ込められちゃった。

 その次には “泥棒さん” が助けに来てくれるんだけど、落とし穴に落ちちゃった。

 そして、泣いてたら自分の家庭教師の不二子が窓をぶち壊す。

 その後で、泥棒さんがまた助けに来てくれたんだけど、罠にかかって殺されかけたので、仕方なくなんかエロいオヤジに降伏することにした。

 それから先は、薬を飲まされていてよく覚えてない。

 ハッと気がついたら、教会でウェディングドレスを着せられて、目の前で泥棒さんが殺された。

 「いやー!」って言ってると、泥棒さんは実は生きていて、一緒に時計台に逃げたら、また捕まっちゃう。

 で、また泥棒さんが殺されかけたので、湖へ飛び込んで助ける。

 夜が明けるとインターポールが来て、泥棒さんは「うわぁー怖いおじさんが来た」と逃げちゃう。

 最後に、「好きです。連れてって!」と言ったんだけど、ダメ。「ああ、私は恋をしたんだな」で、終わる。


 あの面白い『カリオストロの城』が、クラリスの視点に固定するだけで、ここまでメチャクチャになるんですよ。

 これくらい、1人の人間の主観だけで物語をまとめるのは難しいんです。

・・・

 映画を1人のキャラクターの主観だけでまとめる構造というのは、かなりわかりやすい話にしないと難しいんですけども。

 『ハウルの動く城』って、これなんですよ。

 基本的にはソフィーの主観だけで描かれている。

 だから、その端々から漏れ出てくる情報を観客側が積極的に読み解かないと、なかなか面白くならないんですね。


 たとえば、『エヴァQ』ってありますよね?

 新劇場版の今の所の最新作である『エヴァQ』が、なんであんなにわらかりづらいのかというと、実はあれは、ほとんど全て、碇シンジの視点だけで描いてるからなんです。

 たぶん、視点をいろいろ動かして自由に描いていたら、もっとわかりやすく面白くなっていたはずなんですよ。


 たった1人の視点だけで物語を語ると、主観的に深く入っていける文学っぽい作品になるんですけど。

 ところが、その代わり、一旦「ここ、変だな?」とか、「わかりづらいな」と思ってしまうと、物語に乗り切れなくなってしまう。

 そういう難しさが1人語りの映画にはあるんです。

・・・

 こういった元々のわかりにくさに加えて、キムタクというアイドルを声優に起用したということで、なんか無用の反感を持った人もわりと多いと思います。

 そういう意味で、『ハウル』というのは、ジブリ初の敗戦処理映画になったんですよね。


 もちろん、敗戦処理と言っても、歴代2位のヒットなんですよ。

 『千と千尋』が、もう圧倒的で、ぶっちぎりに稼いだんですけど、その次にヒットしたのが『ハウルの動く城』。

 だから、この作品を指して「敗戦処理」だなんて言ったと鈴木さんが聞いたら、ものすごく怒ると思うんですけど。


 ただ、『もののけ姫』から続いて『千と千尋』もヒットしたように、それまでのジブリ映画って、基本的にずーっと上り調子だったんですよ。

 「興行成績がまた良くなった!」「また良くなった!」というふうに、倍々ゲームみたいに売上も伸びていたんです。


 だけど、この『ハウル』という作品で、初めて興行成績を落としたんです。

 つまり、鈴木敏夫にとっては “認めたくない敗戦” なんですね。


 これについては、宮崎さん自身も、『ポニョ』で引退を宣言した時に「自分の作品で一番好きものは何ですか?」と聞かれて、間髪入れずに「好きという意味とは違うんですけど、いまだにトゲのようにずっと刺さっている作品は『ハウルの動く城』です」と答えるくらい、ひっかかり続けている作品です。

・・・

 あとは、なぜ誤解されやすいのかというと、「お話がご都合主義だ」とか「論理的でない」と言われると、宮崎さんは意地になって、こんなふうに答えちゃうからなんですよ。

 「論理的でないとか、ご都合主義だと言う人もいるけど、映画なんて全部ご都合主義だ! 論理で繋がっている必要なんてない! そんなことを言うヤツは映画なんて見なくていいんだ!」って。


 だけど、これは宮崎駿が意地になった時に見せる、特有の “頑固ジジイの世迷言” で、この『ハウル』という映画は、本当に限界まで論理的に作ってあるんですよ。

 僕も、改めて検証して、すごくビックリしたんですけど、隅から隅まで論理的なんですね。

 つまり、そんなふうに言われた宮崎駿が本当に言いたかったのは「この映画の持っている論理性を見抜けないくせに、破綻してるとか論理的でないと言えてしまうようなヤツは、最初から映画なんか見るな!」ということなんですよね(笑)。

 こんなふうに、むくれて拗ねているだけなので、そこら辺の宮崎さんの発言はあんまり本気にしない方がいいと思います。

・・・

 今回、『ハウルの動く城』を取り上げようと思ったのは「実は、この映画は、かなりオッサン向けの作品だ」ということが見過ごされがちだからなんです。

 僕はこれを、『カリオストロの城』の最後で「私も連れてってください! 泥棒は出来ないけど、きっと覚えます!」と言ったクラリスを本当に連れて行ったらどうなったのかを見せる映画だと思っているんです。

 そして、これは同時に、もう一つの『まどか☆マギカ』なんじゃないか、とも思います。


 『まどマギ』TV版のラストの展開を別の方向から描くと、『ハウルの動く城』になるんです。
 
 今回は、そこら辺「ああ、宮崎さんって、すごいことをやったんだな」と改めて理解できるように紹介したいと思います。


 もう20分くらい過ぎちゃいましたけど、この辺りの解説は、出来るだけ前半の無料部分で語ろうと思います。

 ストーリー順に解説すると、どうしても有料の後半の方で種明かしをすることになるんですけど。

 この後すぐに、今日の講義の全体の見取り図を出しますから、あとはもう、みなさんはその見取り図をスクリーンショットかなんかして、後で見てくれれば、わりと後半の展開まで読めるようにまとめました。

 もちろん、後半では、有料版を契約してくれている人のために、この見取り図からは想像も出来ないほど、深く深く進んでいこうと思いますけども。

 基本的に、前半で全ての見取り図を出そうと思います。


 では、全体の見取り図として、『ハウルの動く城』に登場する魔法使いの一覧とプロットを紹介します。

 ここからエンジンを掛けて行きますから、頑張って付いて来てください。

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