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岡田斗司夫の毎日ブロマガ 2018/06/20
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今回は、ニコ生ゼミ6月10日(#234)から、ハイライトをお届けいたします。

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 【岡田斗司夫とディズニー 3 】 ウォルト・ディズニーが作りたかったものとは?


 ただ、こういうカルーセル・オブ・プログレスみたいなアトラクションというのは、今のディズニーランドには、もうないんですよね。

 今のアトラクションとかショーは、今のアニメと同じように「セリフそのものに共感してください」という作りになっているんですよ。


 たとえば、「夢を信じれば~」とか、「夢があるから~」とか、「愛が~」、「家族が~」というふうに、登場するキャラクターが言ってることに対して、観客は客観性を捨てて没入して共感することで成立している。

 そんなものばっかりになっちゃったんですよね。


 このカルーセル・オブ・プログレスというのは、実は1967年頃の作品なんですけど、こちらの方が思想的に進んでるんですよ。なので、ここまでのあらゆるディズニーのアトラクションやショーというのは“精神的な退化”と言っちゃうしかないんですよね。

 「では、なぜそうなってしまったんだろうか?」というのが、今日の1つの切り口なんですよ。

・・・

 このカルーセル・オブ・プログレスって、メイキングを見たら、更にすごいんですよ。

 さっきも言ったように、このアトラクションというのは、かなり昔に作られたものなんです。


 ディズニーランドに持って行ったのは67年なんですけど、元々は1964年に行われた “ニューヨーク万博” のアトラクションとして作られたものなんです。

 “ゼネラル・エレクトリックス” という家電メーカーから「何かアトラクションを作ってくれ」と言われたウォルト・ディズニーが「じゃあ、電気の素晴らしさ、家電の素晴らしさを教えるアトラクションを作りますよ」と言って作ったものなんですね。


 ニューヨーク博というのは、かなりすごい博覧会だったんですけども、最も人気のあったアトラクションが5つあったんです。

 このベスト5の内、4つがディズニーがいろんな会社とか団体から依頼されて作ったものなんですよ。


 “イッツ・ア・スモールワールド”、“カルーセル・オブ・プログレス”、“フォード・マジック・スカイウェイ”、そして “リンカーン大統領との偉大なひととき”。

 この4つをディズニーは作ったんですけど、4つとも本当にベストの人気アトラクションだったんです。

・・・

 ディズニーはリンカーン大統領との偉大なひとときのためにヒューマノイドを作ったんですね。

 この時から、ディズニーの “オーディオ・アニマトロニクス” というのが始まります。

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 これは、人間そっくりに作られているロボット、ヒューマノイドです。

 なぜボディが透明なのかというと、故障をしたときなんかに、どの部分の調子が悪いのかがすぐにわかるように、服で隠れる部分は徹底的に透明に仕上げられてるんですね。


 これ、やっぱり、1964年の技術じゃないんですよね。

 僕も、これまでかなりいろんなロボットとかを色々と見てるんですけども、同じ頃に作られていたゼネラル・エレクトリックのヒューマノイドとかよりも、軽く先を進んでるんです。


 1964年のニューヨーク博で、これ1体だけをなんとか動かしたんですけども。

 カルーセル・オブ・プログレスでは、この技術を応用して、一度に舞台上で5人以上のヒューマノイドを動かしたんです。

 これを指して、オーディオ・アニマトロニクスというふうにディズニーは呼んでます。

・・

 これは、そのロボットを舞台上に配置している風景です。

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 人間が準備をしてるんですけど、正直言って、写真を見るだけじゃ、どれが人間でどれがロボットなのか、見分けがつかないんですよ。

 ステージの中央にこれ見よがしに座ってる男がオーディオ・アニマトロニクスというのは、まだわかるんですけど。

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 ちなみに、この青いセーターを着ているのがウォルト・ディズニーです。

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 ステージ袖にいる白い服を着て手を上に挙げている姉ちゃんが、ロボットだって、わからないでしょ? これ、奥さん役のロボットなんですけども。このレベルなんですよ。
 

 ステージ中央のアップの写真がこれなんですけども。

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 座っている男性ロボットが、さっき話したジョン一家のジョンですね。
 
 パイプを持って、新聞を読んでます。


 これは、ウォルト・ディズニーが、このジョン一家を紹介しているところなんですけども。
 
 「今、私が準備しているのは、64年のニューヨーク博で行うカルーセル・オブ・プログレスのセットです」って。

 ここで、「やあ、ジョン。ああ、パイプに火を付けてあげるよ」と、ウォルト・ディズニーがライターに火をつけて、ちょっと差し出すんですね。
 
 すると、このジョンのロボットが、ものすごく自然な演技で、パイプをフッと持ち上げる。

 これ、どうなってるのかというと。

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 これがジョンの入力装置なんですよ。

 “マスタースレーブ機構” で、写真の手前にいる全身に機械を取り付けられた俳優さんが動くと、その動作をコンピューターが信号に変換してジョンに送る。

 すると、ジョンの人形がその通りに動くんですよ。


 こうやって、「リアルタイムの演技が付けられる」というものなんですけども。

・・・

 繰り返して言いますが、これ、1964年なんですよ?(笑)

 いや、64年は公開した年だから、正確には63年に作られたものなんですけども。

 あり得ないですよね。


 ゼネラル・エレクトリックは、後にこれと同じ仕組みで “ハーディマン“ という、原子力発電所のような場所で、力のいる作業をするためのロボットとして研究していたんですけども。

 メチャクチャゴツくて、ブサイクで、扱いにくいんですよね。

 ディズニーのやつの方が、スマートで、はるかに実用的なんです。


 意外なことに、ウォルト・ディズニー社というのは、1950年代から60年代の真ん中くらいにかけて、単なる映画会社ではなくて、実は世界最先端の技術を持った会社だったんですね。

 たとえば『海底20,000マイル』という映画用に、水中カメラと、撮影もできる潜水服というのを専用に開発してますし。

 ディズニーランドで一番最初に走ったモノレールというのは、いわゆる鉄道メーカーに注文して作られたものではなく、ディズニーの中にある “機械部” という映画のセットを作る部門が作ったものに、客を乗せて走らせてるんですよね(笑)。


 「欲しいものが現実にないから、モノレールまで作っちゃった」というのが、ウォルト・ディズニーの恐ろしいところなんですけども。
 
 そんなふうに、実は世界最先端の技術を持っていたんです。

・・・

 おそらく、ウォルトが考えていたのは、こういったオーディオ・アニマトロニクスといわれるロボット技術をもっと進化させて、歌わせたり、場合によっては踊らせたり歩かせたりすることなんですよ。

 なので、カルーセル・オブ・プログレスの後に、カリブの海賊を作ったのもわかるんです。
 
 そして、ここから、その先に何を考えていたのかも推測できると思います。
 

 ウォルト・ディズニーが一番 最初にやったのは “絵を動かす” ことなんですよ。

 つまり、「止まっている絵を動かして、生きているように見せる」ということ。

 これは、うさぎのオズワルドとかミッキーマウスでやったことですね。


 次に、“絵と音楽の融合” 。

 「絵が動いている中に音が入り、音楽も入る」というものですね。


 『蒸気船ウィリー』というアニメを作って、絵と音楽が融合すればもっと面白いということを証明しました。

 そして、“アニメと実写の融合” 。

 TVシリーズの『アリス』というのを、初期のモノクロの作品の時点ですでにやっているんです。


 さらには “長編ストーリー映画をアニメでも作れる” ということを証明しました。

 これは『眠れる森の美女』として、第2次大戦の前に成功しています。


 他にも、“カラーにしてセリフをなくす” ことを目指した『ファンタジア』とか、“徹底的なリアリズムで動物アニメを作る” という『バンビ』とか、いろんな実験を繰り返してるんです。


 その後、1950年代のTVの時代になったら、“アメリカの建国神話を作る” ということで、TVシリーズとして西部の時代の『デイビー・クロケット』というお話を作ったり、『メリー・ポピンズ』で “人間ドラマとアニメの融合” というのをやってきたんですけども。


 「絵が動いて演技をする」中で、“ミッキーマウス” というキャラクターが生まれて、映画俳優以上に有名なキャラクターになれたわけですね。

 さらに、「アニメでも長編ストーリーができる」と分かった。


 こういった流れから考えたら、このオーディオ・アニマトロニクスを使ってウォルト・ディズニーは何をやりたかったのかというと、これは僕の考えなんですけども、1回乗るのに1時間以上かかる、“長編のオーディオ・アニマトロニクス・アトラクション” をやりたかったんだと思うんですよ。


 カリブの海賊とかホーンテッドマンションという、今、僕らが見ているものは、名場面のみを集めた5分間のダイジェストなんですよ。

 いわば、短編の『蒸気船ウィリー』みたいなものなんですよね。


 おそらく、ウォルトが次世代のディズニーランドのアトラクションとして考えていたのは、アトラクション1つでディズニーランド1つ分くらいのサイズが必要になる、1周回るのに60分以上かかるアトラクションじゃないかな、と。

 アニマトロニクスには難しいアクションシーンとかはさすがに無理だろうから、そこは実写で撮影してアトラクション内のスクリーンに上映して見せるとしても、基本のドラマとか演技は全てアニマトロニクスでやって、臨場感というのを見せたかったんではないのかな、と。

 絵を生きているように見せるディズニーだからこそ、人形とかロボットを生きているように見せたかったんじゃないのかなというのが、この流れで大体 考えたら、僕が思うことです。

・・・

 「アニメというのは “セルアニメ” だけじゃなくて、こんなやり方もできるんだ」ということを証明し続けてきたディズニーだからこそ、「今のロボットは、ぎこちない反復運動をしているだけに見えるんだけど、実はやり方によっては生きてるように見えるんだよ」ということを、何よりも感じていて、表現したかったんだというふうに思います。


 そう考えると、ウォルト・ディズニーの実質的な遺作と言える、死んでからやっと完成した『メリー・ポピンズ』っていう映画があるんですけども。

 この映画、改めて見てみると、実にオーディオ・アニマトロニクスを使ったアトラクション向けに作られてるんですね。


 基本のドラマは全て、家のセットの中で行われているし、メリー・ポピンズが飛び立つところも「上から釣り上げて、斜め上に滑るように飛ぶ」というふうになっている。

 あとは、メリー・ポピンズが使う魔法も、全て現実の舞台上で再現可能なものばかりやってるんですよ。

 DVDを持っている人はちょっと確認してみてください。


 煙突掃除のバートっていう、「チム・チム・チェリー♪」って歌う兄ちゃんが案内するロンドンの屋根の上の世界。

 この「屋根がどこまでも続いていて、煙突が立ち並ぶ中、向こうの方に小さい人が動いている」っていうのは、完全にミニチュアで遠近法を強調したセットとして作られているんですね。

 アトラクションぽいというか、ちょうど、イスが動いて行くアトラクションとして作る前の、とりあえずの前段階の映画として作っているのがよくわかるんですよ。


 ディズニーが1966年に死ななければ、『メリー・ポピンズ』というのは、いずれはオーディオ・アニマトロニクスによって、2時間くらい掛かるアトラクションになってたんじゃないのかなと思います。

 たぶん、それは練馬区くらいの面積の土地に昔のロンドンみたいな街が再現されていて、その中のアトラクションに入ると、4人乗りのオムニムーバーがガーッと動いて、『モンスターズインク』の “ドアがどこまでも続いている倉庫” ってあるじゃないですか。

 あんな感じで、中を立体的に動いて、『メリー・ポピンズ』の世界、19世紀のロンドンというのが体験できるアトラクションになっていたんじゃないかな、と。


 なんかね、ウォルト・ディズニーの発想というのは、たぶんその辺りくらいにあったんじゃないかな?

 僕らはついつい、もう現代のバーチャルリアリティの中で作ろうと考えちゃうんですけども、当時はまだそんなものがない時代ですから、ディズニーが生きていたら、たぶん、そんなことを考えていたんじゃないかと思います。
  
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