これはガイナックスでアニメを作っている時、『ルパン三世 カリオストロの城』のビデオが発売されたときに一番ビックリしたカットなんですけども。
これは、たいしたカットじゃないように見えるんですよ。
誰が夢を かなえてくれる~♪
ズンチャッチャ、ズンチャッチャ、ズンチャッチャ♪ っていう。
わりと長いめの、サビの終わり部分の歌なんですね。
大サビで歌い上げるという。
オープニングで、もっとも抜けのいい画面です。
青空があって。
これ、色味で分かるとおり夜明けで、もう本当に午前六時~七時ぐらいですね。
それで、どこまでも続くハイウェイで、すれ違う車が商業車、輸送トラックだけなんです。
輸送トラックだけの道路をずーっと走っていて、動いているものといえばフィアットのタイヤの部分のエフェクト。
下の影の部分が動いているだけ。
あとは道路も描いてないんですよ。
この信号灯だけがリピートで動いていて、トラックが すれ違うというね。
実は作画的には凄い手抜きなんですけども、メチャクチャかっこいいシーンなんですね。
で、この かっこいいのは何でかっていうと、実はこの雲の引っ張り方向にあるんですね。
この画面では、自動車は左下方向に走ってるんですね。
という事は、普通のアニメだったら絶対に右上の方に雲を引っ張るんです。
分かりますね?
右上に雲を引っ張ると、奥に行っているように見えるじゃないですか。
なので普通のアニメなら絶対に右上に雲を引っ張るんですけども、カリオスロトの城は そうじゃないんですね。
カリオストロの城は、雲を真上に引っ張ってるんですね。
ゆっくりと雲を真上に引っ張ってる。
本来だったらば、雲は右上の方向に引っ張るはずなのに。
なのに、なんで真上に引っ張るのかというと、風が左上に吹いているからなんですね。
風が左上に吹いて、向いている方向が右上だから、合成ベクトルとして雲は真上に引っ張られるんですよ。
みなさんもAmazonとかで カリオストロの城 があるので、このカットを見てください。
雲を真上に引っ張ってるんです。
真上に引っ張ってるっていうのは、引っ張りの予算がそれだけ安く済むからなんですね。
実は 斜めに引っ張るって、撮影台を斜めにセットしなきゃいけないから、手間がかかるし、金がかかるし、撮影さんが嫌がるんですね。
でも真横とか真上は、撮影さんが大喜びでやってくれる。
宮崎駿が何で雲の動きを真上の方向にしたかっていうと。
こうすると雲が左上に流れていて、それに対して自分たちが左下に進んでいるから、合成ベクトルとして真上になる。
そうすると、このシーンはすごい立体感があるんですね。
単に、奥に車が走っているから、反対側に雲を引っ張るっていうと、二次元的な描き方になる。
だけど宮崎駿は、頭の中でこのシーンを三次元で描いた。
これ、雲を真上に引っ張ったら、絶対にメチャクチャ立体的な絵になって、スケール感が出る。
本当にスケール感があるんですよ。
けども僕は全然 気がつかなくてさ、前田真宏と貞本義行と赤井孝美が「これ、すごいですよ!」って言って、俺と庵野秀明が「すごいね」っていう。
庵野秀明もコレに気が付かなかったっていう、メチャクチャ凄いカットなんです(笑)。
コレの何が凄いって彼らが言ってるのかっていうと、全部のカットに手間をかけるのはバカでも出来るんですよ。
そうじゃなくて、このカットを思い切って手を抜いて、雲を真上に引っ張るというだけで立体感が出来るというのが、宮崎駿の頭の中で計算できたと。
で、実際にやってみたら引っ張り速度も完璧だから、ちゃんと立体的に見えてるという。
「こんなの、世界中で他に出来る人はいません!」って言われてさ。
「俺たちは、そんなヤツラと戦わなきゃいけないのか!?」っていう(笑)。
誰が夢を かなえてくれる~♪
って、「それは、駿だよ!」っていうシーンですね(笑)。
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