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岡田斗司夫の毎日ブロマガ 2017/10/25
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今回の記事はニコ生ゼミ10/15(#200)よりハイライトでお送りします。


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「難解すぎる映画『エイリアン:コヴェナント』の読み方、教えます!<後編>」

 前号より続き


 今回のコヴェナントでハッキリしたのが、アンドロイドのデイヴィッドの目的。

 彼は、「人類を創った神様に会う」ということには全く興味がなくて、むしろ、人類を使って自分オリジナルの新しい生命を創りたがっているんですね。

 ここらへんが、映画館で観た時に「なんでそんなことをしたいの?」って僕らが思っちゃうポイントなんですけども。
 これはね、“猿真似”なんですよ。


 アンドロイドのデイヴィッドにしてみれば、「人間は私のようなアンドロイドを創った。ゆえに、私達アンドロイドの神である。つまり、神である証とは、自らの手で創造物を創ることだ。……ならば、自分も人間に近づくため、神になるためには、何か自分のオリジナルの生命を創るしかない」という、猿真似の理屈に入っているわけですね。

 人間が神の猿真似をしてロボットを作ったとするならば、ロボットも人間の猿真似をして自分オリジナルの生き物を創ろうとしている。

 そして、たぶん、このどちらも「創ったものに滅ぼされる」という未来が待っているんですね。

 だから、今回の『ブレードランナー:2049』についても、続編が作られるのが、もう、わかりきっているんですね。
 
 これ、最後は、たぶん、『猿の惑星』になるんですよ。レプリカントが人類を滅ぼす話というのに大きく流れていくのに決まっていると。

・・・

 今回の、『プロメテウス』から『コヴェナント』という、新しいエイリアンシリーズは、最終的には『2001年宇宙の旅』になるんですね。

 どういうことかというと、『2001年宇宙の旅』っていうのは、もう本当に、煎じ詰めて言えば、「進化の果てにどっちが生き残るかは殺し合って決めてください」という、歴史上初めての“デスゲームモノ”なんですよ。

 2001年っていう映画は、いろんなオカズが多いから、本質がわかりにくくなっているんですけども、お話全体としては、すごいシンプルなんです。

 
 まず、神様が猿に知恵を与える。

 知恵を与えられた猿はどうなるのかというと、水飲み場を巡って、同じ猿をなぐり殺すという事件を起こす。

 知恵の象徴として得たものは、豚の大腿骨という武器ですね。

 それで、他の猿を殺すわけです。
 そして、ここから進化というのが始まる。

 それまで殺し合うということをしらなかった類人猿は、生き物を殺すことを覚え、急に高タンパクな食事を摂ることができた。

 おかげで、身体が巨大化して、巨大な脳を維持するだけの栄養が回ってということになるわけです。

 これが、2001年宇宙の旅の一番 最初のとっかかりです。


 では、次にどうなるのかというと、知恵を得た人類は、宇宙船ディスカバリー号を作って、神様に会いに行くわけですね。

 ところが、神様に会いに行く途中で、船内の人工知能“HAL-9000”というのが、人間に対して反乱を起こすんですね。そして、戦いを挑まれた人間は、結局、HAL-9000を殺します。

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 (パネルを見せる)

 これはHAL-9000のメモリーコアに入っていくシーンですけども、デヴィッド・ボーマン船長が、HALの中に入って“脳手術”を行って、彼を事実上の脳死に追い込んでしまうんですね。

 つまり、2001年宇宙の旅における神というのは、猿に知恵という力を与え、強い者、つまり、弱い者を殺す者を生き残らせた。

 次に、この人類と、人類が作り出した人工知能の二種に「どちらが進化上、優れている生き物なのか?」という競争をさせた。

 そして、最後は、人間が人工知能を殺すことによって神様に会う権利を得て、人間を次の段階に進化させた。

 こういうのが、大きいプロットなんですよね。

 
 すごい変な話なんですよ、2001年宇宙の旅っていうのは。

 殺し合って勝たなければ、神様に認めて貰えないんですね。


 だからこそ、コヴェナントに出てくるアンドロイドのデヴィッドは、人間を殺す必要があったんです。

 2001年宇宙の旅に出てきた“デヴィッド・ボーマン船長”と同じデヴィッドという名前を持つアンドロイドが、今度は人間を殺して、次の進化のステージに行くっていうのが、コヴェナントで語られている大きいプロットなんですね。

 つまり、この映画は「ああ、リドリー・スコットは2001年をやりたいのか」っていう流れが見えないと、何の映画か全くわからないんですよ。

 そして、こういうことをあんまり感づかれたくないから、リドリー・スコットは、ある時期から「好きなSF映画は、2001年宇宙の旅です」って全く言わなくなっちゃったんですよね。

 これを言っちゃったら、ここから先、やろうとしているブレードランナーの新作や、新しいエイリアンシリーズの続編、次の『エイリアン・アウェイクニング』のネタバレになっちゃうから(笑)。

・・・

 ちなみに、『2001年宇宙の旅』を撮ったスタンリー・キューブリックは、死ぬ前に、自身最後の映画として『AI』という作品を作ろうとしてたんですね。

 まあ、結局は、自分では完成させることはできずに、スティーブン・スピルバーグに後を託して、彼が完成させたんですけども。


 このAIというのは、「不治の病にかかって、植物状態で寝たきりの息子を持っている母親に、子供型のロボットが与えられる」という話なんですけど。

 この子供型ロボットの名前も“デヴィッド”なんですよ。
 だから、本当に繋がってるんですよね。

 「神様は人間を創った。ところが、創った人間に対して神様は無関心だ」というのが、今日 紹介した全ての作品に流れている大きいテーマです。

 このAIという映画の中で、デヴィッドという少年ロボットは、母親をものすごく愛するんですけども。

 ところが、息子が病気から治って植物人間から覚めた瞬間に、母親はデヴィッドを疎ましく思って、森の中に捨ててしまうんですね。

 つまり、彼女も彼女で、自分たちが創ったものに対して、徹底的に無関心なんです。

 「神様は人を創るんだけども、ところが神様は創った後で無関心だ」というのと同じように。


 日本人からしたら、「神様は俺たちを放っておいてくれるんだ。じゃあ、好きに生きていいんだ。ラッキー!」みたいな感じなんですけども。
 西洋人というか、キリスト教の人にとっては、なかなかそうはいかないんですね。

 少年ロボットのデヴィッドは、その後も自分を捨てた母親を待ち続けて、ついに水没したニューヨークのコニーアイランドの女神像というのを見つけて、それに向かって「もう一度、お母さんに会えますように」と祈り続けます。

 そして、2000年間、祈り続けた結果、人類は滅びてしまって、その後に生まれたデヴィッドよりも遥かに進化した究極のロボット生命体みたいなものが、デヴィッドに“偽りの母親”というバーチャル体験を味わわせるっていうのが、この映画のラストシーンになっています。

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(パネルを見せる。デヴィッドとロボット生命体が顔を合わせるシーン)

 デヴィッド少年が氷漬けの中から2000年後に目覚めると、不思議な形をしたロボットのような生命体に出会うんですよ。

 彼らは、人類というのを見たことがないほど未来のAIなんですが、デヴィッド少年をすごく大事にするんですね。

 この大事にする理由について、僕らはついつい「自分たちのご先祖様みたいなロボットだから大事にするんだな」って思っちゃうんですけど。
 でも、実は違うんですよね。


 この未来のAI達っていうのは、人類を見たことがないんです。つまり、大昔に自分たちを生み出したという、彼らにとって神様である人類の存在を確信できないんです。

 「人類というのがいたんだろう」という記憶だけはあるんだけど、見たことがない。
 だけど、デヴィッドは、神様である人類を知っていて、さらには強い信仰心を持っている。

 そういう意味では、デヴィッドを見る未来のAIたちというのは、もう“十字軍を見ているキリスト教徒”みたいなものなんですよ。

 つまり、「かたや、神に対する強い信仰を持ち、その存在を確信している者。かたや、神様の存在を噂でしか知らない者」という、現在の宗教事情とそっくりの状態が出来上がっているんですよ。

 「神様と対話できなくなった人は、祈りながら、脳内で神の国を創ったり、神の言葉を妄想し、待つことしかできない」という、マーティン・スコセッシの『沈黙』にも通じるテーマが、ここに現れるんですね。

 これは、キューブリックによる皮肉であり、強烈なメッセージだと思います。

・・・

 『2001年宇宙の旅』に出てきた、神様に会うためにAIを殺したデヴィッド・ボーマン船長。
 『AI』に出てくる、デヴィッド少年。
 そして、新たな『エイリアン』シリーズに出てくる、アンドロイド・デイヴィッド。

 この3人の“デイヴィッド”が神様に会いたがっている状況なんですね。

 このアンドロイドに、わざわざ同じデイヴィッドという名前を付けていることからも、もう、リドリー・スコットがここから先、やろうとしていること明白です。

 2001年宇宙の旅に流れていくんですよ。


 ぶっちゃけ、たぶん、リドリー・スコットは、キューブリックが自分の後継者としてスピルバーグを指名したことが、悲しくてしょうがないわけですね。

 「ちょっと待ってよ! そのネタだったら俺の方が!」って思ってるのに、自分よりもはるかに若いスピルバーグを選んだ。

 あんなに「好きな映画は2001年宇宙の旅だ!」と言ってたのに、同じイギリスに住んでいるスタンリー・キューブリックが、自分の後継者として天才少年監督スピルバーグを選んでしまったというのが、まあ悲しくて悔しくてッ!

 ……という感じですよね(笑)。

 こんなもんね、もう偶然のはずがないんですよ。


 最新ニュースによれば、「エイリアン:コヴェナントの続編について、メガホンをとったリドリー・スコット監督が、エイリアンよりもAI(人工知能)に焦点をおくという構想を抱いていることを、Empireのポッドキャストで明かした」そうです。

 タイトルは『エイリアン・アウェイクニング』というそうですね。

 リドリー・スコット監督は、インタビューの中で「エイリアン自体の進化はほぼ終わったと思うが、私がやろうとしていたことはそこからさらに超越して、AIが新しい惑星で自らを見つけ、指導者として創造する可能性のある世界、という別の話に変わったよ」って言ってるんですけども。

 やっぱりね、2001年なんですよね、やろうとしていることは。


 この新作のエイリアン・アウェイクニングというのも、僕らはついつい「エイリアンの話だ」と思っちゃってるんですけど。

 でも、そうじゃなくて、「2001年宇宙の旅を、リドリー・スコットが、いかにリメイクしようとしているのか」っていうふうに見ると、もうちょっとわかりやすくなるんですね。


 僕らはついつい、『プロメテウス』や『エイリアン:コヴェナント』を見たら、「これがエイリアンかどうか」というところばかりを見ちゃって、その結果、面白かったとかつまんなかったって思っちゃうんですけど。

 今回のコヴェナントに関しても、「映像はすごいんだけど、なんだよあの話!」って、僕も思ってたんですよ。

 でも、今日、話すために、「ちょっと待てよ、コヴェナントってどんな話だっけ? そもそもこうだよな、こうだよな」って、頭の中で組んでたら、「あれ? これ、2001年じゃん!」っていうのがわかったんです。

 「ああ! だったら、面白いわ! 今、リドリー・スコットがやろうとしている『ブレードランナー』も全部そこにつながるんだ。リドリー・スコット、面白えなあ!」って。


 なので、来週は、もう一度、ブレードランナーの最初のやつを語り直すために、ブレードランナー特集をやろうと思っています。

 もう本当にね、リドリー・スコットが面白くてしょうがないという状態ですね。
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