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岡田斗司夫の毎日ブロマガ「映画『エイリアン』を語るなら、その前に20世紀アメリカのドラッグ文化の話をさせてくれ!」

2017/09/27 06:00 投稿

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岡田斗司夫の毎日ブロマガ 2017/09/27
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今回の記事はニコ生ゼミ9/17(#196)よりハイライトでお送りします。


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「映画『エイリアン』を語るなら、その前に20世紀アメリカのドラッグ文化の話をさせてくれ!」


 では、『エイリアン』という1979年に公開された映画の話と、これを作った男の物語を、ゆっくりと始めていこうと思うのですが……ごめんなさい!

 この話を始める前に、まずはその60年前の“1919年”まで遡(さかのぼ)らせてください。


 この間、『ワンダーウーマン』という映画がありましたね。
 この話の舞台になったのが第1次世界大戦です。

 第1次世界大戦は1914年から18年までの4年間 続いた戦いなんですけども、この4年間の戦いで、ヨーロッパは破壊しつくされ、敗戦国のドイツは未曽有のインフレに見舞われます。

 あまりにもインフレがすごすぎて、街中に餓死者がゴロゴロしているような有様で、これが後にヒットラー政権が出てくる原因になったと言われているんですけども。


 戦争が終わった翌年の1919年、その極貧のドイツで、一人の化学者が、誰も見たことのないような化学物質の精製に成功しました。

 存在自体は、それ以前から予言されていたんですけども、生成されたのは初めてです。
 その化学物質の名は“メスカリン”と言います。

 人類が初めて化学合成した幻覚剤ですね。

 それを摂取すると、目に見えるものが歪曲して見えて、あらゆるものが強烈な色彩に見えてグラグラし出す。
 さらには、音に合わせて見ているものも変化するという、完全な幻覚物質です。


 ただ、これが発見された当時は「こんなもん、何に使えるんだ?」と言われていました。

 幻覚症状が発生することはわかったんだけど、これが何の役に立つのか、よくわからなかったんですね。

・・・

 さて、第2次大戦が起きる1938年に、ドイツからスイスに移民した科学者アルバート・ホフマンが、メスカリンの研究を進める中で“LSD”を発明しました。

 そして、第2次大戦が終わった後くらいになって、ようやっとCIAが、このメスカリンやLSDに注目しはじめます。

 「これ、自白とか洗脳に使えるんじゃないか?」ということで、いろんな実験が繰り返されました。

 それと同時に、CIAが軍事やスパイ活動に使うのとは別に、「これは“平和”に使えるじゃないか?」と考えた人もいるんですね。


 特に、LSDは、「人類の意識を平和的な形に改造し、革命を起こす」という意味の“意識革命”という言葉が発明され、これを主張しながら、LSDやメスカリンを無料またはメチャクチャ安く配り出す団体や個人が、アメリカを中心に、世界中に山のように発生しました。


 この辺りの「薬物の存在が人類を平和に変え、それは全くこれまでと違うものになるだろう!」ということを主張する善意によるボランティアが、一斉にいろんなことをやり出すというのは、1980年代後半から2000年代くらいまでの、いわゆる“インターネット革命”とか、シリコンバレーの感じと、ものすごく似てるんですよね。


 「LSDが意識革命をもたらすだなんて本当かな?」という疑いもあるでしょう。
 それについては、こんな話があります。


 1953年に、ワトソンとクリックという科学者が、「DNAは二重らせん構造をしている」ということを発見しました。

 この二重らせん構造というのは、DNAのX線解析写真でぼんやりとわかっていたんですけど、それが二重らせんになっていることは、誰にもわからなかったんですよね。


 ワトソンとクリックも「これがどんなものなのか?」と2人で議論していたんですけども、答えは出ず。

 ……で、ある日、2人は、その議論を一旦休憩して、どうやらLSDをやったらしいんですよ(笑)。

 そしたら、2人ともピーンと来て。「これ、二重らせんじゃないの!?」ということで、これでノーベル賞まで獲っちゃったんですね。

 この、「ワトソン、クリックの二重らせん構造の発見はLSDのおかげである」っていうのは、けっこう有名な話になってるんですけども。


 こんな成果があったので、僕が生まれた翌年の1959年、世界初の“LSD国際会議”というのがアメリカで開かれた時、CIAと科学者の意見が真っ向から対立することになりました。

 CIAは「LSDは人間の精神を破壊し、狂気に追いやる!」って主張するんです。


 当たり前です。

 彼らは実験としていろんな人間に投与して、データを山程持っていたし、おまけに軍事目的で使うつもりだったから、世間の目からは出来るだけ隠したいんですよね。

 それに対して、科学者……主に心理学者は「LSDは創造性を高める! ワトソンとクリックなんか、それでノーベル賞を獲ったじゃないか!」と主張して大論争が起こります。

・・・

 1959年に学会が開かれてから後、1960年代前半のアメリカは、まさに“怒涛の時代”です。

 よく「1960年代がどんな時代だったか~」って言われますね。


 61年にケネディがアメリカの大統領になって、月へ人類を送る計画を発動し、同時に国民の公民権運動がものすごく盛んになって、ベトナム戦争にアメリカが参加して……っていう混乱の時代だったんですけども。

 それは同時に、LSDやメスカリンなどの“ドラッグ革命”の時代でもあったんですね。

 なんでそんなにアメリカの社会が大きく動いたのかというと、「気の利いたヤツはみんな薬物をやっていたから」という、なんか、今から考えると「本当かよ!?」という状況があったわけです(笑)。


 1963年、ケネディが暗殺されて、副大統領に過ぎなかったジョンソンが自動的にアメリカの大統領に昇格しました。

 ジョンソンの選挙区のテキサス州というのは、実は黒人差別が一番激しかった州で、そこがアポロ宇宙計画の本部になっちゃったわけですね。
 

 この、アポロ計画が動いたり、ケネディが暗殺されたりしたのと同時期に、ハーバード大学のティモシー・リアリーという、すごく有名な心理学者が、大学の予算を正式に使って「刑務所の囚人にLSDを集中的に投与する」という実験を始めました。


 もうね、ティモシー・リアリーは研究発表したはいいんですけど、やっぱり「LSDはいいものだ!」と言い過ぎて、後に、ハーバード大学を自分から辞めた後で、さらにハーバード大学から「当校はティモシー・リアリーと関係ありません!」と言われるまでになってしまったんですけども(笑)。


  この実験の結果がどうだったのかというと、極悪囚人だけでなく、刑務所内のあらゆる囚人に大量投与した結果、彼らは急に神を語ったり愛を語ったりするようになって、刑務所での暴動どころか、喧嘩すら一切なくなったんですよ。

 ティモシー・リアリーは「ほら見たことか! LSDは人類を平和にする意識革命だ!」というふうに言った、と。


 さらには、その前年に、オルダス・ハックスレーという、『素晴らしき新世界』とか『動物農場』を書いたイギリスの有名な作家が、『知覚の扉』という本を出してベストセラーになりました。

 何かというと、「俺自身がメスカリンやLSDをやってみるぜ!」というもの。

 いわゆる日本で例えると、村上春樹のような超売れっ子の作家が「今からLSDをやります!」って言って、麻薬をガンガンキメて、そのレポートを書いたらベストセラーになっちゃった、みたいな本なんですね。


「麻薬やってみた」(コメント)


 そう!
 ニコニコ動画で言うところの“やってみた系”というやつですね(笑)。
 
 これらが契機となって、もう、一気に幻覚剤ブームが60年代半ばのアメリカで起こっちゃったわけです。

・・・

 その最中の1965年、フランク・ハーバードというSF作家が『デューン』という小説を発表しました。
 

 このデューンという小説は、遠い遠い未来に“惑星アラキス”という星で採れる“メランジ”という麻薬が元になって銀河革命が起きるという話。

 もう、とりあえず、「幻覚剤による意識拡張と、それによる革命運動、平和運動が起こる」という、当時の人が一番見たかったようなお話なんですね。

 後にデヴィット・リンチがすっごいダメな映画を作りましたけども、その原作となった小説です。


 このデューンがアメリカ文化に与えた影響というのはものすごくデカいんですよね。

 人種差別、宇宙開発、ベトナム戦争、社会革命、幻覚剤ブームが一斉に起きて、それらが全部デューンにリンクしていたんですよ。これらの文化が、互いに影響を与え合ってるわけですね。

 さて、この時期、大学を一度卒業したんだけども、全く仕事がない一人のダメ男が、南カリフォルニア大学に入ります。


 その名を“ダン・オバノン”と言います。


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