ハインラインは1966年に『月は無慈悲な夜の女王』を出版しました。
これまでハインラインは、大衆的な人気はあったんですよ。
だからこそ、過激なことを書いて騒がれたんです。
大衆的な人気とは、既存の価値観を肯定することによって出来るんですね。
そんな事を語ってきたハインラインが『月は無慈悲な夜の女王』で書いたのが“革命もの”なんです。
それも“革命の起こし方”です。
犯罪結社としての革命の作り方から、どのようにして大衆を扇動するか。
実はこの『月は無慈悲な夜の女王』って、まさにガンダムの元ネタなんですね。
主人公は、地球連邦に圧迫されて生きている事が我慢できない。
面白いことに、作中の月の人たちって独立とか、まったく望んでないんですよね。
だから月の人間たちに「月は地球に対して独立したい」と思わせて、地球に対して軍事攻撃をかけて独立させるという。
かなり反政府主義的な考えの小説を書くんですね。
『月は無慈悲な夜の女王』の原題は『The Moon Is a Harsh Mistress』
ミストレスっていうのは女教師のことです。
つまり「月は厳しい女性教師だ」というのが原題なんです。
21世紀の月は、地球から犯罪者が送られて、その犯罪者たちは自分が吸う空気すらお金を払って買わなければいけない。
そして地球に輸出する小麦を作らされている。
働いても働いても貧しいだけ。
主人公の名前はマニュエルと言うんですけども、マンと呼ばれています。
マンは、ある日、月面で最大のコンピューターが、自意識を持ってるということを発見します。
そして「彼を中心とした革命組織を作ろう!」と、いうところからお話がスタートします。
ここで語られる月の世界は、基本的には一妻多夫なんです。
流刑者ですから、女性の数が少ないんですね。
なので徹底的に女性に選択権が与えられている。
女がすることなら、なんでもオッケー。
男の生きていく価値は、女によって決められる。
男には拒否権が、いっさい無い世界なんですね。
その中では、複雑でありながら、実は人類社会ではそれまでいくつも組合わされた家族観が提示されます。
この小説の中にはメインの登場人物が3人出てきます。
それは主人公のマン。
コンピューター技術者です。
女の子のワイオ。
もともと月で革命を起こしたいと思ってる美人の女の人です。
3人目が教授ですね。
ハインラインの小説に出てくる“教授”と呼ばれる老人は、最も過激な思想をもってるんです。
この人は自分のことを“合理的無政府主義者”と呼んでます。
これが今回のメインのお題の“リバタリアン”って考え方ですね。
このリバタリアン思想を利用すれば、今の日本が置かれている政治的な問題とかを考えるときに、たいへん参考になる。
僕自身も「中途半端なリバタリアンだな」と、自覚してるんですよね。
実は“リバタリアン思想”というのは、成熟してないんです。
決して成熟した思想ではないので、みんなが未熟なリバタリアンでしか、ありえないんですよ。
“合理的無政府主義者”というのは何か?
完全に『宇宙の戦士』と逆です。
『宇宙の戦士』の中で語られるのは、“ノブレスオブリージュ”
優れた力がある者は、他の人に対して献身しなければいけない。
その分の責務を負う。
中二男子としては、分かりやすい考え方なんですよね。
しかし『月は無慈悲な夜の女王』の中に出てくる考え方は“リバタリアン”
いかなる国家・政府であろうとも、国の為に命を投げ出す値打ちなんてまったく無い。
それどころか、「お金すら払う値打ちが一円も無い」って、言い切ってるんですね。
コメント
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岡田さんは、「社会的弱者は死ねばいい」と考えておられるのでしょうか?
それとも、政府ではなくて権力の伴わない、互助的な組織が弱者を守るべきだ、と考えておられるのでしょうか?
また、権力の伴わない弱者を守るシステムが他に存在し得ると考えておられますか?