オープニングアニメの制作が始まってもう2週間。
つまりすでに庵野秀明ら3人がうちに泊まり込んでから2週間が経過した。
いや、アニメ三人組だけではない。
連日の会議や企画作りで、誰か2〜3人は必ず泊まり込んでいる。
深夜に会社のコピー機を何時間も使っている。
事務所のセロテープやホッチキスの玉がいつの間にかごっそり無くなっている。
父も母も、こんな状態にはそろそろ耐えられなくなっていた。
しかし、僕にしてみればようやっと順調に制作が進み出したばかりだ。
できれば目をつぶって欲しい。
そう、あと・・・3ヶ月ぐらい?
さらに2週間、つまり泊まり込み開始一ヶ月が経過した時、ついに庵野は大きな荷物を抱えて我が家を出た。
見送る母は満面の笑みで「早よ帰っておいでや!」と言った。
もちろん本気であろうはずがない。
すると庵野は負けないような笑顔で「はい、着替えを取りに帰るだけですから。晩飯には帰ります!」と去っていった。
こんなエピソードは無数にある。
要するに、当時の僕は「友達に利用されタカられるだけのダメ息子」と思われ、そしていっしょにSF大会やアニメを作る仲間たちは「ワケのわからない奴ら」だと思われていた、ということだ。
両親が警察や法律家に相談しなかった唯一の理由は「あの子らは少なくとも不良ではない。あんなケンカの弱そうな不良はおらん」だった。
ゴミ箱事件の時には、ついに両親の緊張も限界を超えた。
廊下に出した大きな段ボール箱をゴミ箱にしていたが、赤井孝美がそこに落書きを描いた。
別にゴミ箱だから描いたわけではない。
赤井という人間は「描く場所があれば、なにか描かずにはいられない人間」なのだ。
僕は同様の「ヒマと空間があれば絵を描く人間」を二人だけ知っている。
貞本義行と前田真宏だ。
つまり、絵で評価される人間は、絶対にいつも絵を描いてる奴だけなのだ。
話が逸れた。赤井はゴミ箱に巨大な「DAICONⅢの女の子」を描いた。
上半身裸体の、ちょっとデッサンぽい絵だ。まず父がそれを見つけた。
すると泊まり込んでいた友人の一人、後の「王立宇宙軍」というアニメでチャリチャンミなるキャラのモデルになったクリマン(本名・外山)が「赤井が描いてん。上手いやろ?あいつロリコンやから」と言った。父は凍り付いた。
当時のオタク原人にとってロリコンというのは尊称みたいなもんだったけど、厳格な父がそんなこと知るはずもない。
父は母に言いつけ、母はゴミ箱を見て、それまで足を踏み入れなかった元・姉の部屋、現在はスタッフ全員の寝部屋に足を踏み入れた。
その夜、僕は父と母に呼ばれた。
あの核シェルター部屋で鋼鉄のシャッターを閉め切ってこんこんと説教された。
庵野秀明と赤井孝美、山賀博之の三人は性犯罪者か、その候補者だ。
いますぐ縁を切れ、と詰め寄られたのだ。
その性犯罪者の描いてくれたイラストを二人の息子が後生大事に持っていることは知るはずもない。
しかし、情況は劇的に逆転した!
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