年内日本で開催される「REAL FIGHT CHAMPIONSHIP」でのMMAデビューが正式発表されたヒクソン・グレイシーの息子クロン。「親の七光り」ではなくアブダビ・コンバットをオール一本勝ちで優勝、他の柔術やグラップリングイベントでも活躍をおさめている。これまで日本の格闘技ファンを興奮させてきた「グレイシー」というロマンは何なのか。クロンのMMAデビューを10倍楽しめるインタビュー!
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――ヒクソンの息子クロン・グレイシーが日本でMMAデビューするということで、
ブラジリアン柔術黒帯にして
柔術専門ライターの
橋本欽也さんに「グレイシー柔術」について語っていただきます。それにしてもミューズ音楽学院の中に柔術教室ってなんだか不思議ですね。
欽也 経緯を話すと長くなるから省略するけど、もともとは「スマックガール格闘技スタジオ@MUSE」だったの。
――始まりは女子格闘技イベント・スマックガールの格闘技教室。
欽也 女子格闘家がインストラクターで参加費は1回500円。いまは1000円だけどね。
――それはかなり安いですねぇ。
欽也 それが「ジュエルス格闘技スタジオ@MUSE」に変わって、ジュエルスがDEEPでやるようになっていまは「ミューズ柔術アカデミー」になったんだよ。それで女子格闘家のインストラクターがいなくなったら、会員がほとんどやめちゃって。
――えっ、そういうもんなんですか。
欽也 そうなんだよぉ! ふざけやがってマジで!!
――ボクの大声を出されてましても(笑)。
欽也 いまは指導は41歳の俺がやってるんだけどさあ。
――なるほど。41歳と女子インストラクターでは「もはやお店が違う!」のかもしれません(笑)。
欽也 要はみんな女子と柔術でネチョネチョしたかったわけ。つまり目的はJKリフレのプロレス技と一緒だったんだよっ!!(バンバン)。
――あ、あのグレイシー柔術の話題は……。
欽也 (聞かずに)で、ここに女子プロレスラーの加藤悠さんが習いに来てるんだけど。それをネタにして「女子プロレスラーリフレ」じゃないけど、ヘッドロックやスリーパーをやったりする技チェキをやってるの。あの事件に乗っかって(笑)。
――会員減少とJKリフレでピンときたわけですね。
欽也 きたきた。それに『SPA!』が食いついてきて今度取材がありますから。それを売りにはしないけど、やろうと思えば普通にビジネスになるよ。1回1000円で30人くらいは集まるでしょ。
――マジメな方からは批判の声が飛んできそうですけど……。
欽也 なんでもありだよ、そんなもん!! 加藤さんも仕事として割り切ってるから。「どんな技がいいですか?」「なんでもいいです」「じゃあスリーパーで」っておっぱいに当てちゃってたりして相手はニヤニヤというね。男だって本当はそーゆーことをやりたいんだもん。それに柔術をやっていたらそういうシーンは普通にあるから。サイドポジションは自分の胸を相手の顔の側頭部を当てたらポイントになるわけだから。女子は純粋に柔術をやるなら男子と練習するのは抵抗がないし。
――問題は男子にある!と(笑)。
欽也 前はJKリフレみたいなことを合法的にできたんだよね。だから女子格闘家がインストラクターの頃は、会員がいっぱいいたんですよ。ところが女子格闘家がいなくなったら会員が3人とかになっちゃった。
――えええええ!!
欽也 ホントにホントに。いまは持ち直したけどね。
――女子格闘家目当てで来てるとは思わなかったんですか?
欽也 ぜんぜん思わなかった。
――みんな「柔術大好き!」で通ってると思ってた、と。
欽也 そのはずなんだけどなあ。だって、せつくなくない? 俺が一生懸命教える柔術よりも女子格闘家と寝技をやることが目的だったなんて!!(バンバン)。でも、それなんかまだマシなんだよ。数ヶ月にいっぺん納涼会や忘年会をやりますというと、練習にも来ねえで出席する奴がいたから。要は女子格闘家との飲み会だけに参加するようになっちゃって。
――月会費じゃないから誰でも来れちゃうところがありますもんね。
欽也 あと「ボクは身体が弱いので女子としか組めません」とか言う奴とかいたりさ。「何を言ってるの?」って感じだけど。そういう変な奴がいっぱいいたんだから!! 「お金を払うから見学していいですか?」とか。
――柔術視感プレイ(笑)。
欽也 いたのよ! 練習はしないけど1000円払って見学だけしてる奴が。要は女子が汗を掻いてハアハア言ってる姿を見たいフェチ。
――ほかのジムで女子インストラクターっていなかったんですか?
欽也 インストラクターというかたちで出していたところはここだけだった。女子目当てだとしても「格闘技を習いたいです」というていで来れば肯定されちゃうじゃん。でも、それを察知した瞬間、俺がガチガチにやって、それでも通うならいいんだけど。女子目当ての奴はたいてい消えるから。
――41歳の門番、橋本欽也(笑)。
欽也 ホントふざけた話なんだけどさ。
――麻雀でも女流プロ目当てでお店に通う男子がいっぱいいるんですよ。
欽也 二階堂姉妹とか。
――あ、よくご存知で。
欽也 麻雀といえば雀鬼(桜井章一)はヒクソンと仲いいじゃん!
――やっと本題に入ります! 親父のヒクソンも強いし、その息子のクロンも強いとかグレイシーって幻想的ですよね。
欽也 グレイシーってホント凄いんだよ。まずグレイシーを倒したら一生の勲章になるじゃん。
――いまでは「闘魂ストーカー」としての印象が強いですけど、ヴァリッジ・イズマイウなんかそうですよね。
欽也 マナウスから出てきた狂犬が名前を挙げたのは柔術でヘンゾやホイスに勝ったからなんだよね。グレイシーに勝つのはそれくらい大きなことで。グレイシー一族はそんなプレッシャーの中で連戦連勝を宿命付けられて生きてる人たちだから。
――グレイシーしか知りえない特別な技術ってあるんですか?
欽也 ある。これがホント凄いんだよ。
――あるんですか!
欽也 特別じゃないことが特別なのよ。たとえばホジャーの必殺技はマウントからの十字絞めでしょ。ホジャーに聞いたら「こうやるだけ。十字絞めにシークレットなんてないよ」って言うんだけど、簡単に極めてしまう。他人には真似できない。ヒクソンなんかマウントを取ったら観客がカウントアップを数え始めて30秒以内に極めちゃうという伝説があるんだけど。それはホジャーもそう。マウントを取ったら絶対に極める。でも、何か特別なことをやってるわけじゃなくて。
――特別じゃないことを特別にしてしまうのがグレイシー。
欽也 なんでそうなるかというと、いまグレイシー柔術とブラジリアン柔術は別物になっちゃって。ブラジリアン柔術のルーツはグレイシー柔術なんだけど。別物になったのは、ホリオンがグレイシー柔術の商標登録をしちゃって、ほかのグレイシーいえどもグレイシー柔術を名乗れなくなったんだよ。それでどうでしようとなったときにカーロス・グレイシー・ジュニアがブラジリアン柔術という名前を商標登録して、競技柔術としてやりだしたんだよ。いまグレイシー柔術を名乗れるのはカルフォルニアのトーランスにあるグレイシー柔術アカデミー。UFCを始めたホリオンと、その息子のヒーロン、ヘナーがやってるところ。あとビバリーヒルズにもできたけど。
――グレイシー柔術を名乗れるのはそこだけ。
欽也 そう。帯のグレーディングはブラジリアン柔術と一緒だよ。青帯、紫帯、茶帯、黒帯。俺はブラジリアン柔術黒帯なんだけど、グレイシー柔術に行ったら白帯なの。それはまったくの別物だから、グレイシー柔術独特の技術のテストがあって、それをパスしないと青帯にならないの。
――商標登録以前に“中身”も違うんですね。
欽也 まったく違う。だから俺がLAに行ったときに1回50ドル払ってグレイシー柔術のクラスを受けるのはそこにしかない技術があるから。そこでヒーロンやヘナーから受けるクラスはカルチャーショック。ビックリしたもん! たとえばサイドポジションのデティールの細かさったらないの。ブラジリアン柔術とかたちは一緒なんだけど、そこに至る過程が全然違う。
――それは習っただけじゃわからないですか?
欽也 わからない。DVDを見ただけなおさらわからない。
――ネットでググればたいてい解決する時代にわからないことがある(笑)。
欽也 体重移動の仕方なんか繰り返さないとわかんないよ。スパーやったんだけど乗っかられたらぜんぜん動けないし、押したときに押し返されるんじゃなくなくてもう横にいるから。柳に風ですよ。
――ブラジリアン柔術の黒帯でもよくわからない世界なんですね……。
欽也 グレイシー柔術には何かがあるんだよ!だからお金を払ってでも習いたい。
――それはブラジリアン柔術には取り入れられてないんですか?
欽也 ブラジリアン柔術の原型がグレイシー柔術なんだけど、どんどん過程が抜け落ちていったんでしょうね。だからブラジリアン柔術って、中国によくあるパチもんのドラえもんみたいなもんなんだよ! 日本のドラえもんとは違うでしょ!?
――過激なたとえですね(笑)。
欽也 リョートやロンダ・ラウジーなんかもあんだけ柔術道場がある中で、トーランスに習いに行ってるでしょ。それはあそこにしかない何かがあるから。それは俺も行ってみて感じた。ロンダは柔道銅メダリストで腕十字の女王と呼ばれていて、リョートは競技柔術の黒帯ですよ。それなのに1回500ドルを払ってヒーロンとヘナーのプライベートレッスンを受けてるわけですよ。
――1回500ドル!
欽也 もっと払ってるかもしれない。彼らからすれば大した経費じゃないかもしれないけど。
――柔術の裾野は広がってますけど、なぜグレイシー柔術は神秘性を保つことができるんですか?
欽也 グレイシー柔術はセルフディフェンス、護身術の技術の伝達に特化しちゃってるから。そうなると競技柔術とは異なってくるよね。
――なるほど。ゲームではないから広がりづらいですね。
欽也 だからメタモリス(ホリオンの息子ハレック・グレイシーが主催する柔術&グラプッリング大会)で、柔術世界王者にしてADCC(アブダビコンバット)王者のアンドレ・ガウバォンがヒーロンとやって極めきれなかったのよ。もうそれだけでセルフディフェンスを売りにしてるグレイシー柔術の勝ちでしょ。
――そこは競技柔術の価値観はないんですね。
欽也 それはグレイシーの詭弁なのかもしれないかもしれないけどね。ホントは極めて勝てればいいわけだし。でも、世界王者を相手に20分間の試合時間の中で極めさせなかったのは凄いことだと思う。ガウバォンはパスできるんだけど極められない。ガウバォンなんて道場だと誰でも極めちゃうのに。それでイライラして試合後にグレイシーに文句を言って株を下げちゃったんだから(笑)。
――世界王者が自分を見失うくらいグレイシー柔術のセルフディフェンスの能力が高い。
欽也 ガウバォンはグレイシー柔術のエスケープ技術にはじめて触れたんだと思うよ。ブラジリアン柔術の技術では防げなかったカヴァオンをグレイシー柔術が止めた。彼にはグレイシー柔術の攻略法がなかったんだよ。そんなヒーロンやヘナーが「ヒクソンからはまだまだ学ぶところがある」と言っちゃうんだから。そんなにヒクソンって凄いの!?って。
――ホイスの「兄は10倍強い」はあながちハッタリではない、と(笑)。パウロ・フィリオがヒクソンに子供扱いされたんですよね。
欽也 ボッコボコにされたっていうね。でもまあ道着だったら全然ありえるよ。俺だって40歳だけど、20 歳の柔道有段者はボコボコにするし、その俺がデラヒーバにはボコボコにされるし。石井慧がバリバリの柔道家のときにアンドレ・ガウバォンと柔術のスパーしたけど歯が立たなかったわけでしょ。それは当たり前じゃない。だってアンドレ・ガウバォンは柔術の世界王者なんだから。そのアンドレ・ガウバォンがヒクソンにマウントを取られて返せなかったのをみんなが見てたんだから!
――ヒクソン、ヤバイ!(笑)。
欽也 そういうシーンを見ちゃったら、みんなヒクソンを崇拜しちゃうでしょ。高いお金を払ってヒクソンのセミナーを受けちゃいますよ! 何か違うものをグレイシーは持ってると思っちゃうから。それくらいヒクソンは別格になっちゃってる。それにブラジル人って「俺は最強。誰にも負けない。ヘンゾだろうかなんだろうが負けない」と言うんだよ。でも「ヒクソンは?」って聞いたら「それはどうかなあ……」って言葉を濁しちゃうくらい別格なんだって。
――あの最凶ヘンゾより恐れられるのがヒクソンですか……。
欽也 ルタ・リーブリvs柔術をやったときもヒクソンがアメリカに渡ったと聞いて、ルタ側が殴りこみをかけたんだから!
――ハハハハハハハハ!
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