新日本プロレスの大攻勢が止まりません。これはまるで第4回麻雀史上最強戦における山田英樹の大連荘のようであります。あまりの惨敗に不貞腐れて麻雀を打つ映画監督・長谷川和彦さんの姿は麻雀の罪深さを感じて仕方ありませんでした。
新日本プロレスはファン不在の権力闘争に明け暮れハコ点寸前となったゼロゼロ年代前半から一転して、顧客満足に力を入れプロレスファンから信頼を取り戻しました。そして昨年2月にカードゲーム会社として知られるブシロードがオーナーとなり、三鷹の某雀荘のような大々的なプロモーションを開始。徐々にではありますが世間の耳目を再び集めるようになります。夢はプロレスブーム再び! こんなところで満足してはいけません。新日本プロレスは、オッサンにチヤホヤされてマナ悪となる女流麻雀プロのようにはなってはならないのです。
新日本はプロレス5月23日には人気トーク番組『アメトーーク』でも取り上げられ、きたる6月2日『大改造!! 劇的ビフォーアフター』でも、伝統の新日本プロレス寮の改築がなんと2時間にわたって放送されるそうです。
こうしてメディア露出が激しくなる中、私を含めて全国に100人ほど存在するプロレス&麻雀ファンが最も注目していたのは、その新日本プロレスの会長・木谷高明氏の『麻雀最強戦』出陣ではないでしょうか。
今年で23回目を迎える竹書房主宰の『麻雀最強戦』。大会システムの詳細は省きますが、麻雀界で最も華やかな麻雀タイトル戦です。プロレス界と麻雀ってけっこう結びつきは強いんです。
ジャイアント馬場さんは松山千春や三遊亭圓楽師匠と麻雀仲間だったり、90年代・新日本プロレスはビッグサカ(坂口征司)を筆頭に麻雀三昧だったとか。武藤敬司は麻雀を早くやりたがいがために、グレート・ムタのキャラクラー契約書をろくに読まずに麻雀卓の上でサイン。麻雀卓は机じゃない! これには来賀友志先生も激おこプンプン丸です。よけいなお世話ですが『天牌』は入星死去で終わったほうがよかったのではないでしょうか。「ステップ」の常連客にチンチンにされる沖本瞬は見たくなかった。傑作麻雀漫画にも及んだ「強さのインフレ」を私は一生、恨みます。
話を戻すと、そのためムタの権利は新日本側が持つことになり、武藤離脱後の新日本にオリジナル要素皆無のザ・グレート・ムタが現われたのは麻雀のせいだったわけです。
なお、石橋を叩いて叩いてあげく渡らない性格の馬場さんやビッグサカの影響があるせいか、プロレス界の麻雀打ちはみんな守備的です。ギャンブラーで身を崩した安田忠夫さんは、私が通いつめた新宿の雀荘に来ていたそうですが、豪快な人柄とは真逆のスケール感皆無の麻雀を打っていたようでした。
さて、木谷社長はどんな雀風なんでしょうか。
対局前、解説のババプロこと馬場裕一さんの口から「(対局したことのある女流プロいわく)木谷さんは理不尽な麻雀を打つ」との事前情報が飛び出し、ツイキャスで実況していた私は「漫画家の福本伸行先生型ではないか」と予想しました。『アカギ』や『カイジ』などのギャンブル漫画で知られる福本先生の雀風は、セオリーにとらわれない直感型麻雀です。
たとえばそれは親の大物手に愚形の役なし手で特攻したり、1000点でアガルべき手を無理に大物手にして、その場に混乱をもたらします。つまり中級者から「初心者扱い」されやすい打ち筋。
でも、麻雀って知識や経験を重ねた中級者って、そーゆー“ヘタウマ”に心を折られるケースって多いですよね。「そんな牌を打つから場が荒れるよ~」と愚痴をこぼす、上級者を自認する打ち手があなたの周りにもいませんか?
実際、木谷会長の麻雀は、自分の感性を信頼した麻雀でした。
東三局一本場 ドラ
声優・植田佳奈さんが3局連続で和了した親番の一本場。植田さんから先制のリーチが入ります。
捨て牌は
勢いに乗る親のリーチ。子の3人からすればもう放銃を避けて大人しくするしかありません。それに今回のルールでは2着まで決勝進出ができる。ここで無理をする必要はないのですが、木谷会長は違いました。
この手牌から……
チー、チー、チー!! あっという間の三副露で親のリーチに片アガリで突っ張る!
考え方として、とりあえず後付けでもいいから仕掛けて、親への危険牌を引いたらの対子落としをする手もありますが、木谷会長は無筋を切って親のリーチに真っ向勝負! 結局、植田さんのツモアガリでこの局は終了しますが、木谷会長の理不尽麻雀が再び発揮されたのはオーラスの南四局でした。
植田さんが39600点持ちのトップ目、木谷会長は28200点持ちの2着目。そこに17700点持ち3着目の風間杜夫さんに起死回生のメンホンリーチが入ります。
この大物手をツモアガるか、2着目の木谷社長からの直撃すれば風間さんは決勝進出。風間さんの捨て牌には筒子が一枚も切られていません。木谷会長がわざわざ危険な筒子を出すわけがない……しかし、木谷社長は危険牌のを叩き切ります! これには放送席からも驚きの声。
打
これには2つの考え方があります。
木谷会長の打牌を否定するならば、この最強戦ルールの跳満ツモは難易度が高い。満貫直撃の危険を侵す必要はなくベタオリ(撤退)すべきである。
肯定するとすれば、リーチをかけた時点でツモハネの手牌は入ったと考えるべきである。こっちも聴牌してるのだから攻めの一手。自らの手で勝負を決める、というもの。
おそらく木谷会長は感性打ちにありがちな「なんとなく」打ったのでしょう。次巡、危険牌を掴んで撤退。風間さんもツモれず木谷会長の決勝進出が決定しました。
そして決勝戦はどうなったかというと、木谷会長は優勝をほぼ手中に収めますが、その感性がアガリへの欲を生み出してしまいます。
南二局 親番 ドラは
捨て牌
木谷会長、謎の単騎リーチ! この意味不明さは唐突に桜庭和志のセコンドに就いた姿とダブります。筋引っ掛けとはいえ宣言牌がなのでは危険牌。なかなか出るような待ちではありません。案の定、アガリを失いほかの他家の大物手を誘発。このミスにより優勝を逃してしまいました。。。残念!
このように木谷会長のスタイルが必ずしも良い結果を生み出すとは限りません。フォームが定まってないことから、お手本にはならないとして多くの打ち手が否定するでしょう。
しかし、多くを知るわけではないですが、木谷会長はこれまでの人生において、不恰好ながらも常に攻め続けてきたのではないでしょうか。そして傷つきながらも自分を信じて貫き通して今に至った。麻雀も、人生も、効率よく、セオリー通りに進めればうまくいくのか。答えはノーです。
その木谷会長の攻めっけはいまの新日本プロレスとの相性の良さを感じます。絶望の暗黒時代を知り、ギャンブルを避け、安定感を求める選手、スタッフたち。一方でガンガン前に出る木谷会長。その綱引きが新日本プロレス現在のバランスの良さを生んでいる!!!!……とかなんとか無理やり麻雀と結びつけてお開きにしたいと思います。(ジャン斉藤)
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