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『極悪女王』の時代を目撃したライターの伊藤雅奈子さん15000字インタビューです!(聞き手/ジャン斉藤)


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ファン時代はクラッシュ・ギャルズを追いかけてライオネス飛鳥公認親衛隊長を務め、マスコミとしては主に女子プロレスを精力的に取材されてきた伊藤さんですが、Netflixシリーズ『極悪女王』でも関わりがあるそうですね。

伊藤 じつはそうなんです。去年の2023年がクラッシュ・ギャルズ結成40周年だったんですけど、10月1日に横浜武道館でメモリアルライブを開催したんです。そこでスタッフとして稼働していた縁でNetflixの関係者と繋がりができました。もうその時点で『極悪女王』の撮影はもう終わってたんですけどね。

――
制作は3年前からスタートしたようですね。

伊藤
 準備段階を入れると、4年近く前だと思います。今年の春先にNetflixさんのほうからご連絡をちょうだいして、ぜひご協力いただきたいということで。いまもデジタルパンフレットは閲覧できるんですけど、そこに寄稿してほしいと。ほかにもプロレスメディアの紹介など、名前が出ないかたちのご協力をフルパワーでさせていただきました。なので、かなり早い段階で作品を視聴しています。

――
ご覧になっていかがでした?

伊藤
 撮影に入る前にちゃんとリサーチする時間を積み重ねたみたいで。スタッフクレジットに元『週刊プロレス』や『DERUXEプロレス』編集長の濱部(良典)さんや、元『デイリースポーツ』宮本(久夫)さん、ロッシー小川さん、オッキー沖田さん、ジャンボ堀さんたちが載っていましたが、実際に協力したそうです。

――
だからこそのクオリティというか再現度。

伊藤
 それは当時を知っている人がちゃんと足を動かしているわけだから、そこまでのクオリティはいくわなと。作品を見たみんなは驚いているけど、「そりゃそうだよ」と密かに思ってました(笑)。

――
作品公開の反応が待ちきれなかったところもあったんですね。

伊藤 でも、私はNetflixが『極悪女王』を作ると聞いたとき、正直イヤだったんですね。ダンプ(松本)さんはさておいて、飛鳥さんはトップアスリートの体型じゃないですか。だからこそライオネス飛鳥はストロングスタイルを保てて、完全なるフィジカルモンスターだったと思っているんですね。そんな俳優はいないでしょう。千種さんにしても、笑うと頬骨がキュッと上がってフェイスラインが出て。彼女は嫌がってるけれども、いかり肩からの逆三角形。こんなに整ったボディラインを出せる俳優は日本にいないだろうと思ったんですね。そこでキャストの3人が決まったときに「これは無理だわ……」って正直思ったんですよ。

――クラッシュ・ギャルズを再現できるわけがないと。

伊藤 身体を作ることができないだろうから、試合シーンは全部吹き替えでやるんだろうと。飛鳥さんの身体は持って生まれた天性のものだから絶対に作れない。それにクラッシュ・ギャルズを知らない人間が演じるんだから、どうせ中途半端どまりだろうと思ってたんですね(苦笑)。そう思わないと、なんか認めちゃうようでイヤだなって。

――
当時の全女の輝きを知っているからこそ受け止めづらいですよね。

伊藤
 とても否定的なところで入ったんですが、(作品を)一気見すると、あまりの素晴らしさに号泣しちゃって……。『極悪女王』はほぼ順撮りらしいんですよね。2話ぐらいから、プロレスのシーンが多くなっていくんですが、女子プロレスラーを演じた12人の俳優さんたちの身体が徐々にできあがっていくんですよ。

――
順撮りだからこそプロレスラーになっていく過程が見えてくる。

伊藤
 同時に身体にアザも増えていくんですよ。それは実際に練習したときにできたものですよね。これはもう生半可な感じで見てはダメな作品だと思って。真剣に向き合って見ていくと、本当に感情を持っていかれて、3話目からもう泣いてしまって、5話目なんて私が私じゃなくなるくらいにダメでした。否定していた時間が長かったぶん、数分にして心が全部奪われていった。オセロが全部ひっくり返った感じで衝撃でした。飛鳥さん役の剛力(彩芽)さんが細いとか、誰々役の俳優の身長が足りないとか、そういうレベルの話の物語でもないんだなぁと思って。見る前まではすごい頑張って否定してた私がバカみたいだなって(苦笑)。

――
それぐらい制作側や出演者たちが本気で取り組んでいたってことですね。

伊藤 後々にね、いろんなインタビューで全部わかっていくわけでしょ。ゆりやんさんは3年間、頑張っていたとか、マーベラスの道場に通っていたとか、身体を作るために吐きながら食べて、食べながら泣いていたとか。彼女たちが努力をしていたことがメディアを通してわかりましたよね。

――
『極悪女王』以前にいろいろと批判されがちだった唐田(えりか)さんや剛力さんもその演技が絶賛されてますね。

伊藤
 SNSもそういう書き込みが多いですよね。

――
強いて批判があるとすれば、存在しない「ブック」というプロレス用語なんですけど。伊藤さんは引っかからなかったですか?

伊藤
 私、全然引っかからなくて。プロレスの隠語とかね、本当に興味がなくて。なぜこんなに興味がないのかといえば、これは推論にしか過ぎないんですけど、14歳のときに見だした全女はクレイジーカンパニーだったじゃないですか(笑)。その全女が私にとって正解だったんですよね。人生の正解であり、プロレスの正解。14歳の入り口にしては、若干バグってるから「プロレスの裏側はこうだよ」って言われても「そうなんですね」の一言で終わっちゃう。

――
「プロレスの裏側」より狂ってるものを体感してきたから(笑)。

伊藤
 そうなんです(笑)。若い頃に全女にある種、洗脳されてしまってるから、そこで行なわれていることがもうおかしいと思わなくなってたんでしょうね。きっと選手たちもそうだし、私もそうなんですよね。入り口がそこだから、それが正解だから。

――ケーフェイで超えてる世界だからあんま気にならないというか。

伊藤 「そういうことがあってもいいんじゃないの?」って。そこにいろんな隠語があって勝敗が云々があっても、私が応援する気持ちは変わらないし、プロレスが好きな気持ちも変わらない。SNSでもそこがすごく論じられてるけど、全然興味ないです(笑)。言ってる人はみなさん楽しいんだろうし、べつに気も悪くもならないです。

――
そこ一点だけで評価する作品ではないですよね。ここまで素晴らしいプロレス作品はなかなかないので。

伊藤
 ねー。もちろん作品がよかったところがあるんですけど、再現率の高さ。皆さん「似ている」「昔を思い出す」と褒めていますし、12人の選手を演じた俳優さんのプロ根性。ゆりやんさんがちょっと負傷してお休みした期間があったじゃないですか。1人でも休場者が出たときって俳優さんたちのモチベーションって下がるでしょ。周りの11人の俳優さんはすごく怖かったと思うんですよ、明日は我が身だから。

――
プロレスシーンは吹き替えじゃないから、誰でも大ケガの危険性はあるってことですね。プロレスって大技じゃなくて、ちょっとした動きを失敗したときでも重傷を負いやすいって言いますもんね。足を踏み外したとか。

伊藤
 そうです、そうです。一瞬の受け身の間違いとか、人が身体に乗ったときとか、顔面骨折だって意外と簡単な技でしちゃったりするから。ゆりやんさんもそうだけど、周りの11選手はつらかっただろうし、怖くなっただろうし、よく乗り越えたなあって思いますよね。だってロープワークでさえも痛いんですよ。そこから始めて、ゆりやんさんのケガでハッっと立ち止まったと思うんですよね。「プロレスは怖い!」って誰もが思ったと思うし。

――
プロレスラーじゃないのにプロレスの緊張感に支配されてるようなもんですよね。

伊藤
 去年のクラッシュ・ギャルズの結成40周年イベントに携わっていたときに女子プロレスが3試合、組まれたんですね。現役の選手でさえケガをせずにリングを降りるという保障はどこにもないわけだから、あんなに怖い思いをして女子プロレスを見たのは初めてなんですよ。比較対象ではないかもしれないけど、俳優たちもすごく怖かっただろうなと思いましたね。

――
身体づくりもハードだったみたいですね。

伊藤
 ゆりやんさんは約40キロも増やしてね。トレーニングをしながら太るってすごく難しいですよ。

――
あとびっくりしたのが一部を除いて、当時の選手や関係者の名前がそのまま使われていることですね。Netflixでいえば『全裸監督』は村西とおる監督以外はほぼモデル扱い。実録モノで『極悪女王』のように実名許可が出るのは珍しいなと。

伊藤
 そこは自分たちの青春をもう一度焼き直してくれるということに対する嬉しさがあるんじゃないですかね。もうずいぶん昔に閉じてしまった箱じゃないですか。ジャンボ堀さんは、女子プロブーム絶頂期の85年末に引退してますから。キャストの中では、ビューティ・ペアに次ぐ引退なんですよね。

――
もう39年前の話ですもんね。

伊藤
 こうやって物語になるのはやっぱり嬉しいんじゃないですか。おおいに協力しますよという意思表示ですもんね。

――たとえば全女を中継していたフジテレビは作中は名前を変えてましたね。

伊藤 『週プロ』は出てましたけど、『週刊ファイト』や『週刊ゴング』は名前を変えられていましたね。なくなってしまったからなんかな。

――『ゴング』や『ファイト』は消滅してて権利関係がおそらくグチャグチャだし、『週プロ』だけで済ませられるところはあったんでしょうね。『極悪女王』はこれだけ話題作になれば続編の可能性はありますよね。

伊藤 私はNetflixの人間じゃないのでなんとも言えないですけど、執筆者の柳澤(健)さんは『1985年のクラッシュ・ギャルズ』の映像化を熱望していますよ。

――いいですねぇ(笑)。『極悪女王』はダンプさんの引退で終わってるけど、そのあとの続きが……。

伊藤
 そのあとですからね、本当のクラッシュ伝説は。どなたか映像関係の方が手を挙げてくだされば……。

――
あの本に“第3のクラッシュ・ギャルズ”として登場する伊藤さんも出てくるわけですね(笑)。

伊藤
 万が一、ドラマ化が実現したら、私のことはいったいどの俳優が演じるんだろうな(笑)。

・伝説の『週刊ファイト』の現場
・全女を追うことをやめたとき
・バグっていた親衛隊時代
・鈴木おさむと『SMAP×SMAP』……15000字インタビューはまだまだ続く


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